失敗しない棺の選び方

葬儀・仏事

希望があれば生前に伝えることが必要

日本で遺体を埋葬する際に、どのような場合でも必要なのが棺(ひつぎ)です。
火葬では棺ごと燃やしてしまうため、棺は簡素なものが中心であまりこだわっていないとも言えます。

また、棺については葬儀社任せであることがほとんどでしょう。
そのため、ご自身の強い希望やこだわりがある場合には、事前に準備をしておくことが必要になります。

また、西洋の棺では大変装飾に凝ったものも多く、棺にも文化や宗教、埋葬の仕方が深く関わっているのです。

この記事では、死生観を反映する棺の文化、棺の形態から選び方などを紹介していきます。

棺とは

棺とは、遺体を納めて葬るための容器です。
同様の意味の字に「柩」があり、読みはいずれも「ひつぎ」で、音読みにすると棺は「かん」、柩は「きゅう」と読みます。

棺では、遺体を納める儀式である「納棺式」や、遺体が火葬場に向けて出発することを「出棺」といいます。
また、柩では、遺体を運ぶ車の「霊柩車」で使われています。

棺の宗教文化

棺のありかたや、棺そのものを用いるのかどうかは宗教による相違があります。
以下で見ていきましょう。

ヒンズー教の葬儀

遺体は洗われた後、リンネルという布にくるまれます。
儀式の後、遺体は棺に入れられることなく薪で火葬され、火葬後遺灰を集め川で撒きます。

イスラム教

世界的にみて、イスラム教やキリスト教では、火葬を禁忌とする文化があります。
キリスト教では死後の復活の関係でしょう。

イスラム教では、故人の遺体を洗ったあと、白のモスリンの布で遺体を包みます。
木製の棺が用いられる場合もありますが、棺を用いずモスリンの布に包まれたままで土葬される場合もあります。

日本の棺の歴史

日本では、庶民の間で棺が使われ始めたのは鎌倉時代からでした。
江戸時代に入り、一般庶民の間でも棺の使用が普及して行ったのです。

埋葬は土葬が主流であり、場所を取らないようにするために身体を丸めて収める屈葬によるため、桶型の座棺が使用されました。

明治時代に入り、富裕階層の間で平型の寝棺が使用されるようになり、火葬場の普及と共に浸透して行きました。
しかし、十分な火力のある火葬場がなかったため、土葬文化も継続し、棺も座棺が使い続けられました。

その後、火葬場の技術・設備が進歩しましたが、現在のように十分な火力設備の整った火葬場が出来たのは昭和年代に入ってからです。
現状の日本の火葬場では、遺体を棺に納めた状態でないと火葬を引き受けてもらえないため、棺は必ず必要となります。

棺の選ぶときのポイント

葬儀社と打ち合わせをするとき、棺を選ぶポイントには以下のような点があります。

・故人の宗教を確認する。
・故人の身長、体重を確認する。
・棺の形状、材質などの種類を確認する。
・棺の値段を確認する。

これらをふまえて、棺の選びかたでは以下のような点が挙げられます。

棺のサイズ

一般的に、棺の基本サイズは6尺(180cm)とされていますが、故人の身長によって変わってきます。
棺桶のサイズを選ぶのときの目安は、身長+10〜15cmの大きさで選びます。

死後硬直により足の甲、指先まで伸びることがあるため、つま先立ちしたくらいの大きさを考慮します。
サイズの表記は尺で表記(1尺は約30cmくらい)されています。

棺の材質

棺の材質は、火葬に適したものとして基本的に4種類あります。

木棺

檜、もみ、桐をはじめとした天然木材を使ったものや「フラッシュ材」と呼ばれる、2枚のベニヤ板と芯材を貼り合わせた加工板材を使ったものがあります。
天然木材には、彫刻を施すことも漆を塗ることもできます。

フラッシュ材には、木目調などの柄をプリントした特殊な紙を貼りつけることもできます。
フラッシュ材を使った棺は「フラッシュ棺」とも呼ばれ、軽量なために現在はこれが主流になっています。

布張棺

木棺の周りを布で巻いている棺で、布は色のバリエーションが豊富にそろっています。
シンプルなものから、凝った刺繍をあしらったものまであります。

エンバー棺

エンバーミング処置を施した遺体専用の棺で、故人との対面を想定してアクリル製の透明のふたが中にあります。
エンバーミングとは、遺体の保存のため防腐剤の注入や衛生処理、遺体修復などをする技法です。

エコ棺

間伐材、もしくはダンボールで作られている棺です。
近年の環境問題に対する関心の高さから生まれ、二酸化炭素の排出量が少ない、環境にやさしいといった特徴がうたわれています。

ただし、価格は通常の棺と比べ割高となっています。

棺の形状

棺の形状は、宗教・宗派によって決められていることもあるため、本人の宗教を確認しましょう。

箱型棺(キャスケット型棺・平棺)

最もシンプルなもので、蓋部分は平らに作られ、長方形の形状です。
「キャスケット型」「平棺(ひらかん)」とも呼ばれ、日本ではこれが中心です。

山型棺

蓋部分が台形に盛り上がっている形状のもので、箱型よりも少し装飾性のあるデザインです。
キリスト教ではこの形状のものが多く使われます。

船型棺

頭部が広く、足元が狭くなっている形状で「コフィン型」とも呼ばれます
主にイギリスなどで使われています。

かまぼこ型棺

蓋の上部分が曲線を描く形状になっているもので「アール型」とも呼ばれます。
柔らかな印象で女性に人気があります。

インロー型棺

インローとは印籠(いんろう)のことです。
その名のとおり、蓋の縁の部分が印籠のようにはめこみ式になっている形状のものです。

棺の値段

ほとんどの場合、葬儀社で用意しているものを購入することが考えられますが、相場としては5万円~20万円が目安です。

大きさ、材質、形状の違いによって値段が変わります。
以下が参考の値段です。

・木棺:約4万円代〜100万円以上 (ベニヤ使用品などは4~10万円、檜使用品などは高額になります)
・布棺:約1万円代〜30万円代 (刺繍などを入れなければ2~10万円)
・エンバー棺:約10万円代〜40万円代
・エコ棺:約3万円代〜20万円代

体重が重い人の場合

遺体の体重を支えるため、棺の作りはしっかりしていなければならない必要があります。
棺の底がぬけてしまう、などということは避けなくてはなりません。

そのため、ダンボール素材のものや組み立て式のものは避けたほうが良いでしょう。

環境問題への対応

環境問題から、ダンボール製や間伐材を利用したエコ棺が増えており、今後も続くと予想されます。

エコ棺に使われるダンボールは通常のダンボールではなく、棺用に加工されており、丈夫で特殊なものになっています。
中は布張りなので、見た目は通常の棺と変わりありません。

棺の準備について

ここからは、本人のこだわりがある場合や、その他、棺の準備に知っておくべきことを見ていきましょう。

本人の生前のこだわりは?

棺にこだわる人は少ないと考えられますが、こだわる場合は家族に伝えておくかエンディングノートに書いておく必要があります。

棺に入れる副葬品についてこだわる人は多いので同様です。

身体が大きい人は棺のサイズや構造について知っておく

身長が高い人は標準のものでは収まらず身長+10〜15cmのサイズのものを選びます。
また、体重が特に重い人はしっかりした構造でできたものを選びます。

故人の好みなどを反映した棺の材質や形状を知っておく

木棺でも高級な天然素材にこだわり、木材に彫刻を施すことも漆を塗ることができます。
また、フラッシュ材にプリントした特殊な紙を貼りつけ華やかにすることもできます。

布張棺ではよりバリエーションが豊富にあり、刺繍をあしらうこともできます。

棺の中に収める「副葬品」についても知っておく

副葬品はこだわる人が多いため、基本的なことをしっかり知っておきましょう。

一般的に棺に入れるもの

棺の中に収める品物としては、主に故人が愛用していたものや故人に手向けたいものになります。
生花、手紙、色紙、寄せ書き、千羽鶴、写真、お菓子、タバコなどの嗜好品などです。

服を入れる場合は、天然素材の服のみ可です。

棺に入れてはいけないもの

副葬品として許可されていないものは次のようなものです。

・燃やして有害となるもの
ビニール、プラスチック、ポリエステルなどの素材を使用したもの
・燃えないもの
金属、ビンなどのガラス製品、陶磁器など
・完全に燃えつきにくいもの
大きなぬいぐるみ、水分の多い果実、分厚い書籍など
・燃やして危険なもの
スプレー缶、電池、ペースメーカーなど(故人の遺体にペースメーカーがある場合、申告が必要)
・火葬炉が故障する原因になるもの
釣り竿、ゴルフクラブなどのカーボン製品(電気炉のヒューズが飛んでしまうことがあるため)
・紙幣(お札)
紙幣を燃やすのは法律で禁じられているため

まとめ

棺は火葬により燃えて消えてしまうものです。
棺にこだわりすぎる必要はありませんが、まったく関心がなくただ費用だけ気にするとなれば寂しいと言えるでしょう。

棺を通して故人と最後に対面しお別れをするため、棺は故人のこの世での最後の華やかな演出の道具でもあります。
故人の考えや好みがあれば、棺にも反映できたら良いのではないでしょうか。

自身が入る棺にこだわりがある場合は、生前の希望を家族に伝えるか、エンディングノートに書いておきましょう。

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