はじめに
銀行口座が凍結される理由には、債務整理、相続、不正利用を疑われたときの3つのパターンが考えられます。
債務整理には、任意整理、民事再生(個人再生)、自己破産の3つがありますが、ほぼすべてのケースで銀行口座が凍結されてしまいます。
ここでは銀行口座が凍結するうち、相続に関する銀行口座凍結について説明します。
相続に関連した銀行口座凍結とは
人が亡くなると、当座の家族の生活費や葬儀費用、故人が入院・通院していた場合の医療費や、介護施設に入所していた場合の介護関連費用もあり、何かと資金が必要になります。
このとき問題となるのが、故人である被相続人の銀行口座の凍結です。銀行口座凍結とは、金融機関が口座の入出金をできないようにすることです。引き出しはもちろん、振込みもできず、公共料金などの引き落としもされません。
相続に関連した銀行口座凍結の理由
被相続人の銀行口座の残高は、死亡した時点で相続人全員に関わる資産となるため、相続人の各個人が勝手にお金を引き出せないようにするため、銀行口座が凍結されます。相続は被相続人の死亡と同時にスタートしますので、遺産分割協議を終えるまでは、原則として相続人は勝手にお金を使うことができません。
相続人が独断でお金を引き出してしまうと、銀行が責任を問われることになります。
相続に関連した銀行口座凍結の時期
銀行は、口座名義人の死亡を知ったときに口座を凍結します。役所から銀行に連絡はしないため、相続人が申告しなければ、基本的に銀行は名義人の死亡を知らず、口座は凍結されないままです。
なお銀行は、相続人からの申し出以外にも、町会掲示物や外回りの銀行員の報告など、さまざまな方法で情報を入手する場合があります。
民法の相続関連の改正により、相続人は被相続人の口座から仮払いが可能に。
令和元(2019)年7月1日から、民法の相続規定の改正によって、一金融機関(複数支店含む)当り150万円を上限に、被相続人の口座から各相続人はお金を引き出せるようになりました。
相続人ごとに引き出しができ、各相続人は、預金高、引き出し可能額は預金額の3分の1までの制限、相続人の法定相続分の項目で計算します。引き出した分については、遺産の一部分割とみなされます(民法909条の2)。
引き出しに必要な書類では、金融機関ごとに相違はありますが、本人確認書類、被相続人の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡までの連続したもの)、相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書、預金の払い戻しを希望する人の印鑑証明書などです。
相続人から銀行への相続発生の申し出の時期
個人の銀行口座から引き落とされるものもあり、相続発生後最大2カ月程度を目処にするのが良いでしょう(クレジット引き落としまでの時間など)。
第1の理由は、故人のお金の支払いや受取りがまだ残っているためです。
支払いは、口座振替となっている介護保険料、介護施設費用、健康保険料、クレジットカードの決済代金などがあります。
受取りは、公的年金や介護保険料・健康保険の超過負担の返還金などです。
市区町村の役所が窓口となる介護保険や国民健康保険については、死亡届が受理されたタイミングで精算手続きが行われます。
第2の理由は、相続に関連して被相続人の戸籍謄本(出生までさかのぼった戸籍)などの取得に時間を要する場合があるためです。
銀行口座凍結の現状
ここでは、もし銀行口座が凍結された場合、凍結を解除するために必要な手続きを、故人の遺言書がある場合、遺言書がない場合のそれぞれについて説明します。
凍結口座の相続手続、被相続人の死亡後の口座解約・名義変更
先述した銀行口座凍結に対して、凍結を解除する際は、凍結口座の相続手続、死亡後の口座解約・名義変更が必要になります。銀行預金口座の相続手続きとは、被相続人の死亡による口座の凍結を解除して相続手続きをし、口座のお金をまた使えるようにするためのものです。
銀行口座の凍結は、時間が経っても自動的に解除されるわけではなく、必要な相続手続きをして初めて解除されます。
預貯金の相続手続きは、基本的に被相続人の口座を解約し、預貯金を指定口座に移してもらうという処理が一般的です。
この相続手続きは、大きく分けて以下のようなパターンがあります。それぞれの場合に応じて、必要書類を銀行に提出して手続きすることになります。
以下の書類以外にも、凍結口座の通帳、キャッシュカードの他、銀行から渡される書類もあり、相続人全員の署名押印が必要になるのが一般的です。指定書類は銀行ごとに多少異なりますので、確認が必要です。
遺言書がある場合
銀行口座が凍結されて、被相続人(故人)の遺言書がある場合、解除手続きに必要なのは以下の通りです。
・遺言書 ・自筆証書遺言の場合は、検認調書または検認済証明書
・被相続人の戸籍謄本または全部事項証明(死亡が確認できるもの)
・預金を相続する人の印鑑証明書(遺言執行者がいる場合は、執行者の印鑑証明書)
遺言書がない場合
銀行口座が凍結されて、被相続人(故人)の遺言書がない場合は、遺産分割協議書の有無によって必要な手続きが異なります。
a. 遺産分割協議書がある場合
・遺産分割協議書(法定相続人全員の署名押印があるもの)
・被相続人の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡までの連続したもの)
・相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
・相続人全員の印鑑証明書
b. 遺言書も遺産分割協議書もない場合
・被相続人の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡までの連続したもの)
・相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
・相続人全員の印鑑証明書
相続人による被相続人の口座からの仮払い制度
令和元年の民法改正により、相続人による被相続人の口座からの仮払い制度が創設されました。相続人全員の同意や、遺産分割協議書がなくても、一定の限度額までであれば、預金の口座が凍結中に仮払いとして預貯金を引き出せる制度です(改正民法第909条の2)。
相続人ごとの仮払い規定
各相続人は、預金額の3分の1に自分の法定相続分を乗じた額までなら、個別に預金の引き出しができます。また、1金融機関(複数支店含む)ごとの上限は150万円です。なお、引き出した分は、最終的に自分の相続分に含み計算されます。
仮払いの対象になる預金とは
仮払いの対象になる預金とは、「遺産に属する預貯金債権」です。具体的に問題になるのは、遺言書があり、遺言書の中で誰が預金を取得するのかが定められているような場合です。
遺言は、遺言者が死亡すると同時に、当然に効力が生じるものとされています。そのため、相続先・遺贈先が指定されている預金は死亡と同時に受取人(相続人や受遺者)に移転してしまいます。したがって、すでに遺産ではなくなっているため、当該預金については仮払いの請求はできないことになります。
また、預貯金債権についてのみ仮払いができるとされているため、投資信託や株式、その他の有価証券に関する権利は仮払いの対象外です。
相続人ごとの仮払い可能額
各相続人は仮払いでいくら請求できるかですが、「各相続人の預金可能引き出し額=預金額×3分の1×自分の法定相続分」ですから、子と配偶者の2人が相続人のケースであれば、各自の法定相続分は2分の1ずつで、預金が300万円とすると、300万円×3分の1×法定相続分2分の1=50万円までなら、配偶者と子はそれぞれ、遺産分割協議前でも預金の仮払いが可能です。
口座の残高に変動があった場合は
預金口座が凍結されるのは、銀行が預金者の死亡の事実を知ったときです。具体的には、相続人などが窓口や電話で金融機関に死亡の旨を知らせたときになるでしょう。
そのため、死亡して相続が開始してから、実際に預金口座が凍結されるまで時間が経過しますが、この間に口座振替による引き落としなどで口座残高が変わってしまうことがあります。
このように、相続開始後に残高に変動が生じた場合でも、仮払い請求額の計算をする際に基準となるのは、被相続人の死亡のとき・相続開始のときの金額です。
銀行口座凍結の今後は?
国民健康保険、高齢者医療保険の停止を地方自治体への死亡通知をしても、個人情報の保護の観点から、地方自治体は銀行に連絡しません。
そのため、実際には故人・被相続人の口座からの引き出しは銀行カード(暗証番号が分かっている場合)、もしくは、銀行通帳と銀行印があれば預金引き出しは可能です。
また、令和元年施行の相続法改正による預金からの仮払い制度ができ、葬儀費用などの出費に備えることは可能です。今後も当面、この仕組みは変わらないでしょう。
もしもの時の銀行口座凍結に備えるための準備
銀行口座の凍結対策以外に、葬儀後の主な手続きには、健康保険や年金の届け出、葬祭費の申請(国民健康保険加入者の場合)、生命保険の申請などがあります。
健康保険資格喪失届け
国民健康保険では、役所の健康保険課に届け出ます。健康保険(社保)の場合は勤務先に届け出ます。後期高齢者医療制度に加入している場合は、自治体の健康保険課の高齢者医療係へ届け出ます。
年金受給者死亡届け
国民年金は、自治体の国民年金課へ届け出ます。
国民健康保険葬祭費の申請
国民健康保険加入者には、葬祭費が支給されます。自治体の健康保険課に申請します。申請には、故人の保険証や死亡診断書などが必要です。
生命保険金の申請
生命保険金は、加入している生命保険会社に申請します。故人の死亡診断書、保険証書や戸籍関連の指定の謄本が必要です。
その他
遺族年金の該当者は、年金事務所へ届けます。証券などがある場合は、名義変更の手続きが必要です。また、各種の支払では名義変更やクレジットカードの失効手続きなどがあります。その他お金に関わらないものでは、介護保険証、マイナンバーカード、運転免許証の返納などがあります。
各金融機関の相続手続きに必要な書類の準備
金融機関に提出する書類や手続きについては、どの金融機関でも通常必要な書類を準備します。各金融機関でその書式や手順が異なるので、確認が必要です。
- ①銀行口座の関連資料
被相続人の銀行口座を調べます。不明な場合は、銀行で他行も含めて名寄せという方法で調べてもらえます。銀行通帳、銀行カードと暗証番号、銀行印などをそろえておきます。貸金庫を借りている場合は、金庫室入室カードと暗証番号、個別金庫の鍵をそろえておきます。
- ②改製原戸籍謄本
故人の出生までさかのぼった戸籍で、本籍地の市区町村の役所で入手します。転籍があれば、転籍地の市区町村の役所から入手する必要があります。
- ③除籍謄本
被相続人が死亡により謄本から除籍されたことを証明します。本籍地の市区町村の役所で入手します。
- ④住民票の除票
被相続人が死亡により住民票から削除されたことを証明します。住所地の市区町村の役所で入手します。
- ⑤各相続人の戸籍謄本
- ⑥各相続人の印鑑証明書(発行後6か月以内)
- ⑦その他必要書類
・遺産分割協議の場合… 遺産分割協議書
・遺言書による場合… 遺言書原本
・その他銀行が指定する用紙に記入したもの など
まとめ
ここまでの相続に関する銀行口座凍結について、銀行が口座を凍結する理由、その時期、仮払いの条件や、口座凍結解除のために必要な書類などの要点をまとめます。
・銀行が被相続人の口座を凍結する理由
被相続人である故人の銀行口座の残高は、相続対象の資産となり、相続人全員に関わるものです。相続人の資格があっても、相続人各人が勝手にお金を引き出せないようにするために口座が凍結されます。相続人が独断でお金を引き出してしまうと、銀行が責任を問われることになります。
・銀行口座凍結の時期
銀行が口座を凍結する時期は、銀行が被相続人の死亡の事実を知ったときです。地方自治体に死亡を届け出ても、地方自治体は銀行に連絡しません。銀行が死亡の事実を知るのは、主に相続人が銀行に連絡したときです。
・相続人ごとの仮払いが可能
各相続人は、預金額の3分の1に自分の法定相続分を乗じた額までなら、個別に預金の引き出しができます。また、1金融機関(複数支店含む)ごとの上限は150万円です。なお、引き出した分は、最終的に自分の相続分に充当されます。
・仮払いの対象になる預金とは「遺産に属する預貯金債権」
遺言で相続先・遺贈先が指定されている預金の権利は、死亡と同時に受取人(相続人や受遺者)に移転してしまい、対象の遺産ではなくなっているため、その預金については仮払いの請求はできません。
・銀行口座凍結解除には多くの書類が必要
遺言書(がある場合)、遺産分割協議(がある場合)、被相続人の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書、相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書、相続人全員の印鑑証明書などが必要になります。本籍地が遠方の場合などは郵送で取り寄せることになるため、必要な書類の準備には時間がかかる場合があります。