老後の生活設計の立て方

生活

はじめに

日本人の平均寿命は年々記録を更新し、「人生100年時代」ということばにも、ほとんど違和感を覚えなくなりました。現在60歳前後のシニア層にとって、20年以上ある定年退職後の生活を、どのように過ごしていくかは大きな課題です。

65歳から公的年金を受給するとしても、月々の支出は年金収入だけでは足りない世帯が多く、預貯金を取崩して赤字を補填するなど、老後の生活設計をあらためて考える時期が60歳前後です。

この記事では老後の生活について、内閣府の世論調査結果などを参照しながら、計画の立て方を考えてみます。

老後の生活設計に関する調査

まず、内閣府の「老後の生活設計と公的年金に関する世論調査」から、老後の生活設計に関する回答を見ます。調査時期は2018年11月、調査対象は全国の18歳以上の日本国籍を有する5,000人で、有効回答数(率)は2,919人(58.4%)でした。

老後の生活設計を考えたことの有無

自分自身の老後の生活設計について考えたことがあるかという質問に、「考えたことがある」と答えた人は全体で67.8%、「考えたことがない」と答えた人は31.3%でした。

年齢別では、若い層の18~29歳、30歳代で「考えたことがない」人の割合が高く、50歳代、60歳代では「考えたことがある」人の割合が高くなりました。性別では、女性のほうが「考えたことがある」割合が高く、男性が低くなっています。都市規模別では、大都市で「考えたことがある」割合が高く、町村では低い結果になりました。

老後の生活設計を考えた理由

老後の生活設計について「考えたことがある」と答えた1,979人に、その理由を尋ねた結果は、多い順から以下のようになりました。

  1. 老後の生活が不安だから:44.6%
  2. 無計画な生活はしたくないから:25.9%
  3. 老後が近い年齢になったから:21.8%
  4. テレビやインターネットの情報で興味を持ったから:2.3%
  5. 生活設計や年金などに関するセミナーに参加して興味を持ったから:1.2%
  6. 周りの人に勧められたから:1.1%

都市規模別では「無計画な生活はしたくないから」は大都市で、「老後の生活が不安だから」は町村で割合が高くなりました。男女別では大きな差異は見られませんでした。

老後の生活設計の期間

ひとくちに老後の生活設計といっても、どのくらいの期間を想定しているのか、気になるところです。調査結果を見てみましょう。

老後の生活設計について「考えたことがある」と答えた1,979人に、老後の生活設計の期間をどの程度かと考えたのかを聞いた結果です。もっとも多い回答が「20年間程度」で、平均寿命を意識した回答と考えると、60歳~65歳から80歳~85歳までの期間を想定している人が多いと思われます。「15年程度」は男性の回答に多く、「25年程度」は女性の割合が高くなっていました。

  1. 20年間程度:38.4%
  2. 15年間程度:24.1%
  3. 10年間以下:12.2%
  4. 25年間程度:12.2%
  5. 30年間以上:8.9%

老後の生活設計の中での公的年金の位置づけ

老後の生活を考える際に、公的年金は欠かせないものです。老後の生活設計について「考えたことがある」と答えた1,979人に、老後の生活の中で公的年金をどのように位置づけているかと質問した回答は、以下のとおりです。

  1. 公的年金を中心とし個人年金や貯蓄などを組み合わせる:55.1%
  2. 全面的に公的年金に頼る:23.0%
  3. 公的年金にはなるべく頼らずできるだけ個人年金や貯蓄を中心に考える:15.5%
  4. 公的年金には頼らない:4.8%

老後に向け準備したい(した)公的年金以外の資産

老後の生活設計で年金以外に用意する資産についての回答は、預貯金がもっとも多くなりました。

  1. 預貯金:72.2%
  2. 退職金・企業年金:34.9%
  3. 個人年金保険:21.0%
  4. 証券投資:14.6%
  5. 国民年金基金:13.4%

都市規模別では「個人年金保険」、「証券投資」をあげた人の割合は大都市で高くなりました。男女別では、「預貯金」、「国民年金基金」をあげた人は女性、「退職金(退職一時金や企業年金など)」をあげた人は男性で、それぞれ高くなっています。

老後の生活設計を考えたことがない理由

「老後の生活を考えたことがある」と答えた人が1,979人(67.8%)に対して、「考えたことがない」と答えた人が915人(31.3%)いました。その理由を多い順から見ると以下のとおりです。

  1. 将来の話なので老後のことはわからないから:35.1%
  2. 老後の生活設計の立て方がわからないから:12.6%
  3. 老後を迎えたときに考えるつもりだから:12.2%
  4. 老後の生活を考えると不安になるから:11.4%
  5. 考えるのが面倒だから:6.8%
  6. 資産があるので考える必要がないから:3.4%
  7. 配偶者や子どもなどの収入に頼るつもりだから:2.6%

調査結果から、老後の生活設計を「不安だから考える人」と、「不安になるから考えない人」がいることがわかります。

老後の生活は何歳から始まるか

「老後」という語にははっきりした定義がなく、とらえ方は人それぞれです。しかし、具体的に何歳から老後なのかを考える際に、公的年金の開始や完全に引退した年齢とする人が多いようです。

今は働くシニアが増えていますが、完全に仕事をやめて無職となると、年金収入だけでは生活費がまかなえず、預貯金の取崩しが始まります。
生命保険文化センターの調査によると、預貯金や個人年金保険、有価証券などの老後資金を使い始める年齢は、65歳が39.7%ともっとも多く、次いで70歳が20.9%、60歳が14.4%でした。
以上を総合すると、「老後の生活は年金受給が始まる65歳から、おおよそ20年間くらい」と考える人がもっとも多いようです。

老後の生活設計で必要となるもの

定年退職を迎えて年金生活が始まる、60歳~65歳ころから老後が始まるとして、その生活に必要になるものは①健康、②お金、③生きがいの3つと考えます。

健康について

60歳以降も働き続けるとしても、現役時代より働く日数や時間数を減らしたり、負担の少ない仕事に転職したりする人もいます。時間ができたら旅行に行く、趣味や勉強を始めるなど、新しい経験を楽しみにしている人も多いでしょう。

それまで家族のために働き続けた人は特に、退職後や老後の夢があるかもしれません。夢や希望を叶えるうえでも、心身を健康に保つことは必要不可欠です。

身体の健康は、健康診断や人間ドックなどで定期的にチェックをし、がんや生活習慣病の対策をする必要があります。がんや糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病は自覚症状がなく、症状が現れたときには病気がかなり進行しているケースが多いため、特定健診や各種がん検診の受診は必須といえます。

心の健康は、身体の検査のように数値で測れるものではなく、本人も病気の自覚をなかなか持たないために見過ごされがちですが、近年、退職後にうつ病にかかる人が多いようです。

定年退職は一種の喪失体験であり、今までよりどころにしてきた社会的肩書、立場、人間関係などがなくなることで、空虚感や孤独感を覚える人もいます。環境の変化に適応できないでいると、しだいに気分が落ち込んだり、食が細くなったり、眠れなくなったり、さまざまな不調が現れることがあります。そのようなサインを、特に身近にいる人たちは見逃さないようにしたいものです。

また、もともと飲酒習慣のある人が、定年退職後に酒量が増えてアルコール依存症に陥るケースもよく見られます。出勤する必要がないため、朝から飲酒するなど飲酒行動の逸脱が始まる人がいます。

身体の病気も心の病気も、予防と早期発見・早期治療が重要なのは言うまでもありません。病気が進行すると治療費も高額になりますので、老後の生活設計を考えるうえで、健康管理は最重要ということを心得ておきたいものです。

お金について

60歳代から70歳代の人は、定年退職後も何らかの形で仕事を続ける人が多いのですが、60歳までの現役時代より減収になる場合があります。ただ、その年代では教育資金や家のローンという大きな出費も、すでに支払い終えている人が多いでしょう。さらに生活の縮小をして、資産の目減りを緩やかにする工夫が必要です。

近年、平均寿命や健康寿命とともに、資産寿命という概念も注目されるようになりました。年金を受給しても、平均的な60歳以上の夫婦二人の無職世帯では月5~6万円ほどの赤字が出るといわれており、多くの家庭で今後の家計の見直しが必要になります。

「老後で心配なこと」のアンケート調査では、お金と健康が常に上位にあがります。老後の資金は、自分の寿命がはっきりとはわからないため、何年分を用意すればよいという明確な答えがありません。そのために不安に陥るわけですが、可能な限り長く働く、生活全体を縮小する、支出の見直しを図るなどで、不安は軽減できます。

生きがいについて

男性の場合は主に定年退職後、女性の場合は子育てや親の介護が終わった後、役割を失ったような空虚感に襲われる人もいます。人は社会的動物で、他の人とのかかわりなしには生きていけません。「自分は誰かのために役に立っている」という意識は、健康寿命を延ばすことにもつながりますし、社会で何らかの役割を担うことは、生き生きとした老後の生活を送るうえで欠かせないことです。

「生きがい」と聞くと、なにか大仰で口にするのもはばかられると思うかもしれませんが、周囲に公言しなくとも、自分で「これは私の生きがいだ」と考えられることがあれば、老後の生活に潤いをもたらし健康寿命を延ばすためにも有効です。

できるだけ長く働くことの意味

年金だけでは生活費に不足するために働くというシニアが増えていますが、金銭的なメリットもさることながら、仕事をすることで社会とつながり、人と交流することで生活に張りが生まれます。仕事をしていると身なりや健康に気を遣うため、見た目も若々しい人が多いものです。60歳を過ぎてもまだ働かなくてはいけないと思う人は、「仕事があって幸せ」と考え方を変えてみましょう。

ボランティアに参加することの意味

シニア世代になったら、積極的にボランティアに参加することも、生きがいを持つことに役立ちます。ボランティアは無報酬なので生活費になるわけでもなく、むしろ活動するための費用を自己負担しなくてはいけません。なかには「お金にならない活動は無駄」という見方をする人もいますが、生きる活力を得るという意味で、お金に換えられないものがあります。

ボランティアの例では、外国語が堪能であれば観光ガイドをしたり、近所の子どもたちに無償で教えたりするなど、特技を生かしたボランティアも生活の張りになります。また、地域を守る活動の防災や防犯パトロール、通学路の安全確保、道路や公園の清掃、花壇の整備や樹木などでは、シニア層がボランティアとして積極的に活動しています。

まとめ

老後の生活設計に関して不安を感じている人は多く、不安の内容は主に「お金と健康」です。生き生きとした老後を過ごすために、シニア世代が意識したいのが「健康」「お金」「生きがい」の3点であることは、すべての人に共通しています。

健康に関しては、健診などを積極的に受けて健康寿命を延ばす、お金については資産寿命を可能な限り長く保つ、生きがいについては「いつまでも社会の役に立つ存在でいたい」「誰かの役に立つ自分でありたい」という、人間の本能といえる欲求に従うことです。

そうすることで老後の生活設計を上手に立てられ、少しでも老後の不安を解消できるのではないでしょうか。

<参考資料:内閣府「平成30年度 老後の生活設計と公的年金に関する世論調査>

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