はじめに
金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」が公表した報告書が話題となりました。老後の生活で、年金だけでは夫婦2人で毎月約5.5万円不足し、30年間で約2000万円不足するという試算です。
年金だけでは食べられないということは、政府の年金政策の基本が破綻しているということになります。
しかし、年金だけでは食べていけないということが広く国民の認識することになり、老後生活の不安は拡大しています。将来に備えるためにも、年金制度の仕組みを知り、自分の年金額の見込みを知っておくことは大切です。
年金制度とは
年金制度は公的年金制度を基礎に、上乗せする企業年金などの私的年金制度があります。公的年金においては、国民年金を年金制度の1階部分、厚生年金などを2階部分、企業年金などの私的年金を3階部分と位置づけています。
公的年金制度の種類
公的年金には、国民年金、厚生年金、共済年金の3種類があり、職業などにより、日本国内に住所のあるすべての人が、いずれかに加入を義務づけられています。
・国民年金
国民年金は、日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満のすべての人が加入するもので、老齢・障害・死亡により「基礎年金」を受けることができます。国民年金には、「第1号被保険者」「第2号被保険者」「第3号被保険者」の3種類があります。
a. 第1号被保険者
(対象者)自営、農業従事者、学生、フリーター、無職の人など。
b. 第2号被保険者
(対象者)厚生年金保険の適用を受けている事業所に勤務する者であれば、自動的に国民年金にも加入します(ただし、65歳以上で老齢年金を受ける人を除きます)。
c. 第3号被保険者
(対象者)第2号被保険者の配偶者で、20歳以上60歳未満の人をいいます。ただし、年間収入が130万円以上で健康保険の扶養になれない人は、第3号被保険者とはならず、第1号被保険者となります。
・厚生年金
一般の会社員など、厚生年金保険の適用を受ける会社に勤務する、すべての人が加入者となります。厚生年金とともに、国民年金に加入する第2号被保険者に分類され、国民年金の基礎年金を受けることができます。
・共済年金
共済(組合)制度は、国家公務員、地方公務員や私立学校の教員などとして、常時勤務する人が組合員・加入者となります。
共済組合には、「短期給付」と「長期給付」があり、短期給付は、健康保険と同様の給付を行い、長期給付は年金給付と同様の給付を行います。年金給付では、企業における厚生年金部分に相当します。
私的年金(企業年金、個人年金)制度の概要
私的年金は、公的年金の上乗せ給付を保障する制度です。企業や個人はニーズに合った制度を選択することができます。
・企業年金制度
企業年金制度とは、公的年金とは別に企業が設けている年金制度の総称で、厚生年金基金、確定給付企業年金、企業型確定拠出年金の3種類に分類されます。現在は、確定給付企業年金と企業型確定拠出年金の2つが中心です。
a. 厚生年金基金
企業年金制度の中で事実上終了している制度で、老齢厚生年金の一部を代行して、厚生年金基金が独自に上乗せして給付するものです。運用環境の悪化のため、赤字計上を行う基金が増え、運営が困難になっています。
b. 確定給付企業年金
確定給付企業年金とは、最も多くの利用実績がある年金制度で、企業が給付内容について約束し、従業員の高齢期に約束に基づいて年金を給付するものです。
確定給付企業年金は、拠出、運用、管理、給付のすべてを企業が行い、種類は規約型と基金型の2つがあります。
規約型は、企業等が労使で合意した年金規約を作成し、厚生労働大臣の承認を受けて実施するものです。
基金型は、企業等が厚生労働大臣の認可を受けて企業年金基金を設立し運用等を行うものです。
c. 企業型確定拠出年金
企業型確定拠出年金とは、企業が毎月一定額の金額を拠出して積み立てるもので、運用方法は加入者である労働者自らが決定するという制度です。企業は、加入者のために規約を作成し、厚生労働大臣の承認を受け制度を実施します。
運用では、保険商品、投資信託、定期預金などを組み合わせることができ、原則として60歳以降に受け取りが可能になります。給付額は、掛金と個人の運用収益の合計です。
・個人型確定拠出年金(iDeCoイデコ)制度
iDeCoは確定拠出年金法に基づいて行われる私的年金制度のことで、企業型確定拠出年金との大きな違いは、加入は個人の任意で、自分で支払い運用するものです。企業型年金規約でiDeCoへの加入を認めている場合のみ、20歳以上60歳未満であれば誰でも加入可能です。
・国民年金基金制度
国民年金基金制度は、自営業者やフリーランスなど国民年金の第1号被保険者が、老後の所得保障の充実を図るために、任意で加入する制度です。
・ 個人年金保険
個人で任意に加入する民間保険会社の商品です。
現在の年金の仕組み
前項では、年金制度の概要と、公的年金制度、私的年金制度のそれぞれについて紹介しました。ここでは、現在の年金の仕組みについて、受給要件や、繰り上げ受給などを説明します。
老齢基礎年金の受給要件
老齢基礎年金の受給資格は、国民年金に加入し、年金保険料の納付または免除期間が120カ月以上(10年)なければなりません。また、20歳から60歳になるまでの40年間の全期間保険料を納めた人は、65歳から満額の老齢基礎年金が支給されます。
保険料を全額免除された期間の年金額は1/2(平成21年3月分までは1/3)となりますが、保険料の未納期間は年金額の計算の対象期間になりません。平成31(2019)年4月分からの年金額は、満額の場合780,100円となります。
老齢厚生年金の受給要件
厚生年金制度で、厚生年金に加入し、老齢基礎年金を受けるのに必要な資格期間を満たした人が65歳になったときに、老齢基礎年金に上乗せして老齢厚生年金が支給されます。
ただし、当分の間は、60歳以上で、
a. 老齢基礎年金を受けるのに必要な資格期間を満たしていること
b. 厚生年金の被保険者期間が1年以上あること
により受給資格を満たしている人には、65歳になるまで、特別支給の老齢厚生年金が支給されます。
年金の繰上げ受給
老齢基礎年金は、原則として65歳から受け取ることができますが、希望すれば60歳から65歳になるまでの間でも繰り上げて受け取ることができます。
ただし、繰上げ受給の請求をした時点に応じて年金が減額され、その減額率は一生変わりません。
年金の繰下げ受給
老齢年金は、65歳で請求せずに、66歳以降70歳までの間で申し出たときから繰下げて請求できます。繰下げ受給の請求をした時点に応じて、最大で42%年金額が増額されます。
繰下げには、老齢基礎年金の繰下げと老齢厚生年金の繰下げがあります。
マクロ経済スライド
マクロ経済スライドとは、賃金や物価の改定率を調整して、ゆるやかに年金の給付水準を調整する仕組みです。将来の現役世代の負担が過重なものとならないよう、最終的な負担(保険料)の水準を定め、そのなかで保険料などの収入と、年金給付等の支出の均衡が保たれるようにした制度です。
なお、このマクロ経済スライドの仕組みは、賃金や物価がある程度上昇する場合にはそのまま適用しますが、賃金や物価の伸びが小さく、適用すると年金額が下がってしまう場合には、調整は年金額の伸びがゼロになるまでにとどめます(結果として、年金額の改定は行われません)。
年金制度の今後はどうなるか?
年金財政の悪化で、年金の制度も今後さらに変更の可能性があります。日本では年金の基本設計がされた時点よりも高齢化の速度が速く、少子化により現役世代が高齢の年金受給者を支えるには財政的に破綻してしまう恐れがあります。また、年金の運用でも過去に問題がありました。
特に、団塊の世代すべてが後期高齢者に到達する2025年以降、高齢者数はさらに増し、危機が訪れます。
年金財政を改善する方法としては、以下の4つが考えられます。
・年金支給年齢の引き上げ
・現役世代の年金保険料のアップ
・年金支給額の実質的引き下げ
・国庫負担額のアップ
現状で明確に進んでいる政策は、年金支給年齢の引き上げです。
政府は2020年、70歳まで働く機会の確保を企業の努力義務とする高年齢者雇用安定法改正案を閣議決定しました。
2000年に60歳から65歳への年金受給年齢引き上げに伴う65歳までの再雇用制度などが実施されましたが、今回は働く環境を70歳まで引き上げることを趣旨としたものです。政府は認めていませんが、狙いは年金の支給年齢の70歳への引き上げで、企業に65歳から70歳までの年金支給までの雇用や就労支援を、当面努力義務として課するものです。
企業にとっては負担となり、反対意見もあります。ただし、年金支給年齢の引き上げに対しては世論の反発も強く、導入までは時間を要するでしょう。
その他、現役世代の年金保険料率のアップは困難で、2017年で固定化されています。また、年金支給額の引き下げは、現在でも年金が少なく困難といえるでしょう。国庫負担額のアップでは、国民年金の基礎年金の2分の1とし消費税増税での財源確保となっています。
年金利用のための準備
老後の生活を支える年金ですが、利用するためには、どのような準備をしておくべきでしょうか。この項では、受け取れる見込みの年金額を調べる方法や、年金の増やし方について説明します。
自分の年金額の見込みを調べること
将来、自分がどれだけの金額の年金を受け取れるか、ご存知でしょうか。以下に、受け取れる見込みの年金の額をどのようにして確認できるか、いくつかの方法を紹介しています。
- ①「ねんきん定期便」の検討
ねんきん定期便は、自分の保険料納付の実績や、将来の年金給付に関する日本年金機構による情報提供です。毎年誕生月に、自身の年金記録の情報が送られてきます。年齢によって形式や記載される内容が異なります。
ねんきん定期便には、毎年送られてくるものと、節目の年に送られてくるものがあり、以下の内容が通知されます。
・これまでの加入実績に応じた年金額
・年金見込額
- ②「ねんきんネット」の活用
年金の見込額を試算することができます。
a. ねんきんネットの年金見込額試算
このまま働いた場合、何歳から、どの程度の年金を受け取れるかなど、自分に応じた条件に基づいて年金額の試算ができます。
b. 日本年金機構で管理している、個人記録に基づいた「年金見込額試算」
50歳以上の人を対象に、年金見込額試算及びその計算の基礎となった年金加入記録がわかります。ねんきんダイヤルから申込み、年金見込額の試算が郵送されます。
c. 日本年金機構で管理している、個人記録に基づいた「年金加入記録照会・年金見込額試算」
50歳以上の人を対象に、年金見込額試算及びその計算の基礎となった年金加入記録がわかります。試算結果は電子文書で知らされます。
年金を増やすには
前項では、年金の加入記録に基づいた見込額の試算を紹介しました。しかし、将来受け取る年金の額を増やす方法もあります。ここでは、受給資格期間が足りない場合や満額受給できない場合、老齢基礎年金に上乗せする「付加年金」「国民年金基金」などを紹介します。
- ①高齢任意加入の方法
老齢基礎年金の受給資格期間を満たしていない場合、および、満額受給できない場合の方法です。
国民年金の強制加入期間は20歳~60歳までの480カ月ですが、高齢任意加入とは、60歳以上65歳未満の間、国民年金に任意加入できる制度です。
これにより、受給額を増やすことができます。
老齢基礎年金の受給資格は、年金保険料の納付または免除期間が120カ月以上(10年)なければなりません。また、満額を受給するためには、年金保険料を480カ月(40年)納付している必要があります。
- ②自営業の人が年金を増やす方法
自営業などの第1号被保険者の人は、老齢基礎年金の上乗せとして「付加年金」「国民年金基金」などを利用することができます。
・付加年金
月額400円を任意で国民年金保険料に上乗せして納付することで、「付加年金保険料の納付月数×200円」が老齢基礎年金に加算される制度です。
たとえば、付加年金の保険料を10年間(120カ月)納付していた場合、支払った金額は「400円×120カ月=48,000円」です。老齢基礎年金に上乗せされる付加年金(1年間の増加分)は200円×納付月数なので24,000円です。
1年間で24,000円が受け取れるため、2年間で支払った金額と受取額が同額になる計算になります。
・国民年金基金
先述した私的年金制度のうち、国民年金に上乗せして受給するための年金制度として「国民年金基金」がありますが、付加年金と併用はできません。
国民年金基金には、「地域型国民年金基金」である全国国民年金基金と職種別に設立された3つの「職能型国民年金基金」があります。
地域型国民年金基金の全国国民年金基金については、国民年金の第1号被保険者であれば、住所地や業種は問わず加入できます。
職能型国民年金基金については、基金ごとに定められた事業または業務に従事する国民年金の第1号被保険者の方が加入できます。
- ③個人型確定拠出年金(iDeCoイデコ)
自営業や会社員、主婦などが加入できる年金制度としては、先述したiDeCoがあります。金融機関に自分で年金保険料を積み立てて、運用先を指定する年金制度です。iDeCoに加入できるのは59歳までで、原則として60歳までは資産を引き出せないという決まりがあり、一旦加入すると原則として脱退できません。
- ④個人年金保険
民間保険会社の“個人年金保険”を利用して年金加算をするものです。預貯金よりも金額が増える場合があります。
個人年金保険は、保険料の払込期間(一般的には60歳まで)に保険料を納めることで、契約時に定めた年齢に達した時点から一定期間または一生涯にわたって年金が受け取れる貯蓄型の保険です。万が一、払込期間中に保険をかけられている人(年金受取人)が亡くなった場合、払い済みの保険料は遺族に死亡給付金として支払われます。
個人年金保険は年金の受け取り期間によって種類がありますが、被保険者の生死にかかわらず、一定期間年金を受け取ることができ、受け取り期間を60歳からの10年とした確定年金保険が最も一般的です。退職から公的年金支給年齢までのつなぎとして活用する人が多くいます。
まとめ
最後に、現在の日本の年金の仕組みについてのここまでの説明の要点をまとめます。公的年金制度の種類、年金の基礎になる国民年金の性質、老齢基礎年金の受給資格、自分の年金見込額を知る方法、年金を増やす方法などです。
(1) 年金制度は公的年金制度を基礎に、公的年金では、国民年金、厚生年金、共済年金の3つがあり、公的年金に上乗せするものに企業年金などの私的年金制度があること。
年金制度では、国民年金を年金制度の1階部分、厚生年金などを2階部分、企業年金などの私的年金を3階部分と位置づけています。
(2) 国民年金は、日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満のすべての人が加入するもので、厚生年金、共済年金加入者も、国民年金には自動的に加入する形になっていること。
国民年金では、老齢基礎年金を受けることができます。
(3) 老齢基礎年金の受給資格は、国民年金に加入し、年金保険料の納付または免除期間が120カ月以上(10年)あること。
国民年金の強制加入期間は20歳~60歳までの480カ月ですが、加入期間が不足している場合には、高齢任意加入という制度があります。これは、60歳以上65歳未満の間、国民年金に任意加入できる制度です。これにより、不足分を補うことができます。
(4) 自分の年金見込額を知るには、ねんきん定期便、ねんきんネットなどを活用すること。
これらで見込額をある程度知ることができ、50歳以上であれば、より正確な資料を得られます。
(5) 年金を増やす方法も知っておくこと
自営業者などが個人で加入できる国民年金に関連する付加年金、国民年金基金や、個人で加入できる個人型確定拠出年金(iDeCoイデコ)、同様に個人で加入できる民間保険会社の個人年金保険などがあります。
知っておきたい年金の仕組み3カ条
ここまで、現在の年金の仕組みを説明してきました。年金受給額の差、定年退職後の働き方、老後の資金対策など、老後の生活設計を考える上でぜひ知っておきたいポイント3つを以下にまとめました。
国民年金だけでは満額でも低額で、厚生年金は個人の年金受給額にはかなりの差があること。
収入に応じて積み立てられているため、厚生年金の額も大企業と中小企業ではかなりの差があります。また、企業年金は大企業では充実していますが、中小企業では加入していないところもあります。
そのため、国民年金だけの人、国民年金の期間が長い人では年金額が低く、厳しい状況にあります。
年金だけでは食べていけないこと。定年にこだわらない働き方の検討も。
標準的な所得の人は今後、年金支給額だけでは食べていけないことは明らかです。働き方を考えていく必要もあるかもしれません。
たとえば定年後も働いていける技術を身に付けることや、資格を取り、独立開業するなどの方法もあります。70歳以上でも生涯現役で働いていく生き方です。
自分の年金対策、老後の資金対策を考えておく必要もあること。
年齢により見込額の試算は異なりますが、50歳以上になれば、より的確な概算データが得られます。自分の年金の見込額を知っておきましょう。もし見込額が低ければ、老後の資金対策では預貯金で補填していかなければならないでしょう。
また、年金を増やす方法や、その他の資金対策が必要になってきます。
若い人に年金離れが起きています。理由として、年金だけでは食べられないことや、かけた年金の元が取れないという年金不信が考えられます。年齢人口比から、現役世代のおよそ2人が1人の高齢者の年金を支えているのですから。
しかし、公的年金では国民年金の基礎年金の2分の1の国庫負担があり、年金財政を部分的に支えています。総合的に考えると、公的年金制度はやはり利用したほうがよいでしょう。
会社員の正規雇用であれば、厚生年金加入はやはりメリットがあるでしょう。年金費用の半額は企業が負担して支払うからです。問題は、非正規雇用で、厚生年金に加入が認められていない人です。国民年金の支給額が少ないため、年金受給額の格差を生んでいます。