知っておきたい高齢者のための生命保険

保険

はじめに

生命保険に入るのは、なんのためでしょうか。多くは、家族のためでしょう。しかし、子どもが独立してしまえば、負担が減ります。配偶者も高齢になり、当然残りの人生が短くなり、リスクは少なくなってきます。

それでも、以前の保険契約をそのまま継続し、高額な保険料を毎月引き落としで支払っていることが多いのではないでしょうか?

高齢者にとっての生命保険にはどのような意味があるのか、また、もっとよい活用の仕方がないのかを知っておくべきでしょう。

高齢者のための生命保険とは

人生の終盤に近づく年代の高齢者にとって、生命保険はどのような意味があるのでしょうか。ここでは、若いころや現役時代とは違った観点から、生命保険について考察してみます。

高齢者が生命保険に入る意味

一般的に、若いうちに終身の生命保険に加入するのは、月々の保険料を安く抑えられ、かつ子どもも小さく、万が一のときの備えになるからです。

しかし、高齢期になれば、若いころのように、家族のために大きな保障を考える必要性が少なくなってきます。病気になったときに困らない保障、葬儀などで家族が困らない保障など、今の自分がどんな保障が必要としているかを考えていくことが大切です。

高齢者にとっての死亡保険の意味の低下

生命保険の中心ともいえる死亡保険は、子どもが独立した高齢者には、年齢が上がれば上がるほど必要度が薄れてき、高額な保障は必要なくなってきます。

公的医療保険制度の充実度

日本では公的医療保険の一つとして、高齢者に対して後期高齢者医療制度があります。

75歳以上の人が加入できる医療制度で、1割負担(現役並み所得者は3割)で安価に医療が受けられる保険制度です。この制度で基本的な保障は確保されるので、民間の医療保険の役割は加算目的になります。

さらに、公的な医療保険には高額療養費制度というものもあります。これは医療費負担が家計に重くのしかからないように、医療の支払額が月々の設定上限額を超えた場合、その超えた額を支給する制度です。上限額は、対象者の年齢や所得額に応じて異なります。

高齢者の生命保険加入は割に合わない可能性が高いこと

生命保険の保険料は、年齢や男女別の死亡率などを元にして算出されているため、高齢者の保険料は高額です。また、持病があると保険の加入が難しいことが多く、持病のある人でも入れる保険は費用が割高になります。

そのため、高齢者にとって生命保険は、入っても割に合わない可能性が高いといえます。

医療保険、入院保険、ガン保険などのニーズの拡大

高齢者になれば、どうしても病気が増えます。そのため、死亡保険に比して医療保険などのニーズが拡大します。

年齢制限

生命保険には、加入できる年齢に制限が設けられている場合があります。年齢の限度は生命保険会社・保険の種類によって違います。

死亡保険の場合、満65~満75歳までを限度年齢に設定している会社が多いです。ネット保険などの場合は、限度年齢が若い場合もあります。

医療保険の場合、保険料を終身払いにするのであれば、満75~満85歳までを限度年齢に設定している会社が多くあります。また、払い込みの期間を終身ではなく、有期タイプにすると期間に連動して限度年齢は若くなります。

高齢者のための生命保険の現状

ここでは、高齢者のための生命保険について、どのような点を検討すべきか考えます。生命保険の種類や、終身保険、定期保険、医療保険、がん保険、民間介護保険、葬儀保険(少額短期保険)、個人年金保険などを具体的に検討します。

生命保険の種類

病気やケガが多くなるため、医療保障の必要性が増してきます。

終身保険

死亡保険で、保障が一生涯続くもので、被保険者が死亡した場合、遺族は必ず死亡保険金を受け取ることができます。解約返戻金は一定程度あり、貯蓄性があります。積み立て型で、掛け捨て型よりは保険料は高くなります。

高齢期から入るには、年齢制限、保険料の高さなどから検討が必要です。

定期保険

死亡保険で、被保険者が一定の保険期間内に死亡したときだけ死亡保険金が支払われ、満期時に被保険者が生存していても、満期保険金の支払いはない保険で、掛け捨て型です。

医療保険

病気やケガで入院したり、手術が必要になったりし、お金が必要になったときのための保険です。

入院すれば入院給付金、死亡すれば死亡給付金が受け取れます。高齢者に多い病歴や持病があっても、無審査・健康状態告知書を提出せずに加入できる「無選択型保険」や、加入条件を緩和した「引受基準緩和型保険」など、高齢者で健康に不安がある方でも入りやすい商品も販売されています。

ただし、「無選択型保険」や「引受基準緩和型保険」は健康のリスクが高くても加入できるため、一般の保険に比べて保険料は割高になります。保険期間については、定期契約(期間を定めた契約)のみで、終身を選択することができません。持病を持った高齢者の人向けの医療保険です。

がん保険

がんと診断された場合に診断給付金が支払われるものや、がんの治療に関する入院費や手術費をカバーするものが代表的です。抗がん剤治療に対応している保険や、再発に対する保障を含む保険などもあります。

診断給付金に関しては、初めてのガンに限定されるものが一般的ですが、再発であっても支払いの対象となるものも販売されています。

民間介護保険

民間の介護保険で、所定の介護状態になった場合の一時金や、所定の介護状態になった場合の収入を保障するものです。

葬儀保険(少額短期保険)

保険業法で扱われる保険の中で、ある一定の事業規模の範囲内で販売される保険のことを少額短期保険といいます。保険金額は少額で、葬儀保険は保険期間を1年以内の短期に定められています。告知書のみで加入できるものがほとんどで、葬儀費用で家族に迷惑をかけたくない高齢者向きの保険です。

個人年金保険

個人年金保険は、公的年金だけでは老後の生活が不安な場合などに加入する私的な年金保険です。契約時に自身で定めた年齢から年金を受け取ることができます。

受け取る期間は、10年確定や15年確定など有期のものから、一生涯にわたって受け取ることができるものもあります。早期退職、60歳定年退職から公的年金開始までのつなぎ年金として利用する人がいます。

ネット生命保険、新型保険の登場

生命保険にもネット生命保険が登場し、保険料の安いものなどを紹介しています。

日本人は保険好きといわれてきましたが、子育て世代を中心に、保険料の高さが重くのしかかっているのが現状です。そんな中、保険でも禁煙者を対象にしたものなど、リスク比率の低い人をターゲットにした、より保険料が低い商品が開発されてきています。

高齢者のための生命保険の今後

高齢社会を迎え、高齢者向けの保険のあり方が問われ、高齢者向けの新商品も開発されてくるでしょう。
高齢者自身も、保険の見直しや組み換えを進めると思われます。

保険の見直しの必要性

リタイヤ後は給与収入がなくなり、今後は年金をベースに、退職金やこれまでの貯蓄を運用しながら生活していくことになります。

「入ってくるお金が年金だけになるので、保険料の負担はできるだけ小さくしたい」
「あとは自分たちの老後生活と葬儀費用がまかなえればいいので、大きな保障はいらない」

といった縮小方向で、死亡保険を見直す必要があります。

  • ①保険金額を少額のタイプへ見直す

    すでに子どもが独立した後であれば、大きな保障金額の生命保険に加入している必要性はありません。生命保険も保障金額を少額のタイプに見直し、毎月高い保険料を支払う必要はありません。

  • ②医療保障を重視する

    高齢期になれば、医療保険やがん保険に未加入の場合は検討する必要があります。医療保険やがん保険の内容も、絶えず変化して新しい商品が生まれています。

高齢期の目的に応じた生命保険の使い方

高齢期に入ったなら、目的に応じて、多様に保険を活用する必要があります。

  • ①資金運用

    老後の生活費として、まとまった資金を計画的に利用するには、一時払いの個人年金保険が役立ちます。資金を運用しながら、毎年一定額を受け取ることができます。

  • ②相続対策

    一定の財産を持っている人の場合は、相続税対策として生命保険を活用することもできます。財産を相続した場合は、相続税がかかりますが、生命保険を使えば、相続人1人に付き500万円が非課税になります。

また、生命保険の受取人は特定化されますので、遺産分割での際に争いを防ぐ意味があります。

高齢者のための生命保険活用の準備

高齢者が生命保険を活用するには、どのような準備が必要でしょうか。医療保険、死亡保険、団体信用生命保険、保険の特約など、検討すべきことを説明します。

医療保険などでの健康状態のチェック

死亡保険、医療保険、がん保険などでは、無告知以外のものでは健康状態のチェックが必要です。持病のある人は、持病があっても加入できるものを検討します。また各種の制限について検討します。

死亡保険においては、公的年金の遺族年金も調べる

遺族年金とは、被保険者が亡くなったときに、残された家族へ支給される公的年金の一種です。自分自身の年金受給の見込み額を調べ、遺族年金についても調べておきたいものです。

住宅ローンで団体信用生命保険に入っているかどうか調べる

ほとんどの人は、住宅購入の際に住宅ローンを組んでいます。多くの場合、その住宅ローンに団体信用生命保険という保険が付帯しています。契約者に万が一のことが起こったときに、残りの住宅ローンの支払いが免除されるという保険です。この保険が付いていれば、他の保険の費用を抑えることができます。

保険の特約について検討する

生命保険には、主契約の死亡保障のほかにも、さまざまな特約が付いていることが一般的です。医療特約、傷害特約、定期特約、介護特約、健康祝い金特約などなど各種あります。特約の付けすぎをすると、保険料が高くなるので、本当にその特約が必要かどうか検討する必要があります。

また、新たに加入する保険と、従来加入している保険の特約が重複していないかもチェックします。

まとめ

(1) 高齢者は子どもが自立している場合が多く、高額な保障の保険は必要ないため、保険の見直し、組み換えが必要だということ
現役時代のままの死亡保険を、継続している場合が多くあります。しかし、そのような高額の保障と、高額な保険料を高齢になっても支払う必要があるのでしょうか。

保険の形態には、終身型(貯蓄型)と定期型(掛け捨て型)があります。

終身型は、通常の保障に加えて積み立てていくという性質があるため、定期型よりも払込保険料が高いのが一般的です。払込期間は定期型が10年、20年など年数や年齢で決まっていますが、終身型は一生涯保険料を支払う、もしくは長い期間保険料を支払っていきます。

終身型の解約条件、戻ってくる金額を検討し、定期型への組み換えなども検討します。また、保障額が低く保険料も低いものへの組み換えを検討します。

(2) 公的な保険でカバーできる範囲を知っておくこと
健康保険、後期高齢者医療制度でかなりの額が保障されています。75歳以上の人が加入する後期高齢者医療制度では、1割負担(現役並み所得者は3割)などの安い費用で医療が受けられます。民間医療保険はそれをカバーするものです。

また、介護には公的介護保険があります。所得により介護費用の負担額は異なりますが、1割から3割の負担率となっています。民間介護保険は、あくまでもそれをカバーするものです。

(3) 死亡保険では加入時の年齢制限があるものが多く、月々の保険料が割高のものが多いこと
死亡保険は、より若いときに加入しておくことに利点があります。高齢期になってからの死亡保険加入は、割に合わないものが多くあります。保障の少額なものや、掛け捨て型のものなどを検討します。

(4) 医療保険の検討
高齢者は医療保険のニーズは高くなりますが、公的医療保険が適用にならない費用としては、次の3つがあります。

・入院時の差額ベッド代
・先進医療の技術料
・治療費以外の入院に関わる費用

特に先進医療の技術料では、先進医療を受けた場合、診察・検査・投薬・入院料などについては公的医療保険が適用されますが、高額な先進医療の技術料は全額自己負担となります。

これをカバーしてくれるのが先進医療給付金です。先進医療特約を医療保険やがん保険に付加するスタイルの商品が一般的で、保険料は月数十円~数百円前後としている保険会社が多く、わずかな額の負担で済みます。

高齢になると、持病のある人も多くなり、医療保険での制限も出てきますが、診断書なしの無告知のものもあります。ただし、保険料は割高になります。

(5) 生命保険では主たる保険内容以外の特約についても検討すること
特約の種類はかなりあります。オプションでつける場合は、本当に必要なものかどうか、以前に入っているものと特約部分が重複していないか調べる必要があります。

知っておきたい3カ条

最後に、高齢者のための生命保険について、加入済みの保険の見直しや組み換え、新規加入の検討、葬儀費用をまかなう葬儀保険など、知っておきたい3カ条をまとめます。

高齢期になったら、保険の見直し、組み換えが必要なこと

誰のために、何のために保障が必要なのか、冷静に考えてみる必要があります。特に死亡保険での高額な保障は不要になっています。高齢期には、月々の保険料を抑えることに利点があります。

高齢期の医療保険、がん保険などの加入はニーズが高く、商品開発も進んでいるため検討する必要があること

高齢期になれば、医療保険のニーズが高くなります。ただし、加入条件に制限があったり、保障内容に除外項目があったりし、十分検討する必要があります。また、診断書が必要なものもあります。

一方、各種の商品開発も活発で、がん保険でも新しい先進医療分野の保障が加わったりしています。

家族に負担をかけないための葬儀保険は少額で済む

葬儀保険は、葬儀費用で家族に迷惑をかけたくない高齢者にとって、保険額が少額で、保険料も短期一時的な、負担が少ないものです。

生命保険の販売の仕方が変わり、以前の保険の1社専属の女性訪問販売員による営業から、多くの会社の保険商品を扱う保険ショップが街中に出店している時代です。ネットでも各種の保険の一括見積サイトがありますし、ネット生命保険会社もあります。

生命保険も、比較して相見積もりを取り、保険料をより安く抑え、目的に応じてお金を有効に使う時代になってきています。

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