はじめに
人が亡くなると、その人が持っていたものは遺品となり、誰かが整理することになります。遺品整理は期限が決まっているわけではありませんので、葬儀の後に落ち着きを取り戻したころから、ゆっくり着手してもよいものです。
ただし、事情により遺品整理を短時間で済ませなくてはならない場合もあります。親が亡くなり、住んでいた家を処分する場合や、亡くなった人が賃貸物件に住んでいて、早く明け渡しをしなくてはならない場合などです。
事情が許せば、故人をしのびながら時間をかけて遺品を整理することもできます。しかし、時間が限られている遺族も多いことから、この記事では短期間で遺品整理を終わらせる方法を解説します。
遺品整理を急ぐ場合とは
現在は、昔のような大家族は姿を消し、核家族が増加しています。二世代、三世代が同居する世帯は減少傾向にあり、高齢の親だけが家に住んでいるというケースも多くみられます。親が亡くなった場合、実家は ①売却する ②賃貸に出す ③解体する ④子どもや孫など身内が住む、のいずれかを選ぶことになります。
①の売却、②の賃貸を考えている場合は、家の中を空にして清掃し、状態によってはリフォームも必要になるかもしれません。早く遺品整理を済ませられれば、それだけ早く新しい住人に引き渡すことができますので、遺品整理はすぐに行うのがベターです。
③の解体を考えている場合、家の中のものも解体業者が処分してくれますが、その分費用は跳ね上がります。遺族が自分たちでできるところまで行うことで、解体費用にかなりの差が出ます。
④身内の誰かが住む場合でも、故人が使っていた家財や寝具、衣類は不要になりますので、整理が必要になります。
誰も住まない家のリスク
親が亡くなり、誰も住まなくなった実家を長い期間空き家にしておくことは、以下の理由で好ましくありません。定期的に通って維持・管理できない状況であれば、早急に遺品を整理したいものです。
- ①建物の劣化
人の住んでいない家は、あっという間に状態が悪くなり、老朽化が早まりますので、いざ売りたい、貸したいというときに価値が下がってしまいます。売却や賃貸を考えている人は、一日でも早く遺品整理に取りかかりましょう。
- ②不法侵入や放火のおそれ
庭が荒れていたり、いつも電気が消えていたりする家は、人が住んでいないことが明らかです。不審者が侵入したり、不審火の発生元になったりすると、近隣に大きな迷惑をかけることになりかねません。
- ③維持費の問題
年に数回しか行かない実家であっても、維持するためには費用がかかります。維持費としてかかるものに、固定資産税、光熱費、火災保険料があります。その他に、庭の雑草刈りや木の剪定を業者に頼めば、費用が発生します。
- ④特定空き家
長く空き家を放置すると、空き家対策特別措置法により「特定空き家」に指定されることがあります。「特定空き家」とは、放置すると悪影響が出ると地方自治体が認めた空き家で、倒壊の危険があり、衛生上有害で、管理不足により景観を損ねる場合に指定されることがあります。指定されると、固定資産税が最大で6倍になったり、行政が建物の撤去を行ったりします。撤去費用は、空き家の所有者に請求されます。
遺品整理の手順
人が亡くなった後に行う遺品の整理には、かなりの労力、時間、費用が必要になります。
ここからは、一般的な遺品整理の手順を紹介します。
遺品を仕分ける
短時間で遺品を整理するためには、最初の段階で、仕分ける必要があります。
以下の5つに分類してみましょう。
貴重品
故人の現金や重要書類は、すべて貴重品扱いになります。箱などを用意して、いったん収めるようにします。
<貴重品リスト>
現金
銀行の通帳
印鑑
キャッシュカード
健康保険証
介護保険証
年金手帳
マイナンバーカード
パスポート
運転免許証
車検証
保険証券
クレジットカード
請求書、領収書
有価証券
不動産の権利書類
貴金属、宝石、着物、美術品など価値の高いもの
携帯電話、スマートフォン、パソコン
貴重品のなかには、解約や売却するために法的な手続きが必要なものもあるので、最初に着手します。貴重品はたいてい、金庫のなかや寝室など、決まった場所にまとめて置かれているものです。生前、置き場所を聞いていた場合には、その場所を先に片づけます。
ただ、意外な場所に現金がしまわれていることがありますので、特に高齢の人が亡くなった場合には慎重に確認する必要があります。高齢の人には、クレジットカードや電子マネーを使うより現金決済が中心の人が多く、ある程度の現金が家にないと不安に感じる人もいます。
現金が見つかりやすい場所として、タンスの引き出し、お菓子などの空き箱や空き缶、本棚の本の間、押し入れの布団の間、冷蔵庫、天井裏、畳の下、などが知られています。
ほとんどをキャッシュレス決済にし、普段は多くの現金を持たない子ども世代の人たちには思いつかないかもしれません。ゴミと一緒に処分してしまわないよう、「高齢者の家には現金がしまわれているかもしれない」ことを心にとめておいてください。
形見となるもの
形見とは、亡くなった人や別れた人を思い出す、よりどころとなるものです。思い出の品といってもよく、遺族や親族、故人と親しかった人たちで分け合うことを「形見分け」といいます。
形見も遺品の一部であり、形見と遺品との厳格な区別はないのですが、残しておきたいもの、誰かが引き継ぎたいものを特に「形見」と呼ぶことが多いようです。遺族や親族で相談し、引き取るようにします。
故人がエンディングノートなどに、受け取ってもらいたい人、品物、保管場所を書き残していることもありますので、その希望に沿うようにしましょう。
買い取りに出せるもの
まだ使える家具、家電製品、楽器、食器、未使用の引出物や香典返しなど、状態がよければリサイクルショップで買い取ってもらえる可能性もあります。査定には、直接店舗に持ち込む方法、大型の家具などはスタッフが訪問して査定する方法もあります。
品物の状態によっては値段がつかないこともありますので、次の点に注意しましょう。
・きれいな状態にしておく
汚れやキズのないきれいな状態であるほど、高い値段がつきます。衣類や家具や家電などを売りたいときは、しっかり汚れを除くようにします。
・箱に入れたままの状態にしておく
タオル、寝具類、食器類、カトラリーなど、化粧箱に入っているものはそのままの状態でショップに持ち込みます。箱が劣化していたり汚れが目立ったりした状態だと、値段がつかないこともあります。リサイクルショップ以外に、メルカリなどのフリマアプリを利用して売ることもできます。
寄付や寄贈できるもの
寄付や寄贈をしたい場合は、まず送り先を探す必要があります。
寄付は、ボランティア団体やNPOなどの組織を通じて、発展途上国や被災地に品物を送ることができます。寄贈は学校や博物館、学校など公共性の高いところへ品物を送ることで、絵画や骨とう品のように芸術的な価値があるもの、ピアノなどの楽器は寄贈先を探してみるのも一案です。
遺品をゴミとして処分するのではなく、誰かに使ってもらえることは遺族としてもうれしいことです。ただし、寄付や寄贈には受け入れる団体によってルールがあり、需要がないところに送るのは迷惑にもなりかねませんので、インターネットなどで送り先を探し、先方とよく打ち合わせをする必要があります。
廃棄するもの
明らかなゴミ、人に譲れそうにない傷んだ衣類や生活用品などは、自治体のルールに従いゴミとして廃棄します。
専門業者に依頼する
遺族の手で、できるところまで仕分けたら、大型家具や家電など、プロでなければできない作業は専門業者に依頼しましょう。遺族がトラックなどを持っていて、自治体のごみ処理施設に持ち込めるのでない限り、業者の手を借りる必要があります。
専門の業者であれば、家一軒丸ごと遺品整理を請け負ってくれますが、費用は高額になってしまいます。時間と体力が許す範囲で遺族が整理を進め、それから先の、専門業者でないと無理な部分を依頼するのが、費用の面でも得です。
遺品整理業者の選び方
遺品整理は、一生のうちにそう何度も行うものではありませんので、専門業者に依頼するのも初めてという人がほとんどでしょう。人の死にまつわることは、葬儀やお墓、相続なども「知らないことが多い」のが当たり前ですので、経験者や年長者の体験談を参考にするのもよいでしょう。
今はインターネットを利用するのが一般的で、検索すると何件もの業者がヒットします。業者の選定には、以下の点をチェックしましょう。
整理する家がサービス圏内かどうか
インターネットで検索して、費用が安価な業者が見つかったとしても、その業者の対応エリアでない場合は、依頼を断れられたり、たとえ引き受けてもらえても、出張費を加算されたりする場合があります。結果的に総額は高くなりますので、整理したい家がサービス圏内であることを確認します。
必要なサービスを提供しているかどうか
遺族がどれくらいの時間と労力を遺品整理に充てられるかにより、業者に依頼する割合が違ってきます。
業者によっては、ハウスクリーニングからリフォームまで、一貫して請け負う会社もあります。家の売却、賃貸しを考えている場合は、そういった業者を選ぶのがよいでしょう。どの部分を業者に依頼したいのかをリストアップし、対応可能な業者を選ぶようにします。
許可・届出をしている業者かどうか
遺品整理をうたっている業者のなかには、違法な業者もいて、作業がずさんであったり、法外な請求をしたりするケースも報告されています。信用できる業者であるかどうかの目安となるのが、許可・届出の有無です。
特に大切なのは「一般廃棄物収集運搬業許可」で、この許可がない業者が不法投棄を行うと、依頼者側も罰せられる可能性があるため、注意が必要です。許可・届出のなかで、確認すべきものには以下のものがあります。
たいていは業者のホームページの「会社概要」のところに掲載されています。
・一般廃棄物収集運搬業許可・・・廃棄物の処理
・古物商許可・・・遺品の買い取り
・一般貨物自動車運送事業許可もしくは貨物自動車運送事業の届出・・・家財の運搬
料金体制や見積もりがわかりやすいかどうか
見積もりは、必ず訪問見積もりにしてもらいます。実際に見てもらうことで、正確な金額が算出されるからです。インターネットや電話で見積もりを出す業者もいますが、訪問見積もりがもっとも正確で、追加料金の発生を防ぐことができます。
また、見積書は必ず書面でもらうようにします。口頭でいわれた金額で、そのまま依頼することは避けましょう。見積書も内容が細かいほど良心的といえます。
ほとんどの場合、見積もりは無料です。3社ほど見積もりの依頼をすると、おおよその相場がわかってきます。
あまりにも高すぎる、逆に安すぎる業者にも注意が必要です。
電話や訪問時の対応がよいかどうか
電話対応や訪問見積もりの際の、担当者のことば遣いや立ち居振る舞いも注意して観察しましょう。疑問点にも嫌がらず答えてくれる、無理なことはその根拠をきちんと示して説明するなど、誠実さが感じられるかどうかも見極めましょう。
まとめ
遺品は、故人の人生そのものです。遺された人たちは遺品整理をしながら、故人の生きてきた証を感じることでしょう。
人は生きているあいだに多くのものをため込みます。そのため、「遺品整理は大変」という印象を抱きがちです。しかし、遺された人たちが、故人に思いをはせながら遺品の仕分けをする作業は、心の整理をする意味でも必要なプロセスです。
すべてを遺族の手で行おうと、無理する必要もありません。高齢で身体的につらい、遠方に住んでいて遺品整理がなかなか進まない、遺品の量が膨大で手に負えそうもない、賃貸物件のため早々に退去しなくてはいけないなどの場合は、専門業者の手を借りるのも一案です。