本当は怖い“相続税の延納と物納”

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はじめに

相続税が高額になった場合や納税資金が乏しいとき、国税庁では金銭納付を第1としながらも特例として延納と物納という制度を設けています。

しかし、延納では要件もあり利子も付きます。
また、物納では不動産が中心になりますが、どのような不動産でも良いわけではありません。

延納や物納で何とかなると考える前に制度についてよく知っておきましょう。
思わぬ落とし穴がないか、延納や物納が適用されるのかなども含めて紹介します。

相続税の延納と物納の制度とは

相続税の納付の方法には、金銭による一括納付(金銭納付)、年賦による分割納付(延納)及び相続財産による納付(物納)があります。

原則は金銭納付ですが、相続財産の状況や相続人の所有している財産の状況、収入や支出の状況及び近い将来における臨時的な収入や支出の状況を踏まえて、納付資力の確認を行います。
また、金銭納付が難しい場合は、延納又は物納の要件を備えているかどうかを検討します。

納付方法の検討

相続税額を計算した後に、納付方法を検討します。

金銭納付の検討

納付方法の検討に当たっては、まず、金銭による納付の可否を検討することになります。
納期限等までに金銭によりその相続税の全額を納付できるかどうか、又は納期限等までに納付できる金額はいくらかを算定します。

・期限内に金銭で全額を納付することが困難な場合
一定の年数の年賦による分割納付を行うことができるかどうかを算定します。

延納による金銭納付

納期限等までに金銭で一度に納付することが困難な場合には、その困難な金額を限度として、一定の要件の下で、年賦による分割納付を行うこと(延納)ができます。

・延納のできる期間
課税相続財産に占める不動産等の割合に応じて5年~20年間となっています。

・利子税
延納する相続税額に対しては利子税がかかります。
延納の許可を受けた後に延納を継続することが困難となった場合には、一定の要件の下で物納に変更することができます。

物納

延納によっても金銭で納付することが困難な場合は、その困難な金額を限度として、一定の要件の下で、相続財産による納付を行うこと(物納)ができます。

延納制度のあらまし

国税は、金銭で一度に納付することが原則ですが、申告又は更正・決定により納付することになった相続税額などが10万円を超え、納期限までに、又は納付すべき日に金銭で納付することが困難な場合には、困難な金額を限度として、申請書を提出の上、担保を提供することにより、年賦で納めることができます。

これを「延納」といい、延納期間中は利子税がかかります。

延納の要件

延納の要件に該当するのは、以下になります。

a. 相続税額(贈与税額)が10万円を超えていること
b. 金銭で納付することが困難な金額の範囲内であること
c. 『延納申請書』及び『担保提供関係書類』を期限までに提出すること
d. 延納税額に相当する担保を提供すること

利子税

税金のこの納付期限を過ぎて納税した場合には、税金本体の金額に加え、いわゆる利子に相当する税が課され、併せて納付することになります。
これを利子税と呼び、延納できる期間及び延納にかかる利子税の割合は、相続財産に占める不動産等の割合に応じて定められています。

利子税の税率は令和3年1月1日以降、年1.0%として計算されます。
延納や物納の場合の利子税は、この年1.0%を基準に、相続財産の状況に応じて別途定められています。

*国税庁 相続税の延納
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4211.htm
令和3年の年利は下記の「特例割合」の利率です。
なお、特例割合は年により変動しますので税務署に確認してください。

a. 不動産等の割合が75%以上の場合
ァ.動産等に係る延納相続税額
延納期間 (最高10年) 延納利子税割合 (年割合5.4%) 特例割合0.7%
ィ.不動産等に係る延納相続税額(③を除く)
延納期間 (最高20年) 延納利子税割合 (年割合3.6%) 特例割合0.4%
ゥ. 森林計画立木の割合が20%以上の場合の森林計画立木に係る延納相続税額
延納期間 (最高20年) 延納利子税割合 (年割合1.2%) 特例割合0.1%

b. 不動産等の割合が 50%以上75%未満 の場合
ァ.動産等に係る延納相続税額
延納期間 (最高10年)延納利子税割合 (年割合5.4%) 特例割合0.7%
ィ.不動産等に係る延納相続税額(③を除く)
延納期間 (最高15年)延納利子税割合 (年割合3.6%) 特例割合0.4%
ゥ. 森林計画立木の割合が20%以上の場合の森林計画立木に係る延納相続税額
延納期間 (最高20年)延納利子税割合 (年割合1.2%) 特例割合0.1%

c. 不動産等の割合が 50%未満 の場合
ァ. 一般の延納相続税額
延納期間 (最高5年)延納利子税割合 (年割合6.0%) 特例割合0.8%
ィ. 立木の割合が30%を超える場合の立木に係る延納相続税額
延納期間 (最高5年)延納利子税割合 (年割合4.8%) 特例割合0.6%
以下略

注)「不動産等」とは、不動産、立木、不動産の上に存する権利、事業用の減価償却資産並びに特定同族会社の株式及び出資をいいます。

延納できる期間

相続税の延納税額が150万円未満の場合には、不動産等の価額の割合が50%以上であっても、延納期間は、延納税額を10万円で除して得た数に相当する年数を限度とします。

例:延納税額125万円の場合の計算方法
125万円÷10万円=12.5≒13 延納期間13年

標準的な審査期間など

延納申請が行われた場合には、延納申請書の提出期限の翌日から起算して3ヶ月以内に許可又は却下を行います。

ただし、延納申請に係る担保財産が多数ある場合や積雪などの気象条件により担保財産の審査ができない場合などには、審査期間を最長6ヶ月まで延長する場合があります。

連帯納付義務

相続税の納付については、下記の場合を除き、各相続人等が相続又は遺贈により受けた利 益の価額を限度として、お互いに連帯して納付しなければならない義務があります(相続税法第34条第1項)

・本来の納税義務者の相続税の申告書の提出期限等から5年以内に、相続税法第34条第6項に規定する「納付通知書」を発していない場合
・本来の納税義務者が延納の許可を受けた相続税額に係る相続税
・本来の納税義務者が農地などの相続税の納税猶予の適用を受けた相続税額に係る相続税

物納制度のあらまし

相続税額を納期限までに、又は納付すべき日に延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合には、困難な金額を限度として、申請書及び物納手続関係書類を提出の上、一定の相続財産で納付することが認められています。

これを「物納」といいます。

物納の要件

物納の要件に該当するのは以下になります。

a. 延納によっても金銭で納付することが困難な金額の範囲内であること
b. 物納申請財産が定められた種類の財産で申請順位によっていること
c. 『物納申請書』及び『物納手続関係書類』を期限までに提出すること
d. 物納申請財産が物納に充てることができる財産であること

物納に充てることのできる順位と財産の種類

管理処分不適格財産、物納劣後財産に該当していないことを確認する必要があります。
物納劣後財産は、他に物納に充てることのできる適当な価額の財産がない場合に限って、物納に充てることができます。

a. 物納に充てることのできる財産の順位<第1順位>
・物納に充てることのできる財産の種類
ァ. 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等
ィ. 不動産及び上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの

b. 物納に充てることのできる財産の順位<第2順位>
・物納に充てることのできる財産の種類
ゥ. 非上場株式等
ェ. 非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの

c. 物納に充てることのできる財産の順位<第3順位>
・物納に充てることのできる財産の種類

(注)物納に充てることのできる順位はア→オとなります。

物納に充てられない不動産

管理処分不適格財産と言われるものです。

a. 担保権が設定されていること、その他これに準ずる事情がある不動産
・抵当権の目的となっている不動産
・譲渡により担保の目的となっている不動産
・差押えがされている不動産
・買戻しの特約が付されている不動産
・その他処分が制限されているもの

b. 権利の帰属について争いがある不動産
・所有権の存否又は帰属について争いがある不動産
・地上権、永小作権、賃借権その他の所有権以外の使用及び収益を目的とする権利の存否又は帰属について争いがある不動産

c. 境界が明らかでない土地
・境界標の設置がされていないことにより他の土地との境界を認識することができない土地
・土地使用収益権(地上権、永小作権、賃借権等)が設定されている土地の範囲が明らかでない土地

d. 隣接する不動産の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の使用ができないと見込まれる不動産
・隣地に存する建物等が、境界線を越える当該土地
・物納財産である土地 に存する建物等が、隣地との境界線を越える当該土地

e. 土地使用収益権の設定契約の内容が、設定者にとって著しく不利な場合における当該土 地

f. 建物の使用・収益を する契約の内容が、設 定者にとって著しく不利な当該建物

物納に充てられない株式

管理処分不適格財産となります。

a. 譲渡に関して金融商 品取引法その他の法令の規定により一定の手 続が定められている株式で、当該手続がとられていない株式
b. 譲渡制限株式
c. 質権その他の担保権の目的となっている株式
d. 権利の帰属について争いがある株式
e. 二以上の者の共有に属する株式
f. 暴力団員等によりその事業活動を支配されている株式会社又は暴力団員等を役員(取締 役、会計参与、監査 役及び執行役をいう。)とする株式会社が発行した株式

物納劣後財産

他に適当な財産がない場合には物納できる財産となります。

a. 地上権、永小作権若しくは耕作を目的とする賃借権、地役権又は入会権が設定されている土地
b. 法令の規定に違反して建築された建物及びその敷地
c. 土地区画整理事業などによる土地につき、仮換地又は一時利用地の指定がされていない土地など
d. 現に納税義務者の居住の用又は事業の用に供されている建物及びその敷地
e. 配偶者居住権の目的となっている建物及びその 敷地

審査期間

物納申請が行われた場合には、物納申請書の提出期限の翌日から起算して3ヶ月以内に許可又は却下を行います。
ただし、物納申請財産が多数 ある場合や積雪などの気象条件により財産の確認ができない場合などには、この審査期間を最長9ヶ月まで延長する場合があります。

利子税

物納申請が行われた場合には、物納の許可による納付があったものとされた日までの期間のうち、申請者において必要書類の訂正等又は物納申請財産の収納に当たっての措置を行う期間、却下等が行われた日までの期間について利子税がかかります。

相続税の延納と物納の注意点

延納申請では担保が必要ですが、物納と同様に延納にも担保に使えない要件があります。
下記のものが担保にならないものです。

法令上、担保権の設定又は処分が禁止されているもの

抵当権を設定できない不動産などです。
不動産の場合、抵当権の設定登記をすることで国は第三者に対して対抗することができます。

担保の設定がされていないと、いつ売却されてしまうか国はわからないため抵当権を設定することができない不動産や処分が禁止されている財産は担保物件としては不適格とされています。

違法建築や土地の違法利用のための建物除去命令がされているもの

違法に建てられた建物や違法に利用されている不動産は国として担保として扱うことはできません。
例えば、建蔽率や容積率が基準を超えている場合、建物で建築基準法に則って建築されていない場合、後で増築した物件等が法令上の制限に抵触している場合などがあります。

共同相続人の間で所有権の争いがあるもの

所有者の間で争いがある財産は権利の帰属に問題があり、担保物件として不適格であるとされています。

共有不動産で共有者全員から担保の承諾が得られないもの

共有不動産の場合、自分が持っている持分だけを担保に設定することは制度上可能ではありますが、通常は行われていません。
持分だけを処分することは著しく処分に際して不利益を生じることとなるためです。

売却できる見込みがないもの

流通性に欠けている物件は対象にはなりません。

担保価値の少ないもの

担保財産の価格は掛け目を考慮した後の価額が、延納額に一回目の利子税額の3年分に相当する額を加算した金額以上であることが必要とされています。

担保の存続期間が延納期間よりも短いもの

延納期間は不動産の割合にもよりますが、20年などの長期間に及びます。
担保物件の存続期間がそれよりも短い期間の場合には途中で担保価値がなくなってしまいます。
不動産で自動車や機械設備など耐用年数が短いものは注意が必要です。

第三者又は法定代理人等の同意が必要な場合に、その同意が得られないもの

第三者が所有している物件を担保とする場合には、同意が必要になります。
その他、法定代理人等の同意が必要な案件で該当します。

相続税の延納と物納のための準備

相続税の延納と物納のために準備できることを見ていきましょう。

相続財産と相続税額の把握

近い将来被相続人が亡くなり、相続が予想される場合は概算で相続財産額、相続財産の種類、法定相続人であれば自分の相続分と相続額の概算などを把握します。
課税価格に基づき、自分の納税課税額を概算で想定します。

納税資金の確認

相続する財産が不動産か預貯金や有価証券雄金融資産か、またその比率や対象物件を想定します。
不動産が中心の場合は、相続財産と自分の所有金融資産で納税資金が足りるかを想定します。

不動産の売却の検討

相続財産が不動産中心の場合で納税資金が不足している場合は、不動産のすべて、もしくは部分的売却を検討します。
その場合、対象不動産の流通性があるかどうかを検討します。

担保要件に該当するかどうかの確認

延納での担保、物納での物件要件に合致した物件であるかの確認をします。
営業中の賃貸アパートやマンションを相続した場合は、相続税対策で行っている場合も多く、相続財産にマイナスの財産の債務を作るためや自己資金だけで建設できない場合に、金融機関の融資を受けている場合が多くあります。
その場合はすでに物件は金融機関の抵当権が設定されています。

延納の場合の、分割支払い額と利子税の把握と支払っていける見込みの判断

不動産などがある場合は不動産売却なしに税金を支払っていけるのか、また、利子税も含めて支払っていけるのかの判断が必要です。

まとめ

国税庁では金銭納付を第1としながらも相続税が高額になった場合や納税資金が乏しい時に、特例として延納と物納という制度を設けています。
しかし、制度はあっても、延納で支払いを先延ばしすることは利子税もかかり、必ずしも得策でない場合があります。

町では、住宅地の中に小規模な公園を見かけるときがあるでしょう。
これらの土地の多くは相続税などの税金の物納で納められ、物件が地方自治体に払い下げられた場合などです。
動産しか相続財産がない場合などでは、納税資金が不足し物納せざるをえない場合があります。

相続では資産は増えても換金性が弱い場合や換金したくない場合は、納税資金準備の対策が必要です。

終活と相続のまどぐち