お別れができない「新型コロナウイルス感染症にかかった方の葬儀」

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はじめに

2019年12月に中国の武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症は、全世界に感染が拡大し、日本国内でも日々感染者が報告されています。

2020年3月29日にはタレントの志村けんさん(享年70)が、同4月23日には女優の岡江久美子さん(享年63)が新型コロナウイルス感染症による肺炎で亡くなりました。お二人は著名人ということもあり、ご逝去からご遺骨になるまでの一部が報道されました。

志村けんさんのお兄様、岡江久美子さんのご主人が報道陣に対応し、看取り、納棺、火葬、収骨には立ち会えず、お骨になった状態で自宅に届けられたことが広く知られました。

日本では368万2055人の感染者が確認され、死亡者数は1万9942人です(2022年2月10日現在)。この記事では、新型コロナウイルス感染症で亡くなった場合、遺族が立ち会えなかったのはどのような理由からなのか、また故人とどのようにお別れの儀式を行ったらよいのか考えてみます。

新型コロナウイルス感染症で死亡した人の葬儀の現実

志村けんさんや岡江久美子さんの例から、死亡から火葬に至る過程が、通常の死亡時とは異なる点が広く報道されました。

通常、病院で死亡した場合は家族が呼ばれ、医師から臨終を告げられます。その後、葬儀社の車で自宅などにご遺体を搬送、安置され、納棺、通夜、葬儀、火葬が営まれます。

納棺の際には故人が好きだった衣装を着せたり、死化粧をほどこしたりします。お棺のなかには故人が愛用していたものを入れることができ、顔まわりは花で飾られます。葬儀の形式はさまざまですが、火葬までの一連の流れはほぼ共通しています。

今回、志村けんさんや岡江久美子さんのご逝去でわかったことは、それらのプロセスを省き、病院で納棺、病院から直接火葬場にご遺体を搬送、火葬されたお骨が遺族のもとに戻ってきたということです。

なお、岡江久美子さんの夫である大和田獏さんは、感染防止策をとったうえで最期の対面はできたが、火葬には立ち会えなかったとの報道もあります。

まとめると、新型コロナウイルス感染症で死亡した場合、以下のようになります。

・遺族は遺体と対面できない
・遺体は病院で納棺され、火葬場に直接運ばれる
・火葬にも遺族は立ち会えず、収骨もできない
・火葬後は収骨容器に入れられて、葬儀社などの担当者から自宅に届けられる

<参照記事>
YAHOO! JAPAN ニュース
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200421-00037323-bunshun-bus_all&p=1
NHK NEWS WEB
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200424/k10012404551000.html

厚生労働省から出されている通知の内容

新型コロナウイルス感染症で亡くなった場合に、前述したような通常とは異なる遺体の取り扱いになることに関して、まず厚生労働省のホームページで確認してみましょう。

厚生労働省では、『新型コロナウイルス感染症に関するQ&A(関連業種の方向け) 3遺体等を取り扱う方へ』で、新型コロナウイルス感染症で亡くなった人の葬儀について、以下の内容を掲載しています。

問1 通常は死後24時間を経過しなければ火葬できないことになっていますが、新型コロナウイルスで亡くなった人は24時間以内に火葬しなくてはならないのですか?

この問いに対しては「24時間以内に火葬できる」としています。これは「墓地、埋葬等に関する法律第3条」により禁止されている24時間以内の火葬を例外的に認める、というものです(通常は死後24時間を経過しなければ火葬できないことになっています)。

24時間以内の火葬は「してもよい」のであって「しなくてはいけない」ものではありません。また、「感染拡大防止対策上の支障等がない場合には、通常の葬儀の実施など、できる限り遺族の意向等を尊重した取り扱いをする必要があります」とも記載されています。

問2 遺体の搬送作業や火葬作業に従事する者が留意すべき事項はありますか?

遺体を取り扱う関連業者には、「遺体からの感染を防ぐため、遺体について全体を覆う非透過性納体袋に収容・密閉することが望ましいです」、「遺体の搬送作業及び火葬作業に従事する者にあっては、必ず手袋を着用し、血液・体液・分泌物(汗を除く)・排泄物などが顔に飛散するおそれのある場合には、不織布製マスク、眼の防護(フェイスシールドまたはゴーグル)を使用してください」など、遺体搬送や火葬に携わる人の感染防止を求めています。

また、「遺体が非透過性納体袋に収容、密閉されている限りにおいては、特別の感染予防策は不要であり、遺体の搬送を遺族等が行うことも差し支えありません」、「火葬に先立ち、遺族等が遺体に直接触れることを希望する場合には、遺族等に手袋の着用をお願いしてください」と記載されています。

【参考資料】
厚生労働省HP「新型コロナウイルス感染症に関するQ&A(関連業種の方向け)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/covid19_qa_kanrenkigyou.html

このQ&Aを読む限りでは、以下の対応は厚生労働省による規制ではない、ということになります。

・遺族は遺体と対面できない
・遺体は病院で納棺され、火葬場に直接運ばれる
・火葬にも遺族は立ち会えず、収骨もできない
・火葬後は収骨容器に入れられて、自宅に届けられる

厚生労働省のホームページでは、遺族の意向により通常の葬儀が可能とあります。しかし実際には、遺族は故人と対面できずにお骨だけが帰って来ているケースが、報道などにより広く知られています。

当社、終活ライフ編集部スタッフの知人にも、入院中も家族は面会ができず、亡くなった後の立ち合いもかなわず、遺骨になってからの再会というケースがありました。

厚生労働省では「通常の葬儀は可能」としながらも「十分な注意が必要」ともしており、非常に解釈の難しいところです。

「感染拡大防止対策上の支障等がない場合には、通常の葬儀の実施など、できる限り遺族の意向等を尊重した取り扱いをする必要があります」の「感染拡大防止対策上の支障等がない場合」の解釈が葬儀社や火葬場により異なり、万全を期して遺族の立ち合いを控えてもらっているケースが多いのではないかと推測できます。

葬儀社のなかには、新型コロナウイルス感染症への対応をホームページに公開したり、電話やメールでの問い合わせに応じたりしたりしているところもあります。感染防止を考えると、火葬場で集団感染を招くような事態は望ましくなく、遺族としては各葬儀社や火葬場の独自ルールに従っているのが現状です。

火葬後の遺骨からはウイルスが失活するといわれ、収骨は遺族が行っても問題がなさそうに思えます。ただこの場合、遺体からの感染の可能性ではなく、収骨に集まる人たちの「三密(密閉・密集・密接)」の危険を考える必要があります。

新型コロナウイルス感染症で亡くなった人の遺族は、濃厚接触者である可能性が高いことも問題です。

骨葬という葬儀のしかた

「骨葬」とは聞きなれないことばかもしれません。しかし、地方によってはごく普通の葬儀の仕方です。骨葬とは、人が亡くなったら、あらかじめ火葬を済ませ、遺体ではなく遺骨に対して供養を行うもので、東北や北海道、九州の一部の地方では一般的な葬儀として行われています。

通常、人が亡くなると、通夜、葬儀・告別式、火葬という手順が踏まれます。骨葬はこの順番が異なり、最初の段階で火葬します。地域の慣習以外には、以下のケースで骨葬が行われます。

■事故などで損傷が激しい遺体、孤独死などで腐敗が進んでいる遺体など、遺体の状態がよくない場合は先に火葬する

■海外で亡くなった人、国内でも葬儀を行う場所と亡くなった場所が遠く離れている人の場合、遺体の搬送費用が高額なこと、搬送することによる遺体の損傷を防ぐ目的で、現地において火葬をすることがある

新型コロナウイルス感染症で亡くなった場合も、先に火葬を行った上で、後日葬儀やお別れの会などを開催する流れが主流になるものと考えられます。

関連する法律について

ここで、新型コロナウイルス感染症で亡くなった場合の葬儀について考えるために、火葬に関する法律と、感染症に関する法律の条文と、その考え方を紹介します。

火葬に関する法律

日本には「墓地、埋葬等に関する法律(昭和23年施行)」があり、火葬や墓地、納骨などに関しての定めがあります。この法律の第2章、埋葬、火葬及び改葬の第3条で次のように定められています。

「埋葬又は火葬は、他の法令に別段の定があるものを除く外、死亡又は死産後二十四時間を経過した後でなければ、これを行つてはならない。但し、妊娠7箇月に満たない死産のときは、この限りではない」。

したがって、通常は死後24時間を経過しなければ火葬できないことになっています。しかし「他の法令に別段の定があるものを除く」とあり、新型コロナウイルス感染症の場合は「感染症法第30条第3項」と「新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令」の規定を指しています。

新型コロナウイルス感染症で亡くなった場合、「24時間以内に火葬しなくてはいけない」のではなく「本来は禁止されているところ、新型コロナウイルス感染症の場合は例外的に24時間以内に火葬してもよい」と解釈することができます。

出典:墓地、埋葬等に関する法律(昭和23年5月31日法律第48号)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei15/

感染症に関する法律

日本には感染症法という法律があり、この法律に基づいて届出や隔離などの対応がとられます。感染症法では、感染力や重症度により、感染症を第1類から第5類、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症に分類しています。

新型コロナウイルス感染症は、このたび指定感染症となりました。指定感染症とは「今まで感染症法で指定されていない感染症で、緊急に患者の行動を制限する必要がある場合に一定の期間、感染症法のいずれかのカテゴリーに当てはめる」とするものです。

一定の期間とは通常1年間で、その後は必要があれば、感染症のいずれかに指定されます。24時間以内に火葬しなければならないケースは、エボラ出血熱などの第1類感染症です。

出典:感染症の範囲及び類型について 平成26年3月厚生労働省健康局結核感染症課
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000040509.pdf

まとめ

「新型コロナウイルス感染症で亡くなった場合、遺族はお別れもできないのか」という疑問について、公衆衛生上の秩序により感染防止を最優先すれば「イエス」ということになるでしょう。

しかし、骨葬という葬儀の形式もあるように、先に火葬した上で、のちに葬儀やお別れの会でお弔いをすることは十分に可能です。

看取りや納棺、火葬にも立ち会えないのは遺族として非常に残念ではありますが、感染防止の観点からは致し方ないこととなります。逝去から葬儀、納骨に至る一連のプロセスのなかで、遺された人は心の整理をつけて死を受け入れていくものです。したがって、葬儀にまつわる儀式は、周囲の人たちにとって必要不可欠なものになります。

新型コロナウイルス感染症で身内が亡くなった場合のお弔いの仕方は、今後の大きな課題となることでしょう。

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