大切な人を亡くすことはとても辛く悲しいことです。お墓を建てしっかり供養していたとしても、家からお墓までの距離がそのまま故人との距離に感じられて寂しい気持ちになることもあるでしょう。そんな遺族の気持ちを慰めてくれる供養が「手元供養」です。現代では様々な形の手元供養が行われています。いつまでも故人を身近に感じたい方のために、どんな供養の仕方があるのか紹介していきます。
手元供養とは?
手元供養とは、遺骨や遺灰の一部を持ち歩いたり、手元に置いたりして供養をすることを言います。遺骨を持ち歩いたり身に着けたりすることで、故人をより身近に感じることができるのです。
遺骨は持ち歩いてもいいの?
遺骨に関して「遺骨は必ずお墓に納めるべし」というような法律があるわけではありません。法に反するのは、お墓以外の場所に遺骨を埋葬することです。お墓以外の、たとえば自宅の庭や思い出の山や森などに無許可で遺骨を埋葬することは「遺棄」にあたり、法に触れます。一方、埋葬せずに自宅で安置したり遺骨や遺灰を持ち歩いたりすることは法的には問題ありません。
宗教的な問題はないの?
手元供養は、特定の宗教の教えによる供養の仕方ではありません。手元供養に関する厳密な決まりやしきたりがあるわけでもないのです。どの宗派でも、無宗教でも故人を偲びたい気持ちや故人を供養したい気持ちに変わりはありませんし、供養はその気持ちこそが大切です。手元供養は、無宗教の人でも、どの宗派の人でも、自分の気持を表すことができるものです。
縁起が悪い?
手元供養をするときは、火葬後に遺骨や遺灰を少し取り分けます。これを「分骨」と言いますが、「故人の体をバラバラにするような気がする」とか「成仏できないのでは?」と思ってしまう方もいるかと思います。仏教では分骨は決して縁起の悪いことではありません。分骨は古くから行われている供養の仕方で、地域によっては一般的な供養の仕方でもあるのです。分骨をして手元供養をすることは、何の問題もありません。
具体的な手元供養の方法
手元供養の方法にはいくつかありますので、ひとつずつ見てみたいと思います。
メモリアルジュエリー
メモリアルジュエリーとは、遺骨や遺灰を身につけることができるアクセサリーのことです。メモリアルジュエリーには二つのタイプがあります。
・遺灰を収納するジュエリー
一般のジュエリーと見た目は変わりありませんが、ジュエリー本体にネジ付きのフタがあり、そのフタを開けて中に遺灰や遺髪を入れることができます。入れられる量は少量ですが、遺灰などを入れることで、いつも故人をそばに感じることができます。
・遺骨をダイヤモンド加工
遺骨をダイヤモンドに加工し、そのダイヤモンドでジュエリーを作ることもできます、ダイヤモンドは炭素からできた結晶なので、炭素を含むものであればダイヤモンドに加工することができるのです。
遺骨をダイヤモンドに加工するときは、遺骨を高温処理して炭素を抽出、さらに高温・高圧処理をして黒鉛化しダイヤモンドを生成します。そのダイヤモンドをカッティングして研磨し、ジェリーに加工します。
これを行うためには海外の専用加工会社に送って加工するため、時間がかかる場合があります。会社によっては好きな色のダイヤモンドに加工してくれるところもありますので、自分の好きや色や故人のイメージに合う色などを選ぶことができます。
遺骨を容器に入れて持ち歩く
専用のポーチや小さな壺のような形、神社で買えるお守りのような形のものなど、モダンでお洒落なデザイン性の高い専用容器が販売されています。遺灰を砂時計の砂にするものもあり、遺灰がサラサラ動く様子を見ることができて素敵です。持ち歩く場合は、スクリュータイプのフタの容器や、カプセルなどを選び、バッグの中に遺灰がこぼれないようにするといいでしょう。
ミニ仏壇
線香立てやリン、花瓶など必要なものだけを揃えたミニ仏壇を自室に置くことも、手元供養のひとつと言えます。コンパクトなボックスタイプで箱のふたを開け閉めしてお参りをしたり、仏具を収納したりできるものもあります。ミニ仏壇なら家具の上に置くこともできるため、家が狭くても家に仏壇を置くことができます。
手元供養のメリット
手元供養は、故人を身近に感じられることの他にいくつかメリットがあります。
費用を抑えられる。
大きな仏壇を構えようと思うと、まず仏壇そのものの費用がかかります。そのあとは、修繕費などの維持費もかかってきます。もちろん、仏壇を置くだけのスペースも必要です。
その点、手元供養やミニ仏壇だと費用はあまりかかりません。
どこにお金をかけるかは価値観の違いですし、「供養したい」という気持そのものが大事ですので、費用を抑えたからと言ってばちが当たることはありません。手元供養でいつでも供養できることの方がいい場合もあります。
自宅ですぐにお参りができる。
お墓が遠いとお墓参り自体から足が遠のくことがあります。
また、近くても忙しかったりすると時間的に行けないこともあります。お墓参りに行かずにいると、罪悪感を覚えたり心苦しい思いをしたりすることもあるでしょう。手元供養であれば、思い立った時にすぐお参りすることができます。
手元供養のデメリット
手元供養に関して、一つデメリットがあります。それは、「手元供養に抵抗を感じる人がいる」ということです。
家族の遺骨を持ち歩いていると打ち明けたら、驚かれたり気味悪がられたりすることがあるかもしれません。家に遺骨を置くことに対して抵抗を感じる家族もいるかもしれません。人の骨が見えるところにあるということが純粋に少し気味悪いと感じるとしても、それは仕方がないことです。
また、自分にとっては大切な親でも、配偶者にとっては義理の親です。生前に関係があまり良くなかった場合は、より「遺骨を家に置きたくない!」と思うこともあるでしょう。それらの抵抗感は決して否定することではありませんし、尊重するべき気持ちです。
手元供養をするときは家族ときちんと話し合うことが大切です。遺骨を家に置くとしたらどこに置くのか、リビングなどの共用スペースに置けないとしたらどこに置くのか、など、一緒に暮らす家族への配慮を忘れないようにしましょう。
手元供養をする際に気をつけること、準備すること
では、実際に手元供養をするときに気をつける点についてお話ししたいと思います。
手元供養をするかしないかは、納骨前に決める
手元供養をするときは、火葬後に遺灰を取り分けます。この時に手元供養の分の遺灰を取り分けないと、遺灰はすべてお墓などに納骨されます。
いったんお墓などに納骨した後に手元供養をしたいと思った場合は、手続きをして取り出す必要があります。まずは墓地の管理者に申請して分骨証明書を発行してもらい、次に「閉眼供養」という魂を抜く供養をしてから遺骨を取り出します。
衛生的な点から見ても、お墓から取り出した遺灰を身に着けたり持ち歩いたりするのはあまりおすすめできません。なので、手元供養をするかどうかは、納骨をする前に決めて取り分けるようにしましょう。
また、遺骨をダイヤモンドに加工したい場合は事前に申し込む必要があります。どれぐらいの量の遺骨が必要なのかも会社によって違いますので、確認をして取り分けましょう。
手元供養の品の「その後」を明確にすること
あなたが亡くなったあと、あなたの手元供養の品が残されていると遺族が困ってしまうことがあります。メモリアルジュエリーや骨壺など、中に遺骨が入っているとなると、簡単に処分するわけにはいかないからです。
なので、あなたがメモリアルジェリーを身に着けている場合、亡くなった後にそのジュエリーをどうするかを決めておきましょう。家族がそれを形見として受け取りたいと希望している場合は問題ありませんが、誰も望んでいない場合は適切に処分する必要があります。
処分する方法としては、ジュエリーの中の遺骨をあなたの骨壺に納めるか、ジュエリーの中の遺骨をその遺骨本人の遺骨と一緒にして、あなたの遺骨はまた別に安置するといったものがあります。金属のジュエリーは一緒に火葬することはできませんので、火葬するときにジュエリーは外して火葬後にジュエリーを骨壺に入れて納骨するといいでしょう。
そのほか、手元供養の品の処分に関して迷うことがあったらお寺に相談するのもいい方法です。いずれにしても、あなたが亡くなった後に遺族が困ってしまうことがないよう、その後どうするかについてはきちんと決めて家族にも伝えておきましょう。
新しい手元供養、メモリアルジュエリー
手元供養は、遺族の気持ちを慰めて寂しさを癒すための供養の仕方です。故人を供養するときに大切なのは、しきたりや決まり事ではなく「供養したいと思う気持ち」「故人を想う気持ち」です。
距離が遠くてお墓参りに行けないことを気に病むよりも、手元に置いていつでもお参りできることを選ぶ方が良いかもしれません。手元供養にもいろいろな方法がありますので、自分の好みやライフスタイルに合った方法を選びましょう。