耳かきは気持ちの良いものでクセになります。しかし、耳かきは必要ないという専門家の意見もあります。誤った耳かきは、本当は怖いものかもしれません。
加齢の点で言えば、難聴との関連に注意が必要です。難聴は対人関係がうまくいかなくなり社会的にも孤立しがちになる原因となるものです。そして、難聴は単に耳の聞こえが悪くなるだけでなく、認知症との関連性もあるようです。耳かきと加齢、難聴の問題について解説します。
耳かきのしすぎはよくない?
気持ちがいいからと頻繁に耳かきをしたり、誤ったやり方で耳かきをすると、外耳炎や耳垢栓塞といった耳の病気になってしまうことがあります。
耳かきのしすぎで起こる病気
誤った耳かきで起こる耳の病気には、以下のようなものがあります。
外耳炎
外耳炎は、耳の穴から鼓膜の手前までの外耳道に炎症が起こること。耳のかゆみ・耳の痛みが現れ、さらに外耳道が腫れると、耳が聞こえづらくなる(難聴)、耳が詰まった感じ(閉そく感)といった症状が起こります。
外耳炎の原因の多くは、指の爪などで耳の中をかいたり、綿棒で耳かきをしたりするときに外耳道を傷つけてしまい、細菌が入ることです。
耳垢栓塞(じこうせんそく)
耳垢栓塞とは、耳垢づまりのことです。耳垢栓塞になると音の通り道である外耳道が塞がってしまうため、聞こえにくくなってしまいます。しかも、耳垢が耳の奥で固まってしまうため、取れなくなってしまいます。
耳垢栓塞の原因は、過度な耳かきです。過度な耳かきにより外耳炎になり、外耳炎になると炎症が起こり、耳垢栓塞を引き起こしてしまいます。また、耳かきをする際に誤った方法で綿棒を使用すると、逆に耳垢を耳の奥に押し込んでしまうため、耳垢栓塞の原因となってしまいます。
耳かきのしすぎと難聴の関係
難聴は、徐々に聞こえにくくなるものから、ある日突然聞こえなくなるパターンまで、進行は様々です。難聴には先述した通り耳垢栓塞で耳垢が耳をふさぐことで、聞こえにくさや耳鳴り、耳閉感などが起こっているケースもあります。そのため、耳掃除は不要という医師もいます。耳垢は通常、自然に外に出ていくものだという理由からです。
一方、いわゆる加齢性難聴は、両方の耳が同じように長年かけて徐々に聞こえにくくなる状態です。誰しもがいつかは経験することです。難聴というとまったく聞こえない状態をイメージする人が多いのですが、ちょっと聞こえにくいという程度でも難聴です。
難聴の初期症状
以下のような症状がある場合は、難聴の恐れがあります。
・ふだんと比べ音が聞こえにくい
・電話で相手の声が聞こえにくい
・音の聞こえ方がいつもと違う
・耳鳴りが続く
・耳が詰まった感じがする
・耳に水が入ったときのような感じがある
こうした聞こえにくさや、耳鳴り、耳が詰まったような感じが2〜3日続くようなら要注意です。医師の診察を受けてください。
難聴の種類
難聴には、伝音難聴と感音難聴があります。伝音難聴とは、外耳炎や中耳炎で起こる難聴です。鼓膜穿孔、外耳炎が主な原因です。
感音難聴は、老人性難聴、突発性難聴、急性低音障害型感音難聴、メニエール病などがあります。内耳、あるいは内耳と脳の神経経路に問題が起こることで生じます。
突発性難聴
突発性難聴は、ある日突然片耳が急に聞こえが悪くなる病気です。多くの場合、片耳だけに起こります。全く聞こえなくなる重度なものから、耳が詰まった感じのみの軽度なものまでさまざまなタイプがあります。
耳垢栓塞の場合や、ウィルス感染、内耳の血流の循環障害などが原因ではないかと言われていますが、現時点では原因はよくわかっていません。中には治りにくい場合もあります。
突発性難聴の前兆と症状は、耳が突然聞こえにくくなった、耳が詰まった感じがする、音が二重に聞こえる、エコーがかかる、などがあります。
加齢による難聴
病気ではありませんが、加齢にともなって難聴が進むのが加齢性難聴です。これは個人差が大きく、90歳でもまったく難聴がない人もいます。症状として耳鳴り、耳閉感を訴える人が多いですが、特徴は基本的に両耳に起こるということです。
主な原因は、加齢によって蝸牛の中にある有毛細胞がダメージを受け、その数が減少したり、聴毛が抜け落ちたりすることです。有毛細胞は音を感知したり増幅したりする役割があり、障害を受けると、音の情報をうまく脳に送ることができないためです。
(参考:一般社団法人日本耳鼻咽喉科学会「加齢性難聴の機序」https://www.jibika.or.jp/owned/hwel/hearingloss/#influence)
国立長寿医療研究センターが行った「老化に関する長期縦断疫学研究」によれば、難聴は年齢が上がるにつれて発症しやすくなるという結果が出ています。難聴を患う人の割合は、75歳~79歳では男性が71.4%、女性が67.3%、80歳以上では男性が84.3%、女性が73.3%に上ります。
加齢と難聴が引き起こす問題
難聴は認知症やうつ病などとの関連を指摘する研究が発表されるなど、社会全体で取り組むべき問題として捉えられるようになりました。
聴力が低下すると、音の大小にかかわらず言葉そのものが聴き取りにくくなってきます。言葉がうまく聴き取れず会話の中で話の内容がよくわかっていないのに返事をしてしまって相手に誤解を与えたり、途中で何度も聞き返すので会話が弾まなくなってしまったりといったように、スムーズなコミュニケーションができなくなりがちです。
そのため、知らず知らずのうちに人と話をするのが億劫になり人と会う機会が減ったり、外出しないで家に引きこもりがちになったりという現象が起きてきます。難聴により社会からの孤立という問題が起きる恐れがあるのです。
加齢による難聴の課題
聴力の低下によって耳から脳に入ってくる情報が少なくなってくると、脳への刺激が減り、脳の活動が鈍ってきてしまいます。その結果として、認知症を引き起こすリスクが高まると想定されます。ただし、難聴と認知症についてのメカニズムはよくわかっておらず、今後の課題です。
認知症の人では耳垢栓塞になる人が多いこと、また、そのような方で耳垢栓塞を除去すると聴力が改善するとともに認知機能も保たれやすくなることが分かった報告があります。
(参考:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「【認知症予防】耳垢(みみあか)と認知機能の意外な関係」https://www.ncgg.go.jp/cgss/department/ep/topics/topics_edit30.html )
また、耳垢栓塞になると、難聴や感染の原因になります。耳垢栓塞は、耳垢を排出する力が弱くなった高齢者に多く見られます。アメリカの高齢者向け施設での調査では、6割以上の入所者に耳垢栓塞があり、耳垢栓塞を取ることで聴力が改善しただけでなく、認知機能も改善されたことが報告されています。
認知症予防の段階で最大のリスク因子は難聴
2017年7月に、アルツハイマー病協会国際会議において、権威のある医学誌『ランセット』が「認知症の予防、介入、対応」というタイトルで認知症の予防についてのレポートを発表しました。その中に、認知症のリスク因子を検討したものがあり、予防可能なリスクで最も数値の高かったものが難聴です。「認知症リスクの約35%が予防・対策できるものであり、そのなかでも難聴は最大のリスク因子である」というものです。
55歳以上での難聴を対象としてみた時、全体の認知症の原因の9.1%を占めました。つまり、難聴を防ぐことができれば認知症の可能性を約9%減らすことができるということです。
(参考:一般社団法人日本耳鼻咽喉科学会「難聴は認知症の最大の原因になる!?」https://www.jibika.or.jp/owned/hwel/news/001/)
難聴で認知症を発症する確率が50%上昇
2018年11月に「高齢者の難聴を治療せずに放置すると、うつ病や認知症、さらには転倒の危険性が高まる」ことを示す論文が、「JAMA Otolaryngology-Head and Neck Surgery」のオンライン版で発表され話題を呼びました。
論文は、ブルームバーグ公衆衛生大学院(アメリカ)のジェニファー・ディール氏らによるもので、難聴である人は難聴の無い人に比べて、10年間のうちに認知症を発症する確率が50%高く、うつ病になる危険性が40%高く、転倒する危険性が30%高いという結果が報告されています。難聴は聴覚における問題にとどまらず、心身の健康リスクが高まることを明らかにしました。
(参考:CareNet 「難聴を放置すると高齢者の健康リスクが高まる」https://www.carenet.com/news/general/hdn/47070)
年齢を重ねると脳は萎縮する傾向があります。ジョン・ホプキンズ大学とアメリカの国立老化研究所の合同研究では、難聴者は、健聴者に比べて脳の萎縮速度が早いことなどが判明しました。
これは、脳の各部位はお互いに連携しながら機能しているため、音声言語を処理する部位が委縮すると脳全体を悪化させるからとし、難聴と認知症との間には高い相関性があるとしています。
難聴とうつ病の関係
前述のブルームバーグ公衆衛生大学院の発表で、難聴である人は難聴でない人に比べて、10年間でうつ病になる危険性が40%高いとしています。
認知症でもうつ病症状が現れる場合がありますが、難聴とうつ病の関連性については今後も研究が望まれます。一般的に難聴になり人とのコミュニケーションがうまくいかなくなると、うつ病との関連性も想定されます。
難聴と転倒の関係
前述のブルームバーグ公衆衛生大学院の発表で、難聴である人は難聴でない人に比べて10年間で転倒する危険性が30%高いという結果が報告されています。この点についても今後の研究が望まれます。
難聴と加齢が引き起こす問題への準備
このように難聴は高齢者にとって、多くの問題を引き起こしかねません。音が聞こえにくい、電話で相手の声が聞こえにくい、耳鳴りが続く、耳が詰まった感じがするといった症状があれば、すぐに病院で診察を受けてください。
また、加齢によって、音の大小にかかわらず言葉そのものが聴き取りにくくなっているかもしれません。「声は聞こえるのに、何を言っているのかがわからない」ということはありませんか?
言葉がうまく聴き取れず会話の中で話の内容がよくわかっていないのに返事をしてしまって相手に誤解を与えたり、途中で何度も聞き返すので会話が弾まなくなってしまったりといったように、スムーズなコミュニケーションができないことはありませんか?
加齢にともなって難聴は進みますが、あきらめて放置すると、認知症などを併発しやすくなるおそれもあります。必要に応じて補聴器などの使用を検討してください。
まとめ
耳かきのしすぎは、外耳炎や耳垢栓塞などの病気を引き起こすことがあります。耳かきはしなくても良いという医師もいます。
もし音が聞こえにくい、相手の声が聞こえにくいなど難聴の兆しを感じたら、難聴の原因を調べることが重要です。加齢による難聴の場合も、診察を受け調べてもらい、場合によっては、補聴器の活用も検討してください。
聴力の低下によって耳から脳に入ってくる情報が少なくなってくると、脳への刺激が減り、脳の活動が鈍ることで認知症へ発展する可能性があるからです。認知症予防の段階で最大のリスク因子は難聴であるといった研究結果、論文も発表されてきています。
本当は怖い“耳かきのしすぎ”の3つのポイント
(1) 相手の話がよく聞き取れないことはないですか?
一般的に加齢によって聴力が低下すると、音の大小にかかわらず言葉そのものが聴き取りにくくなってきます。相手が何を言っているのかがわからないということはないかを振り返ることが必要です。
(2) 加齢による難聴について知っておく
難聴は年齢が上がるにつれて発症しやすくなるというデータや、加齢により難聴が生まれる傾向について研究発表がされています。
(3) 難聴と認知症の関連について知っておく
難聴になったままだと認知症を発症する確率が50%上昇する、また、難聴者は健聴者に比べて脳の萎縮速度が早いという研究が発表されています。
高齢者において難聴による認知症との関係、うつ病との関係、転倒との関係などの研究が国際的にも進んでいます。関係が明確になれば、難聴自体の改善がこれらの心身の危険性の予防に役立つことになります。補聴器についてもより検討が必要になってくるでしょう。