相続での賢い節税方法③「相続非課税財産枠を生かす生命保険の活用」

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節税対策「生命保険」

相続税対策には「不動産」「生前贈与」「生命保険」の3つの主な対策があります。

遺産は、遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割協議をおこない、合意のうえ分けますが、生命保険は受取人だけで手続きをすることができます。
他の相続人の了承を得ることなく保険金を受け取ることが可能です。

しかし、なぜ生命保険で相続税対策ができるのかの仕組みや制度について十分に理解されていません。
また、生命保険は相続税以外の他の税金にも関係しています。

そこでこの記事では、これらの仕組みや現状について解説していきます。

相続非課税財産枠を生かす生命保険の活用とは

生命保険での節税は、生命保険に入っている家庭が多い、制度利用の条件が簡単、節税効果が大きいなどの理由から有効です。

生命保険金は民法上、相続財産ではないのですが、みなし相続財産として課税対象になります。
しかし、生命保険による死亡保険金は一定の範囲内で非課税になるなどの、非課税限度額が決められています。

生命保険と相続税の関連制度

生命保険と相続税の関連について2点、詳しく解説します。

生命保険は「民法上の相続」には当たらない

民法上、相続とは、亡くなった人が死亡時に持っていた一切の権利義務を承継させることです。
生命保険金は被相続人が亡くなった時点で所有していた財産ではなく、民法上では生命保険金は相続財産ではありません。

そのため、被相続人の死亡などを原因として、保険金が相続人などに給付されることは「民法上の相続」にはあたりません。

上記規定にかかわらず、生命保険は「みなし相続財産」として課税対象に

上記規定にかかわらず「相続税法上」では、生命保険金を相続財産とみなし相続税を課税します。
被相続人が保険料を支払った生命保険のうち、被相続人の死亡によって保険金が支払われるものは相続税の課税対象と位置付けられています(相続税法3条1項1号)

生命保険金のように、相続財産とみなして相続税を課税する財産を「みなし相続財産」と言います。
ただし、生命保険による死亡保険金の給付については、一定の範囲内で非課税となっています。

相続税における生命保険の非課税枠

生命保険には、相続における非課税限度額や、非課税対象になるための対象が決められています。

生命保険の非課税限度額=法定相続人の人数×500万円

生命保険の中に死亡保険金があり、被相続人が保険料を負担していた場合、相続税の課税対象となります。
また、保険金の受取人が相続人の場合、非課税の特典を使うことができます。

生命保険によりどのくらい相続税の節税対策になるかですが、生命保険の非課税限度額は法定相続人の人数×500万円となっています(相続税法12条5号ロ)

*生命保険の非課税限度額=法定相続人の人数×500万円
保険金額がこの額を下回る場合には非課税対象となります(相続税法12条5号イ)
超過分のみが課税対象となり、他の財産と同じように課税されます。

各相続人の課税対象となる金額

(相続人の受け取った保険金の額)− 500万円 ×(法定相続人の数)×(相続人の受け取った保険金の合計額/相続人全員の受け取った保険金の合計額)が各相続人の課税対象となる金額です。

各相続人は、相続人の受け取った保険金の額が500万円以内であれば生命保険に課税されません。
また、それぞれが受け取った保険金の割合を限度に非課税とすることができます。

受取人の対象は法定相続人

相続の非課税対象になるためには、保険金の受取人が法定相続人でなければなりません。
法定相続人は、配偶者、及び民法上で定められた血族関係にある人です。

相続税以外にもある生命保険と税金の関係

生命保険は契約の方法によってかかる税金が異なります。
生命保険では、下記の点が重要です。

・誰が契約者なのか
・誰が被保険者なのか
・誰が保険金の受取人なのか

保険料を負担している人によって、所得税や贈与税が課税される場合があります。
なお、被保険者とは保険の対象となっている人のことです。

生命保険の保険料を被相続人が負担していた場合は、相続税がかかる

生命保険の保険料を被相続人自身が負担していた場合は、生命保険金に相続税が課税されます。
例えば、父親が自分自身を被保険者とした生命保険に加入し、保険金の受取人を子どもとした場合、生命保険金に対して相続税が課税されます。

生命保険の保険料を保険金受取人が負担していた場合は、所得税がかかる

生命保険の保険料を保険金受取人が負担していた場合は、受取人の生命保険金に所得税が課税されます。
例えば、子どもが父親に生命保険をかけ、保険金の受取人を子どもとした場合、生命保険金に所得税が課税されます。

保険料負担者、被保険者、保険金受取人が異なる場合は、贈与税がかかる

保険料負担者、被保険者、保険金受取人が全て異なる場合は、生命保険金に贈与税が課税されます。
例えば、妻が夫に生命保険をかけ、保険金の受取人を子どもとした場合、生命保険金に対して贈与税が課税されます。

相続税における生命保険金等の非課税枠計算例

相続財産から基礎控除を引いた金額が相続税の課税対象となります。
原則として、相続財産が基礎控除内の場合には相続税は非課税ということになります。

基礎控除額の計算式は下記の通りです。
*基礎控除額=3,000万円+(法定相続人の数×600万円)

さらに、相続税の課税対象となる生命保険には生命保険の非課税枠が設定されていますので非課税の枠が拡大します。

相続税における生命保険金等の非課税枠の計算式は、生命保険金等の非課税枠=500万円×法定相続人の数のため、

例)相続財産(みなし相続財産含む)が5,000万円、そのうち2,000万円が生命保険の場合で、法定相続人が子ども2人の場合、
相続財産5,000万円-基礎控除額(3,000万円+法定相続人2人×600万円)4,200万円-生命保険金等の非課税枠(2人×500万円)1,000万円=-200万円

以上のように、相続税の控除額に生命保険の死亡保険金の非課税額も加算できるため、相続税をゼロにすることが可能になります。

生命保険の種類

「生命保険」は、広義には死亡や病気、ケガ、介護など、人の生命・身体に関するリスクに備える保険全般を指します。
中でも代表的なものが、被保険者が死亡したときに保険金が支払われる死亡保障の保険(死亡保険)です。

生命保険(死亡保険)には、「定期保険」「養老保険」「終身保険」の3種類があります。
ポイントは、保障期間と、貯蓄性の有無などです。

定期保険

掛け捨てタイプの保険料が手頃な生命保険です。
定期の意味は、保険期間が一定期間のことで、定められた保険期間中に、保険の対象となる人(被保険者)が亡くなった場合に、遺族は死亡保険金を受け取ることができるものです。

定期保険は、満期返戻金はなく貯蓄性がありません。
人間はいつ死亡するか分からないため、相続税対策ではあまり意味がありません。

養老保険

一定期間のみ保障・貯蓄性のある保険で、死亡保障と貯蓄を組み合わせた保険です。
契約中に亡くなれば死亡保険金を、無事に契約期間満了を迎えられれば満期保険金を受け取れる保険が養老保険です。

死亡保険金と満期保険金は同額で、死亡保障を付けつつ貯金を積み立てられる保険として広く知られていました。
現在よりも予定利率が高い時代には人気がありましたが、現在では養老保険の予定利率が過去と比較して低く加入は増えていない状況です。

終身保険

一生涯保障してくれる保険・貯蓄性のある保険です。
終身保険の保険期間は一生涯となり、途中で解約しない限り、遺族などは必ず死亡保険金を受け取ることができます。

保険料の支払いは毎月が基本ですが、保険期間が設定されているものとないものがあります。
終身保険は、解約したときに受け取ることができる解約返戻金があり、一般的に加入している期間が長くなればなるほど多くの解約返戻金が受け取れます。

「一時払い終身保険」
終身保険の中に、一時払い終身保険というものがあります。
一時払いとは、保険料を月々支払うのではなく、保険契約時に一括で納入する保険契約のことです。

一生涯の死亡保障が得られ、支払った保険料と同等の保険金を受け取ることが可能です。

一時払い終身保険を相続税対策として活用すると、以下のメリットがあります。
・大きな資産への課税を防ぐことができる
・早い時期で解約返戻率がピークになる
・高齢者でも加入しやすい
・相対的に利回りが良い

また、デメリットは以下になります。
・加入時にまとまったお金が必要
・低金利、インフレに弱い
・生命保険の控除額が、当該年度しか適用されない
・加入形態により、相続税、贈与税、所得税のうち、どの税の対象となるかが異なるため注意が必要

生命保険の節税以外のメリットの活用

生命保険には節税効果以外にも様々なメリットがあります。相続対策として活用できる生命保険のメリットを紹介します。

他の相続人の合意を得ることなく、受取人だけで手続きができる

遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割協議をおこない合意のうえ遺産を分けます。
しかし、生命保険は受取人だけで手続きをすることができるので、他の相続人の了承を得ることなく保険金を受け取ることが可能です。

相続放棄しても受け取れる

相続する財産には借金も含まれため、借金の金額が大きい場合には相続放棄を選択する相続人も少なくありません。
しかし、生命保険は相続放棄をしても受け取ることが可能です。

遺留分の対象にならない

遺留分とは遺言により財産を取得できない相続人であっても、最低限保証されている取得分のことです。
もらえる財産が遺留分より少ない場合、他の相続人に請求することが可能です。

しかし、生命保険は遺留分の計算に含まれないので、渡したい人に多くの財産を渡せます。

相続非課税財産枠を生かす生命保険活用のための準備

非課税財産枠を生かして、生命保険を活用していくために準備すべきことを見ていきます。

現在入っている生命保険の確認

現在どのような生命保険に入っているかを確認し、相続税対策で生命保険を活用するかどうかを検討します。
また、生命保険に加入する人の相続する立場、相続を受ける立場などや年齢も考慮しましょう。

新たに保険に入る場合の検討

相続税対策として新たに生命保険に入る場合、どのような生命保険が適当かを検討します。
自分が将来被相続人になる親などの立場で高齢の場合は、年齢上入れる保険も制限があるためで調べる必要があります。

一定の年齢でも加入できる一時払い終身保険なども対象になるでしょう。

相続税の基礎控除額以上に相続財産があるか試算してみる

被相続人の立場であれば、自分の財産状況、生命保険と保障金額、相続人が誰か、相続人の人数などを想定します。
相続税の基礎控除額以上に、相続財産がある場合の相続税の試算も概算でしてみます。

その上で新たに保険契約をする場合は、誰を受取人にして、保険金額をいくらに設定するかなどを検討します。

まとめ

生命保険による相続対策は、相続人1人当たり500万円の非課税枠が設定されているため、相続人が多い場合に効果があると言えます。
また、子どもを受取人にした生命保険は、親も若い間は子どもも小さく、あまり現実感が持てません。

むしろ、生前贈与の方が、直接的にお金を本人が生きている間に渡せて、子も喜ぶのではないでしょうか。
生前贈与のページもご覧ください。

終活と相続のまどぐち