終活で重要なこと
終活という言葉が一般的になったのはこの10年ほどで、週刊誌『週刊朝日』副編集長であった佐々木広人氏が生みの親とされています。
終活は2010年には新語・流行語大賞にもノミネートされ、それ以降、特にシニア層のあいだに広がり、あちこちで聞かれるようになりました。
終活とはひとことでいえば「人生の終わりのための活動」です。
生前、元気なうちに自身の葬儀やお墓の準備について考え、財産相続を円滑に進められるように計画し、残された人が困らないように記録として残しておくことが主な目的です。
終活を行うなかで、特に重要なのは「エンディングノートと遺言書の作成」でこれらが中心的なものとなるでしょう。
この記事では、エンディングノートと遺言書の違い、それぞれの特徴や作成の方法について解説していきます。
エンディングノートと遺言書の違い
エンディングノートと遺言書は同じようで、大きな違いがあります。
その違いをしっかりと押さえておくことが、トラブルを招かないために大切なことです。
法的効力の有無
エンディングノートと遺言書の最も大きな違いは「法的効力があるかどうか」です。
エンディングノートに書かれた内容には法的効力がありません。
そのため、強制力はなく、あくまでも残された家族に「希望を伝えるもの」と考えるとわかりやすいでしょう。
一方、不備がなく作成された遺言書には法的効力があるため、内容に従わなくてはなりません。
決まった形式の有無
エンディングノートと遺言書の記載方法にも違いがあります。
エンディングノートは決められた形式はなく、自由に書くことができ、紙やノートに書いてもパソコンやスマートフォンに残しても構いません。
しかし、遺言書には決められた形式があり「自筆証書遺言」の場合は、本人が手書きで書く(2019年から財産目録はパソコン・ワープロ可)と定められています。
また、添付書類の全ページに署名と捺印が必要です。
決められた形式以外で書かれた遺言書は法的効力をもたないとされ、無効となる場合があります。
記載する内容の違い
エンディングノートの記載内容は、形式と同様に自由に決められ、何を書いても構いません。
市販のエンディングノートには記載項目があらかじめ印刷されていますが、それ以外に自分で項目を追加することもできます。
自由に書くことができ、形式にとらわれないのは、エンディングノートです。
一方、遺言書に記載する内容は「人が死亡後に法律上の効力を生じさせる目的で遺贈、相続分の指定、相続人の排除、摘出でない子の認知につき、民法上一定の方式に従ってする単独の意思表示」と厳格に定められているのが特徴です。
また、遺言書に書くことができるのは「死後」のことのみです。
ただし、エンディングノートには「生前」のこと、例えば病名や余命告知の希望、延命治療の希望の有無も書くことができるため、これらも大きな違いでしょう。
作成費用の違い
エンディングノートを作成する費用はノート代や筆記用具のみなので、購入にかかる費用だけです。
エンディングノートとして市販されているものでも、高くて数千円ほどで、平均価格は1,500円くらいです。
一般的な大学ノートなどを利用すれば100円から購入可能できるでしょう。
パソコンで作成して印刷する場合は、インク代と用紙代のみになります。
さらに、葬儀社に資料請求する際に無料配布されたエンディングノートを使ったり、Microsoft他からWord形式のエンディングノートの無料テンプレートをダウンロードしたりすることもできます。
したがって、エンディングノートの作成は、無料から数千円できるということです。
ちなみに、終活ライフでも無料でエンディングノートの書き込みが可能です。https://shukatu-life.com/ending-note
これに対して遺言書の場合の費用は、数百円から数万円かかります。
数万円となるのは遺言書を「公正証書遺言」とした場合で、詳細については後述します。
内容の確認の違い
エンディングノートは、家族が生前に内容を確認することが可能で、死亡後もすぐに読んで構いません。
書いた本人が、急な事故で意識を失い意思疎通できなくなった場合に内容を確認して、治療方針を決めることもあります。
そのようなときに、効力を発揮するのがエンディングノートです。
しかし「自筆証書遺言」の確認には家庭裁判所の検認が必要となるので、勝手に開封することはできません。
エンディングノートと遺言書に書かれる内容について
エンディングノートと遺言書の違いを5つに分けて説明しましたが、ここで具体的な記載例について、少し詳しく解説していきます。
エンディングノートと遺言書の内容の違いを箇条書きにすると以下のようになりますが、エンディングノートに書く内容は自由ですのであくまで一般的な例です。
エンディングノートの記載内容
・自分の基本情報(住所氏名、生年月日、身長体重、血液型、既往歴、現病歴など)
・かかりつけ医連絡先(医療機関名、医師名、住所、電話番号)
・預貯金(金融機関・口座番号)
・資産(有価証券、不動産、車など)
・借入金・ローン
・クレジットカード情報
・保険(生命保険、火災保険、自動車保険など)
・デジタルデータ(携帯電話、スマホ、パソコン関連、ID・パスワード)
・家族一覧(氏名、続柄、現住所、電話番号など)
・親族一覧(氏名、続柄、現住所、電話番号など)
・友人・知人一覧(氏名、現住所、電話番号)
・仕事関係一覧(氏名、勤務先名、電話番号)
・病名・余命告知、延命処置(希望する・しない)
・葬儀・埋葬の希望(形式、喪主になってほしい人、葬儀に呼んでほしい人
・呼んでほしくない人、入りたい墓もしくは埋葬方法)
・形見分け(品名、差し上げたい人の氏名、自分との関係)
・自分史
・遺された人へのメッセージ
遺言書の記載内容
・相続分の指定
・遺言書の執行に関する効力
・相続人の廃除
・遺産分割方法の指定と分割の禁止
・相続財産の処分
遺言書の種類
遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。
どの遺言書がよいのかは、自身の目的や現在の状態に応じて選ぶとよいでしょう。
自筆証書遺言
その名の通り、自筆によって作成される遺言書で、文字を書くことと押印ができる状態であれば、どなたでも作成できます。
「自筆証書によって遺言をするには、遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、それに印を押さなければならない」と民法により定められていますが、2019年から、財産目録部分に限り、パソコン・ワープロでの作成が認められました。
<メリット>
手軽に作成できて費用もかからない
遺言書の内容をいつでも修正、書き直しができる
一人で作成できるため、遺言の内容や存在を秘密にしておける
<デメリット>
形式が不備だと無効になるおそれがある
偽造、変造、滅失のおそれがある
開封には裁判所の検認が必要で、執行までに時間がかかる
遺言書の存在に気づかれないおそれがある(ただし2020年7月10日から法務局における自筆証書遺言書保管制度が始まり、これを利用することで相続人へ遺言書を発見されないことや、改ざんされるトラブルを回避できるようになりました)
<自筆証書遺言が適している人>
家族の状況が変化する可能性が高く、頻繁に書き直しが必要である
早く遺言書を作成したい
遺言書があることを今はだれにも知られたくない
公正証書遺言
遺言者が公証役場の公証人に遺言内容を伝え、公証人が聞いた内容を遺言書にするという方法です。
費用はかかりますが、その分無効になるなどの心配がなく、公正証書遺言は確実に執行されると言えるでしょう。
<メリット>
・公証役場で公証人により作成されるため、形式の不備が原因で無効になるおそれがない
・偽造などのおそれがない
・公証役場で保管されるため遺失や破棄、発見されないということがない
・裁判所の検認が不要なため、すぐに執行できる
<デメリット>
・証人2名が必要なため、証人には遺言の内容を知られる
・作成には2週間から1カ月程度の期間がかかる
・記載する財産の価額に応じ、手数料や証人への報酬が発生する
<公正証書遺言が適している人>
・自分で字を書くのが難しい
・法定相続分と大きく異なる分配を希望している
・非嫡出子がいるなど、相続トラブルが懸念される
・離婚、再婚などで血縁関係が複雑なため、相続トラブルが懸念される
・遺言を確実に伝えたい
秘密証書遺言
遺言者が自分で書いた遺言書を公証役場に持参し、遺言書の存在を証明してもらいつつ、相続人たちに遺言書の存在を秘密にすることができる形式ですが、現在あまり利用されていません。
利用者が少ないため、どのような人が向いているかは省きます。
<メリット>
・遺言書が発見されないことがない
・遺言の内容を秘密にしておくことができる
<デメリット>
・他の方法に比べて手間がかかる
・記載に不備があると無効になる
・家庭裁判所の検認が必要
遺産相続が「争続」にならないために
「相続なんて、財産が多くない我が家には関係ないこと」という人は少なくないのが現状です。
「自分の財産がどれくらいあるのか」ということは、普通に暮らしていればあまり考えることではないでしょう。
しかし、裁判所に持ち込まれる相続トラブルの約3割が、相続財産1,000万円以下で起こっているのです。
ごく普通の家庭で起こりえるトラブルですので、遺言書を作成するほうがよい場合もあります。
「相続」が「争続」と言われるようなことには以下のようなものがありますので、心当たりのある人は遺言書の作成を前向きに考えておくと良いでしょう。
・子どものうちだれかが親の事業を継いでいる
・子どものうちだれか一人に大学費用や留学費用を出している
・子どものなかで、特定のだれかに介護をまかせた
・子どものだれかが一家の墓の費用をほとんど負担している
・姉妹のうちだれかが婿養子をとり、家を継いだ
・子どものうちだれかの離婚、失職などのため金銭援助をした
・相続人が多くて話がまとまりそうにない
・遺産を相続させたくない家族がいる
これらを見ると、相続人のあいだの「不公平感」が相続トラブルとなっているとわかります。
例えば「親は兄の借金を肩代わりしてやったのに、平等に遺産を分けるのは納得できない」「弟は私立の医学部に行き、親は高額な学費を出してやっているので遺産は少なくて当然」「私は長年ひとりで親の介護をしてきたのだから、その分遺産を多くもらうのは当たり前」のように、以前から兄弟姉妹間で不公平感をもっている場合に、相続が「争続」になりやすいのでしょう。
このようなトラブルを避けるためにも、遺言書の作成を検討する価値は大いにあると考えられます。
エンディングノートの活用法
エンディングノートには法的効力はないものの、書き方も形式も自由で使い方はその人次第です。
エンディングノートのもともとの目的は「残された人たちが困らないように情報を整理しておくこと」でした。
家族といっても、個人情報や交友関係、資産状況など、全部を把握するのは難しいでしょう。
そのため、自分の情報を整理して1冊にまとめておくことは終活のなかでも重要なポイントです。
近年、エンディングノートをさらに活用し、情報の整理をして家族が困らないようにする以上の使い方をする人が増えています。
まずひとつ挙げると、普段の生活の「備忘録」として活用することで、この「1冊があれば記録関係にはほぼ困ることがない」という使い方です。
葬儀のときに呼んでほしい人を記入する欄は、そのまま自分の住所録として利用できますし、預貯金欄や保険欄では満期日が一目でわかりますので、通帳や証券を出してきて確かめる手間がかかりません。
保険だけでなくパスポートの有効期限、車検など、生活上では更新していくことがたくさんあります。
しかし、それらを全て覚えておくのは難しいことです。
そのため、エンディングノートを備忘録として使うことで、効率的な日常生活を送ることができるのです。
次に、今までの人生の棚卸をして「自分史」を書く利用の方法です。
人生100年といわれる昨今では、60歳でもまだ折り返し地点を過ぎたばかりでしょう。
そこで一度今まで歩んできた道を振り返り、今後の人生の糧とするのもよいです。
ただし、とてもつらい経験をした人はその当時のことを無理に振り返る必要はありません。
自分の心地よい範囲で書くのがベストです。
自分に合わせて書けることが、エンディングノートの良いところではないでしょうか?
まとめ
この記事では、エンディングノートと遺言書の違いやそれぞれの特徴、活用の仕方について解説しました。
エンディングノートも遺言状も、必ず作成しなければいけないものではありません。
このふたつがなくとも、残された家族は葬儀を執り行い納骨をし、遺品整理を行って遺産を分けるでしょう。
しかし、親を看取った人のなかには「葬儀に誰を呼んだらよいのかわからなかった」「遺品整理をしたが、捨ててよいのかどうか迷って作業が進まなかった」などの声があるのは現実です。
特に手紙や日記、手帳などのプライバシーにかかわるものは、どのように扱ったらよいのか困ります。
中を見てよいものなのか、捨ててしまって大丈夫なのか、判断に迷うでしょう。
エンディングノートは「読んでもらうことを前提としたノート」ですので「私のコレクション(ぬいぐるみや人形)は遺品整理の際には心置きなく捨ててください」「手紙と手帳は中を見ないで捨ててください」「編み物と洋裁の道具や材料は〇〇さんに差し上げてください」などの指示があればとても助かります。
終活は自分の死後のための活動であるとともに、今をいきいきと暮らすための効用もあります。
自分の死後、残された人が困らないように、エンディングノートと遺言書の違いを理解したうえで、両方をうまく活用していきましょう。