単身高齢者が増えてきた現在の日本では、おひとり様支援も充実してきました。このおひとり様支援の分野には、単身高齢者の日常生活の支援、身元保証、葬儀やお墓関連の終活分野などがあります。
日常生活の支援では、地方自治体の高齢者福祉サービスや介護制度、また、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業などがあります。老人ホームなどの入所には身元保証が必要になりますが、現状ではこの身元保証の分野の支援はNPOなどの一部の民間団体が行っています。葬儀やお墓関連の終活分野では、死亡前からの死の準備に関連したことや死後の葬儀・お墓についての支援などがあります。ここでは、単身高齢者の終活について、各種サービスを紹介します。
広がる「おひとり様支援」とは
現在の日本では、高齢者のいる世帯は全世帯の約半分、その内「単独世帯」・「夫婦のみ世帯」が全体の過半数となっており、高齢の「おひとり様」が増えている現状があります。
厚生労働省による国民生活基礎調査の概況によると、世帯類型では65 歳以上の者のいる世帯は 2492万7千世帯(全世帯の48.9%)、世帯構造をみると「夫婦のみの世帯」が804万5千世帯(65 歳以上の者のいる世帯の 32.3%)で最も多く、次いで「単独世帯」が683万世帯(同 27.4%)です。65歳以上の人がいる世帯では単独世帯が27.4%に上ります。
参考:平成30年 国民生活基礎調査の概況(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa18/dl/02.pdf
広がるおひとり様支援
単身高齢者のための支援には、日常生活、身元保証、葬儀などの分野などがあります。このような、いわゆる「終活支援」に取り組む地方自治体も増えてきています。
上述のように世帯構造の変化により、高齢の単独世帯では、孤独死などにより引き取り手のいない遺体も増加しています。引き取り手のいない遺体は公費で火葬せざるをえませんが、生前契約をサポートすることで、本人が火葬や納骨の費用を負担することになります。つまり、単身高齢者を支援することは行政にもメリットがあり、「終活支援」への取り組みが活発になってきたのです。
どんな終活支援があるのか
地方自治体が行なっている終活支援にはどのようなものがあるか、具体例を見てみましょう。
<地方自治体名称> <終活サポート内容>
神奈川県横須賀市 ・エンディングプラン サポート事業
神奈川県茅ヶ崎市 ・わたしの覚え書き(エンディングノート)無料配布
神奈川県大和市 ・エンディングノート無料配布
東京都中野区 ・住宅入居支援、見守りサービス、葬儀支援など
東京都府中市 ・未来ノート(私の生き方整理帳)無料配布
東京都狛江市 ・エンディングノート無料配布
千葉県千葉市 ・エンディングサポート事業による葬儀会社提携
埼玉県越谷市 ・あんしんノート(エンディングノート)無料配布
埼玉県八潮市 ・私と家族の安心ノート(エンディングノート)無料配布
茨城県水戸市 ・エンディングノート無料配布
茨城県つくばみらい市 ・私のおぼえ書きノート無料配布
兵庫県高砂市 ・エンディングプランサポート事業(葬儀、納骨に関する民間業者との生前の死後委託契約支援)
大阪府堺市 ・エンディングノート無料配布
地方自治体による終活支援先進例
神奈川県横須賀市は、ひとり暮らしで身寄りのない市民を対象に、死後の手続きを支援する取り組みを行ってきました。これをきっかけに、各自治体による終活支援が広がって行きました。
神奈川県横須賀市の取り組み
横須賀市では「終活支援センター」という事業部門を設け、次のような取り組みを行っています。
・横須賀市終活支援センター
■「わたしの終活登録」
「わたしの終活登録」とは、本人に終活関連情報を生前に登録してもらい、万一の時、病院・消防・警察・福祉事務所や本人が指定した方に本人の死亡を開示して、本人の意思の実現を支援する事業です。
登録できる内容
・本人の氏名、本籍、住所、生年月日
・緊急連絡先
・支援事業所や終活サークルなどの地域コミュニティー
・かかりつけ医師やアレルギー等
・リビングウィル(延命治療等の意思)の保管場所、預け先
・エンディングノートの保管場所、預け先
・臓器提供意思
・葬儀や遺品整理の生前契約先
・遺言書の保管場所とその場所を開示する対象者の指定
・お墓の所在地
・その他本人の自由登録事項
登録の開示(登録をする際、開示の同意必要)
- 生前開示
生前、当事者が認知症や意識障害などを契機に、登録内容を伝えられなくなったと確認できた場合は、医療機関、消防署、警察署、福祉事務所、および本人が希望した場合に本人が指定した者からの照会に対して登録情報を開示します。
- 死後開示
・遺言書の保管先
登録情報のうち、遺言書の保管先については、本人の死後、本人が指定した者に対してのみ開示します。
- お墓の所在地
登録情報のうち、本人のお墓の所在地については、本人の死後、納骨・墓参希望の全ての第三者に開示します。
■エンディングプラン・サポート事業
ひとり暮らしで身寄りがなく、生活にゆとりがない高齢等の市民の方の、葬儀・納骨・リビングウィルという課題について、あらかじめ解決を図り支援する事業です。
・対象者
原則として、ひとり暮らしで頼れる身寄りがなく、月収18万円以下・預貯金等が225万円以下程度で、固定資産評価額500万円以下の不動産しか有しない高齢者等の市民の方。
支援内容
・終活課題についての相談
葬儀・納骨について、低額で生前契約を受ける協力葬儀社の情報を提供します。死亡届出人の確保について提案します。
・支援プランの策定の保管
葬儀、納骨について協力葬儀社とともに支援プランを立てこれを保管します。
・終活課題の解決に向けた連携、支援
支援プランに基づいて、安否確認の訪問を行い、本人の入院・入所・死亡などの局面ごとに、あらかじめ指定された関係機関・協力事業者・知人の方々などに速やかに連絡し、連携して終活課題の円滑な解決に向けた支援をします。
大阪府高砂市の取り組み
大阪府高砂市では、おひとり様支援でエンディングプラン・サポート事業を行っています。
https://www.city.takasago.lg.jp/index.cfm/15,61495,c,html/61495/20180531-100506.pdf
■エンディングプラン・サポート事業
身寄りのない方の終活(葬祭、納骨等)を市が支援する事業です。希望によりリビングウィル(延命治療等の意思)も市と葬儀社が保管し、契約後、市は支援プランを立て登録カードを発行し、定期的に内容に変更がないか市が本人に確認します。入院、死亡時はカードによって医療機関等から市や葬儀社に連絡が入り、リビングウィルの伝達、葬儀の円滑な進行を実現します。
葬儀・納骨等については、市内の葬祭事業者と生前に委任契約すること、その契約が円滑に履行されることを市がサポートするものです。葬祭費用は自身の負担で生前に預託します。
- 対象者(原則、以下の全てに該当)
・市内に住所を有するひとり暮らしの方 ※同居人が重症心身障害者など事業利用希望者の葬儀等を主導して執り行うのが困難な方を含む。
・年齢が65歳以上の方 ※年齢が60歳以上で要介護認定3以上の方を含む。
・月収が15万円以下かつ預貯金等が100万円以下であり、所有する不動産の固定資産評価額が500万円以下の方
- 死後事務委任契約
市民は20万6千円を限度に葬祭事業者に預託金を預けます。
神奈川県大和市
神奈川県大和市では、自身の死後に不安を抱える市民を対象に、葬儀などの生前契約をサポートするほか、事前に登録しておけば、死後に登録者の知人や親族などへ死亡事実やお墓の場所などの情報を連絡します。
おひとり様などの終活支援事業
https://www.city.yamato.lg.jp/web/f-soumu/f-soumu01211702.html
■わたしの終活コンシェルジュ
ひとり暮らしの高齢の方などの葬儀や納骨などの終活に関する不安には、「わたしの終活コンシェルジュ」が丁寧に相談に応じます。
- 対象者
市内在住で、自身の死後に不安を抱えるひとり暮らしの人、夫婦や兄弟姉妹のみで暮らす世帯など。
- 事業の主な内容
・自らの葬儀や納骨などを執り行う市内の協力葬祭事業者をご紹介し生前に契約できるよう支援します。
・自らの死後の遺品整理などを希望する場合、司法書士や行政書士などの法律専門家から連絡をいただけるよう市が手配します。
・希望により、親族の代わりに死後のお墓の所在などの情報を知人等に連絡します。葬儀等の生前契約に係る費用は対象者の自己負担です。
東京都中野区
中野区による単身者向けサービスに、「中野区あんしんすまいパック」があります。単身高齢者等の入居拒否の解消、空き部屋の利用促進を目的とし、入居が困難な単身高齢者を支援し、かつ、空いている部屋は埋めたいけれど、孤独死が怖いから単身高齢者には貸したくないという家主の不安をサポートする制度です。
https://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/dept/505700/d026714.html
単身者が民間の賃貸住宅に転居する場合、週2回の定期的な見守りと死亡後の葬儀費用や残存家財の片づけなどの費用補償がセットになったサービスを利用することで、スムーズな住み替えができる制度です。既に民間賃貸住宅に居住されている単身者の方も、このサービスを利用することができます。また、所得額などの一定の要件にあえばサービス加入時の登録料を区が補助します。
■中野区あんしんすまいパック」
・見守りサービス
利用者に週2回の安否確認電話(音声ガイダンス)、固定電話のほか、携帯電話やスマートフォンにも対応可能、安否確認の結果を利用者が指定する連絡先にメール送信(最大5名まで)します。
・利用者が亡くなった際の葬儀対応
葬儀に係る手配の実施、葬儀実施に要する費用の補償(上限50万円)制度です。
・利用者が亡くなった際の残存家財の片付け
残存家財片付け及び原状回復にかかる手配の実施、残存家財片付け及び原状回復に要する費用の補償(葬儀費用との合計で100万円以内)制度です。
- 中野区あんしんすまいパックを利用できる方
・区内の民間賃貸住宅に居住している単身者か、区内の民間賃貸住宅に居住しようとしている単身者
・固定電話か携帯電話、スマートフォンをお持ちの方
・指定連絡先が確保できる方
- 中野区あんしんすまいパックの利用者負担額
・初回登録料 16,500円
・月額利用料 1,980円
- 助成対象者
・区内の民間賃貸住宅に居住している単身者か区内の民間賃貸住宅に居住しようとしている単身者で、前年の所得額が2,568,000円以下の方(助成手続きが1月~5月は前々年の所得額)
- 助成金の額
・初回登録料 16,500円
民間のおひとり様終活サービス
亡くなった後、死亡届の提出、健康保険や公的年金の資格抹消の手続き、さらに、お墓を事前に用意していれば納骨の手配、家の中の遺品整理、公共料金やメールアカウント等の解約など、生前に代理人に依頼しておく死後事務委任契約による終活サービスがあります。
こういったサービスでは、葬儀費用などの実費と代理人への報酬を、生前に預託金として渡しておくというのが一般的です。専門家に依頼した際の相場は、死亡届の提出は3万円~、健康保険等の資格抹消手続きは5万円~、葬儀の手続きの代行は形式、規模により異なりますが5万~20万円。遺品整理は業者に依頼するだけで3万円~です。
法律的処理は弁護士事務所、司法書士事務所が行い、生活全般に関わるものではNPOなどが行っている例もあります。民間企業では、葬儀から納骨までパッケージにして提供するサービスも出てきました。終活関連サイト運営の鎌倉新書では、おひとり様向けに葬儀・墓・死後事務の手続きをサポートする「いい生前契約」と名付けたサービスを49万8000円(税別)で、火葬のみの葬儀(直葬)と、保険証や免許証の返納といった死後の手続き、納骨までをパッケージにして提供しています。
対象は50~80代のおひとり様とその予備軍で、同社の提携会社で直葬を執り行い、すでに墓を持っている人は指定場所に納骨、墓がない人は同社が運営するサイトと提携している霊園の合祀(ごうし)墓に納めるものです。
広がるおひとり様支援
地方自治体の終活サポートの事業は多くはエンディングノートの無料配布などにとどまっているのが現状です。葬儀業者との生前の事務委任契約のあっせん支援などがあるのは先進例で、納骨もその流れで業者との契約が一部で行われています。さらなる先進例では、神奈川県横須賀市、東京都中野区の例などがあり、今後このような例が拡大するかが注目されます。
手が付けられていない分野には、死後の住宅の撤去や遺品整理などがあります。生前においては、身元保証の分野も行政ではまだ十分な支援が組まれていません。身寄りのない人は、病院への入院や福祉施設・賃貸住宅の保証人がおらず、困ってしまいます。そのため、行政の支援が必要な分野だと言えます。身元保証はNPOなどの民間団体などが行っている場合もありますが、費用が高額な場合がほとんどです。ただ、賃貸住宅の入居に限って言えば、保証料を払って保証してもらう制度が存在しています。
また、行政が民間事業者へ委任する形で支援をカバーしている例もあります。ただし、今後は行政のより主体的な関わりが必須だとされます。
参考
千葉市 エンディングサポート(終活支援)事業
・事業内容
民間事業者との協働によるエンディングサポートの取り組み
・提携先企業
イオンライフ株式会社
遺品整理、寺院永代供養、葬式、身元保証、遺言信託、墓じまい などの代行業務を行います。
終活サポート利用のための準備
こういった各種支援サービスを受けるためには、自身が必要だと思うサポートを洗い出しておく必要があります。葬儀やお墓の問題は必ず考えておかなければなりません。その他、住まいの整理はどうするか、遺品の整理はどうするか、遺産の整理はどうするかなどを決めておく必要があります。また、下記の事項についても整理しておきましょう。
死後の処理を誰に頼むか
死後の処理をしてくれる人も探さなければいけません。しかし、単身高齢者の方は身寄りがない、いても親族に頼める人がいない場合が多くあります。その際は、信頼できる知人などはいないか考えてみましょう。誰もいないは、多少の費用がある場合は、弁護士や司法書士またはNPOなどに依頼する方法があります。福祉関係などで相談してみても良いでしょう。
自分の住む地方自治体のサービスを探す
おひとり様支援を行う地方自治体はまだ少ないのが現実ですが、自分の住む地方自治体の現状を調べておきましょう。自分の住む地方自治体に適当なサービスがない場合は民間のサービスを検討することになります。
死後事務委任契約について知っておく。
死後に必要な手続きを「死後事務」と言います。「死後事務」の依頼は、本人が生前に行なっておかなければいけません。似たような制度で「成年後見制度」がありますが、成年後見制度は、判断力が衰えてその人が亡くなるまでのサポートで、亡くなった時点で契約は終了します。遺言は死亡後に執行されますが、法的な効力があるのは財産などで、葬儀やお墓については強制力がありません。
費用の準備
葬儀費用、納骨費用、住宅撤去費、遺品整理費などの実費と、受託者の報酬を生前にあらかじめ決め、費用を預けておくのが一般的です。費用は内容により大きく異なりますが、数十万円から100万円以上が必要になるでしょう。
まとめ
高齢者の単身世帯が増えたことで、おひとり様支援に積極的に取り組む地方自治体が増えてきました。単なる民間業者への丸投げではなく、地方自治体自身が主体的に独自サービスに取り組む例もあり、今後はますますサービスが充実していくことでしょう。
ただし支援を受けるためには、自分でも準備をしておかなければなりません。死後事務委託契約など、地方自治体のサービスが行き届いてない分野もあるからです。自分にとってどのような終活サポートが必要なのかを検討し、自分が生前にやれることはやっておくことが大切です。