相続法改正で何が変わる?④「被相続人の介護や看病で貢献した親族は金銭要求が可能に」

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特別寄与の制度とは

平成30年度民法改正で新たに設けられた「特別寄与料」を請求できる規定が、令和元(2019)年7月1日より施行されました。
これまでも相続人間の公平を図るため寄与分を請求することはできましたが、相続人にしか認められていない権利でした。

介護問題が深刻化し、問題となっている相続人ではない長男の嫁に代表される従来の寄与分制度の対象外となっていた一定の親族について、介護などの貢献を特別な寄与と捉え、不公平性を改善するため、その寄与に対して権利が認められました。

特別寄与制度が創設された背景

民法の中には改正前から「寄与分(民法904条の2)」という規定があります。

この寄与分という制度は、相続人が被相続人の財産形成等について特別の貢献をした場合に、その貢献に見合う遺産の分配を請求できるというものです。

しかし「寄与分」は、法律上の相続人にだけ認められるもので、相続人以外の人が貢献をしても遺産の分配は認められず不公平でした。
そのため、公平を図る観点から、特別の寄与行為をした場合、相続人以外の人でも遺産を取得できるようにしたのが特別寄与の制度です。

相続法改正で新設された特別寄与制度

平成30年度の相続法改正で、新たに民法1050条(特別の寄与)が新設されました。
この法律により、長男の配偶者のような相続人以外の者でも、一定の要件を満たせば、相続人に対して特別寄与料の請求ができるようになりました。

特別の寄与をした者のことを「特別寄与者」、寄与に応じた額の金銭を「特別寄与料」といいます。

特別寄与料の規定はいつから適用になるのか

改正法施行の日(令和元年7月1日)以後に開始した相続について適用され、これより前に開始した相続については適用がありません。
また、改正法施行の日よりも前に死亡して、改正法施行日より後に遺産分割協議をした場合も、特別寄与料の規定の適用はありません。

改正法の適用があるか否かは、遺産分割協議をした日ではなく、相続が開始した日で判断します。

特別寄与制度の現状

まず、どのような人が特別寄与者になれるのかを見ていきます。

被相続人と親族関係にある

特別寄与者になる資格を有する人は、被相続人と親族関係がある者に限られます。
例えば、被相続人である姑と親族関係のある嫁は「特別寄与者」となり遺産を受け取れるようになりました。

なお「親族」とは、民法の725条に規定があり次のようになっています。
・6親等内の血族
・配偶者
・3親等内の姻族

被相続人の長男の嫁は、1親等の姻族になり3親等内の姻族の範囲内ですから親族に含まれ、特別寄与料の請求をする権利を有します。

ただし、改正前から、嫁の寄与についても「嫁は夫の履行補助者である」という法律構成をすることによって、嫁には寄与分の適用はありませんが、その代わりに夫の寄与分をより多く算定するという方法がありました。

しかし法改正により、履行補助者のような間接的ではなく、嫁の姑への貢献が直接的に認められることになりました。

特別の寄与がある

民法1050条1項に特別寄与者になることができる者の規定があります。

「特別の寄与」の要件は次の点です。
・被相続人の遺産を維持・増加させるような特別な世話であること
特別の寄与とは、程度問題で証明することは難しいとされていますが、特別寄与者の貢献に報いるのが相当と認められる程度の顕著な貢献であれば足りると理解されています。

・被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたこと
療養看護が代表的なものですが「その他の労務提供」とは、例えば故人が事業をやっていて、その事業に無償で従事していたような場合を指します。
仮に無償ではなく一定の報酬を受け取っていた場合、特別寄与料の額は本来の額より減額されることが予想されますが、事情は特別寄与料を定める際に考慮されます。

特別寄与料の決め方

特別寄与料の金額の定め方ですが、当事者間の話し合いで解決できれば問題ありませんが、協議が調わない場合には裁判となります。

当事者間での協議が不調に終わったときや、そもそも相手方が協議に応じないときは、家庭裁判所に「特別寄与に関する処分の調停申立て」を行います。

申立書を提出する裁判所は、請求の相手方である相続人の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所です。
この場合、処分の請求を受けた裁判所が特別寄与料を定めて、相続人に対して金銭の支払いを命じます。

特別寄与料が具体的にいくらになるかについて、はっきりとした規定は存在しません。
家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定めるとされています。

特別寄与料の請求の仕方

特別寄与料の請求先は相続人です。
相続人が複数いる場合は、法定相続分等に応じて負担してもらいます。

特別寄与制度の今後

特別寄与制度の今後は、どのようなことが考えられるかを見ていきましょう。

特別寄与料の請求の時期の難しさ

従来の民法の通常の寄与分は、相続人が具体的相続分を算定する際、つまり遺産分割協議の時に話し合われることになります。
これに対して、特別寄与料は相続人以外の人が請求するものなので、遺産分割とは別の手続きで請求していくことになります。

そこで、特別寄与者としては相続が開始したら、なるべく早い段階で相続人らに特別寄与料を請求する必要があります。
遺産分割協議が終わってからでは遅いと言えるでしょう。

特別寄与料の設定の難しさ

具体的にいくら特別寄与料が請求できるかは、寄与分同様、明確な規定がないためケースバイケースの現実があります。
従来も介護負担についての評価額は低い現状があります。

しかし、最大でいくら受領できるか、つまり上限額については規定があります。

特別寄与料の請求には期限がある

特別寄与料の支払請求には期限があります。
民法1050条2項で期限は、特別寄与者が相続の開始死を知った時から6箇月を経過したとき、又は、相続開始の時から1年を経過したときです。

つまり、相続の開始知った時から6ヶ月以内に請求するか、知らない場合は死亡から1年以内に請求する必要があり、その後は権利が消滅します。
法定相続人から特別寄与者と思われる親族に通知や告知をすることは義務付けられていません。

特別寄与制度を利用するための準備

特別寄与制度を利用するためには、以下のような準備が必要です。

特別寄与制度の規定を理解する

どのような人が、どのようなときに、特別寄与の請求権を活用できるのかを理解しておきます。

特別寄与制度利用以前に可能な寄与分の評価を得る方法の検討

特別寄与の制度活用以前により確実に寄与分の評価を確定するには、被相続人となる人の存命中に遺言書でその寄与貢献につき認めてもらい、相続財産からの遺贈を金額も含めて記載してもらう方法があります。

遺言があれば法定の相続分割よりも優先され多額の評価も可能です。

また寄与分については、間接的でありますが配偶者である相続人の相続財産加算を主張できます。
寄与分というのは、相続人の中に被相続人の財産の維持または増加につき特別の寄与をした人がいる場合には、その人の寄与の度合いを相続分に考慮するというものです。

他の相続人への介護等の労力負担の伝達と理解の促進

本来看護・介護などの労力の負担はお金には換えられず、看護や介護は心の問題次第です。
本来お金に換えられない看護・介護などについては労力の負担を分かち合うことでしか苦労を共有できません。

そのため、看護・介護の負担を被相続人と同居する長男の嫁などが集中負担していても、看護・介護の交代や分担を主張し続けることが重要です。
その主張を通じて、他の相続人やその配偶者は自分のことと考え、看護・介護を自分ができないならば長男の嫁などに頼み、労力を提供できない部分を金銭で支払うことの理解ができてきます。

看護・介護等の記録化と費用の領収書等の保管

相続法改正による特別寄与を主張する場合でも、特別寄与料の算定額に課題があります。
そのためには、被相続人存命中からの看護・介護などの記録を付け、介護などの時間、作業内容を記載し、また、掛かった費用についての領収書・レシートなどを保管しておく必要があります。

主張の裏付け資料となります。最悪の場合は家庭裁判所での調停での証拠となります。

まとめ

高齢社会が現実化し、介護の問題が深刻化しています。
親と同居する家族、特に息子の配偶者の嫁は相続人資格がなく不公平な状況にありましたが、相続法改正による特別寄与料請求権の創設は意義のあるものです。

しかし、もともと弱い立場にある嫁がどこまでこの権利を請求できるかの課題があります。
特別寄与料の請求先は相続人であるためです。
そのため、配偶者以外の相続人との協議が必要となってくるでしょう。