戒名や院号が高額なことと価格の基準が不透明なことへの批判が増しています。そこには現代の消費者感覚とマッチしない、宗教の名によるサービスの特殊性があります。
戒名や院号の提供は、寺院による葬儀ビジネスにおける法要と並ぶ主要なサービス商品と言えるでしょう。従来、この戒名や院号の提供はお墓を持つ菩提寺の既得権とされてきました。しかし、近年菩提寺と関係なく、僧侶の葬式や法要への派遣や僧侶により戒名を付けるサービスが現れました。いずれも低価格での価格の明示が特徴です。
生涯独身の人、子どものいない人、お墓の承継者がいない人も増え、生前での戒名・院号取得を行う人も増えましたが、その注意点をまとめてみました。
生前戒名と院号
現代における戒名とは亡くなった人につける名前のことを指すのが一般的ですが、本来戒名というものは生きている人が仏門に入るときにつけてもらう名前のことを意味します。
元々は生前に戒名を授与される生前戒名が本来の形でしたが、人は死後に成仏するものであるという考え方が広まり、亡くなった人が仏の世界に行くには俗名のままでは良くないという考えで、亡くなった人に戒名をつける慣習が生まれました。
現代の戒名は現世における人の欲望を反映し、格付けが生まれてしまいました。また寺院側のビジネスと結びつき、戒名の格式により価格の差が生まれてきている現状があります。そもそもの戒名の意味を把握していないと、その価格についてもよくわからないままでしょう。
戒名の形式
そもそも戒名がどのような意味を持つものなのかご存知ない方も多いと思います。戒名とは「院号」「道号」「戒名」「位号」の4つの要素で構成されています。
・院号
院号は戒名の最初に位置し、院の字がつくものです。もともとは天皇、皇族、将軍などの地位の高い人に付けられたものですが、現代では生前に寺院や社会に大きく貢献した人、また相当の地位や身分の人に、戒名の上位として与えられるものです。
・道号
道号はもともと僧侶のことを意味し、仏教の教えを得た人や格の高い人などにつけられるものです。現代では、院号と同様戒名の上位として与えられるものです。また、宗派によっては設定していない場合もあります。
・戒名
2字から成り立つ死後の名前で、本来の戒名の意味を表す部分です。亡くなった人の別名のことで、その人の趣味や性格、特徴、俗名の1文字などを表す漢字を入れる場合が多いです。
・位号
位号は仏教徒の階級を表すものです。性別や年齢、地位などで決まり、戒名の後につきます。位号に関しても、生前に社会や寺院に貢献しているほど、より格式の高いものが与えられます。
・仏教宗派による戒名の差異
宗派によって、戒名の呼び方が一部異なります。浄土真宗では戒律がないため、戒名という言葉は使わず、法名と言います。また日蓮宗では法号と言います。
・浄土宗
「院号+誉号+戒名+位号」
浄土宗では道号の代わりに「誉号(よごう)」をつける場合があります。・誉・・となります。
・浄土真宗
「院号+釋号+法号」
浄土真宗では戒名を法名と呼び「釋(釈)」をつけ、・釋・とします。釈をつけるのはお釈迦様の弟子になるという意味です。
・曹洞宗・臨済宗
「院号道号+戒名+位号」
・日蓮宗
「院号+道号+日号+位号」
日蓮宗では「日号」をつける場合があり、日号がつくと・・日・となります。
・真言宗
「梵字+院号+道号+戒名+位号」
真言宗では戒名の頭に「ア字の梵字」を記して大日如来の仏弟子となったことを表します。「ア」は大日如来を表します。
・天台宗
「院号+道号+戒名+位号」
戒名や院号の価格
仏教の基本的な教えは、本来人は平等であるといういうものです。ところが、江戸時代などで身分制度が定着化し、差別と戒名におけるランク付けが生まれ、それが現代でも継承されています。戒名は本来、仏弟子としての信仰の度合いや生前の寺との関わりの強さなどを示しますが、実際には寺院により、ランクの高い戒名ほど高く販売されている面があるのも事実です。
戒名や院号は現代では形式化し、本来の意味を反映していません。仏教への信仰がない、もしくは薄いまま、単に死後の名前として葬儀とお墓にだけ使われているケースも多々あります。また、金額により戒名の付け方に差があること自体に疑問を感じる人もいます。そのため、俗名のままでも良いという考えもあります。
生前戒名と院号の現状
現代において生前戒名と院号を取得する目的は、第1に、自分の気にいった戒名を付けたいというニーズです。戒名の中の原点となる部分に自分のアイデンティティを表現したいという欲求でしょう。第2に、遺族に戒名を付ける手間と費用を掛けさせたくないという配慮でしょう。
その現状と、生前戒名と院号を取得する費用が高いという問題から、従来の菩提寺に関係のない戒名や僧侶の派遣を低価格・価格明示で請け負う団体が生まれてきました。
戒名や院号をつけることが寺院のビジネス商品になっており菩提寺に関わらない団体で戒名の低額販売も行われるようになり、僧侶の派遣と合わせて葬儀関連仏事サービス業が盛んになったのです。
しかし、自分が入る予定のある寺院墓地がある場合は、そこが菩提寺となり戒名をつけるのが通常です。そのため、他で作った戒名を菩提寺が認めないというトラブルが発生する可能性があります。
生前戒名と院号と生前墓の一体化
家のお墓がある菩提寺と関係なく、新たに自分で生前にお墓を購入する生前墓も増えています。これは、残された遺族に面倒を掛けたくないという本人の意向や、お墓の承継者がいない時代背景を反映しているものです。生前墓を作るのに合わせて生前に戒名を付けるという一体化した流れも生まれています。
生前墓のニーズは拡大する方向
生前墓は少子化傾向が続く限り、お墓の承継者がいないという問題が増加していくので、ニーズはますます拡大していくでしょう。それにあわせ、生前墓と一体化した生前戒名も増える可能性があります。
一方、菩提寺がある場合も、菩提寺で生前も死後に関わらず戒名・院号を取得することは今後もしばらく継続するでしょう。納骨堂の場合は、檀家になることを求められない傾向も昨今生まれてきているので、今後お墓を求めたからといって檀家にならなければならないといった拘束は緩まる可能性もあります。そうなれば、菩提寺だけによる戒名授与の拘束も、緩まる可能性もあります。
樹木葬など合祀墓(ごうしばか)では戒名不要
他の人の遺骨と一緒に埋葬されるお墓「合祀墓」や、墓石の代わりに樹木を植える「樹木葬」では、戒名・院号自体が不要になります。こういったお墓では墓石がないため、戒名を刻印する必要がないからです。もし戒名を使うとすれば位牌です。しかし、自宅にお盆や周忌の際、僧侶を招くことがないならば、位牌の戒名を読み上げることもないでしょう。
生前戒名と院号を取得する場合の準備
そんな時代の流れの中で、生前に戒名を取得しておきたいと考えた場合の準備・手順についても記載しておきます。
自分が入る墓を決める
最初に、自分が入るお墓を決めておく必要があります。家の菩提寺のお墓なのか、新規にお墓を購入するのかを決めます。生前墓を自分で設ける場合は、寺院墓地にするのか一般霊園にするのかを決めます。寺院墓地の場合は、通常の墓地にするのか、納骨堂にするのか、寺院内樹木葬にするのかの選択があります。一般霊園でも同様に、一般墓地、納骨堂、樹木葬がある場合があります。
生前戒名と院号を取得
菩提寺のお墓に入る場合は、住職に生前戒名と院号についての希望を伝え了承を得ます。そして費用についても相談します。
新たにお墓を設ける場合で、寺院墓地(納骨堂も含む)を選択する場合は、その宗派の檀家になることが条件の場合があるので、戒名・院号も宗派の形式によります。先述した通り戒名の形式は仏教宗派により異なるため、お墓を設けた宗派の形式にならざるをえません。
一般霊園を選択した場合は、寺院と関係なく戒名・院号を低価格で取得し墓石に印字することはできますが、法要の際には菩提寺がないため、宗派の僧侶を僧侶派遣団体から派遣してもらう必要があります。
失敗しない生前戒名と院号の取得
そもそも生前戒名と院号については、戒名自体の意味から考えてみても良いと思います。本来仏教では死後の世界は現世の地位や金銭に関わらず身分的に平等です。
ですから戒名や院号を必ずつける必要はありませんし、戒名・院号を単に形式的なものとして低価格で済ませることも可能です。ただし、菩提寺がないために各種の檀家としての寺院との付き合いがないため費用は掛かりませんが、法要を行う際などに僧侶派遣団体などを活用する費用がかかることになります。
菩提寺で高い費用で戒名をつけるか、低価格で戒名をつけるかは、ご自身と継承者のライフプランに合わせて選びましょう。以下のポイントについては頭に入れておきましょう。
菩提寺がある場合
他の団体で戒名・院号取得をしても菩提寺が認めずトラブルになる場合があり、菩提寺での取得が望ましいと言えます。
新たにお墓を設ける場合
寺院墓地(納骨堂も含む)を選択する場合は、その宗派の檀家になることが条件の場合が多いため、戒名・院号も宗派の形式になります。
一般霊園の場合は寺院と関係なく戒名・院号を低価格で取得することはできますが、法要の際には菩提寺がないため、戒名・院号の形式に沿った宗派の僧侶を僧侶派遣団体から派遣してもらう必要があります。
生前戒名・院号を自分で気に入ったものにしたい場合
菩提寺、もしくは新たに寺院の生前墓を設ける寺院の住職と打ち合わせ、費用についても確認しておきましょう。自分の気に行った戒名の案を住職に伝え、費用を交渉します。お任せの場合は自分で相場を調べ、できる範囲のお布施額を包みます。
戒名や院号が本当に必要なのかどうか検討
生前に自ら戒名・院号を取得するか、生前取得にこだわらず遺族と寺院に任せるか、戒名をやめ俗名で行くのかを決めておくと安心です。
本人の意思を明確にしておかないと、遺族が世間体を気にして格式にこだわらざるをえなくなります。また、生前戒名と院号があることを遺族が知らないと無駄になる恐れがあります。