年金の基本情報
平均寿命が延びているわが国では、「人生100年時代」ということばも聞かれるようになりました。
以前は60歳になると定年退職を迎え、年金受給まで5年の期間がありました。その後2013(平成25)年には、高年齢者が少なくとも年金受給開始年齢である65歳までは、意欲と能力に応じて働き続ける環境の整備を目的として、「高齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)が一部改正されています。
さらに2020年には、従業員の70歳までの就業確保に努めることを企業に義務付ける、改正高年齢者雇用安定法が可決・成立しました。企業は定年の廃止や延長、継続雇用制度を設けるか、従業員の起業や社会貢献活動を支援することが求められ、2021年4月に施行されました。
近年は、本人の意欲と希望があれば、60歳以降も働き続ける環境が法的にも整ってきています。一方、65歳まで働き、年金を受給できるようになっても生活費や老後の資金には足りないという人が比較的多くみられます。今の50~60代は、年功序列制度が影を潜めて給料が右肩上がりに上がっていないこと、退職金が減っていることなどが理由で、昔ほど貯蓄ができていません。
この記事では、年金以外に収入を得るにはどのような方法があるのかを考えていくことにします。
まずは、年金について基本的なことを確認します。
一般的な年金受給年齢は65歳
*国民年金だけに加入している人(第1号被保険者・第3号被保険者)→65歳から老齢基礎年金を受給
*厚生年金に加入している人(第2号被保険者)→65歳から老齢基礎年金+老齢厚生年金を受給
*2015(平成27)年9月以前に共済組合等に加入していた人(第2号被保険者)→65歳から老齢基礎年金+退職共済年金(2015年9月までの加入期間分)+老齢厚生年金(2015年10月以降の加入期間分)
年金の繰上げ受給と繰下げ受給
年金受給は原則65歳からですが、「繰上げ受給」「繰下げ受給」も可能です。
65歳より早い受給を希望する人には「繰上げ受給」の制度があります。
ただし、繰上げた分、年金額が減額され、いったん減額された年金受給額は一生変わりませんので注意が必要です。
逆に、65歳より遅く受給を希望する人には「繰下げ受給」の制度があり、受給開始年齢に応じて受給額が増額されます。
老齢基礎年金をもらい始める年齢と増減額は、以下の計算式で求めることができます。
*年金の減額率=(繰上げ請求月~65歳になる前月までの月数)×0.5%
*年金の増額率=(65歳になる月~繰下げ請求月の前月までの月数)×0.7%
年金だけでは足りない世帯が多い
総務省統計局家計調査年報(平成30年)によると、高齢夫婦2人世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)が受け取る1カ月の年金収入は、夫が厚生年金で妻が国民年金を受給している場合、1世帯につき20万3,000円で、平均支出額は26万4,707円でした。
つまり、年金を受給しても、ひと月61,707円不足していることになります。
この数値は年金受給者夫婦2人の世帯の平均ですので、実際にはかなりの個人差がありますし、支出のなかでも大きな割合を占める住居費については、ローンが完済されているか残債があるか、または賃貸住宅かにより大きな差が生じます。
あくまで目安ではありますが、この調査からは「年金収入だけでは足りない」ことがうかがわれます。
<出典:総務省統計局家計収支年報「家計収支編」2018年(平成30年)>
年金収入以外に収入を得る方法
先述したとおり、平均的な夫婦2人の家庭では、年金収入だけでは月々平均61,707円の赤字になることがわかっています。その赤字分を埋める方法には、
- ①節約して、出ていくお金を減らす
- ②働いて入るお金を増やす
- ③お金に働いてもらう
の3つが考えられます。
①は、生活費全般を縮小することで、支出を減らすことが可能です。支出内訳で大きな割合を占める住居費や食費、交通・通信費、娯楽費を削っていく方法です。しかし、節約にも限界があり、支出をゼロにすることはできません。
③には投資信託、株式投資、FXなどがありますが、その性質上、元本が保証されないハイリスク・ハイリターンの運用方法ですので、ある程度の知識があり、かつ余剰資金を充てられる人に向いています。
もっとも確実に、定年後の老後資金の目減りを防ぐには、②の「働いて入るお金を増やす」がベストな方法になります。
60代になったら制度を利用して上手に働く
年金収入だけでは月々赤字が発生する世帯で、推奨されるのは「できるだけ長く働くこと」です。ただし、体力面や健康面を考慮すると、現役時代と同じペースで働かなくてもよいケースもあります。
60~64歳で働く場合には給付金制度が充実していますので、条件が合うのなら、働いた分の給与と給付金をもらうのが得策です。
高年齢雇用継続給付金
雇用保険加入者を対象とした制度で、60歳以降も雇用保険に加入するフルタイムに近い勤務状態の人が受給できます。60歳定年後、同じ会社で再雇用される人も多いでしょうし、60歳で退職し、再就職する人もいるでしょう。その賃金が現役時代から大幅に下がることがあります。
「高年齢雇用継続給付金」は、60歳以降の賃金(給与)が60歳時点の賃金の75%未満になる場合に、雇用保険制度から再雇用後の月収の最大15%が支給されるものです。ただし、60歳時の賃金の上限が月額476,700円として算出されますので、例えば賃金が50万円だった人でも、476,700円を上限に計算されます。以上のように、高年齢雇用継続給付金は「働くともらえるお金」ということができます。
在職老齢年金
高年齢雇用継続給付金が「働くともらえるお金」なのに対し、「働くと減るお金」というものがあります。60歳以降も働いて、厚生年金に加入しながら受け取る老齢厚生年金を、在職老齢年金といいます。
60~64歳は在職老齢年金制度の基準が厳しく設定されていて、60歳台前半で在職老齢年金を受給している人で、月収と年金の合計額が28万円を超えると年金額が減額されます。ただし、年金が減額されても働いて得る収入があるほうが手取りは多くなりますので、基本的には働き続けるほうが得策といえます。
シニア世代の働き方
65歳から年金を受給したとしても、年金だけでは足りない世帯が多く、近年では60歳で定年退職して悠々自適なリタイア生活を送るという人は少数派と思います。また、金銭面のみならず、現代の60代はまだ若く、一線を退くには早すぎる感があります。
社会参加の一環としても、元気にシニアライフを送るという意味でも、「働けるあいだは働こう」と考える60歳以降の人が増えています。実際、働く高年齢者は800万人ほどといわれ、全就業者の1割を越しています。
ここからは、65歳で再雇用が終わったがまだまだ働きたい、自営業をたたんで雇用されたい、専業主婦だったが外に出て働きたい、などの希望を持つ人たちに、4つのタイプにわけて働き方を解説します。
今すぐにでも働きたい人はハローワークへ
定年後に再就職したい人が、真っ先に利用したいのが「ハローワーク」です。正式には「公共職業安定所」で「職安」の略称で呼ばれていましたが、現在は「ハローワーク」の名称が一般的に使われています。
ハローワークは全国に500カ所以上ある、厚生労働省管轄の公的な職業斡旋機関で、膨大な数の求人が集まってきます。シニア層で多い仕事として、男性では「マンション管理」や「介護施設等の送迎業務」、女性では「保育士補助業務」「介護関係」などがあります。
自治体によっては、シニア向けの求人に限定して閲覧することもできますので、非常に便利になりました。
就業活動はシニア層に限らず、孤独になりがちですし、なかなか仕事が見つからないと焦りも出てきます。そのような場合に利用できるのが、ハローワークが提供する職業相談です。また、就業のための支援セミナーやスキルアップのための短期職業訓練(ハロートレーニング)の案内、受講の斡旋も行います。ハローワーク・インターネットサービスで、提供される訓練一覧を検索することができます。
資格を取得してから働きたい人は公共職業訓練を
定年退職後は今までと違うキャリアを歩みたい、資格を身につけて、できる限り長く働きたいという人には、学校で学んでから就職する方法があります。公共職業訓練は国や地方自治体が設置している施設で、全国47都道府県にあります。職業訓練の受講料は無料ですが、教材費などは実費が必要です。訓練期間は3カ月か6カ月です。
職業訓練後に就職する前提ですので、訓練コースを選ぶ際には、シニア層の求人が多い科目を受けることが重要です。申し込み先はハローワークで、ハローワークが主催する「職業訓練の説明会」に参加する必要があります。また、あくまでも学校ですので、入校のための試験(面接と筆記)があります。ただ、本人の働く意欲がもっとも重要で、高得点を取る必要はありません。現在、60歳以上でも就職しやすい、以下のようなコースに人気があります。
*ビル管理
冷暖房・給排水・電気・防災など、ビル設備全般の保全に関するノウハウが身につきます。都市部ではビル管理の需要が高く、ビル管理課修了生の9割が就職しています。
*庭園施工管理
植物の育成、さまざまな素材で庭を造る方法や、庭園の維持管理の技能が身につきます。ビル管理が都市部での需要が多いのに対し、郊外では庭園施工管理の需要が高くなっています。
*介護サービス
介護に携わるために必要な知識や技能を取得でき、介護職員初任者研修修了証明書が得られるため、就職に有利です。
専業主婦歴が長い人には家事代行・ベビーシッターがお勧め
現在65歳以上の女性の3人に1人は仕事をしているといわれ、子育てや介護の手が離れた人が積極的に外に出て働いています。以前、主婦業は賃金にしたらいくらになるかという議論がありました。キリンビール(株)が2016年に発表した、主婦の仕事を年収に換算したシミュレーションでは、主婦業の平均年収は470万円になりました。
しかし、実際には主婦は賃金が発生しないことで職業とは認められず、身分としては「無職」となります。したがって履歴書の職歴欄には書ける内容がほとんどない、という人も多くいます。そういった中高年女性が働き手の中心となっているのが家事代行とベビーシッターで、家事と育児の経験が、そのままキャリアとして認められる分野です。
ここ数年で、結婚や出産後も仕事を継続する女性が増加し、家事や育児の一部を外注する人が増えたことから、家事代行やベビーシッターへのニーズが高まっています。中高年女性が活躍中の家事代行の会社は全国にたくさんありますが、代表的なところをあげてみます。
*家事代行のベアーズ
採用に年齢制限はなく、18歳以上で家事代行に興味があれば応募できます。
エリア:北海道・東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・愛知県・岐阜県・三重県・大阪府・兵庫県・京都府・滋賀県・奈良県・福岡県
*タカミサプライ
家事代行、ベビーシッター、シルバーケアが仕事内容。主婦経験、育児経験、介護経験のいずれかがあり、掃除・料理好きな20~65歳くらいの人材を募集しています。
エリア:首都圏、中部圏、関西圏
*ダスキンメリーメイド
1回2時間で掃除、洗濯、買い物、花の水やりなど顧客の希望に応じた家事を行います。全国に店舗があり、店舗ごとに人員を募集しています。
エリア:全国
70歳過ぎても働ける人はシルバー人材センターへ
全国に1,300団体以上ある「シルバー人材センター」では、70歳以上の人も気軽に仕事を見つけることができます。実際、シルバー人材センターの担い手は70代以降で、自分のライフスタイルに合わせて、週1回や週3回など自由に働く人がたくさんいます。
定年後も、継続雇用制度を利用したり転職したりするなどして働く人が増えましたが、65歳や70歳で退職する人がほとんどです。ただ、まだまだ元気で健康上も問題がない人のなかには、シルバー人材センターに登録して、月に3~5万円程度の収入を得ている人もいます。
就業日数はおおむね月に10日程度、時間は週20時間を超えないことを目安としています。仕事の内容は、公共施設の受付業務(1日4時間で3,600円程度)、庭木の手入れ(1日3時間で3,600円程度)、学童指導員補助(1日4時間で3,600円程度)、スーパーの品出し(1日5時間で4,500円程度)などがあります。興味のある人は、まず最寄りのシルバー人材センターに出向いて登録してみましょう。
まとめ
NHK「ガッテン!」が全国の40~80代を対象にしたアンケート、「これからの暮らしで切実に不安に思うこと」への回答でもっとも多かったのが「健康」、次いで「お金」でした。健康とお金の問題は、シニア層にとっては大きな不安材料になっていることがわかります。
「お金の不安を減らすためにどんなことをしていますか」という問いに対しては、「かなり意識して節約している」がトップで、以下「フルタイムではないが働いている」、「フルタイムで働いている」、「資産運用を積極的にしている」などが続き、8割以上の人たちが何らかの対策をしていました。
できる限り長く仕事を続けることは、年金以外の収入を得るために有効な手段です。それ以外の効用としては、社会とのつながりを保ち孤立しない、生活に張りが生まれる、仕事に対する責任感から健康によりいっそう気を配るようになる、などが考えられます。
自分に合ったペースで仕事を続けながら、生き生きしたシニアライフを送りましょう。