60歳からの保険の選び方

保険

はじめに

わが国の平均寿命は年々記録を更新していて、「人生100年時代」も現実味をおびてきました。昨今、60歳といえばまだ若く、精力的に仕事や趣味、ボランティアに打ち込んでいるシニアも多いことでしょう。60歳で定年退職を迎えたとしても、再雇用制度などで仕事を続ける人がほとんどです。

60歳といえば、平均的な家庭では子どもたちも独立したか、それに近い年齢で、教育費の負担は終わっているとともに、現役時代より収入も減少している世帯もみられます。

50歳代から60歳代にかけては、ライフスタイルの変化を迎える人が多くなります。経済面では、60歳前後は将来を見据えて家計の見直しをはかり、資産寿命を引き延ばす努力をする時期です。年金生活への移行時期には、少しずつ生活を小さくしていくことが望ましく、加入している保険の再検討も必要です。

この記事では、60歳からの保険の見直し方や、新たに加入する際のチェックポイントを考えてみます。

生命保険の加入状況

60歳代で保険に加入している人、受け取る保険金額、支払っている保険料はどれくらいでしょうか。生命保険文化センター「平成30年度生命保険に関する全国実態調査」から、特に60歳前後の人の状況を中心にみてみましょう。

生命保険(個人年金保険を含む)の加入率

まずは、個人年金保険を含む生命保険の加入率はどうでしょうか。

*全世帯の加入率
生命保険の世帯加入率は、全生保(民間の生命保険、簡易保険、JA、県民共済・生協など)で88.7%(前回の平成27<2015>年は89.2%)、民間の生命保険のみでは79.1%(前回78.6%)です。平成18(2006)年からの推移をみると、全生保は平成24(2012)年から減少傾向で、民間の生命保険については平成21(2009)年以降は増加傾向になっています。

*世帯主年齢別の加入率
世帯主が40歳から64歳では、生命保険の加入率は90%を超えており、「55~59歳」で94.1%、「60~64歳」で92.1%と、非常に高くなっています。

*世帯当たりの加入件数
生命保険に加入している世帯の平均加入件数(全生保)は3.9件(前回3.8件)となっています。平成18(2006)年から時系列でみると、大きな差異はありません。1世帯につき、世帯主の平均加入件数が1.9件、妻が1.7件、子どもが1.2件でした。

加入金額

次に、受け取る保険金額.はどのくらいが多いのでしょうか。

*全世帯の死亡保険金
世帯の普通死亡保険金額(全生保)の平均は2,255万円(前回の平成27<2015>年は2,423万円)となり、前回より168万円減少しました。世帯主の死亡保険金額の平均は1,406万円、妻が758万円でした。

*世帯主年齢別の死亡保険金
1世帯の普通死亡保険金額を世帯主の年齢別にみると、「50~54歳」で最も高く、3,183万円です。「55~59歳」では2,618万円、「60~64歳」では2,493万円、「65~69歳」では1,615万円となっており、50~54歳をピークに年齢が高くなるとともに、死亡保険金額は少なくなります。

*疾病入院給付金
病気に入院した際に支払われる給付金をみると、世帯主の疾病入院給付金日額(全生保)の平均は9.9千円(前回の平成27<2015>年で9.6千円)で、妻の平均は8.4千円(前回8.3千円)でした。

年間払込保険料

それでは、各世帯は年間どのくらいの保険料を支払っているのでしょうか。

*全世帯の払込保険料
1世帯で1年間にどれくらいの保険料を支払っているかをみると、平均38.2万円(前回38.5万円)です。月額にすると約3.2万円となります。

*世帯主年齢別の払込保険料(世帯全体の合計金額)
世帯主年齢別では、「50~54歳」で最も高く、48.3万円でした。「55~59歳」で45.3万円、「60~64歳」で43.9万円、「65~69歳」で33.8万円となっています。払込保険料も50~54歳をピークに年齢とともに減少しています。

直近加入の生命保険
*加入目的

  • ①医療費・入院費のため 57.1%
  • ②万一のときの家族の生活保障のため 49.5%

*情報入手経路

  • ①生命保険会社の営業職員46.5%
  • ②保険代理店15.8%

*加入チャネル

  • ①生命保険会社の営業職員53.7%
  • ②保険代理店の窓口や営業職員17.8%

出典:生命保険文化センター「平成30年度生命保険に関する全国実態調査」

60歳前後で保険の見直しが必要な理由

先に紹介した調査結果から、50歳代後半から60歳代にかけて、負担する保険料は次第に減少しています。つまり、生命保険にかける出費は、年齢が上がるとともに少なくなる傾向にあるということです。

理由としては、子どもの独立で高額な死亡保障が必要なくなったこと、定年退職による収入減少で保険料の支払いが負担になることなどが考えられます。60歳前後はライフスタイルが大きく変化する時期でもあるため、保険の見直しをするよい機会です。

シニア世代では、子どもの独立後は死亡保険の必要保障額は少なくてもよくなりますが、一方で年齢とともに病気やケガのリスクが高くなります。

そのため、入院することになった場合にどれくらいの費用が必要になるかを念頭におき、医療費をカバーする医療保険の内容を重点的に見直すのがよいと一般的にはいわれています。

入院に備える医療保険

医療保険とは、病気やケガによる入院や、手術が必要な際に保障が受けられるものです。基本的には入院1日あたりに決まった金額の保障がつき、その金額×日数分が入院給付金になります。

最近の医療保険は、先進医療を受けたり、がん・急性心筋梗塞・脳卒中などに備る特約が付加される商品がほとんどです。特約の例としては、以下のようなものがあります。

*3大疾病保障特約:ガン、急性心筋梗塞、脳卒中が保障される

*8大疾病保障特約:3大疾病および5つの重度慢性疾患である高血圧症・糖尿病・慢性腎不全・肝硬変・慢性膵炎が保障される

*女性疾病保障特約:乳がん、子宮がん、卵巣がん、子宮筋腫、子宮内膜症、卵巣嚢腫、流産、妊娠・分娩および産褥の合併症が保障される

*先進医療保障特約:高周波切除器を用いた子宮腺筋症核出術、陽子線治療、重粒子線治療などを行った際に保障される

<先進医療とは>
公的医療保険制度による保険給付の対象になっていない、つまり健康保険が適用されない高度の医療技術のうち、厚生労働大臣が認める医療技術で、適応症および実施する医療機関が限定されている治療法です。2019年10月1日現在、先進医療の対象となっている医療技術は87種類あります。

先進医療の技術にかかる費用は全額自己負担となるため、1件あたり200万~300万円と非常に高額になります。先進医療の特約により500万~2,000万円までカバーされる商品があり、がんなどの治療の際に、選択肢が広がる利点があります。

入院時の自己負担額

入院した際に支払う医療費(自己負担額)はおおよそどれくらいになるのか、生命保険文化センター「令和元年度生活保障に関する調査」の数値をみてみます。

直近の入院時の入院日数は平均で15.7日、年齢別にみると年齢が上がるほど入院日数が長くなっています。

直近の入院時における自己負担費用の平均は20.8万円で、費用の分布をみると「10~20万円未満」が30.6%、「5~10万円未満」が25.7%、「20~30万円未満」が13.3%、「30~50万円未満」が11.7%でした。

出典:生命保険文化センター「令和元年度生活保障に関する調査」

医療保険にいくら必要か

生命保険文化センターの調査結果では、入院時の自己負担費用の平均は20.8万円でした。この数値はあくまで平均ですので、がんなど重大な疾病にかかりやすくなるシニア世代以降では、医療保険にウエイトをおいた保険に加入しておくと安心です。

日本におけるがん統計は、罹患データは2~3年、死亡データは1~2年遅れて公表されていますが、2019年のがん予測統計から罹患数をみてみます。

がん罹患率が多い部位は、順に、肺、大腸、胃、膵臓、肝臓です。それぞれのがんの平均医療費自己負担額と平均入院日数をみると、医療費は3割負担として18万~20万円、入院日数は11~12日ほどです。ただし、がんのステージにより差が出ますので、あくまで目安となります。

60歳からの保険の見直しと新規契約

60歳で保険の見直しをする場合、大きく分けて

  • ①すでに加入済みの保険の内容を見直す
  • ②新たに保険に加入する

の2通りが考えられます。
加入済みの保険に関しては、かなり若いころに加入して継続しているものもあるでしょう。

一般的に、若いうちに加入する方が、保険料は安く設定されています。また年齢が上がるにつれて死亡や病気のリスクが高くなるため、若いころに加入していた保険は、よほどの事情がない限り解約しないようにします。

シニア世代になってから新たに保険に加入するには、保険料が割高だったり、条件が厳しかったりするからです。

生命保険の減額

保険料の支払いが困難になったり、高額な死亡保険が必要なくなったりしたときには、減額を検討してみましょう。保険はいったん解約すると、元の契約に戻すことはできませんので、受け取る保険金を減額することで、支払う保険料の負担を軽くするのが得策です。

減額するきっかけには、以下のような事例があります。

住宅購入

住宅ローンを組むと、団体信用生命保険に加入するため、万一のときに住宅ローンの返済が不要になります。それまで加入していた生命保険の、住宅費分の保障が必要なくなりますので、減額を検討しましょう。

子どもの独立

子どもが大学を卒業するまでは、親に万一のことがあった場合に備えるために必要だった大きな保障も、子どもが社会人になったり、独立した後は必要がなくなります。

収入の減少

定年退職以外でも、何らかの事情で収入が減少し、保険料を支払い続けるのが困難になった場合は減額を考えます。

持病がある人の保険加入

新たに保険に加入する際に問題になるのが、「持病がある場合の加入」です。本来保険とは、健康な人が万が一のときのために入るものです。加入する時点で、契約者が健康であることを前提に契約が成り立つのが保険の性質です。

生命保険に加入する際は、被保険者(保険に加入する人)の健康状態を保険会社に告知する必要があります。持病や既往症がある場合、保険に加入できなかったり、同年齢の健康な人より保険料が高くなったりするのが一般的です。

シニア世代で、まったく体の不調も既往症もない、という人はごく少数でしょう。持病や既往症がある人が保険に加入するには、以下のような方法があります。

条件付きの加入

持病や既往症がある人に対して、一定の条件のもとに加入できる保険があります。ただし、保険会社や商品により基準が異なりますので、事前に確認したり、複数の保険会社に問い合わせたりしましょう。

*保険料の割り増し
一定の条件下で、払い込む保険料が割り増しとなるものです。同じ保障内容でも、持病がある人の場合は保険金額を上乗せして加入できるというものです。

*保険金の削減
持病のある人は、一定の期間、保険請求を行った場合に受け取れる保険金額が削減されるものです。

*特定部位不担保・特定疾病不担保
医療保険に適用される条件で、特定の身体の部位や特定の病気の治療に対して、一定の期間、保障の対象外になるものです。健康な人との公平性を保つための対応となります。ただし、告知内容によっては、医療保険の加入そのものができない恐れもあります。

引受基準緩和型・限定告知型の保険

通常の保険に比べると審査基準がゆるく、告知しなくてはならない内容も限定されている保険です。持病や既往症がある人でも加入しやすい保険ですが、その分保険料は割高になります。

無選択型保険

告知が不要な保険で、持病がある人でも加入が可能です。ただし、加入時に治療中の病気については保障対象外で、加入してから一定期間は受け取れる保険金額や給付金額が減額されている商品です。

まとめ

50歳代から60歳代は、子育てや住宅ローンが終わって一安心するとともに、自分の健康には次第に不安を覚えてくる年代です。いざというときに頼りになるのが生命保険で、何らかの保険に加入している人の割合は、40歳から64歳では90%を超えています。

シニア世代は、定年退職や子どもの独立などライフスタイルの変化に応じて、保険の見直しを行うべき時期です。子どもの独立後は死亡保険を減額し、一方で病気のリスクが高くなるため、医療費の保障を厚くするなど、状況に合わせて見直しをしましょう。

保険は、取り扱う保険会社も商品も非常に多いため、選択に迷うことが多く、内容も複雑でわかりづらいと感じる人がほとんどかもしれません。今はインターネットで情報を得られるので、まずは保険関係のサイトにアクセスし、基本的な知識を身につけることから始めてはいかがでしょうか。

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