知っておきたい「遺言書の基礎知識」

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はじめに

遺言書と聞くと、お金持ちが大きな金庫から取り出して、家族みんなで固唾を呑んで中を見る、というシーンを思い描く方も多いでしょう。
遺言書はドラマや映画の中だけのことだと思われがちですが、決して遠い世界のことではありません。

遺族が揉めないように、また、自分の望むように遺産が分割されるように作成するのが遺言書です。
そこで、今回は遺言書の基礎知識や作成方法などについてお話ししていきます。

遺言書とは

遺言書は、故人の遺志を伝えるためのものです。
故人の思いを残すものとしてエンディングノートもありますが、遺言書には法的効力があるという点がエンディングノートとは違うところです。

遺言書は遺産などにまつわる大切なことを書きますが、もし遺言書がない場合、法定相続人が遺産分割協議を行うことになります。

遺産分割協議は遺族が揉めることが多いのですが、遺言書があるとそれに従って遺産を分割することになります。
遺言書には故人が希望する通りの相手に自分の希望する通りのものを相続させることができます。

ただし、遺言書を作成するときは「相続人の遺留分」に注意する必要があります。
法定相続人には相続することを最低限主張できる割合が法で定められています。
これを「遺留分」と言いますが、これは遺言書が100%行使されると困る相続人がいる場合、その相続人の権利を守るためのものです。

相続人が遺留分を主張した場合は、その分を受け取ることができるため、遺言書の内容がすべて守られるとは言い切れません。
もし遺言書が行使された場合、遺留分権を持っている遺族は、相続した相手に対して遺留分減殺請求権を行使して遺産の返還を求めることができます。

遺言書が必要になる場合

遺言書はどのような方に対しても必要ですが、特に遺言を残しておく必要がある例を見ていきましょう。

相続人がいない

法定相続人が一人もいない場合、財産は死後、国庫に帰属されてしまいます。
そうなることに抵抗がある場合は、今までお世話になった方に財産を分けたり、地方公共団体やボランティア団体に寄付したりできるように遺言書として残すのも良いでしょう。

子どもがいず、配偶者に全財産を相続させたい

子どもがいない場合、遺産を相続するのは故人の配偶者と故人の両親になります。
もし故人が高齢で故人の両親もすでに亡くなっている場合は、故人の兄弟姉妹やその子どもが遺産を相続します。

その場合、故人の配偶者が故人の兄弟姉妹や甥・姪と遺産に関する協議をしなくてはなりません。
そのような場合は、あらかじめ遺言として配偶者だけが相続できるようにしておきます。

法定相続人以外の人に遺産を相続させたい

息子の嫁やいとこなど、法定相続人ではない相手に遺産を相続させたい場合は、誰にどれだけ渡したいかを遺言書に書きます。

また、内縁関係にある相手は、どれだけ長い時間一緒にいても遺産は渡りません。
そのため、そういう場合も遺言書によって遺産が相続できるようにします。

財産の分け方が難しいので自分で決めたい

遺産のうち、現金は分けやすいですが不動産は分けるのが難しいものです。
そのため、土地や建物に関して誰にどこの土地を相続させるかはっきりさせます。

法定相続人の中に財産を相続させたくない人がいる

何らかの理由で絶縁している子どもや、事実上婚姻関係が破綻している配偶者など、相続させたくない相手がいる場合は、その人に遺産を相続させないように遺言書を残しておくと良いでしょう。

再婚しているなどして、前の配偶者にも子どもがいる

離婚や死別などで再婚して再婚相手との間に子どもがいるが、一人目の配偶者との間にも子どもがいる場合、どちらの子どもも相続人です。

前の配偶者の子どもに自分の存在が知られていない場合や、すでに連絡を取っていないときなどは、現在の配偶者との子どもだけ相続させるように遺言書として残します。

遺言の種類

実際に作成する遺言書には、普通方式と特別方式の2種類があります。
事前に作成する遺言書は「普通方式」となりますが、その普通方式にも3種類あります。

自筆証書遺言

全文を自分で各遺言書のことで、代筆やパソコンで作成した書面は無効です。
全文を自筆で書き、署名と捺印をする必要があります。

筆記用具や紙は自由ですが、法律で定められた形式でないと法的に無効です。
また、日付が書かれていない場合や「1月吉日」などのように日付の特定ができない場合も無効となります。

この遺言書は自分一人で作成することができて自分で保管するため、紛失をしたり遺言書の内容に不満を持つ相続人が内緒で破棄したりすることもあります。

自筆証書遺言書は遺言者が亡くなった後に家庭裁判所の検認の手続きが必要となります。
もし、家庭裁判所の検認の手続きをせずに遺言書を開封した場合は、5万円以下の過料となるため注意が必要です。

公正証書遺言

公正証書遺言とは、法務大臣によって任命された公証人に遺言の内容を口頭で述べて、公証人が作成する遺言書です。

伝えたいことをプロが作成するため、不備や間違いのない遺言が作成できます。
また、遺言書の原本は公証人役場で保管するため、偽造されたり紛失したりするおそれもありません。

ただし、公正証書遺言を作成するためには2名以上の証人が必要になりますので、遺言書があることやその内容を完全に秘密にすることはできません。

手数料は相続財産によって決まり、相続財産が多いほど手数料は高くなります。

秘密証書遺言

遺言書の本文はパソコンによって作成しても代筆でもいいのですが、作成者自らが署名・捺印して封筒に入れて、その印と同じ印で封印をする必要があります。

それを持って2名以上の証人と一緒に公証人役場へ行き、公証人に提出して、封書に遺言書の本人・証人・公証人が署名捺印します。

秘密証書遺言は、商人や公証人に中身を開示する必要がありませんので、遺言の内容については秘密にすることができます。
ただ、公証人に遺言の存在を証明してもらった後は、自分で保管する必要がありますので、紛失したり遺族に発見されなかったりするおそれがあります。

特別方式の遺言

特別方式は、遺言者に死が迫っている場合にのみ認められている遺言書で、危急時(臨時)遺言とも言います。
普通方式では代筆は認められていませんが、危急時遺言では遺言者が口述した内容を別の人が書き留めることが認められています。

特別方式は、普通方式による遺言が困難な場合に特別に認められた略式の方式です。
危急時を過ぎて普通方式の遺言を作成できるようになった時から、6ヶ月間生存していた場合は、特別方式で作成した遺言書は無効になります。

危急時遺言

特別方式には危急時遺言と、隔絶地遺言の2つに分かれ、それぞれ2種類あります。

一般危急時遺言

病気やケガなどで死が迫っているときに行う遺言です。
証人3人の立ち会いが必要で、そのうちの1人に遺言者が遺言の内容を伝え、それをもう1人が筆記をします。

その際、遺言を聞き取る人などが自分に有利になるように誘導することは禁止されています。
そして、筆記の内容が間違っていないことを他の証人が確認した後に、署名・捺印をして20日以内に家庭裁判所で手続きをします。

手続きをしないと遺言は無効になってしまいます。

難船危急時遺言

船舶や飛行機に乗っているときに死の危険が迫った場合に行う遺言です。
証人2人の立ち会いが必要で、証人のうちの1人に遺言内容を伝え、それを筆記します。

もう1人の証人が内容を確認して、それぞれ署名・捺印し、家庭裁判所で手続きをします。

隔絶地遺言

何らかの事情で、遠くにいる遺言者が作成する遺言書です。

一般隔絶地遺言

もとは伝染病などによって隔離されているなどして交通を発たれた場所にいる人が利用できる遺言でした。

刑務所に服役中や、災害などによって被災地にいる場合もこの遺言が可能です。
警察官1人と証人1人の立ち会いが必要となります。

船舶隔絶地遺言

船舶に乗っていて陸地から慣れた場所で行なう遺言です。

飛行機の場合はこちらに当てはまらず、難船危急時遺言を用います。
船舶隔絶地遺言では、船長または事務員1人と証人2人の立ち会いが必要になります。

まとめ

遺言書は財産をたくさん持っている人だけが作成するものではなく、少しでも財産がある場合は遺言書を残しておくとトラブル回避になります。

手続きが煩雑だったり、作成が大変だったりすることもありますが、自分の死後に遺族が揉めたり嫌な思いをしたりするよりはよいでしょう。

ただ、せっかく作成した遺言書が無効になることがないように専門家に依頼することが大切です。