ドライマウスとは
ドライマウスとは、口腔乾燥症と呼ばれる症状で、病気ではありません。唾液の分泌が減少、または分泌されなくなることで、主に口やのどの渇きといった自覚できる症状全般を指します。
唾液が不足することにより、唾液の抗菌作用や自浄作用が低下し、むし歯や歯周病になりやすくなるほか、口臭や粘膜の感染症、味覚障害、嚥下(えんげ)障害などを起こすこともあります。患者数は増加傾向にあります。
ドライマウスの原因
ドライマウスの原因には、さまざまなものが挙げられます。
緊張・ストレス
緊張やストレスにさらされると、交感神経が優位となり唾液の分泌量が減少します。さらに、粘液性の唾液が分泌されるため、口腔内が乾燥しやすくなります。
なお、反対にリラックスした環境下では唾液の量が増え、サラサラとした唾液が多く分泌されるようになります。
口呼吸
クセもありますが、副鼻腔炎(蓄膿症)やアレルギー性鼻炎による鼻づまり、アデノイド肥大、歯並びの乱れなどによる影響で口呼吸をしていると、口腔内が乾燥し、ドライマウスの原因につながります。
加齢による口腔周辺の筋力の低下
唾液を分泌する唾液腺は、噛むことによって刺激されます。年齢を重ねるごとに口周りの筋力は低下し、噛む力も衰えてくると、唾液がスムーズにの分泌しなくなります。
放射線治療による影響
放射線治療を行う際、唾液を分泌する唾液腺組織が破壊されて、唾液が正常に分泌されなくなることがあります。
薬の副作用
抗うつ剤や鎮痛剤、抗ヒスタミン薬など、薬の中には副作用として唾液が減る薬があります。
その他の疾患の影響
自己免疫疾患の一種や更年期障害、腎不全、糖尿病など、何らかの疾患の一症状としてドライマウスが引き起こされる場合もあります。
ドライマウスの症状
口の中の自浄作用や抗菌作用が弱まるため、むし歯や歯周病にかかりやすくなるほか、感染症を起こしやすくなります。特にカビの一種であるカンジダ菌が増殖すると、口の中に白斑が出現します。
ドライマウスの症状には次のようなものがあります。
・口やのどの渇き
・口の中がネバネバする。
・虫歯、歯垢が増えた。
・水分の少ない食べ物が飲み込みにくい。
・口臭が気になるようになった。
・舌がヒリヒリして痛い。
・舌がもつれて話しづらい。
・味が分からなくなってきた。
ドライマウスにより派生する病気
唾液が減少すると、いろいろな症状が出てくる恐れがあります。ドライマウスに関係する症状や病気には、次のようなものがあります。
・虫歯
・歯周病
・口臭
・口内炎
・口角炎
・舌痛症
・食べ物をかみ砕くことや、飲み込むことが難しくなる。
・味がわからなくなる(味覚障害)。
などがあり、口の中に様々な悪影響を及ぼします。
ドライマウスと歯周病の発生の関係
歯周病菌と混じり合った歯の汚れが停滞し続けると、歯石が形成されやすくなります。歯石は歯周病の原因とはなりませんが、プラークが入り込みやすい構造をしており、歯周病菌が繁殖しやすい足場となります。
歯石や歯と歯茎の間に停滞したプラークを放っておくと、やがて毒素を放出するようになり、歯の周りの組織を破壊する歯周病が発生します。
唾液には、唾液中に含まれる抗菌物質で細菌の増殖を予防する働きがあり、プラークの形成を防ぎます。ドライマウスで唾液量が低下すると、食べカスが停滞しやすく、細菌が増殖しやすい環境になってしまうため、歯周病が重症化する誘因となってしまいます。
ドライマウスの治療
口呼吸をやめる、脱水を防ぐ、ストレスを軽減し、よく咀嚼するようにするなど、生活習慣を改善することで、口腔乾燥の症状が軽くなる場合もあります。
何らかの疾患が原因の場合は、疾患自体の治療を進めることが大切です。薬の副作用が原因の場合、可能であれば薬を変更することも医師に検討してもらいます。
また、粘膜に炎症が起きている場合には、消炎や殺菌作用のある含嗽剤が処方されることもあります。
ドライマウスの予防法
ドライマウスの予防法には次のようなものがあります。
口の乾きを防ぐ。
口のうるおいを保つために、口の乾きを感じたらこまめに水分を補給し、口の中のうるおいを保つようにします。ペットボトルやマウス用の保湿スプレーを持ち歩き、冬には部屋の加湿対策も忘れずにおこなうことが大切です。
よく噛んで食べる。
食べる時はよく噛んで、喫煙・飲酒はほどほどにします。
唾液は、噛むという刺激が脳に伝わることで分泌され、食べ物を噛めば噛むほど分泌されます。食事の欧米化によりコメを食べることが減ったことや、ファーストフードが増えたことで現代人は食べ物を噛むことが少なくなり、唾液の分泌量が減っているといわれています。
鼻呼吸を心がける。
普段から口呼吸になっているなら、意識して鼻呼吸を心がけるようにしましょう。
鼻炎や鼻づまりなどの疾患が原因なら、できるだけ早く耳鼻科を受診して治療することが大切です。
睡眠中の口呼吸の防止
睡眠中の口呼吸を防ぐためには、夜間、口呼吸防止テープを唇に貼って寝ると唾液の蒸発を防げます。口部分へのマスクの使用もあります。
舌のストレッチ
舌のストレッチは唾液分泌を促します。
舌を突き出したり引っ込めたりする、舌を前に出して上下左右に動かす、舌で頬の内側を押すなどです。
飲酒や喫煙を控える。
飲酒や喫煙はのどが渇き、飲酒や喫煙も自律神経に影響するため、できるだけ控えるようにします。唾液の分泌には、自律神経が大きく関わっています。
ドライマウス対策の今後
ドライマウスの診断、治療については、ドライマウスの原因が十分に探索されていない点があり、今後の課題です。
また、ドライマウスの系統的な診断法、治療法が確立されていない点もあります。
嚥下(えんげ)障害との関係
特に高齢者については、次のような課題があります。
口腔内が乾燥するために、ものを飲み込むことが難しくなります。これを嚥下障害といいます。嚥下障害が続くと食事が満足に摂れなくなり、栄養バランスが崩れ体重減少にもつながります。
特に高齢者の場合は、嚥下機能が低下することで、飲み込んだものが食道ではなく気管に入ってしまい、誤嚥性(ごえんせい)肺炎を引き起こすリスクが高まります。
厚生労働省研究事業の研究事業に「高齢者のドライマウスの実態調査及び標準的ケア指針の策定に関する研究」というテーマがあります。
この研究は、ドライマウスのリスク因子について調査することで実態を明らかにし、標準的ケア指針を作成することなどを目的に行われました。
そこで分かってきたことは、結果として、高齢者のドライマウスのリスク因子では、自立高齢者に比べて、要介護および認知症高齢者では、口腔機能及び口腔乾燥に問題を有する者が多いこと。
要介護高齢者では、85歳未満で
- ①移乗動作が全介助
- ②口呼吸
- ③水分量が多いこと
- ④口腔清掃回数が少ないこと
- ⑤服薬数が多いこと
85歳以上で
- ①移乗動作が全介助
- ②睡眠時間が長い
- ③パーキンソン病であること
がリスクファクターであるなどです。
一方、薬剤に関しては、利尿剤と抗うつ剤が関連していたとしています。認知症高齢者では、症状があっても口腔乾燥感を自覚しにくいことが認められたとしています。
また、音波歯ブラシによる口腔ケアの介入で、ドライマウスの改善が認められました。
要介護高齢者におけるドライマウスは、死亡リスクにも関連していることが認められたことで、今後、高齢者のドライマウスの早期発見及び早期ケア提供が重要であり、ドライマウス症状の軽減を図ることがドライマウス関連症状の重度化予防、低栄養化、咀嚼(そしゃく)嚥下障害、誤嚥性肺炎の予防につながると考えられます。