2021年度から実施予定の介護保険改革で何が変わる?

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介護保険制度の見直しは3年に1度のサイクルで行われます。前回は2018年度で、次は2021年度です。利用者、家族、現場の職員らと深く関わる極めて重要な課題です。しかしながら、現状では2021年度改革では多くの問題が先送りになる動向で、次の次となる2024年度の改革で再検討されることになりそうです。コロナウイルス問題もあり厚生労働省での検討や国会での審議の先行きは不透明ですが、2021年度改革の現状と焦点について説明します。

2021年度から実施予定の介護保険改革で何が変わる?

2021年度から実施予定の介護保険改革で何が変わる?

(1) 厚生労働省の「社会保障審議会介護保険部会」の動向 厚生労働省の「社会保障審議会介護保険部会」は2019年12月に2021年度に向けた介護保険制度改正に関する意見書をまとめました。 意見書は、団塊世代が75歳以上となる2025年と、その先の現役世代の減少が顕著になってくる2040年も見据え、必要な制度の整備や強化する取り組みをまとめました。 柱は次の5つです。

  • ①介護予防、健康づくりの推進 介護予防、健康づくりでは、高齢者が社会で役割をもって活躍できるよう、健康寿命の延伸につなげます。高齢者が体操などを通じて交流する通いの場でポイント付与の取り組みを推進したり、医療専門職の効果的な関わりを強化したりします。
  • ②保険者機能の強化 保険者機能の強化では、保険者機能強化推進交付金の評価指標の見直しや配分のメリハリ付けを行います。PDCA(計画→実行→評価→改善)サイクルに沿った取り組みも促進します。
  • ③地域包括ケアシステムの推進 ④認知症施策の総合的な推進 ⑤持続可能な制度の構築・介護現場の革新

また、最大の焦点だった利用者負担見直しに関しては、財務省などは利用者の自己負担を“原則2割”とするよう強く求めていましたが、政府・与党内での調整の結果、さしあたり現状のまま据え置くことになりました。 ケアプランの作成で新たに自己負担を徴収する案(現行は10割給付)なども、結局は採用されませんでした。

(2) 利用者負担見直しの先送りについて 利用者負担増に関する先送りの理由は2つあります。 第1は、昨年10月の消費税の増税です。増税は社会保障費用の確保が目的とされており、増税が行われた直後に、国民の新たなる負担を強いる改正には異論があったことがあります。 第2は、医療費負担改革が優先されたことです。医療では従来は1割負担である75才以上の後期高齢者医療制度で、新たに2割負担を求めるなどの改革が行われます。これと併行して介護保険でも負担増を求めるとなると国民の反発は避けられないためです。

ただし先送りされただけであって、次回の2024年制度改正審議で再び取り上げられると思われます。

(3) 介護給付改訂 2020年末の2021年度予算編成における改定率決定を受けて、2021年早々に新単位数や各種基準に関する諮問・答申が行われる見込みです。特に、介護⼈材の確保・介護現場の改善を報酬面でどうサポートしていくのか、十分な改善が行われることが期待されます。

2021年度介護保険改革で先送りされた課題の現状

2021年度から実施予定の介護保険改革で何が変わる?

重要な課題が先送りされた現状にありますが、利用者の負担増を招く案件など主要な下記3点につき説明します。

(1) 在宅サービス利用計画(ケアプラン)作成などケアマネジメント費への自己負担の導入について

ケアマネジメント費の有料化については、増え続ける介護報酬に対応するため、財務省が自己負担を導入することを強く要望してきた経過があります。

  • ①ケアプラン作成などケアマネジメント費の現状 居宅介護支援事業所によるケアプラン費については現在、利用者の自己負担はありません。 通常の介護保険サービスの場合、保険制度でカバーする給付率は原則9割、利用者は残りの費用の原則1割を支払う必要があるのに対し、ケアプラン作成費を含めたケアマネジメント費については、保険給付で10割対応し自己負担がない現状です。
  • ②ケアプラン作成とは 要介護認定を受けた高齢者が介護保険サービスを受けようとすると、ケアマネジャーにより介護に必要なサービスや時間などを事前に決める必要があり、ケアマネジャーが作成する案をケアプランと言います。
  • ケアプランは介護保険サービスを受けるためだけに使われるわけではなく、本人のQOL(生活の質)やADL(日常生活動作)を向上するための目標を定め、介護保険サービスだけでなく、自治体の福祉サービスなどの選択肢を幅広く盛り込めるものです。

  • ③ケアマネジャーとはどんな専門職か ケアマネジャーとは、利用者のケアの受給について、最も適切なケアが受けられることを助言し、ケアプラン作成を含めたケアマネジメントに携わる仕事です。ケアマネジメントのプランニング、コーディネートなど介護保険の最も本質的な部分を担っています。
  • ④ケアプラン作成有料化の論点 ケアプランを有料化した場合、利用者は原則として1ヶ月当たり1,000~1,500円程度の負担増を強いられますが、ケアプランの作成費に相当する居宅介護支援費は5,000億円前後であり、仮に一律で1割負担を導入したとしても、全体の給付抑制効果は約500億円にとどまります。約10兆円に及ぶ全体の介護総予算(自己負担を含む)に比べれば、比率が少なく決定的なものではない状況です。
  • ⑤ケアプラン作成有料化によるマイナス面 a. 利用控えの懸念 ケアプラン作成有料化は利用者のアクセス悪化をもたらし、低所得者を中心に介護保険サービス全体の利用控えが起きる可能性が想定され、適切に介護保険サービスが行き届かなるリスクも想定されます。

b. ケアプランの自己作成者の増加による市町村の負担増 ケアマネジャーの業務は独占ではなく、本人または家族による自己作成が可能とされています。ケアプランを自分で作成する場合、給付管理は保険者である市町村が担うことになり、ケアプランを管理する業務が増加します。管理しないと利用者の過度な介護サービスの利用を抑えられない恐れがあるとされています。

(2) 要介護1・2の人への生活援助サービス(掃除・洗濯・調理など)を市区町村事業に移行について

現在、「要⽀援1・2」における、訪問介護・通所介護に係る介護予防⽀援は、地域⽀援事業へ移⾏済みです。(訪問介護、通所介護以外に係る介護予防⽀援は、引き続き給付として実施) 訪問介護の生活援助サービスについては、要介護1~2の軽度の利用者を介護保険から外して、市町村の地域支援事業に移行することが検討されてきました。しかし、市町村の総合事業が進まず、住民主体サービスなどが実施されている市町村数は6~7割にとどまっている現状が問題視されています。この状況で介護保険から生活援助を外して市町村事業に移行しても受け皿がないためです。生活援助の市町村への移行より先に、自治体の総合事業の整備促進が先であるという意見が根強くあります。

要介護認定率や1⼈当たり介護給付費については、性・年齢階級(5歳刻み)・地域区分を調整しても⼤きい地域差が存在しています。

なお、総合事業(介護予防・日常生活支援総合事業総合事業)とは、既存の介護サービス事業者に加え、NPOや民間企業等の多様な主体が介護予防や日常生活支援のサービスを総合的に実施できるようにすることで、市町村が地域の実情に応じたサービス提供を行うことを目的として、2016年の介護保険法改正で創設したものです。

(3) 介護サービス利用時の自己負担割合(原則1割)が2、3割となる対象者を拡大することについて

自己負担割合の2~3割負担を求めて、現役並み所得高齢者の対象者を拡大する案があります。介護保険は元々所得水準に関係なく、一律1割負担でしたが、2012年8月に2割負担、2015年8月に3割負担制度を導入し、現役並み所得(1人暮らし高齢者の場合、2割負担は約280万円以上、3割負担は約340万円以上)を有する高齢者には重い負担を求めるようになりました。

今回の制度改正案では、収入を定める基準を引き下げることで、2割負担の対象者を拡大する案が議論されましたが、高齢者の生活に影響を与えるとの判断で見送られました。 高齢者医療費の自己負担拡大を決めたことで、医療、介護双方の負担増は難しいとの判断が働いたとの見方があります。

2021年度以降の介護保険改革の動向について

2021年度から実施予定の介護保険改革で何が変わる?

2021年度介護保険制度改革では多くの案が先送りになり、厳しさを増す介護保険を巡る環境に対応できるとは考えにくい現状にあり、今後の課題となっています。

今後は、人口的にボリュームが大きい団塊世代が75歳以上になる2025年に向けて、介護保険制度は「介護保険財源の不足」「介護現場における労働力の不足」という課題に直面していると考えられます。

(1) 介護保険財源の不足 介護保険に関する自己負担を含む総費用が、制度創設時の3倍に相当する約10兆円にまで増加し、65歳以上高齢者の基礎年金から天引きされる保険料の全国平均は、月額5,819円となっています。 一方、基礎年金の平均支給額は月約5万円であることを踏まえると、これ以上の大幅な引き上げは困難になっており財政が逼迫しています。

(2) 介護現場における労働力の不足 ①介護人材の絶対的不足 生産年齢人口の減少を受けて、2025年に向けて約55万人の介護従事者が不足すると言われています。国内人材の確保対策を充実・強化していくことを基本としながらも、政府は外国人の介護職を拡大するなどを模索しています。介護人材の不足は依然として深刻で報酬の改善も十分進んでいません。今後も継続した課題となります。

②介護分野における外国人人材に関する諸制度や動向について 外国人介護人材の受入れについては、下記のような動向があり拡大傾向です。

a. EPA(経済連携協定)による経済活動の連携強化を目的とした特例的な受入れ 現在、インドネシア、フィリピン、ベトナムの3ヵ国から人材受入れを行っています。しかし、日本語能力や試験制度などの受け入れ制度に課題があり受け入れが不十分です。

b. 技能実習―日本から相手国への技能移転 外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習の保護に関する法律が平成29年11月1日施行し、対象職種に介護を追加しました。

c. 資格を取得した留学生への在留資格付与―専門的・技術的分野への外国人人材の受入れ 介護福祉士養成施設を卒業し、介護福祉士資格を取得した者を対象とする在留資格「介護」を創設する「入管法一部改正法」が平成29年9月1日施行されました。これにより日本の介護専門学校への外国人の入学が増加しました。

2021年度以降の介護保険改革活用のための準備

2021年度から実施予定の介護保険改革で何が変わる?

(1) 2021年度介護保険改革の動向に注意すること。 介護に関する財源不足問題、介護人材の不足問題がありますが、関連する多くの課題が先送りになりました。今後2021年度改革でどのような点に改善が見られるのか、また、2024年度改革ではどのようになるかの可能性があるかも含めて注意しておくことが重要です。

(2) 特に、介護保険利用者の自己負担の増加に関わる分野に注意すること。 在宅サービス利用計画(ケアプラン)作成などケアマネジメント費への自己負担の導入や、 介護サービス利用時の自己負担割合の内、特に2割となる対象者を拡大することが検討されています。

(3) 自分の住んでいる地域の市区町村の介護事業・介護予防事業について調べておくこと。 「要⽀援1・2」における訪問介護・通所介護に係る介護予防⽀援は、地域⽀援事業へ移⾏済みですので、自分の住んでいる地域の市区町村の現状を調べておく必要があります。 また、総合事業(介護予防・日常生活支援総合事業総合事業)は、市区町村が地域の実情に応じたサービス提供を行っていますので調べる必要があります。

(4) 自分や家族の介護保険自己負担率を確認しておくこと。 介護保険認定済みであれば、自己負担が1割なのか、2割・3割なのかを確認しておきます。役所からの介護保険負担割合の資料で確認できます。

まとめ

(1) 介護保険制度改革は3年に1度行われること。 介護保険制度改革は現状では3年に1度行われ、次回は2021年度であり、次々回は2024年度であること。

(2) 介護保険利用者の自己負担の増加は先送りに 最大の焦点だった利用者負担見直しに関しては、財務省などの利用者の自己負担を2割にする、もしくは、2割の層を拡大する意見に対して、2021年度改革では現状据え置きになりました。 ケアプランの作成で新たに自己負担を徴収する案も先送りとなりました。

(3) 介護財源不足は根本的課題として依然存在 先送りになっても介護財源不足は根本的課題として依然存在しています。2024年度改革で検討されることになりました。

(4) 介護人材不足は本質的な課題 2021年度改革でも本格的なテーマに登らないほど介護人材不足は本質的な課題です。対応する具体案がない、もしくは、抜本的な解決先が見つからないと言って良いでしょう。政府は当面は、外国人人材の日本での介護専門学校への留学による人材養成の成り行きを見ると思われます。

(5) 介護保険の市区町村への移行問題 介護保険サービスの実施に関する国から市区町村への移行に関しては課題が多くあります。地方により地域により人口や利用者数、財源などで大きな差があるからです。 市区町村の地域支援事業とされた、「要⽀援1・2」における訪問介護・通所介護に係る介護予防⽀援や、総合事業(介護予防・日常生活支援総合事業総合事業)の実情においてもバラツキが大きく課題が残っています。