はじめに
切手盆とは、冠婚葬祭の場において香典やお布施などを丁寧に送る目的で用いられている黒塗りのお盆のことです。一昔前の日本では「人の体は不浄」という考えが一般的だったので、贈答品に人の手が触れないように切手盆を使用していました。
今ではなくなりつつある文化の一つですが、慶弔両用で使用できますし、マナーとして知っておけば土壇場で困る心配もないので、この記事を通して切手盆への理解を深めましょう。
切手盆の必要性
現在では切手盆を使用せずに、袱紗(ふくさ)という絹布で代用する場合もありますが、袱紗は外包み用として使用するのが本来の使い方です。つまり、香典やお布施を渡す際に袱紗をほどき、切手盆の上に載せて渡すというのが正しい作法になり、手渡しはマナー違反ということです。高齢者世代にはマナーや伝統を気にする人も多いので、トラブルを避けるためにも切手盆は用意した方が無難です。
広蓋との違い
切手盆と似たような物として、結納などで正式な贈り物を渡す際に使用する「広蓋」があります。本来、日本では贈答品を持参する際は唐櫃に入れて、その蓋の裏に載せて渡していましたが、その慣習の一部が今でも広蓋として残っています。
しかし、広蓋は贈答品を載せるために使用されていたので、金封などの小さな物には適しておらず、その結果として切手盆がより広く普及したと言われています。そのため、現在では贈答品には広蓋、金封には切手盆というような使い分けがされていますが、一部地域では切手盆の代わりに広蓋が用いられていることもあります。
切手盆の正しい使い方
お布施を渡すときは、まずお布施に書いてある表書きと家紋を自分に見える向きで置いておき、袱紗がある場合は袱紗を切手盆に掛けておきます。
法要のお布施は手渡しせず、切手盆に乗せて渡すというのが正式な作法です。渡すタイミングは法要前でも法要後でも構いませんが、読経の準備などで忙しいタイミングは避けるようにしましょう。そして「本日はお勤めありがとうございました。些少ですがどうぞお納めください」というような言葉を添えて僧侶から文字が見えるように向きを変え、切手盆ごと手に持って差し出します。最後に僧侶がお布施を取ったら切手盆が返されるので、これを受け取るまでが一連の流れとなります。
通常、切手盆は袱紗に包んで持ち運びますが、最近では切手盆のみで使用することも多くなっており、高額のお布施を渡すという場合以外は袱紗を使用しないというケースも増えています。
袱紗の色・柄・包み方
袱紗にはさまざまな色がありますが、祝儀には暖色系やパステルカラーなどの明るい色、不祝儀には寒色系やディープカラーのような暗い色を使うのが適切です。紺・グレー・うぐいす色などは慶弔どちらでも使え、特に光沢感ある素材や華やかな柄入りであれば暗めの色でも祝儀に適しています。また、柄も和風に限らず色々な種類があり、花柄・ドット・ストライプなど、シーンに応じたデザインを選べばどのような柄でも問題ありません。
包み方は、祝儀と不祝儀によって少し異なります。まず不祝儀の場合、ダイヤ型になるように袱紗を置いて中央やや右に袋を置きます。そして、右、下、上、の順番で四隅を折り、最後に左の隅を折って右側にはみ出した箇所を後ろに折れば完成です。
祝儀の場合も基本的な折り方は不祝儀と同じですが、袋を置く位置と折る順番が異なり、中央やや左に袋を置いて、左、上、下、右の順番で四隅を折っていきます。
切手盆の色や柄についての決まり
切手盆は基本的に黒塗りですが、内側が朱色で外側が黒色のもの、縁が金色のものなどもあります。黒以外のものは弔事に不適切と考える地域もあるので、分からないときはお寺などに確認しておきましょう。切手盆には家紋を入れてもらえるサービスもあります。家紋入りの切手盆は納品までに時間が掛かりますがその分豪華な見た目に仕上がるため、きちんとしたものを作りたい方は家紋入りのものを作ります。
切手盆のサイズ
切手盆のサイズには7~9号までの3種類があります。まず最も一般的なのは8号サイズ(横17cm×縦24cm)で、結婚式から法事まで対応できる万能サイズです。次に7号サイズ(横15cm×縦21cm)はお布施を渡す際に用いられるもので、祝儀での品物に使用されることは少ないです。
そして9号サイズ(横19cm×縦27cm)は大きめの金封を乗せても余裕があるため、結納の際や名刺受としても使用できますが、弔事の場ではあまり使用されません。このように切手盆は用途によって適切なサイズが異なるので、どんな目的で使うかを決めて選ぶ必要があります。
切手盆を購入する場所
切手盆は雑貨店などで千円前後で購入できますが、品質にこだわらなければ100円ショップでも用意できます。ですから切手盆は必ずしも高価なものばかりではないのです。切手盆を使う頻度が少なく、できるだけお金をかけずに手に入れたいという場合には、こういった安価のものでも問題ありません。
一方、紀州塗や越前塗のような高級品もあります。紀州塗は安土・桃山時代からの伝統ある塗り方で、越前塗は伝統技法と現代技術を融合したどちらも木製の良い高品質な切手盆です。こうした高級品は10,000円以上するものも多いのですが、本物志向で選びたい人はこのような効果なものを買っています。これらの高級な切手盆は仏壇店などの専門店で買うことができます。
切手盆が無い場合
最近では切手盆を持っていない家庭も増えていますが、いざ必要になった際に困ってしまうこともあります。その場合は、角丸のお盆で代用することも可能ですが、マナー違反とされることもあるので、なるべく謝罪の言葉と一緒に渡すようにしましょう。切手盆自体は100円ショップなどで気軽に購入できるので、特別な理由がない限りは、前もって用意しておくことをおすすめします。
まとめ
切手盆は、冠婚葬祭の場において香典やお布施などを丁寧に送る目的で用いられている黒塗りのお盆です。慶弔両用で使用でき、マナーのひとつでもあるので、法要やお祝い事の予定がある方は用意しておくと良いでしょう。