相続法改正で何が変わる?①「自筆証書遺言に添付する財産目録の作成がパソコンで可能に」

相続

自筆証書遺言と相続法改正

相続財産で揉めたりせず、円満で円滑に行うためには遺言を残すことは大変有益です。
しかし、相続財産の利益対立も関われば遺言書の変造、偽造の危険も少なくないでしょう。

そのため民法では遺言の作成に厳格な要件を定めています。
ただし、自書が原則のため煩雑さがあり、法改正により部分的ですが財産目録の作成がパソコンで可能になりました。

改正点を含め、自筆証書遺言全体について整理して解説していきます。

自筆証書遺言に関して相続法改正で変わったこと

民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律のうち、自筆証書遺言の方式の緩和に関しての変更を見ていきましょう。

財産目録の作成がパソコン・ワープロで可能に

法改正によって新設された同条第2項は以下の通りです。

「2前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む)の全文又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書に因らない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない」

自筆証書によって遺言をする場合でも、例外的に、自筆証書に相続財産の全部又は一部の目録(以下「財産目録」)を添付するときは、その目録については自書しなくてもよいことになります。

これらは平成31(2019)年1月13日より施行され、財産目録についてPC・ワープロでの作成が可能となりました。

自筆証書遺言の基本

自筆証書遺言とは、遺言者が手書きし、これに署名・捺印することで成立する遺言です。

遺言書の内容を変更する場合には、変更する場所と内容を付記した上で署名をし、変更する場所へ印を押さなければなりません。
これは自書することで偽造、改ざんを防ぐためです。

同時に遺言の意義から立ち返って考えてみましょう。

遺言の意義

遺言とは、本人の所有している財産・権利の処分についての意思を、遺言者本人の死後にまで認める制度です。
相続が開始されると、その遺産は相続人が継承することになりますが、遺言を行うことで遺言者の意思によって財産・権利の処分を決めることができます。

また、遺言は民法で定められている形式でしなければならず、書面で作成した場合にはそれを遺言書といいます。
遺言により法定相続人以外にも財産を分けることができことができます。また、遺言をすることにより遺言者の意思が明確になり相続人間の対立を未然に防ぐことが出来ます。

法律上定められた遺言事項

法律上定められた遺言の効果には、下記の6つが挙げられます。

・相続分指定
・遺産分割方法指定・禁止
・遺言執行者指定
・相続財産処分
・認知
・推定相続人の廃除・廃除の取消

自筆証書遺言の現状

自筆証書遺言書作成にあたっての現状の注意点には、次のような点があります。

遺言書の要式性

遺言書は厳格な要式性を有する書面のため、要式を満たしていないと無効となる場合があります。
遺言が無効となる場合では、夫婦で連名による遺言書を作成するなどのような「共同遺言」は無効となります。

他には、遺言は遺言書という証書がなければ原則として無効となります。
また、日付の書き漏らしも無効で、日付がなければいつの時点での意思を示したものかが不明となるためです。

遺言の撤回

遺言の撤回は、生きている間は自由です。
ただし、複数の遺言書がある場合は、有効となるのは最新の日付のものです。

自筆証書遺言メリットとデメリット

自筆証書遺言のメリット・デメリットは以下になります。

メリット

自筆証書遺言は自分一人で書くことができ、手数料もかからないため、公正証書遺言に比べて手軽に作成できます。
また公正証書遺言と違い、他人に財産の内容や遺言の内容を公表しないので他人に知られる恐れもありません。

デメリット

公正証書遺言と違い遺言の存在自体、相続人が気づかない恐れがあり、また要件を満たしていないと無効になる可能性があります。
他にも変造、偽造、または騙されて遺言を作成されたとしても、そのことに相続人が気づきにくいことがあげられます。

また手続き上、自筆証書遺言は相続開始とともに家庭裁判所の検認が必要となり相続人の手続きの手間が増えてしまいます。
公正証書遺言では検認の手続きは省略されます。

自筆証書遺言の今後

遺言者についての要件についてですが、遺言能力を持たない人の遺言には、遺言の効果が生じません。
つまり、遺言の要件として、遺言者に遺言能力があることが求められます。

遺言能力があると認められるためには、遺言時に15歳以上であること以外に、遺言時に意思能力があることがあげられます。

認知症と意思能力

特に今後は高齢者の認知症が深刻化し、遺言書においてもより表面化してくるでしょう。
認知症等で意思能力(遺言能力)がない場合も遺言自体が無効になります。

認知症の人がした遺言が有効かどうかは、主に以下の要素から判断されます。

・遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度
・遺言内容それ自体の複雑性
・遺言の動機理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯

相続人間の遺言書への疑念と争いの危険性

遺言者の状況が認知症の可能性があり、遺言書の内容が特定者の利益に偏っている場合は他の相続人から疑念が生じます。

利益を得る人により認知症になり意思能力が乏しくなっていた遺言者が遺言書を書かされたのではないかという疑いです。
不利益のある相続人から訴えを起こすことは可能です。

自筆証書遺言の無効については、遺言者が遺言作成時に意思能力を欠いていたとの主張をすることができます。
意思能力とは、通常人としての正常な判断力・理解力・表現力を有し、遺言内容について十分な理解力を有していることをいいます。

意思能力の有無については、個々の法律行為ごとにその難易度・複雑性、重大性などを考慮して、行為の結果を正しく認識できていたかという点から判断することになります。

その場合は、遺言作成時の遺言者の精神障害の内容とその程度 、遺言内容の複雑性、分量の多寡や遺言の動機、理由 などが判断材料になります。

遺言者の精神障害の内容とその程度については、遺言者の医療記録、介護記録及び要介護認定申請に関する記録などの資料により立証することになります。

相続法改正後の自筆証書遺言の準備

相続法改正後、自筆証書遺言を作成する場合に準備すべきことを見ていきましょう。

財産目録の整理

相続財産が多数に及ぶ場合、手書きだと大変手間がかかりましたが、法改正によりパソコンなどでの財産目録作成が可能となりました。

そのため、相続対象となる財産の不動産、銀行口座などを具体的にすべて書き出しておきましょう。
土地について登記事項証明書を財産目録として添付することや、預貯金について通帳の写しを添付することができます。

相続財産の配分の検討

誰に何を相続または遺贈するのかを決めておきます。
また、考えが変わる場合もあれば書き直しをします。

特に、遺贈する場合は他の相続人の遺留分を侵さない範囲となります。

自筆証書遺言の形式の理解と確認

形式にのっとっていない場合は無効になるため、形式を理解しておくことが大切です。
パソコンで作成できるようになったのは、財産目録であり自筆証書遺言全体は自書が必要であることに注意しましょう。

まとめ

自筆証書遺言において、パソコンで作成可能になったのは財産目録だけです。
あくまでも自書は本人であることの証明と、本人に意思能力があることを証明する上で不可欠なものとされています。

自筆証書遺言では家庭裁判所での検認後偽造が疑われる場合、他の相続人などは家事調停や無効確認の訴えを起こすことができます。
調停や訴訟の中で偽造と疑った証拠を提出し、結果偽造と認められれば、その遺言書は無効となります。

遺言書の本文にはパソコンやワープロの文書が認められず、遺言者の音声データも認められていません。
現状の判定技術では致し方ない問題でしょう。

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