はじめに
40歳以上の人は介護保険料を負担しています。負担するだけで、まだ利用したことのない人も多いと思いますが、親の介護では重要な問題となります。また、自分自身のためにも基礎知識はもっておく必要があります。
介護保険を利用する立場で、介護保険の基礎知識をまとめました。
介護保険とは
介護保険は、高齢者の介護サービスや介護支援を保障する目的で、市町村が運営する社会保険制度です。高齢化社会を背景に、2000年に施行された介護保険法に基づいています。
介護保険の仕組み
後述する介護保険の対象者が、介護が必要と認定されると介護サービスが利用できます。財源は、被保険者が支払う介護保険料が半分、残り半分を国と地方自治体が負担しています。
介護保険制度
40歳以上の人が被保険者(加入者)になって介護保険料を納め、介護保険の対象者(後述)が、介護が必要と認定されると介護サービスが利用できる制度です。介護サービスを利用すると、かかった費用の1割から3割を利用者が支払い、残額は介護保険で支払われます。
介護保険の財源は、介護保険料が50%、税金(国、都道府県、区市町村)が50%です。
介護保険料
65歳以上の人の保険料は、区市町村が3年ごとに算定して変わります。保険料は一律ではなく、区市町村により金額が異なります。なお、40歳~64歳の人の保険料は一律の規定によります。
利用対象者
(a) 65歳以上の人(1号被保険者)で、日常生活で介護や支援が必要となった人。
(b) 40歳~64歳で、医療保険加入の人(2号被保険者)で、加齢と関係があるとされる特定の疾病が原因で介護や支援が必要となった人。
要介護状態区分
利用者による要介護(要支援)認定の申請がされた後、公的な認定が行われ(詳細後述)介護の度合いによる区分が認定されます。
区分は軽いものから、要支援1、要支援2、要介護1、要介護2、要介護3、要介護4、要介護5の7区分に分かれます。
介護保険サービスの種類
要支援1・2と認定された人は「介護予防サービス」が、要介護1~5と認定された人は「介護サービス」が利用できます。
サービスの形態分野では「介護予防サービス」「介護サービス」とも、「居宅サービス」と「施設サービス」があります。
居宅サービス
(a) 訪問サービス
(b) 通所サービス
(c) 短期入所サービス
(d) 地域密着型サービス
(e) その他
福祉用具購入費、住宅改修費への規定による支給制度があります。
施設サービス
(a) 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
(b) 介護老人保健施設
(c) 介護療養型医療施設
介護保険の現状
最近では、2015年度に大きな介護保険法の改正が行われ、さらに2018年度にも一部の改正が行われました。
以下に2015年度の改正の概要、また 2018年度の改正の概要をまとめます。
2015年度改正
2015年度の介護保険法の改正は、以下の各点です。
- ①予防重視型システムへの転換
要介護者への介護給付と分けて、要支援者への給付に「予防給付」という分野が新たに設けられました。
予防給付では、介護予防訪問介護、介護予防通所介護などが設定され、国から地方自治体による地域支援事業に移行、多様化しています。
そして、要支援者のケアマネジメントは「地域包括支援センター(介護予防支援事業所)」が実施し、介護予防事業や包括的支援事業などの「地域支援事業」を、区市町村が実施するようになりました。
- ②特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)の入居規定
在宅での生活が困難な、中重度の要介護者を支える機能に重点化されました。要介護3以上の人が入居の目安と明確化されました。
- ③一定以上の所得のある利用者の自己負担を2割へ引上げ
2018年度改正
また、2018年度に行われた改正は、以下の通りです。
- ①現役並みの所得がある利用者の負担割合が3割へ引上げ
- ②介護報酬の改定
介護保険の今後
超高齢化社会が訪れた日本で、介護保険制度は、今後どのようになるのでしょうか。ここでは、高齢者が増加することと、関連して増大が見込まれる介護費用について説明します。
高齢者数の増加
今後の介護保険をとりまく状況で明らかなのは、高齢者数の増加です。
65歳以上の高齢者数は、2025年には3,657万人となり、2042年にはピークを迎える予測(3,878万人)です。また、75歳以上高齢者の全人口に占める割合は増加していき、2055年には、25%を超える見込みです。
75歳以上人口は、都市部では急速に増加していき、もともと高齢者人口の多い地方でも緩やかに増加します。また、65歳以上高齢者のうち、認知症高齢者が増加していく予想で、認知症対策が重要課題となってきます。
介護費用の見通し
現在約9兆円の費用が、2025年には約20兆円になる予測です。団塊の世代が全員75歳以上になる2025年度には、保険料は今よりさらに5割ほど引き上げられるとの予測もあります。
厚生労働省は、保険料の引き上げ額を抑えるため、介護保険を利用する条件を厳しくすること、保険の対象となるサービスを減らすこと、利用者の自己負担も増やすことなどを検討していて、制度が変更される可能性があります。
介護保険を利用するための準備
一方、介護保険制度を利用する側として、準備しておくべきことにはどのようなことがあるのでしょうか。まず必要なのは要介護認定の申請で、どのような手順で認定が進むのかを、以下に説明します。
要介護認定申請
介護保険を利用するためには要介護認定の申請が必要です。
- ①要介護認定申請窓口
申請は、住所地の地域包括センターか、区市町村の役所の介護保険課窓口で行います。
- ②認定調査
調査員が利用者宅を訪問し、心身の状態などを調査します。また、主治医が、利用者の疾病や心身の状態などを記入した書類を提出します。
- ③審査判定
コンピュータによる1次判定を経て、介護認定審査会による2次判定が行われます。
- ④認定
介護認定審査会で、自立か、要支援状態、要介護状態が判定されます。
要支援1・2の場合は、介護要望サービスが利用できます。
要介護1~5の場合は、介護サービスが利用できます。
自立とみなされた場合は、介護保険のサービスが適用されず、その他の区市町村の地域支援事業、介護保険外のサービスを利用することになります。
要介護・要支援の区分の目安
起き上がり、立ち上がり、寝返り、排尿、排便、口腔清潔、上衣の着脱、ズボンなどの着脱、片足での立位、日常の意思決定、買い物、短期記憶などで、低下している日常生活能力を判定します。
##知っておきたい介護保険の基礎知識―まとめ
ここまでの介護保険についての説明から、介護保険の基礎知識として知っておきたい点をまとめます。介護保険料の金額、介護保険料の種類、介護サービスの種類、ケアプランの作成、地域支援事業の各項目の要点を、以下にまとめました。
介護保険料は区市町村によって金額は異なり、3年ごとに改定されること
介護保険料は、保険を運営する自治体の住民が、どのくらい介護サービスを使っているかに応じて変化します。その区市町村の住民の利用が多ければ保険料は高くなり、利用が少なければ安くなります。
高齢者数の増加によって介護サービスの利用が増え、介護保険料は今後値上がりが予想されます。介護保険料は3年ごとに改訂されます。
介護保険料の種類
介護保険料は、年齢により2つに区分されています。
・第1号保険料
65歳以上の加入者が、自分の住んでいる区市町村に払います。年金をもらっている人のほとんどは天引きされています。
・第2号保険料
40歳から64歳までの人が、健康保険料と一緒に払っています。このお金はいったん全国でプールされた後、介護給付費の約3割という一律の基準で各区市町村に配布されます。
高齢化と住民の所得の状況によって保険料の格差が大きくならないように、国が配布するお金を調整しています。具体的には、高齢者のうち75歳以上の後期高齢者の割合が高い自治体や、所得の低い人が多い自治体には調整交付金を支出します。
介護サービスの種類
この項では、介護サービスの中で最初に利用する可能性の高い、「居宅サービス」の内容を紹介します。複数の居宅サービスを組み合わせて利用することもできます。
- ①訪問サービス
要支援1・2から要介護1~5までの区分で利用できます。要支援1・2の人は予防介護サービスなどになり、要介護の人とはサービス内容が一部異なります。要介護では、主に次のようなサービスがあります。
(a) 訪問介護
ホームヘルパーが居宅を訪問し、身体介護や食事などの日常生活のサポートを行います。
(b) 訪問入浴介護
浴槽を積んだ車で居宅を訪問し、入浴の介助をします。
(c) 訪問看護
看護師や保健師が居宅を訪問し、療養上の世話や助言を行います。
(d) 訪問リハビリテーション
リハビリテーションとは機能回復訓練のことで、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士のリハビリ専門家が居宅を訪問し、訓練を行います。
(e) 居宅療養管理指導
医師、歯科医師、薬剤師、栄養士などが居宅を訪問し、療養上の管理指導を行います。
- ②通所サービス
利用者が日帰りで施設へ通って受けるサービスです。
(a) 通所介護(デイサービス)
通所介護施設に通って、食事や入浴の介護サービスや生活機能向上の訓練を受けます。孤立しがちな高齢者にとっては、人と接する機会になります。
(b) 通所リハビリテーション(デイケア)
介護老人保険施設などで、日帰りのリハビリテーションを受けます。
- ③一時入所サービス
短期に施設へ入所して受けるサービスです。
(a) 短期入所生活介護(ショートステイ)
介護老人保健施設などへ短期間入所して、食事や入浴などの介護サービスや生活機能維持・向上訓練を受けます。
(b) 短期入所療養介護(医療型ショートステイ)
介護老人保健施設などへ短期間入所して、医学的な管理のもとに医療・介護・機能訓練を受けます。
介護サービスにおけるケアプランの作成とケアマネジャー
要支援の人は介護予防に関して、要介護の人は介護に関して、次のようなステップがあります。
- ①ケアプランの作成依頼
(a) 要支援の人
介護予防ケアプランの作成を地方自治体の地域包括支援センターへ依頼し、契約します。
(b) 要介護の人
居宅介護支援事業者を選びケアプラン作成を依頼します。居宅介護支援事業者は、ケアプラン作成を目的とした事業を行い、担当するのはケアマネジャー(介護支援専門員)です。ケアマネジャーは利用者に適したケアプランを作成し、利用者とサービス提供事業者の間に立って連絡調整をします。
- ②ケアプランの作成
(a) 要支援の人
地域包括支援センターの保健師や、地域包括支援センターから委託を受けた居宅介護支援事業者のケアマネジャーが居宅を訪問して調査し、介護予防ケアプランの原案を作成、担当者が本人、家族、事業者と検討し、同意を得た上でケアプランを作成します。
(b) 要介護の人
ケアマネジャーが居宅を訪問・調査してケアプランの原案を作成、本人、家族、事業者と検討して同意を得た上でケアプランを作成します。
- ③サービス提供事業者と契約
(a) 要支援の人
介護予防サービスなどを行うサービス提供事業者と契約を結びます。
(b) 要介護の人
介護サービスを行うサービス提供事業者と契約を結びます。
- ④サービスの実施
サービス提供事業者によりサービスが実施されます。
地域支援事業
2006年度から「地域支援事業」が施行されました。国は要支援、要介護になる前の介護予防が重要と考え、住み慣れた地域で、自立した日常生活が営めるように、地域でのサービス提供の基盤づくりを行いました。地域包括支援センターの運営強化や、認知症対応、在宅医療・介護の連携推進などがテーマです。
また、各区市町村により、介護予防事業および介護保険以外のサービスが独自に提供されます。
知っておきたい介護保険の基礎知識3カ条
最後に、介護保険の基礎知識として知っておきたい点を3つ挙げます。介護予防の制度、介護サービスの利用料の負担率、ケアプランの作成におけるケマネジャーの役割などは、ぜひ知っておきたいものです。
介護はまだ必要ないという人も、介護予防の制度について知っておいた方がよいこと
健康で自立した生活をしている人も、介護予防、認知症予防の知識はあった方がよいでしょう。
介護予防事業として、身体能力測定会、健康教室、口腔衛生講座、認知症予防講座などが行われている地域もあります。自分の住む地域の地方自治体の情報を調べてみることが大切です。
地方自治体には独自に介護保険外のサービスもあり、これらは介護保険の認定を受けていなくても活用できるものです。
介護サービスの利用料は、所得によって負担率が1割から3割まであること
介護保険開始当初は、一律1割負担でしたが、その後に規定が改正されました。
3割負担となるのは、次の①②の両方にあてはまる人です
- ①65歳以上の方で本人の前年の合計所得金額が220万円以上
- ②前年の合計所得金額と前年の年金収入の合計が
・同一世帯の65歳以上の人数が1人の場合、340万円以上
・同一世帯の65歳以上の人数が2人以上の場合、合計で463万円以上
2割負担でも細かく規定があります。
ケアプランの作成ではケマネジャーが核になること
介護でも介護予防でも、ケアプランの作成は居宅介護支援事業者のケアマネジャーが行う場合がほとんどです。ケアマネジャーが本人、家族の希望と介護保険適用の地域事情などを検討して、サービス提供事業をコーディネートします。
また、利用者は居宅介護支援事業者を選ぶことができます。
団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年には、約5.5人に1人が後期高齢者となり、高齢者の単独世帯、夫婦のみの世帯が増加します。
高齢者の増加に伴って、必然的に介護費用も増加します。介護保険料も2025年には大幅に引き上げられる予想です。介護保険は多様化し、複雑化する一方で、財源は不足しています。
介護人材の不足も深刻化し、介護職員の待遇改善も不十分で、課題は山積みといえるでしょう。今後の動向に注目が必要です。