相続での賢い節税方法①「生前贈与」

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節税対策「生前贈与」

相続での節税対策への有力な対策の1つに生前贈与があります。
生前贈与をして、生前に財産を減らしておき、将来の相続税の負担を減らす目的です。

しかし、贈与税の問題が生まれ、相続税は減らすことができても贈与税が多くかかる場合があります。
安易な生前贈与は、結果的にかえって税金が高くなってしまいます。

注意すべき点を含め、生前贈与についての制度、税率などについて紹介します。

生前贈与とは

生前贈与とは、生存している個人から別の個人へ財産を無償で渡すことです。
主に相続税の節税対策を目的として行われます。

生前贈与を行うと相続税の課税対象となる財産を減らすことができますが、生前贈与の際に贈与税が課税されます。
生前贈与を行う際は相続税と贈与税を試算し、どちらのほうが、税金が安くなるのかを確認する必要があるでしょう。

なお、生前贈与を行う人を「贈与者」、受け取る人を「受贈者」と呼びます。
受贈者は生前贈与を受ける際に、暦年課税か相続時精算課税のどちらかを選択することができます。

生前贈与の受け取り方

生前贈与の受け取り方は受贈者が選択できます。

暦年課税

暦年課税とは、受贈者が1月1日~12月31日までの1年間に受け取った財産の合計額が110万円を超えた場合、110万円を超えた分に対して贈与税が課税される制度です。
受贈者が後述の相続時精算課税の申請をしなければ、暦年課税を選択したことになります。

相続時精算課税

相続時精算課税とは、60歳以上の親や祖父母から20歳以上の子どもや孫へ贈与する場合に選択することが可能で、これを選択すると受け取った額の合計が2,500万円を超えるまで贈与税が無税となる制度です。
ただし、相続時に受け取った分に対して相続税が課税され、税率は一律20%です。

特別控除額2,500万円は累積での金額で、贈与の回数・金額は問われません。
例えば、4,000万円を贈与された場合の税額は、
(4,000万円-2,500万円)×20%=300万円となります。

生前贈与で相続税の節税対策をするメリット

生前贈与で相続税の節税対策をするメリットには次のような点があります。

相続財産を減らすことができる

暦年課税で生前贈与を行う場合、年間の贈与額が110万円以下であれば贈与税が課税されません。
そのため、相続税の課税対象となる財産を減らすことができます。

贈与の自由性がある

遺言書でも遺贈により、誰にどの遺産を渡すのか指定することができますが、生前贈与の方が、本人自身が生きていて贈与を確認でき、誰に何を渡しても自由です。
親族以外に贈与を行うことも可能です。

生前贈与で相続税の節税対策をするデメリット

生前贈与で相続税の節税対策をするデメリットには次のような点があります。

受贈者の生前贈与についての了承が必要

生前贈与を成立させるためには贈与者と受贈者の双方の意思表示が必要です。
受贈者が生前贈与について了承していなければ生前贈与は成立しません。
また、現金手渡し、名義預金等は税務署に否認される場合があります。

税務署に連年贈与とみなされるリスクがある

年間の贈与額が110万円以下であれば贈与税が課税されませんが、毎年同じ金額を贈与し続けると連年贈与とみなされます。
年間の贈与額が110万円以下であっても贈与額の全体に課税されてしまう場合があります。

連年贈与とは毎年一定の金額を贈与することが決まっている贈与のことです。

連年贈与の取り決めをした年に、贈与額の合計金額に対して贈与税が課税されてしまいます。
例えば、毎年100万円を10年に渡って贈与する取り決めが行われた場合、取り決めを行った年に1,000万円の定期金に関する権利を贈与したとして1,000万円に対して贈与税が課税されます。

故人の死亡前3年以内の贈与は相続税の対象になる

死亡前3年以内に故人から相続人に対して行われた贈与については、死亡時に相続人の相続財産に加算され、相続税が課税されます。
死亡前3年以内の贈与を加算する規定のことを生前贈与加算と言います。

贈与税の控除額と税率

贈与税の控除額と税率について、例を挙げて見ていきましょう。

贈与税の暦年課税の基礎控除額

贈与税の暦年課税の基礎控除額は年間110万円です。
贈与した金額が1年間で110万円以下であれば贈与税を支払う必要はありません。

贈与税の暦年課税での計算方法は以下の通りです。

贈与税の課税対象となる金額
1年間の贈与額-110万円=贈与税の課税対象となる金額

贈与税額の計算式
贈与税の課税対象となる金額×贈与税率-控除額=贈与税額

贈与税率と控除額

税率と控除額は、課税対象となる金額に応じて異なります。

速算表は以下のようなものです。
贈与税の計算は、まず、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与によりもらった財産の価額を合計します。
続いて、その合計額から基礎控除額110万円を差し引きます。

次に、その残りの金額に税率を乗じて税額を計算し、控除額を引いたものが贈与税額です。

a. 20歳以上の者が、直系尊属から贈与を受けた場合の贈与税の税率と控除額(直系尊属とは親や祖父母などの直系の自分より上の親族のこと)

贈与税の課税対象となる金額 :税率:控除額
200万円以下:10%:0
200万円超〜400万円以下:15%:10万円
400万円超〜600万円以下:20%:30万円
600万円超〜1,000万円以下:30%:90万円
1,000万円超〜1,500万円以下:40%:190万円
1,500万円超〜3,000万円以下:45%:265万円
3,000万円超〜4,500万円以下:50%:415万円
4,500万円超 :55%:640万円

例えば、年間500万円贈与した場合、贈与税の課税対象となる金額は、500万円―110万円=390万円です。
そして、上記速算表から税率は15%で、控除額は10万円ですので、390万円×0.15-10万円=48.5万円で、贈与税は48万5千円となります。

b.上記以外の場合の贈与税の税率と控除額

贈与税の課税対象となる金額 :税率: 控除額
200万円以下: 10%:0
200万円超〜300万円以下:15%:10万円
300万円超〜400万円以下: 20%:25万円
400万円超〜600万円以下: 30%:65万円
600万円超〜1,000万円以下:40% :125万円
1,000万円超〜1,500万円以下:45%:175万円
1,500万円超〜3,000万円以下: 50%:250万円
3,000万円超 : 55%:400万円

相続税の控除額と税率

相続税の課税対象となる金額 : 税率:控除額
1,000万円以下: 10%:−
1,000万円超〜3,000万円以下:15%:50万円
3,000万円超〜5,000万円以下: 20%:200万円
5,000万円超〜1億円以下: 30%:700万円
1億円超〜2億円以下:40%:1,700万円
2億円超〜3億円以下:45%:2,700万円
3億円超〜6億円以下:50%:4,200万円
6億円超:55%:7,200万円

例えば、4,000万円を相続した場合、税率は20%、控除額は200万円で、相続税額は、4,000万円×0.2-200万円=600万円となります。

贈与税と相続税の節税額の比較

上記の(1)の贈与税と(2)の相続税の速算表を比較すると、贈与税の方の税率が高いことがわかります。
相続税を減らすために安易に生前贈与をしてしまうと、贈与税の方が高くなってしまうため注意が必要です。

贈与税の暦年課税基礎控除額である110万円以上の金額を贈与する場合でも、場合により相続税より安くなることもありえますので試算することが必要です。

なお、相続税は累進課税となり、財産が多い人ほど、税金の負担は大きくなります。
生前贈与によって、相続財産を速算表を目安に税率が下がる基準で減らしておくことで、税額を抑えられます。

生前贈与の今後はどうなる?

生前贈与は今後どのようになっていくのか、可能性や問題点を見ていきましょう。

暦年課税で税務署に連年贈与とみなされる恐れ

税務署が連年贈与として課税するには、当初から一定額のまとまった贈与が、贈与者と受贈者の共通認識であり、計画的に分割して贈与してきた点を指摘することになります。
税務署から連年贈与と見なされないためには、単発性のある贈与であることを示す必要があります。

単発性を示すポイントには、次のような点があります。
・贈与毎に契約書を作る
・贈与の時期がバラバラである
・贈与の金額もマチマチである
・控除額の110万円以上の贈与があってもいいこと

相続時精算課税制度では財産評価時期の問題がある

相続時精算課税制度は、生前に贈与した財産について相続財産に加算し、相続税を支払わなくてはならないため、相続時に生前贈与財産が贈与時の価額に戻されてしまう点があります。

都市開発などで確実に値上がりの期待ができる土地や、値上がりが見込まれる有価証券などの資産については、この制度を適用した方が有利になる場合もあります。

相続時精算課税制度を利用する場合、途中で暦年贈与制度に変更できない

相続時精算課税制度を選択したら相続発生時まで継続適用されるので、途中で110万円控除の暦年贈与に変更できません。

生前贈与のための準備

生前贈与を考えている場合、どんな準備をしておくべきか下記で見ていきます。

生前贈与の意義と課税方式の理解

相続財産を減少させる生前贈与の対策は、相続発生までに時間的余裕があり、相続税対策を急ぐ必要がない方にとっては有効な生前対策です。
暦年課税では基礎控除額は毎年110万円であることを理解します。

贈与税額と相続税額の想定比較

基本的には贈与税は相続税よりも高く設定されています。
ポイントとなるのは、贈与財産の手取額、相続税率と贈与税率の比較です。

概算になりますが贈与税額と相続税額を想定し試算してみることが重要です。

贈与をする相手と財産の想定

誰に何をいくらを贈与するかを想定してみましょう。
また、贈与は贈与者と受贈者の合意が必要です。

教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置

教育費は入学金、授業料、塾、習い事などの費用が対象です。

結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の要件

結婚は挙式費用、新居の生活費、引っ越し費用が対象に、子育ては、出産費用、産後ケア費用、子の医療費、子の保育費などが対象です。

まとめ

生前贈与は相続税対策で有効ではあります。
しかし安易な生前贈与は、かえって税金が高くなることを考えなくてはなりません。

そのため、生前贈与を行う際は相続税と贈与税を試算し、どちらのほうが、税金が安くなるのかを確認する必要があるでしょう。
金額による贈与税と相続税の税率、控除額の表を見て比較し概算で税額を把握することが大切です。