介護を必要とする人の増加
高齢化社会が加速する日本で「介護」は避けては通れない問題のひとつになっています。
日本人の平均寿命は新記録を更新し続け、女性が87.74歳、男性が81.64歳になりました(2021年7月30日厚生労働省発表)
ただし、70代後半からは何らかの介護を必要とする人が増加している傾向が見られます。
介護は、在宅で行う「在宅介護」と施設に入居する「施設介護」に分けられます。
この記事では、主に要介護者が自宅で介護を受ける「在宅介護」について、メリットやデメリット、利用できるサービスの種類、介護をする人の負担の軽減の工夫などについて解説していきます。
介護保険について
日本では、2000年に高齢化社会に対応するため、社会全体で高齢者を支える目的で「介護保険法」が誕生しました。
介護保険法の仕組みは、40歳以上の全国民が保険料を負担し、介護が必要な高齢者に給付されます。
制度の運営主体は市町村(特別区を含む)で、要支援・要介護者は収入に応じて1~3割の自己負担で状態に応じた介護サービスを受けることができるのです。
介護保険制度は社会の流れに応じて3年ごとに見直しがなされ、必要があれば法改正が行われてきました。
在宅介護においても、この介護保険を利用したさまざまなサービスが、介護の負担軽減に役立っています。
在宅介護のメリット・デメリット
以下では、在宅介護のメリット・デメリットを挙げていきます。
それらを総合して、在宅で介護を行うか施設を探すかの検討をすると良いでしょう。
【メリット①】住み慣れた家での介護
長く住み慣れた自分の家で介護できることは、介護をされる人と介護をする人の両方にとって大きなメリットになります。
自宅で生活することによる本人の安心感は計り知れず、また介護する人にとっても、規則に縛られない自由度の高い介護を行えるよさがあります。
【メリット②】費用があまりかからない
要介護者が入居する施設には比較的費用負担の少ないところもありますが、それでも入居するためにはそれなりの費用がかかります。
在宅介護でも介護用品の購入や住宅改築を行う費用が発生するものの、トータルで考えると、施設入居一時金や月額利用料の金銭負担がかからないため、在宅介護のほうが低費用でしょう。
【デメリット①】介護者の負担が大きい
在宅介護において介護者となるのは、同居の家族か定期的に通う別居の家族が行うことがほとんどでしょう。
介護者にとっても自分の家や実家で介護を行うことは、他人に気兼ねしない気楽さはあるものの、心理的・肉体的負担や金銭的負担が大きくなると考えられます。
また、介護のために仕事を辞める「介護離職」の問題は社会問題となっています。
さらに、介護のために同居または近隣への転居で生じる肉体的、金銭的負担、通い介護であれば交通費の負担もあるでしょう。
70代後半から80代にかけて介護が必要になったとしても、主な介護者である子どももシニア世代なのです。
肉体的負担は若い人に比べて大きく、また高齢者同士の老老介護では介護する側もすでに高齢で、肉体的な負担はさらに深刻な問題です。
【デメリット②】毎日の介護で休みがない
施設介護では職員が交代制で対応しますが、自宅では介護する人が24時間対応しなくてはいけません。
また、在宅介護には決まった休みはないため、24時間休みなし、無給で行うのが在宅介護ということなのです。
【デメリット③】家族でできることの限界
介護される人の要介護度が進み、認知症を発症したり寝たきりになったりした場合に、医療や介護のプロではない家族には限界があります。
医学的治療やリハビリにより回復し、要介護度が軽くなる場合もありますが、大きな期待はできないでしょう。
年齢とともに要介護度が上がることを考え、いつまで自宅で介護ができるのかを検討しておく必要があります。
在宅介護で利用できるサービス
在宅介護をすることに決めたら、在宅で受けられる介護サービスを最大限に利用しましょう。
サービスの利用は介護する人の精神的・肉体的負担を軽減し、結果的に長く在宅で介護をすることが可能になります。
在宅で利用できる介護保険を使ったサービスには以下の4つが挙げられます。
- ①在宅型(自宅に来てもらう)
- ②通所型(施設に通う)
- ③短期入所型(施設に泊まる)
- ④その他、介護に必要な福祉用具の利用や住宅改修
在宅型サービス
介護や医療の専門家が自宅を訪問しサービスを提供するものです。
介護する人にとって、専門家に来てもらうことは大きな支えとなるでしょう。
以下に、各種在宅型サービスの内容と特徴を説明します。
●訪問介護
訪問介護員(ホームヘルパー)が介護を必要とする人の自宅を訪問します。
そして、ケアプランに従って食事、排泄、入浴、体位交換などの身体介護、掃除、洗濯、調理、買い物、ゴミ出しなどの生活援助を行うものです。
ホームヘルパーが行うのは「日常生活において必要不可欠な行為であり、本人ができないこと」と決められています。
そのため、その範囲を超えた仕事、例えば家具や家電の修理や配置換え、庭の草むしりやペットの世話などは行いません。
また、医療行為についても行うことができません。
さらに、訪問介護は利用者本人のみを対象としているため、家族の食事を作ったり家族の部屋の掃除や洗濯をしたりなどもできないことになっています。
ホームヘルパーが滞在している時間はなにを頼んでもいいということではありません。
そのため、ケアプランや契約書によく目を通しホームヘルパーの仕事の内容を理解しておきましょう。
●訪問看護
看護師が自宅を訪問し、健康状態の観察、服薬管理、点滴や注射、採血などの医療処置、褥瘡(床ずれ)ケアなどを行うものです。
介護保険利用の場合はケアプランに従い、訪問時間が決められています。
訪問介護サービスで受けられない医療行為は、訪問看護サービスを利用して受けることができます。
その際には、医師による訪問看護指示書が必要となります。
●訪問リハビリテーション
医師の指示により、リハビリが必要な人の自宅に理学療法士や作業療法士、言語聴覚士が訪問します。
そして、生活上必要な動作や身体機能向上のためのリハビリテーションを行うものです。
●訪問入浴サービス
看護師1名を含む3名が自宅に専用の浴槽を持ち込み、入浴サービスを提供するものです。
自力での入浴が困難、自宅浴室が狭いため家族による入浴介助が困難、入浴前に看護師の健康チェックを受ける必要がある人などが利用できます。
医師から入浴が許可されていることが、利用の条件として必要です。
●居宅療養管理指導
医師や歯科医師、薬剤師、管理栄養士などが自宅を訪問し、療養上の管理・指導を行うものです。
通所型サービス
介護が必要な人が、日中日帰りで施設や病院に通って受けるサービスとなります。
介護する人の精神的・肉体的負担が大きく軽減されることが利点と言えるでしょう。
介護を担当する家族は、その間仕事をしたり休息したり、用事を済ませるなど自由に時間を使うことができるのです。
また、介護する人とされる人が、四六時中一緒にいることで生じるストレスも軽くすることにもなるでしょう。
●デイサービス(通所介護)
日帰りで受けられる介護サービスの代表格ともいえる、利用者の多いサービスです。
日中の数時間、自宅を離れて施設に通って、食事や入浴をして機能訓練やレクリエーションに参加できるサービスです。
施設の送迎付きで、午前中に自宅を出て夕方帰宅するプランがほとんどとなっています。
集団生活やレクリエーションを好まない人にとっては、最初は抵抗を感じるかもしれませんが、一度気に入ると生活の張りになり、楽しむことができるでしょう。
●デイケア(通所リハビリテーション)
自宅で生活する要介護者で、医師が必要と認めた人が老健(介護老人保健施設)や病院に通い、半日から1日リハビリテーションを受けるサービスです。
デイサービスとの違いは、デイサービスが日常生活の向上や社会参加を主な目的としているのに対し、デイケアは機能回復に重点を置いていることです。
理学療法士や作業療法士がリハビリテーションを行うことになります。
短期入所型サービス
通所型のように日帰りではなく、数日間短期間入所して介護を受けるサービスとなります。
●ショートステイ(短期入所生活介護)
老健(介護老人保健施設)や特養(特別養護老人ホーム)に1日から数日間の短期間入所して、入浴や食事、排泄などの日常生活の介護を受けられます。
家族が都合で介護ができない場合に利用でき、冠婚葬祭や出張などの際に使うことができます。
農業など自営業で繁忙期がわかっている家庭では、定期的に利用することもあります。
●医療型ショートステイ(短期入所療養介護)
こちらは、特に医療的なケアが必要な人が短期間入所して、医師や看護師による介護や医療ケアを受けられます。
老健や療養病棟を持つ病院、診療所が利用できます。
介護に必要な福祉用具の利用や住宅改修
自宅での介護が始まると、介護のための用具や自宅の改装が必要になることもあるでしょう。
その場合も、介護保険を利用することが可能です。
福祉用具とは介護の際に必要な用具のことで、さまざまな種類があり、レンタルできるものと購入するものがあります。
●福祉用具のレンタル
介護保険でレンタルが可能な福祉用具は、現在13種類あります。
ただし、要支援と要介護1の人は一部のみ利用可となっています。
<要介護度2~5の人が利用できる福祉用具>
車いす、車いす付属品、特殊寝台(介護用ベッド)、特殊寝台付属品、床ずれ防止用具、体位変換器、認知症老人徘徊感知機器、移動用リフト
<要支援1~2、要介護1~5の人が利用できる福祉用具>
手すり、スロープ、歩行器、歩行補助つえ、自動排泄処理装置
●福祉用具の購入
介護保険で購入する福祉用具は、性質上レンタルがふさわしくないと考えられる、利用者の肌に直接触れるものです。
それらは「特定福祉用具」といい、腰掛け便座、自動排泄処理装置の交換可能部品、入浴補助用具、簡易浴槽、移動用リフトのつり具部分の5品目です。
特定福祉用具の購入費には限度額があり、4月1日~翌年3月31日までの間で一人につき10万円(消費税込み)とされています。
支払い方法は利用者がいったん全額を支払い、後に申請により費用の9割(所得によって8割か7割)が介護保険から払い戻される仕組みで、これを「償還払い」といいます。
自治体によっては最初から1割(所得によって2割か3割)の支払いで購入できる「受領委任払い」が行えるところもあります。
10万円を超えた分については、全額自己負担となり、特定福祉用具は、都道府県から指定された業者から購入することになります。
●住宅改修
介護が始まると自宅内で安全に過ごせるように、改修が必要になることもあるでしょう。
そのような玄関、廊下、浴室、トイレなどに手すりをつけたりバリアフリーにするなどの住宅改修に対して、要介護認定を受けた人を対象に「居宅介護住宅改修費」が支給されます。
このサービスを利用することで、要介護者が自宅でできることが増え、介護する人の負担を軽減につながります。
住宅改修費にも支給限度額があり、4月1日~翌年3月30日までの間で20万円(消費税込み)とされています。
利用者の収入に応じて自己負担額は1割か2割か3割です。
住宅改修費の支払い方法は利用者が先に費用全額を支払い、後から自治体より払い戻される「償還払い」と、はじめから1割(所得によって2割か3割)の負担で行われる「受領委任払い」があります。
これらは自治体により異なりますので、確認が必要です。
ケアプランの作成
ここまで、在宅介護を行う際に受けられるさまざまなサービスについて解説してきました。
これらの必要なサービスを組み合わせ、支給限度額以内で利用するためには、サービス利用計画書(ケアプラン)が必要です。
ケアプランは自分で作成することも可能ですが、多くの場合はケアマネージャーに依頼します。
在宅介護の場合は、自宅でのサービスを中心に作成された「居宅サービス計画」を作成してもらいます。
便利な民間サービス
介護保険で受けられるサービスには給付額の上限があったり、時間の制限があったりして不便を感じたり物足りないこともあるでしょう。
そのようなときに民間のサービスにも目を向け、公的サービスで不足する部分を補うようにすると良いです。
民間の介護サービスには以下のようなものがあります。
●家事代行サービス:介護保険のホームヘルパーには依頼できない家事の代行もしてもらえます。
●介護タクシー:車いすやストレッチャーのまま乗ることができるタクシーです。
●配食サービス:安否確認を兼ねた食事の宅配で、一食から届けてもらうことができます。
民間サービスの探し方としては、実際に利用している人の評判やインターネットで検索してみることが挙げられます。
民間サービスのほかに、各自治体が独自に提供しているサービスもありますので、あわせて調べてみましょう。
まとめ
自宅介護について、メリットやデメリット、介護保険を使ったサービスの内容、民間のサービスについて解説しました。
在宅介護を続けるうえでもっとも大切なことは、介護を行う人がストレスをため込まないことでしょう。
ときにはだれかに介護を代わってもらったり、悩みや愚痴を家族や友人に聞いてもらったりすることも大切です。
介護は必ず複数人で分担するべきで、一人で背負い込むことは精神的・肉体的な負担が増すばかりで、よい介護につながりません。
また「自宅で無理になったら施設にお願いする」と柔軟に考えることも大切です。
さまざまな介護サービスを利用しながら、家族全員が協力し合い、介護にあたることが求められるでしょう。