遺産寄付とは?
遺産は遺族が引き継ぐものというイメージが強いですが、遺族がいない人でも、遺言により財産を公共団体や任意の団体に寄付し、自分の財産を有用に使ってもらうことが可能です。
それは世話になった社会福祉法人に寄付したい、特定の福祉団体などに寄付をしたいなどであり、大きな社会貢献と意義があります。
遺言で寄付を行うことを「遺贈寄付」といいますが、ただ、遺贈寄付には気を付けるべきことがあり、法務、税務などの点も含めて解説します。
後継ぎがいない方の遺産はどうなるのか?
後継ぎがいない方の遺産はどうなるのか、ここでは相続人不存在と国庫帰属および遺贈について見ていきます。
相続人不存在
後継ぎである子や、法定相続人がまったくいない天涯孤独な人などの場合には、相続財産が誰のものになるのかが問題です。
相続人がまったくいない場合のことを、相続人不存在といいます。
相続人不存在の場合には、利害関係人や検察官によって相続財産管理人が選任される必要があります。
相続財産管理人が選任されたら、その旨が公告されて、相続債権者(被相続人に対する債権者)や受遺者(遺贈を受けた人)に対して、相続財産管理人が選任されたことを知らせます。
また、同時に相続財産管理人は、戸籍などを取り寄せて相続人を捜索します。
残余財産の最終的な国庫帰属
相続財産管理人は、相続財産の換価をすすめて、相続債権者に対して必要な支払いをし、受遺者に対しては遺贈を受けるかどうかの意思確認をします。
遺贈を受けるということであれば、受遺者に必要な分与を行います。
また、特別縁故者の申立によって特別縁故者に遺産の分与を行うこともできます。
この場合の特別縁故者は、相続人ではない第三者です。
特別縁故者として認められるのは、被相続人と生計をともにしていた人や、被相続人の療養看護をしていた人、その他被相続人と特別の縁故があった人です。
その他、すべての必要な支払いを終えた後、残りがあったらその相続財産は国庫に帰属します。
遺贈
相続人がいなくても、被相続人自身が第三者に相続財産を渡すことができる方法があり、それは遺言を残す方法です。
遺言によって、遺言者は自分の財産の処分方法を決めることができます。
また、遺言によって相続財産を分け与えることができる相手は、個人だけではなく法人も可能です。
遺言による寄付行為も可能なので、各種の団体などに対して財産を寄付することもできます。
遺贈寄付とは?
法定相続人以外に、遺言で財産を贈与することを遺贈と言います。
遺贈を受ける相手(受遺者)がこれを受け入れれば、被相続人の願いどおり対象の財産を相手に受け取ってもらえます。
そして、その相手は個人でなく法人などの団体を指定することも可能です。
特定の団体に相続財産の全部または一部を遺贈することを「遺贈寄付」と呼びます。
実際に遺贈寄付を検討する場合は、法務、税務両面で気を付けるべき点があります。
法務面で気を付けるべきポイント
法務面では、遺留分の配慮や特定寄贈にするなど、気を付けるべきポイントがあります。
以下で3点見ていきましょう。
遺留分への配慮
自分の財産を誰にどれだけ承継させるかは、被相続人となる人が自由に決めることができます。
遺言書への記載も自由意思によりますが、遺留分への配慮は必要です。
遺留分とは一定の相続人に認められた遺産の最低取り分です。
そのため、特定の団体に対して全財産を遺贈寄付する旨の遺言書を作ることはできます。
しかし、遺留分権利者が自分の遺留分を取り戻したいと思えば、遺贈寄付を受けた相手方に遺留分侵害請求を行い、自らの遺留分を取り戻す手続きを行うことになります。
特定遺贈にする
遺贈には正確に「包括遺贈」と「特定遺贈」の二種類が存在します。
包括遺贈というのは、例えば「全財産の三分の一を法人〇〇に遺贈する」というように、財産の割合を指示して遺贈を行うものです。
これに対して特定遺贈は「〇〇法人〇〇に金一千万円を遺贈する」というように、遺贈したい財産を具体的に特定して行います。
包括遺贈の場合、法律上は受遺者が相続人と同等の地位を持つことになります。
ですから、相続人と同じように被相続人の負債も引き継ぐ義務が生じ、他の相続人と一緒に遺産分割協議への参加も求められる立場になります。
受遺者側は、寄付を受けるのはありがたいとしても面倒な遺産分割協議に巻き込まれたくないでしょう。
また、被相続人の借金があれば負債まで引き継ぐリスクが発生するので、寄付の受け取りを拒否される可能性も出てきます。
特定遺贈ではそうした心配がないので、遺贈寄付は特定遺贈の形で行うのが望ましいでしょう。
実効性の確保
遺贈寄付を確実に行うには、遺言内で実際に遺言の内容通りに財産承継を実現してもらう遺言執行者を指定し、遺贈寄付の実務行為が確実に行われる手配が必要です。
もし遺言執行者を指定しないと、相続人が遺贈の指示を無視して勝手に遺産を使い込んでしまうかもしれません。
遺言執行者は相続人の一人を指定することもできますが、第3者の弁護士や司法書士など相続の専門家を指定する方法もあります。
寄付先によってはお金の寄付は受け付けても、不動産は受け付けできないなど、条件や制限が出ることもあるため、被相続人となる人の希望とすり合わせを行うことが必要です。
さらに実効性を高めるには、専門家の支援を得て遺言書を公正証書の形にしておくと良いでしょう。
遺言書の有効性を争う余地を失くして、寄付の実効性を担保することができます。
税務面で気を付けるべきポイント
税務面では、相続税や法人税、譲渡所得税などで気を付けるポイントがあります。
以下で見ていきましょう。
相続税・法人税
寄付先が個人の場合には、その財産の寄付を受ける個人に対して相続税が課税されます。
相続税は財産を受け取った個人に対して課税されるからです。
ただし、寄付先である個人が、公益事業(社会福祉、学校運営事業等)を行っている場合で、事業用に活用する場合には、相続税は課税されません。
寄付先が法人の場合には、相続税ではなく法人税が課税されます。
ただし、個人の場合と同様に、一定の公益法人等が寄付を受ける場合には、その公益法人では法人税はかかりません。
そのため、寄付先が公益事業、公益法人等の要件を満たしているのか、満たしていないのか事前の確認が必要です。
譲渡所得税
遺言により寄付をした場合に、寄付先が個人の場合には、原則として譲渡所得税は課税されず、相続税のみかかります。
しかし、寄付先が法人の場合に、注意をしなければならないのが譲渡所得税(みなし譲渡課税)です。
遺贈寄付の対象財産が現金であれば、譲渡所属税は課税されません。
遺贈寄付の対象財産が不動産や株式など有価証券の現物である場合や、値上りや時価評価の高さがある場合、思わぬ譲渡所得税の負担が生じることがあるので注意が必要です。
不動産を例に挙げると、法人に対して不動産を遺贈寄付した場合、税務上は遺贈寄付をした不動産について時価による譲渡があったものとみなされ、譲渡益に対して譲渡所得税が課税されます。
公益法人への寄付は非課税特例が利用できることも
みなし譲渡課税は、寄付する先が公益法人等である場合、国税庁長官の承認を受けて非課税とすることができます。
具体的には、公益社団法人、公益財団法人、社会福祉法人、NPO法人、宗教法人、学校法人などへの寄付が対象です。
ちなみに、国や地方自体への寄付は上記承認を得なくとも最初から非課税扱いです。
後継ぎがいない方の遺産寄付や遺贈のための準備
では、遺産寄付や遺贈のために、どのようなことを準備しておくべきか見ていきましょう。
後継ぎや相続人がいなくても遺産を贈与したい人はいないか?
世話になった方や親しい人など遺産を額はともかくとして、あげたい人はいないでしょうか?
もしそのような人がいれば、生前の贈与や遺言による遺贈も検討します。
ただし、身近に遺言の実行をしてくれる人がいなければなりません。
寄付したい団体のリサーチ
自分が社会貢献したい寄付先の団体には、どのようなものがあるかを調べておきます。
福祉でお世話になった社会福祉関係や、国際貢献関係など自分の考えに合ったところを調べるとよいでしょう。
遺言書の作成準備
遺贈寄付をするためには、遺言書の作成が必要です。
遺言書には一般に、公正証書遺言や自筆証書遺言があります。
自筆証書遺言は、自分だけで簡単に無料で作成できる反面、様式不備による無効や紛失のリスク、相続発生後に家庭裁判所による検認が必要などのデメリットもあります。
遺言が確実に執行されるためには、公証役場での公正証書遺言が望ましいでしょう。
また、財産の引き渡しや登記などの手続きを行う遺言執行者も決める必要があります。
相続人は本当にいないのか?
後継ぎという直系卑属ではなくてもその他の相続人はいないでしょうか?
相続人がいれば遺留分に注意する必要があります。
遺留分とは配偶者、子、親など相続人が最低限度保障された相続財産の受取分のことです。
遺留分が保障されていないと後日相続人と受遺者の間でトラブルとなる可能性があります。
財産の整理
現金、預貯金、有価証券、不動産などを整理し、寄付の対象とするものを検討します。
まとめ
後継ぎがいない人、相続人がいない人では、社会性のある団体への遺産の寄付は大変有意義で関心を持つ人も増えています。
人間には何らかの社会貢献をしたいという本源的な欲求があり、生きてきた意味を人に託したいなどの気持ちもあるでしょう。
また、個人の名前を残したいという命名欲求もあるのではないでしょうか。
まとまった寄付金の場合は、個人名を記した基金の例もあります。
自身の希望を考え、検討しておくことが大切です。