本当は怖い“高齢者の無理な減塩”

健康

高齢者と減塩について

塩分の取り過ぎは、高血圧を招き、高血圧を原因とする、各種の循環器系の病気や生活習慣病全般にも関わるとされています。メタボリックシンドローム対策と合わせて、減塩対策は健康運動そのものとなっています。
しかし、減塩=健康というほど簡単でないのも事実です。過度の減塩の弊害もあるのです。
高齢者を中心とした減塩と病気との関係、行き過ぎた減塩の弊害、必要な適切な塩分コントロールなどについて紹介します。

塩分の重要性

塩分(塩化ナトリウム)は、人間の体内に常に一定の割合で含まれており、生命維持に欠かすことのできない重要な働きをしています。
多量の汗をかいたときなどは、急激に塩分が失われることがあるので注意が必要ですが、通常の食事や運動の範囲では、塩分が欠乏することはありません。

過剰な塩分は血圧を上昇させる。

塩分を摂りすぎると、血液中のナトリウムの濃度が高くなります。ナトリウム濃度が高くなると、それが中枢神経に働いて、のどが渇き、人は水分を摂ります。水分を摂ると、血管に流れる血液量が増え、血圧が高くなります。

つまり、塩分を摂りすぎると、体内のナトリウムと水分の量を調整するために血液量が増え、高血圧になるというわけです。

高血圧により動脈硬化、循環器系疾患に

高血圧状態が続くと、血管はいつも張りつめた状態におかれ、次第に厚く硬くなってしまいます。これが、高血圧による動脈硬化です。動脈硬化は脳梗塞、心筋梗塞などの原因にもなります。

また、高血圧状態を続けることは、心臓に無理な負担をかけることになり、心臓肥大や心筋梗塞、心不全の危険性もあると言われています。脳卒中や、腎不全など、多くの循環器系疾患が起こることになります。

国立循環器病研究センター病院の、健康診断を受診された方などを対象にした「血圧別の循環器疾患の発症率」の分析でも、やはり血圧が高くなるほど、循環器病を発症する割合が高くなっているデータがあります。

適切な塩分摂取の目安は?

適切な塩分摂取量についてはいろいろな意見がありますが、日本人はみそ汁やしょうゆの使用が日常的なため、もともと塩分の摂取量が十分か、多すぎるという意見があります。

そのような現状を反映し、厚生労働省が生活習慣病の予防を目的に示した目標量は、1日平均男性7.5g未満、女性6.5g未満となっています。(日本人の食事摂取基準2020より)

また、全国健康保険協会では、塩分は1日男性9g未満、女性7.5g未満の摂取が適量で、すでに高血圧が疑われる人は、1日6g未満としています。

日本高血圧学会では、食塩摂取量が非常に少ない地域では高血圧の人はみられず、加齢に伴う血圧上昇もほとんどないことが示されているとしています。
また、日本では塩分の摂取がまだ多く、一般の人の食塩摂取量について、欧米のいくつかの国では一般の人にも6g未満を推奨しており、世界保健機関(WHO)もすべての成人の減塩目標を5gにしたと言います。

日本高血圧学会減塩委員会は、高血圧の予防のために、食塩制限を可能であれば、血圧が正常な人にも1日6g未満を勧めています。

高齢者の無理な減塩の現状

減塩も、バランスを崩した無理な状態になると弊害が出ます。脱水症対策、熱中症対策では無理な減塩はマイナスで、塩分の補給が重要です。
白澤卓二氏(医学博士、白澤抗加齢医学研究所所長、お茶の水健康長寿クリニック院長)は、過度な減塩は弊害があるとし、塩の主成分であるナトリウムが血圧を維持しているのであり、無理な減塩をして必要なナトリウム量が得られなくなってしまうと、生命維持に必要な全身に血液を巡らせるための血圧を保てなくなってしまうとしています。
塩分を摂らないことで、喉の渇きを感じにくくなってしまい、脱水症状に陥るケースがあるということです。

熱中症は高齢者に多い。

厚生労働省人口動態統計では、熱中症死亡総数に占める65歳以上の割合は、1995年は54%でしたが、2008年は72%、2015年は81%に増加しており、高齢者の割合が急増しています。

熱中症になったときには水分、塩分の補給を

水分補給と大量の発汗があった場合には、汗で失われた塩分の補給も大切です。経口補水液やスポーツドリンク等が便利で、食塩水(水1ℓに1~2gの食塩)も有効です。

行き過ぎた減塩はミネラル不足になる。

ミネラルとは、塩の主成分のナトリウム、酸素を運搬する赤血球には鉄、骨や筋肉の収縮にカルシウム、その他にセレン、銅、亜鉛、マグネシウム、クロム、ヨウ素などの微量の元素を指します。

このミネラル群は、さまざまな代謝に深く関わっています。ミネラル補給源の一つである塩を、やみくもに減らしてはいけないという研究結果も報告されています。

高齢者にとっての減塩

高齢者にとって、減塩はどのような意味があるのでしょうか。

「減塩=病気を減らす」は証明不足

減塩することによって血圧が下がることから、減塩は有益だとされてきましたが、実際に疾患予防につながっているのかどうかについては、証明が不十分と言えます。「減塩=病気を減らす」という考えだけが独り歩きしていたのです。

「減塩=病気を減らす」ことに疑問を提起したのが、2013年にアメリカ医学研究所が出したレポートで、「減塩=病気を減らす」と言い切るにはエビデンス(証拠)が足りないのではないかとの見解です。これを契機に、減塩の問題についての研究が続出するようになりました。

減塩しすぎると心血管疾患のリスクがあるとの見解も

2014年、アメリカの著名な医学雑誌『』ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』に発表された論文では、10万人以上の人々を3.7年間にわたって追跡調査し、尿中に含まれるナトリウム量から計測した食塩の摂取量と、心血管疾患(心筋梗塞や狭心症など)になったり、それが原因で死亡したりするリスクの関係を調べた結果を発表しています。

そこで判明したのは、たしかに塩分の摂り過ぎによって疾患のリスクは増大するけれど、それと同時に、減塩の場合にもリスクが増えるということです。つまり、塩分の摂り過ぎと同様、塩を減らしすぎることにも心血管疾患のリスクがあることが示されたとしています。

認知症との関係は?

減塩は、認知症予防にも効果があるとの見解が出されています。
背景としては、2013年、イギリスの医学専門誌『ランセット』(The Lancet)に、イギリスでは認知症が減少したという研究結果が報告されました。

「認知機能と年齢」研究という、住民を対象にした臨床研究が20年以上前からイギリスでは行われています。この研究成果として、75歳以上のすべての年代で認知症が2~3割減少したと報告され、世界中の認知症研究者は驚きました。

イギリスでは減塩による高血圧予防や禁煙による動脈硬化予防が、循環器予防、ひいては認知症予防に結び付いたとしています。

また、NHKの報道でも「イギリスでは国を挙げて減塩対策に取り組んでおり、国民の塩分摂取量を8年間で1.4グラム削減に成功し、心筋梗塞や脳卒中の死亡率も4割減少」したとされています。

しかし、減塩と認知症の関係では証明が不十分な点もあり、今後の課題です。

減塩と心血管病との関係

食塩を摂りすぎると高血圧になりやすく、減塩は血圧を下げるということは多くの研究から確かと言えます。しかし,減塩が心血管病の発症を改善するかという点に関しては,動物実験では多くの成績がありますが、ヒトでは矛盾した報告もあると言います。

心血管病の原因は高血圧だけでないことからヒトで確かな成績を出すことが難しいことから矛盾した報告の原因となっています。しかし、矛盾した結果は減塩の有効性を否定できるほどのものではないというのが大多数の専門家の意見です。この点についても今後の課題です。

高齢者は減塩をどう捉えればいいのか

それでは、高齢者はどのように減塩を考えたらいいのでしょうか。

自分の血圧、持病の把握

血圧は高めでしょうか? 
また糖尿病や腎臓の具合はどうでしょうか? 
健康診断での数値はいかがでしょうか? 

自分の健康数値を把握します。

食習慣の把握と見直し

日本食は、カロリーの点で健康的な食事として評価されていますが、塩、しょうゆ、みそといった調味料から塩分を摂り過ぎる傾向があります。

塩分を摂り過ぎていると思う場合は、次のような点に心がけます。

・みそ汁はしっかりだしを摂り、具を多く入れてみその量を減らす
・刺身などには、しょうゆは少しだけつけ、つけた部分から食べるようにする。
・麺類を食べるときは、塩分の多い汁を残す。

味の濃いものを食べ慣れている人でも、薄味に慣れることが可能です。

塩分量の目安は下記のようなものです。調味料の小さじ1杯、大さじ1杯に含まれる塩分量の参考です。(単位g)

濃口しょうゆ  小さじ1 0.9g    大さじ1 2.6g
ウスターソース 小さじ1 0.5g    大さじ1 1.5g
薄口しょうゆ  小さじ1 1g     大さじ1 2.9g
中濃ソース   小さじ1 0.3g    大さじ1 1g
減塩しょうゆ  小さじ1 0.5g    大さじ1 1.4g
ケチャップ   小さじ1 0.2g    大さじ1 0.5g

夏場の脱水症対策、熱中症対策

特に高齢者は無理な減塩はマイナスです。適度な塩分と水分の補給をします。

高齢者の無理な減塩―まとめ

高齢者にとって無理がある減塩について、これまでの内容をまとめます。

塩分、ナトリウムの重要性

塩分は悪玉ではなく、生物に必須のものです。また、ナトリウムは大切なミネラルです。

行き過ぎた減塩はマイナスの場合もある。

脱水症対策、熱中症対策には塩分が重要です。適度な水分と塩分の補給が必要です。

塩分を摂り過ぎると高血圧になる。

大切な塩分でも、摂り過ぎると健康の上での危険因子になります。塩分を摂りすぎると、体内のナトリウムと水分の量を調整するために血液量が増え、血管壁に高い圧力が加わって高血圧になります。

高血圧は動脈硬化や生活習慣病につながる。

高血圧は、動脈硬化を促進したり、脳出血や心不全をもたらしたりします。動脈硬化が進むと動脈の内側が狭くなり、そこに血液のかたまり(血栓)ができて、血液の流れが悪くなります。その結果、そこから先の部分に血液が流れなくなり、これが心臓で起こると心筋梗塞や狭心症、脳で起こると脳梗塞となります。

高血圧の状態が続くと、血管壁の内側がダメージを受けてもろくなったり、柔軟さが失われて硬くなったりします。この状態が動脈硬化です。動脈硬化は全身の太い血管から細い血管まであらゆる血管に起こります。

日本人の塩分摂取量

日本人の塩分摂取量は、1日あたりの平均男性11.0g、女性9.3g(平成30年度「国民健康・栄養調査」より)ですが、厚生労働省が生活習慣病の予防を目的に示した目標量は、1日平均男性7.5g未満、女性6.5g未満となっています。(「日本人の食事摂取基準」2020年版より)

また、高血圧学会などでは6g未満を推奨しています。いずれも、現状では日本人は塩分を摂り過ぎとの見解です。

高齢者の無理な減塩3つのポイント

高齢者にとっての無理な減塩には、下記の3つのポイントがあります。

塩分摂取では適度なバランスが重要であること。

塩分摂取は摂り過ぎも、不足もよくありません。適度なバランスが必要です。
高血圧の人が塩分を控えることに意味はありますが、低血圧の人には無理な減塩の意味はありません。

水も、ガブ飲みすると危険

水分補給にも落とし穴があり、夏場に大量の汗をかいた後などに、水分を補おうとして水を大量にガブ飲みすると、血液中の塩分濃度が急激に下がり、低ナトリウム状態になります。軽い疲労感から始まり、頭痛、嘔吐、痙攣などを発症する危険性あります。ミネラルに意味があります。

夏場の脱水症対策、熱中症対策では無理な減塩はマイナス。

適度な塩分と水分の補給が必要です。

天然塩は、塩化ナトリウムの他、カリウムを含むさまざまなミネラルからできています。この微量ミネラルがとても重要です。

塩分補給では、先述の医学博士の田中佳氏は、天然塩でなければならず、精製塩ではダメだとしています。精製塩は塩化ナトリウムだけでカリウムがないため、体内でのミネラルバランスが大きく崩れてしまうと言います。天然塩は精製塩と異なり、ミネラルバランスが整っていることに意味があります。

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