知っておきたい高齢者の病気について

健康

はじめに

日本は、今や世界一の長寿国となりました。平均寿命は2018年現在で男性が81.25歳、女性が87.32歳で、年々記録を更新し続けています。
ただし、介護を必要としない自立した状態の健康寿命は、男性が72.14歳、女性が74.79歳です。

平均寿命と健康寿命の間に大きな隔たりがあることで、近年いかに健康寿命を延ばしていくかが超長寿国である日本の課題になっています。
この記事では、高齢者が要介護になる原因とされる病気や状態、その中でも、高齢になるとともに、特に気をつけるべき疾患とけがについて考えます。

健康寿命とは

寿命には、通常使われる「平均寿命」のほかに「健康寿命」ということばがあり、近年注目を集めるようになりました。健康寿命はWHO(世界保健機関)が2000年に提唱した概念で、健康な状態で生きられる年齢のことを指しています。

つまり健康寿命は、平均寿命から疾病や衰弱で要介護状態になっている期間を差し引いた年齢で、自立して生活できる年齢です。平均寿命から健康寿命を引くと、男性は9.11年、女性は12.53年となり、この期間は何らかの治療や介護を受けていることになります。

健康でいられる期間を長くするには

平均寿命と健康寿命の間に大きな開きがあるということは、寿命は延びても介護が必要な期間が長くなっていることを示しています。そのため、要介護にならずに健康でいられる期間を少しでも長くしていこうという動きが活発になっています。

厚生労働省は2005年(平成17年)に、国民健康づくりの指標として健康寿命の算出を開始し、以後3年に一度実施してきました。寿命が延びても健康でいられる期間に限りがあると、個人が支払う医療費や介護費の負担増大が懸念されます。

高齢者本人も健康な長寿を望みますし、子どもにとっても親が病気になったり寝たきりになったりせずに長生きしてほしいと考えるでしょう。しかし、多くの人は70歳を過ぎるころから何らかの身体的不調を訴えるようになり、高齢になればなるほど、病気やけがをきっかけに急速に状態が悪化して、短期間で寝たきりにまで進行することがあります。

要介護になった原因-1位から5位まで

高齢者の場合、病気やけがをきっかけに介護が必要になることが多く、一度入院したらその後起き上がれなくなった、歩けなくなったというケースがよくみられます。

「平成28年(2016年)国民生活基礎調査」(厚生労働省)によると、介護が必要になった原因は、1位が認知症、2位が脳血管疾患(脳卒中)、3位が高齢による衰弱となっています。次いで4位が骨折・転倒、5位が関節疾患です。

国民生活基礎調査は毎年行われますが、3年に1度は大規模調査となり、「介護」に関する事項は平成13年(2001年)以降の大規模調査で、3年ごとの調査が実施されてきました。

第1位:認知症

認知症には以下のタイプがあげられます。

・ アルツハイマー型認知症
・ 脳血管性認知症
・ レビー小体型認知症
・ 前頭側頭型認知症
・ その他の認知症

65歳以上の認知症高齢者数は増加傾向にあり、将来的にさらに増加すると予想されています。「平成29年版高齢社会白書」の推計によると、2020年では602~631万人、2025年には675~730万人まで増加し、2025年時点で高齢者5人に1人が認知症になる見込みとなっています。

認知症の原因としては、加齢に加えて糖尿病、脂質異常症、高血圧症などの生活習慣病があげられています。これらの病気を予防するとともに、早期発見・早期治療が重要なのは他の病気と同様ですので、もの忘れを単なる加齢のせいと片付けずに専門医を受診することが大切です。

第2位:脳血管疾患(脳卒中)

脳血管疾患は主に次の3種類に分けられます。

・ 脳梗塞(脳の血管に血栓が詰まる)
・ 脳出血(脳の血管が破れて脳内に出血する)
・ クモ膜下出血(脳の動脈瘤が破れ、脳と脳を包むクモ膜の間に出血する)

脳血管疾患の場合、命が助かっても身体や言語に麻痺などの重い後遺症が残り、寝たきりにつながることがあります。脳卒中の発症には、高血圧症、脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病が大きく影響することがわかっています。

第3位:高齢による衰弱(フレイル)

衰弱とはその字のとおり、体が衰えて弱ってくることで「歳をとったらだれでもそうなる」と思うかもしれませんが、高齢でもいわゆる「かくしゃくとした」方はいるので、高齢になると必ず衰弱するとも限りません。

衰弱の具体的な症状は以下の5つで、このうち3項目以上が該当する場合、衰弱(フレイル)と診断され、1~2項目の場合、フレイルの前段階といわれています。
・ 筋力の衰え
・ 歩行速度の低下
・ 活動量の低下
・ 疲労
・ 体重減少

高齢者の「低栄養」問題

なぜフレイルが起こるかについては明確なメカニズムが解明されていませんが、運動不足に加えて、今は高齢者の「低栄養」が問題になっています。食べ物に困らない現代の日本において、低栄養すなわち栄養が足りていないとは考えにくいかもしれませんが、実際に高齢になるとともに低栄養の問題は深刻となり、低栄養が衰弱(フレイル)の大きな要因になることがわかっています。

高齢者特有の低栄養の原因として、厚生労働省では以下の5項目をあげています。

  1. 社会的要因-独居、介護力不足・ネグレクト(介護の拒否)、孤独感、貧困
  2. 精神的心理的要因-認知機能障害、うつ、誤嚥・窒息の恐怖
  3. 加齢の関与-嗅覚・味覚障害、食欲低下
  4. 疾病要因-臓器不全、炎症・悪性腫瘍、疼痛、義歯など口腔内の問題、薬物副作用、咀嚼・嚥下障害、日常生活動作障害、消化管の問題(下痢・便秘)
  5. その他-不適切な食形態の問題、栄養に関する誤認識、医療者の誤った指導

低栄養は本人も家族もなかなか気づかず、徐々に衰弱していきます。まずは健康診断を定期的に受けて、体重やBMI、栄養状態の指標である血清アルブミン値をチェックすることが重要です。

低栄養になりやすいのは、高齢者夫婦だけの世帯、または高齢者の一人住まいで、食料品の買い物や調理が大変になり、食事がおろそかになる場合があります。今は食品宅配サービスや弁当宅配サービスが充実しているので、上手に使うとよいでしょう。

第4位:骨折・転倒

高齢になればなるほど身体機能が衰え、転倒しやすくなります。高齢者が転倒する場所は自分の家の中が多く、65歳以上の転倒事故の発生場所をみると住宅内が7割強です。住み慣れた自宅ということで緊張感をなくしがちですが、要注意です。

高齢者の転落・転倒事故

以下に、頻繁に起こる転落・転倒事故の例をあげてみます。

・ 階段の上り下りの際に足を踏み外し転落した
・ 夜間、起床時にトイレに行こうとしてベッドから転落した
・ カーペットやマット、段差につまずいて転倒した
・ スリッパが脱げて転倒した
・ 浴室で足を滑らせて転倒した
・ ペットが足にじゃれついて転倒した
・ 木の剪定作業、雪下ろしのため高い場所にのぼり転落した
・ 椅子や脚立に上って、高いところにあるものを取ろうとして転落した

転落や転倒では打撲や擦過傷で済む場合が多いものの、次いで骨折が多く、特に足の付け根の骨折である大腿骨頸部骨折では、寝たきりへのリスクが非常に高くなります。また、毎年雪の多い地域では雪下ろしの転落事故による死亡例が後を絶ちません。高所からの転落は生命にかかわるので、油断しないようにしましょう。

家の中の事故防止には、危険個所をチェックし、手すりをつけたり、段差をなくしたりする工夫が必要です。

第5位:関節疾患

関節疾患は、手や足の関節が変形したり、炎症をおこしたりして、生活に支障をきたすようになるものです。どの関節にも病気が起こる可能性がありますが、特に問題となるのは「膝関節」と「股関節」です。

膝関節や股関節に痛みが現れると歩行が困難になり、日常生活に大きな支障をきたすようになります。痛みのために日常生活全般で動く機会が減ると、寝たきりにつながるおそれがあります。痛みを抑える薬物療法や患部を温める物理療法、体操などの運動療法を根気よく続けることが大切です。

日本人の死因

2019年に発表された、「2018年人口動態調査」(厚生労働省)にみられる日本人の死因は、1位が悪性新生物(がん)、2位が心疾患、3位に老衰、以下4位が脳血管疾患、5位が肺炎と続きます。3大死因に「老衰」が入ったのは初めてのことです。

毎日の生活習慣に由来する病気

がん、心疾患、脳血管疾患は食生活や運動など毎日の生活習慣に由来するところが大きいといわれており、人から病原菌がうつって発症する感染症と違って、心がけ次第で予防が可能なものです。

WHOは、不健康な食事や運動不足、喫煙、過度の飲酒などの生活習慣が原因となる病気を「非感染性疾患(NCD:Non-Communicable Diseases)」として位置づけています。具体的にはがん、糖尿病、循環器疾患、呼吸器疾患などのことです。

つまり、これらの病気は生活習慣を改めることにより、発症を予防できるとされています。

生活習慣病を予防する

心臓病、脳卒中、糖尿病やがんは、かつて「成人病」と呼ばれ、加齢とともに発症して進行するものと考えられていました。しかし、これらの病気の原因となるのは、食生活や運動、喫煙や飲酒などの個人の生活習慣が大きくかかわっていることがわかり、厚生労働省は平成8年から「生活習慣病」という概念を導入しました。

生活習慣病とは

厚生労働省の定義による生活習慣病とは、「食生活、運動習慣、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣が、その発症・進行に関与する症候群」です。生活習慣と関連する病気を具体的にあげると、以下のとおりです。

・運動習慣-糖尿病(成人型)、肥満症、脂質異常症、高血圧など
・食習慣-糖尿病(成人型)、肥満症、脂質異常症、高尿酸血症など
・喫煙-慢性気管支炎、肺気腫、循環器疾患、歯周病など
・飲酒-アルコール性肝炎など

これらの生活習慣病は、健康寿命の延びを大きく阻害して要介護の原因となる上に、日本人の死因の6割を占めるといわれています。

生活習慣病がかかわる病気

認知症については、生活習慣病が間接的な原因になっていることが明らかになっていて「糖尿病」「高血圧」「脂質異常症」がある人は認知症になりやすいといわれています。これらはまさしく生活習慣病であり、個人の心がけにより改善が見込める病気です。

脳卒中(脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血)の原因には動脈硬化や高血圧が関与しているといわれていて、これらを予防するのも、生活習慣の改善ということになります。

飲酒と喫煙について

喫煙の害についてはすでに広く周知され、公共でも喫煙する場が年々限られるようになりました。自分が吸わなくても、他人の吸う煙(副流煙)による害も取り上げられ、禁煙する人は増加中です。一方で、喫煙によるリラックス感などを理由に、たばこを吸い続ける人もいます。

しかし、長年のたばこが原因とされるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)が進行すると、日常生活にも支障をきたし、最悪は酸素吸入をしながらの生活を強いられるようになります。たばこをやめたいが一人ではやめられないという人は、「禁煙外来」を掲げる医療機関で治療を受けることができ、治療には健康保険が適用されます。

飲酒に関しては「適量であればむしろ健康によい」といわれ、「酒は百薬の長」という表現もあるほどです。ただし、厚生労働省が推奨する「適量」とは、純アルコールで1日あたり20gとなっています。純アルコール20gに相当するのは、ビールなら中瓶1本(500ml)、日本酒は1合(180ml)、ウィスキーはダブル1杯(60ml)、ワインはグラス2杯(200ml)です。飲酒習慣のある人にとっては、とても少ない量に感じるかもしれません。

さらに2018年に、『ランセット』という世界的権威のある医学雑誌に「たとえ少量でもアルコール摂取は害である」という趣旨の論文が発表され、世界中の注目を集めました。喫煙と飲酒は生活習慣病の原因となることが明らかになっているため、やめるに越したことはないといえます。

健診と検診の重要性

要介護になる病気を予防し、健康寿命を延ばすには、生活習慣を健康的なものに改善することが大切です。それに加えて、がんや生活習慣病を早期に発見するために、「健診」と「検診」を受診することが必要になります。

「健診」とは、健康診断または健康診査のことで、健康かどうかを調べて、病気の危険因子を見つけるために行います。特定健診は40歳~74歳の人を対象に行われ、糖尿病や高血圧症、脂質異常症の有無を調べます。

「検診」とは、ある特定の病気を早期に発見するために行われ、「がん検診」などがそれにあたります。対象集団全体の死亡率を下げることを目的とした、市町村や職域で行う「対策型検診」には①胃がん検診 ②大腸がん検診 ③肺がん検診 ④乳がん検診 ⑤子宮頸がん検診の5種類があります。子宮体がん検診は、希望者のみオプション(別料金)で受けることが可能ですので、医療機関に相談してください。

生活習慣病の糖尿病も、高血圧症、脂質異常症も、初期には自覚症状がほとんどなく、「サイレントキラー」と呼ばれることがあります。がんの初期にも自覚症状がありません。

自覚症状のない段階での早期発見・早期治療が身を守ることになり、健康寿命を延ばすことにもつながります。ぜひ健診と検診を受けるようにしましょう。

まとめ

65歳以上の人が要介護になる原因の、1位が認知症、2位が脳血管疾患(脳卒中)、3位が高齢による衰弱、4位が骨折・転倒、5位が関節疾患でした。さらに日本人の死因をみると、1位は悪性新生物(がん)、2位が心疾患、3位に老衰、4位が脳血管疾患、5位が肺炎です。

これらは、ほとんどが食習慣や運動習慣を含む生活習慣に由来するものです。
健康寿命を延ばすためには、生活習慣病を予防することが最重要で、そのためには毎日の生活習慣を、できるところから改善していくことが大切です。「適度な運動」「適切な食生活」「禁煙」の3つを心がけ、健康寿命を少しでも長くしたいものです。

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