知っておきたい介護難民にならない方法

介護

はじめに

自分の年齢が上がるにつれ、親も高齢になり、介護について考える機会が多くなります。すでに親が要介護状態という人もいるでしょうし、今は元気でも、いずれ介護が必要になると予想している人もいることでしょう。

介護保険制度は、65歳以上の高齢者に介護が必要になった場合、申請によってさまざまな介護サービスが受けられるものです。しかし、介護が必要なのに、適切な介護が受けられない高齢者が増えています。

そのような人たちは「介護難民」と称され、現在の日本が抱えている大きな問題のひとつになっています。

この記事では、介護難民が増える社会的背景を考え、介護難民に対する国や個人レベルでの対策を解説します。

介護難民とは

介護難民とは、介護保険法により何らかの介護が必要と認定されているにもかかわらず、実際に介護サービスを受けられていない人を指します。

介護申請を提出して要介護認定が下りれば、適切なサービスが受けられるはずと、だれもが考えます。ところが、希望する介護サービスを受けられないケースが増加し、社会問題になっています。

介護難民が増加している理由

近年、介護難民が増えている大きな理由として、高齢者の増加と、介護現場の人材不足の二つが挙げられています。この項では、それぞれの現状と背景を説明します。

高齢者の増加

ご存じの通り、日本の平均寿命は年々延びており、高齢者人口も増えています。

それに伴って介護が必要な人も増え、厚生労働省の「介護保険事業状況報告」をみると、平成29(2017)年度に要支援・要介護と認定された人は、第1号被保険者、第2号被保険者を合わせて6,413千人で、介護保険がスタートした平成12(2000)年度の認定者数2,562千人の2.5倍になっています。

第1号被保険者で要支援・要介護と認定された年齢別の数は以下のとおりです。

65歳以上70歳未満 - 275千人
70歳以上75歳未満 - 462千人
75歳以上80歳未満 - 839千人
80歳以上85歳未満 - 1,451千人
85歳以上90歳未満 - 1,695千人
90歳以上     - 1,560千人

<出典:厚生労働省 平成29年度介護保険事業状況報告(年報)>

このデータから、75歳以上になると要支援・要介護に認定される人が増加していることがわかります。

また、団塊の世代である1947(昭和22)年~1949(昭和24)年生まれの人たちは現在71歳から73歳で、5年後にはこの世代の約800万人全員が75歳以上の後期高齢者となります。この現象は「2025年問題」といわれ、2025年には後期高齢者人口が約2,200万人に増加する見込みです。

そのため、加速する少子高齢化に加えて、認知症高齢者や要介護者の増加、老老介護や認認介護世帯の増加などの懸念材料が山積みです。また、高齢者人口が増加すれば、当然介護施設の空き不足が生まれます。

介護現場の人材不足

介護が必要な高齢者の増加に伴い、さまざまな介護サービスを提供する施設や事業所のニーズも高まります。

しかし近年、介護現場で働く人材不足が指摘されています。厚生労働省「福祉・介護人材の確保に向けた取組について」(平成30<2018>年)によると、介護分野における有効求人倍率は平成25(2013)年ころから急増していて、全産業より高い水準で推移しています。

介護職の人材不足の背景には、少子高齢化で働く世代の人口が減少していること、介護職につく人が少ないこと、介護職の離職率が高いこと、が挙げられます。

日本の出生数は、非婚化や、結婚しても子どもをもたない人も増えたことから、年々減少してきました。介護分野で期待される若い世代が、そもそも少ないことも理由のひとつです。

介護職に対するイメージは「きつい」「汚い」「危険」の3K労働、さらに「帰れない」「厳しい」「給料が安い」の新たなKも加わるなど、よいものではありません。

そして介護職についた人の離職率は、「平成30年度介護労働実態調査」では前年度の16.2%から若干減少して15.4%でしたが、全産業離職率の14.6%と比較すると高いといえます。

国が進める政策

介護難民の増加を抑止するために、国が取り組んでいる政策があります。ここでは、2017年の介護保険法改正で核になった地域包括ケアシステム、2019年に発表された認知症施策推進大網、新たに導入された在留資格「特定技能」を紹介します。

地域包括ケアシステム

2017年の介護保険法の改正で核になり、少子高齢化社会に対応するために国が進める政策の柱といわれるものが「地域包括ケアシステム」です。

団塊の世代の人すべてが75歳以上となる2025(令和7)年をめどに進められている体制で、地域内で要介護の高齢者をサポートするために、「住まい」「医療」「介護」「予防」「生活支援」の5つのサービスを一体的に提供しようというものです。

厚生労働省では「地域包括ケアシステムは、保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて作り上げてゆくことが必要」としています。

地域包括ケアシステムは、各自治体により特色のある取り組みがみられます。厚生労働省ホームページで、地域包括ケアシステム構築へ向けた自治体の事例を公開していますので、ぜひ参考にしてください。

認知症施策推進大網

政府は2019年、「認知症はだれもがなりうる」という前提で「認知症施策推進大網」を発表しました。対象期間は、団塊の世代が75歳以上となる2025年までとしています。

認知症になっても希望をもって日常生活を送る「共生」と、認知症の発症や進行を遅らせる「予防」を大網の2本柱としました。

具体的な施策として掲げられているものは、以下の通りです。

  • ①普及啓発・本人発信支援
  • ②予防
  • ③医療・ケア・介護サービス・介護者への支援
  • ④認知症バリアフリーの推進・若年性認知症の人への支援・社会参加支援
  • ⑤研究開発・産業促進・国際展開

「認知症サポーターの養成」「認知症疾患センターの設置」、さらに高齢者が気軽に集える公民館や公園など「通いの場」の拡充も、重要な取り組みとされています。

在留資格「特定技能」

新たな外国人の人材受け入れを目指して、2019年より導入されたのが、在留資格「特定技能」です。

国内での人材確保が困難なため、外国人による人材確保を図る目的で、介護、外食業、宿泊業、建設業、農業、漁業などの14分野を「特性産業分野」と指定し、その分野への外国人を受け入れようというものです。

政府は介護分野における5年間の外国人受け入れ見込み数を最大6万人として、2019年4月にフィリピンで第1回目の試験を実施し、84人が合格しました。フィリピンに続いて、カンボジア、ネパール、ミャンマー、モンゴル、中国、タイ、ベトナム、インドネシアでも受け入れ試験を行うと発表しています。

介護の分野で「特定技能」の在留資格を得るためには、「介護日本語評価試験」「介護技能評価試験」のほかに、日本語能力試験のN4レベル(基本的な日本語を理解することができる)に合格する必要があります。今後、介護分野での人材不足を補う外国人の雇用が期待されています。

介護難民にならないために個人でできること

介護難民にならないためには、高齢者本人や家族の、日ごろの心がけが重要です。「自分は要介護にならない」「自分は認知症にならない」という考えには根拠がなく、現在ではだれもが要介護状態になったり、認知症になり得る時代です。

病気やけがの防止

近年「予防医学」の分野への注目が高まっています。

予防医学とは、病気になってから治療するのではなく、病気になりにくい体作りや健康維持を目指すものです。健康に対する投資で、時間や費用の面でもっとも効率のよいのが予防であるという考えで、高齢化が急速に進んでいる日本にとっても非常に有効です。

一次予防として、健康診断や予防接種を受けて食事の内容に気をつけ、運動習慣を取り入れること、二次予防として、病気の早期発見・早期治療、三次予防としては、発症した病気の再発防止のためのリハビリテーションや保健指導があげられます。

高齢者の場合、病気やけがをきっかけに要介護状態になることが多いため、病気にならない、けがをしない生活習慣が重要になります。

介護予防の観点からは、家族は必要以上に高齢者に手を貸したり干渉したりせず、できることは自分でしてもらうことが大切です。高齢になると動作が遅くなるため、周囲としては手助けした方が早いと考えがちですが、何もかも手を貸してしまうと、高齢者本人の運動機能が衰えてしまいますので、注意が必要です。

資金の準備

どんなに病気やけがの予防に努めても、要介護状態になることを完全に避けることはできません。入居施設でもっとも安価といわれる特別養護老人ホームでも、月額10万円前後の費用がかかります。

施設にもよりますが、民間の有料老人ホームでは、月額20万~30万円ほどと、かなり負担額が大きくなります。費用負担が軽い特別養護老人ホームは待機者が多く、なかなか入居ができません。資金の余裕があれば民間の施設という選択肢も加わるため、介護難民にならないためには介護資金を準備しておくことも必要です。

家族のサポート

介護は、自宅で行う「在宅介護」と、施設に入所する「施設介護」とに大きく分けられます。費用面や空きがないなどの理由で施設介護が難しい場合、家族が介護に当たることができれば、介護難民にならずに済みます。

在宅介護でも、デイサービスやホームヘルパーの利用など、介護する家族の助けになる介護サービスを利用しながら家族が介護する方法もあります。介護のための同居や離職など、子世代には負担が大きい要素もありますが、家族のメンバーで介護を分担するなど工をし、家庭で介護できる環境を作っておくことも必要です。

まとめ

介護難民が生まれる大きな要因として、高齢化が進んで高齢者人口が増えると同時に要介護人口も増加し、施設数や介護職の人員が追いつかないという現状があります。

国もさまざまな施策をしていますが、個人レベルで要介護にならない、させない努力がもっとも重要と考えられます。食事に気をつけて、適度な運動をし、よい睡眠をとって「健康寿命」を延ばす努力をすることが、介護難民を減らすことにつながるといえるでしょう。

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