はじめに
現在、全世界で猛威を振るっている新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐには、人と人との接触を極力避けることが重要で、可能な人は在宅での仕事に切り替えています。オフィス内で行われていた会議や、報告書などの文書作成・配布などは、インターネットを利用して離れた場所でも可能な時代になりました。
インターネットを使ったオンライン会議やオンラインプレゼンテーションは、以前から導入している企業も多く、海外などの遠隔拠点と自社や自宅を結ぶコミュニケーションツールとして非常に便利です。今、そのツールが法要にも取り入れられようとしています。
新型コロナウイルス感染症の予防には、3密(密閉、密集、密接)を避けることが重要である、と繰り返し注意喚起がなされていることや、愛媛県松山市で通夜と告別式の参列者に新型コロナウイルス感染症の集団感染が発生したことなどから、今は葬儀、法要も最小限にすることを求められています。
そのようななか、インターネットを使った「リモート法要」という新たな形式を提唱する寺院や葬儀社もみられるようになりました。葬儀や法要のリモート化とは具体的にどのようなものか、またそのメリットやデメリットを解説します。
リモート法要とは
リモート(remote)とは、もともと「距離的に遠い」、「遠隔の」という意味です。「リモートワーク(remote work)」は直訳すれば遠隔作業のことで、日本では在宅勤務を指すことがほとんどです。その他「テレワーク(telework)」ということばもあり、こちらも在宅勤務を意味しています。
これにならい、僧侶がインターネットを通じて読経や法話のライブ配信を行うのがリモート法要です。オンライン法要、ウェブ法要とよばれることもあり、いずれも内容はほぼ同じです。
参加者は寺院におもむくことなく、自宅にいながらパソコンやタブレット、スマートフォンに送られてくる映像に合わせ、法要に参加するというものです。
今回、新型コロナウイルス感染症の拡大で緊急事態宣言が発出され、人との接触機会の8割削減を目標とされました。人びとは、3つの密(換気の悪い密閉空間、多数が集まる密集場所、間近で会話や発声をする密接場面)を避けることを要請されています。
葬儀や法要は3つの密が発生する危険が非常に高い場所です。3密を避けるという意味では、リモート法要は現状に即した方法と考えられます。
リモート法要の具体例
リモート法要に最小限必要なものは、以下のとおりです。
・インターネット端末
・インターネット回線
・Webカメラ
・スピーカー
・マイク
・Web会議ソフト
次に、現在リモート法要を提供している葬儀社や寺院の、具体的な配信方法などをご紹介します。
株式会社西田葬儀社(愛知県)のネット遥拝サービス
こちらの葬儀社では、いち早くインターネットを活用した遠隔式参列システムサービスの提供を開始しました。遥拝(ようはい)とは「離れた場所から拝むこと」を意味します。Zoomを利用し、最大100名まで無料で同時接続が可能です。
式場側では、式場後方に設置されたWebカメラによる僧侶の読経映像の配信を行い、参加者側は自宅のパソコン、タブレット、スマートフォンなどで生配信を観ることができるというものです。式場内のスクリーン上には、Zoomで参加している人たちの姿を映すこともできます。
浄土宗一向寺(栃木県)の動画配信
こちらのお寺では、施主からオンライン法事の相談を受けたため、Skype(スカイプ)を使った配信を行いました。実際にお寺の法要に参列できたのは3名のみで、施主が住職の読経や焼香シーンを動画に撮り、参列できなかった多くの親族に向けSkypeによるライブ中継を行ったとのことです。
一向寺ではこれをきっかけに、本堂にWi-Fi環境を設置しました。
浄土真宗本願寺派賢明寺(福岡県)のオンライン仏事
こちらのご住職は、オンライン仏事の提供を開始し、必要な機材に関する情報をYouTubeで配信しています。
オンライン仏事を導入した一番の理由は新型コロナウイルス対策とのことですが、将来的にもオンライン仏事が増えるものと考え、今回導入したそうです。
こちらのお寺では、インターネットが使えない人のために、音声のみになりますが、電話を使った仏事も執り行うとのことです。通信ソフトは利用者の希望に応じて、Skype、Zoom、LINEなどが対応可能です。
一般社団法人法要普及協会のオンライン法要
こちらは既成教団の寺院住職10名が発起人となり設立された協会で、「つながる法要 以心伝心」を提供します。専用機器(タブレット端末)の無料貸し出しを行うため、端末機器を持っていない人も利用が可能です。タブレットの使い方も非常に簡単で、ボタン一つで本堂とつながる設定になっています。読経後には、僧侶とオンラインで会話をすることもできます。
リモート法要のメリット
リモート法要は新たな試みですが、感染防止の観点からは多くのメリットがあります。
3密の回避
新型コロナウイルスは人と人の接触で感染するため、物理的な距離を保つことができるリモート法要は、感染防止の理にかなった方法です。
場所が「密閉」している会議室や多目的室、塾や図書館、映画館、カラオケボックス、人が「密集」しているテーマパークや商業施設、スーパー、学校、レストラン、ライブハウスは危険が高いとされ、近い距離で会話をしたり、同じ空間に長時間一緒にいたりすることは、場所がどこであれ「密接」になります。
法要の場を思い浮かべると、3密にほぼ該当しますので、参加者が自宅などで遠隔地にある寺院から僧侶の読経を聞くことができれば、3密の回避になります。
高齢の人や基礎疾患のある人も参加できる
新型コロナウイルスに感染した際に重症化しやすい、高齢者や基礎疾患のある人は、法要を行うとしても参列を控えてもらうことになります。そのような感染リスクの高い人も、リモート法要であれば自宅にいながら法要に参加が可能です。
また、従来の法要には参列するのが困難だった、寝たきりの人や足の不自由な人も、パソコンやタブレット、スマートフォンを通じて法要に参加することができます。
遠方の人も参加できる
現在、県をまたいだ移動は極力避けるように要請されています。ゴールデンウィークも実際の帰省はせず、ビデオ通話などを使ったオンライン帰省が強く勧められました。
リモート法要であれば、他県の人も参加することができます。また、海外在住で法要に参列をあきらめていた人も参加が可能になります。
リモート法要のデメリット
次に、リモート法要のデメリットについて説明します。
すべての人に受け入れられるわけではない
リモート法要には多くのメリットがありますが、今日まで長く続いてきた伝統的な仏事とは様相がかなり異なります。どのような分野においても、新しいものに抵抗を示す人がいることを念頭におかなくてはいけません。
遺族や親族のなかに反対する人がいた場合の対応を、あらかじめ考えておく必要があります。
臨場感がない
インターネットで寺院と自宅とをつなぎ、参加者がパソコンの前で手を合わせたり焼香したりする形では、従来の法要にあるような臨場感は得られません。法要に集まる人たちとのリアルな会話、お布施や香典の受け渡し、会食などはオンラインではできませんので、実際の法要にくらべて質的には一段劣るという印象は否めません。
ネットリテラシーの問題
この20年ほどのあいだにインターネットの利用者数は拡大し、今ではパソコンは特別な人が持つものではなく、生活家電の一つと言ってもよいほど普及しています。
しかし、なおインターネットやパソコン、スマートフォンなどを利用していない人もいます。そういった人たちにとって、インターネットを使ったリモート法要は、かなり敷居の高いものになります。
インターネット回線の安定性
インターネットはめざましい発達をとげ、現在では低料金の定額制で利用が可能で、通信も常時接続で安定し、動画などの大きなデータも送受信できるようになりました。
しかし、突然回線が途切れて復旧までに時間がかかることも、まったくないわけではありません。法要の途中に回線トラブルが起こると、その法要を中断せざるを得ない場合もあります。これはリアルな法要では決して発生しない問題ですので、心にとめておくべきことです。
リモート法要の今後
オンライン会議は、一か所に集まらなくても遠隔地から参加できるツールとして普及してきました。業務以外でも、離れて住む家族同士がオンラインで会話をするのは日常的になり、オンライン英会話など、習い事もインターネットを使って可能になりました。
仏事の世界でもオンライン会議ツールを利用するのは、よいアイディアです。人と人が直接接触しないという意味で、リモート法要(オンライン法要、ウェブ法要)は、有益なツールになりうるでしょう。今回のコロナ禍に限らず、今後リモート化が定着すれば、高齢者や身体の不自由な人でも遠方の法要に参加できるようになります。
しかし、法事のために、飛行機や列車、車で長距離を移動して故郷に帰ること、慣れ親しんだお寺で僧侶の読経を聞いたり、家族や親せきが一堂に会して故人の思い出を語りながら会食をしたりすることは、親しい人たちとの絆を再認識する貴重な機会です。
インターネットでは得られないリアルさ、臨場感を求める人にとっては、リモート法要は物足りないものとなるかもしれません。
今回のコロナ禍の終息が見えないため、当面はリアルな法要に代わるものとして、有力な候補となるのがリモート法要、ということになるでしょう。
まとめ
新型コロナウイルス感染症が蔓延して、自由な外出もままならない現在、葬儀や法要をどのように行うかは大きな課題です。葬儀社や寺院では各自対応策を考えている最中、といったところのようです。
リモート法要は、感染症の蔓延時や地理的な問題や身体的な問題で法要に参列できない人への対応にとどまるのか、将来的に主流の法要スタイルになるのか、今の段階では何とも言えないところです。
なお、火葬場はもともと撮影禁止とされていますので、動画などの配信もできないことを付け加えておきます。