はじめに
この10年ほどの間に「終活」という概念が広まり、「終活本」と呼ばれる書籍も次々に出版されています。インターネット上にも終活に関する情報が多数公開され、シニア世代に入ると終活を意識する人が急増します。
50代から60代は、そろそろ親を看取り、実家の遺品整理に着手する年代です。遺品整理はなかなかスムーズには進まず、「自分の子どもたちにはこんな苦労をさせたくない」と感じる人もいます。実際、実家の遺品整理をきっかけに自分の終活に本格的に取り組むようになった、という声もよく聞かれます。
終活に含まれる活動には、葬儀代金や墓の準備、遺言書やエンディングノートを書くなど、多岐にわたります。そのなかで体力のあるうちに行いたいのが「生前整理」です。整理する内容は、もの、情報、人間関係などがあり、カテゴリー別に整理するとスムーズに進めることができます。
生前整理はだれのために行うのか
生前整理の目的はなんでしょうか。ここではだれのために行うのか、考えてみます。
遺族のため
生きているうちに整理を行う目的は、自分が亡くなった後に、遺された家族の負担を軽くするためです。
人は生きていると多くのものをため込みがちで、実際に使っていないものでも捨てずにとっておく傾向にあります。一人暮らしだったのに、亡くなった後に子どもが遺品整理に行ったところ膨大な遺品を処分することになった、という話も耳にします。
自分の死後、遺族の負担を軽減するために、元気なうちに身の回りのものを減らしておくことが大切です。
自分のため
シニア世代になると、すでに子どもたちは独立して家から離れている家庭が多いでしょう。近年は親と同居する子どもは減少し、子どもが巣立った後の家に夫婦二人だけが住むには広すぎる場合もあります。年齢が高くなるにつれて家のメンテナスもたいへんになるため、一戸建てから駅近の交通の便がよいマンションなどに住み替えを考える人もいます。
また、夫婦のどちらかが亡くなり一人暮らしになる人も、シニア以降は増えてきます。一人暮らしになった人のなかには、コンパクトな住まいへの住み替えや、子どもの家に同居する人もいます。最終的に施設に入居する可能性もあります。
シニア世代以降、今の住まいが終の棲家になるとは限りません。事情により転居が必要になるケースもあり、住み替えをするにせよ、子どもと同居するにせよ、施設に入るにせよ、ものを減らして身軽でいるほうが転居の際には困りません。
その他、ものを片づけることで家の安全性が高まるメリットもあります。高齢者が寝たきりになる原因のひとつに、転倒による骨折があり、転倒が起きる場所でもっとも多いのが、慣れているはずの家のなかです。
ものであふれた家はつまずき、転倒、骨折のおそれが非常に高いのです。また、ものが多いとほこりもたまりやすく、健康によい影響はありません。片づけをしたところ、喘息などのアレルギー症状が軽減した例もよく聞かれます。生前整理を行うことは、自分自身の生活のクオリティを高める効果があります。
上手なものの減らし方
「終活や生前整理なんてまだ早い」、そう思うときが実は終活の適齢期です。「まだ早い」と感じるのは「自分はまだ若い」と思っていることですから、その若くて気力体力のあるうちに生前整理に着手することを、ぜひ検討してみてください。
大切なものを選ぶ
生前整理と聞くと「いらないものを捨てなくては」と思いがちです。しかし、逆に「必要なものや大事なものを選ぶ」ことから始める方法もあります。たとえば、将来施設に入ることになった、子どもと同居することになった、しかし持って行けるものが限られているという場面を想定してみてください。
すると、買ったときに高かったとか、まだ新しいという、もの自体の価値ではなく「自分にとって必要かどうか」が判断基準になります。最低限必要なものを選んだ後は、使用頻度や優先順位の低いものから処分します。これからの人生において必要なものとは、以下のような品々が考えられます。
生活必需品
生活必需品は「これがないと日常生活が送れない」と思うもので、かなりの個人差があります。
たとえば、生活の多くをインターネットに依存している人にとって、パソコンやスマートフォンは必需品ですが、そうでない人にとっては処分してもよいものになります。逆に手書きで記録する習慣のある人にとって、手帳も日記も家計簿もないと困るものになります。
生活スタイルにより必需品は異なりますので、目が覚めてから寝るまでの一日の行動のなかで「これがないと生活が成り立たない」ものを選んでゆきましょう。
お金に関するもの
いざというときに必要なのが現金です。シニア世代になると、突然の入院や、親しい人の葬儀などの急な出費もあります。預貯金通帳、生命保険や損害保険の証券、年金手帳、印鑑などはまとめておき、子どもたちなど別居している家族にも保管場所を伝えておくようにします。
好きなもの
だれにでも「宝物」のように大事にしているものがあります。持っているだけで幸せになるもの、思い出の写真や品物、手紙やハガキなど、いったん処分してしまうと二度と手に入らないもので捨てられないものは、場所を決めて保管するようにしましょう。
子どもが初めて描いた「お母さんの絵」が捨てられない人もいます。好きなアーティストのライブのチケットやグッズを見返すときが幸せだという人もいます。それぞれ、思い出の品、身近に置きたいものがあることでしょう。それらは無理に処分せず、厳選して保管するようにします。
非常時の備え
シニア世代以降、ぜひ用意したいのが「防災セット」と「入院セット」です。災害などの非常時に持ち出すもの、突然の入院となった場合に持参するものを、自分が持てるサイズのバッグやリュックサック、キャリーケースなどに入れておきます。これらの置き場所は、別居している家族にも伝えておくと安心です。
契約や情報を整理する
見えるものの仕分けをし、必要なものと不要なものを選別する作業の後は、様々な契約やデジタルデータなど、見えないものの片づけを行いましょう。実は、遺品整理のなかでも、目に見えるものの処分はそれほどたいへんではありません。
遺族が困るのが、「契約」が関係するものと、インターネットやスマホのID、パスワード、暗証番号などです。今はSNSを利用しているシニアも多く、楽天やAmazonなどのネットショップを日常的に利用するシニアも増えています。また、雑誌の定期購読や定期購入型サービス(サブスクリプション)を利用している人もいるでしょう。ブログを書くシニアも増え、アップロード先に有料のレンタルサーバーを利用している人もいます。それらの契約先、ID・パスワードの一覧を作成することも終活、生前整理の一環です。
契約状況などはエンディングノートに記載することをお勧めします。一覧を作成することで、使用頻度の低いものを解約するなど、契約中のサービスを整理してシンプル化することができます。必要な情報は以下のとおりです。
金融関係
・クレジットカード・・・使っていないカードは解約(特に年会費が発生するカード)
・銀行口座・・・利用していない口座は解約(銀行口座は一本化が理想)
・ネット銀行・ネット証券・・・すでに利用がなければ解約し、利用中のものはログイン情報を書いておく(通帳がないため遺族が気づきにくい)
・ローン・キャッシング・・・借金も相続対象のため借入先と残債を書いておく
保険
・生命保険・・・保険証券は家族がわかる場所に保管し、契約内容が現状に合わないものは見直しをする
通信関係
今の時代、大事なデータをパソコンやスマホに保存している人も多いでしょう。シニアの間でも、シニア向けの機種や無料のスマホ教室の提供により、スマホユーザーが増加中です。契約内容や引き落とし銀行(または利用クレジット会社)は書き残して、家族にわかるようにしておきます。
・プロバイダ情報・・・契約先プロバイダ、ユーザーID、パスワード
・スマートフォン、携帯電話・・・契約プラン、利用中の有料アプリの一覧、暗証番号
・固定電話・・・ほとんど使っていないのなら解約を検討
・SNS、ブログ、YouTube・・・利用、公開している場合はブログタイトル、チャンネル名、ログイン情報
・レンタルサーバー・・・ID、パスワード、料金引き落とし先
定額購入型サービス(サブスクリプション)
「使えば使うほどコスパがよい」と人気上昇中のサブスクリプションサービスは、便利で割安な反面、あまり使わない場合はかえって割高になります。「〇〇日間無料」でお試し利用の申し込みをし、解約しないまま有料に移行しているサービスがないかもチェックします。
・動画系サービス・・・Amazonプライムビデオ、ネットフリックスなど、使用頻度が低ければ解約を検討
・読書系サービス・・・Amazon Kindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)、ドコモのdマガジン、楽天マガジンなども使用頻度が低ければ解約を検討
・食材の宅配サービス・・・オイシックス、らでぃっしゅぼーやなどのミールセットや野菜の定期配達も見直しを
・サプリメントや化粧品の定期購入・・・あまり利用していない、たまっているようなら解約を検討
人間関係の整理をする
シニア世代になるまで生きてくると、様々な人間関係が生まれては消え、数々の出会いと別れがあったことでしょう。スマホの連絡先には、すでに何年も連絡を取り合っていない友人・知人やかつての仕事関係の人が残っているかもしれません。
親は子どもの交友関係を比較的把握していますが、逆に子どもは親の交友関係をよく知らない場合が多いものです。自分が亡き後に子どもがスマホの連絡先を頼りに葬儀の知らせをしようとしても、その相手がどのような関係なのか、葬儀に呼ぶほどの関係なのかどうかはわかりません。
そのため、もう連絡することはないだろうと思う人の連絡先は、スマホや携帯電話から削除しておきましょう。また、エンディングノートなどに葬儀に呼んでほしい人の氏名、連絡先、自分との関係を書いておくことは、今現在の人間関係を整理する意味でも、ぜひ行いたいことです。
人間関係の整理として、年賀状やお中元・お歳暮の付き合いも少しずつ縮小してゆくのがよいでしょう。年賀状はなかなかやめられない習慣のひとつですが、惰性でやり取りをしている相手もいるのではないでしょうか。どうしても出したいという人に絞ると、自然と枚数は限られてくるものです。
伝えることの重要性
ものと情報と人間関係の整理をしたら、子どもたちに伝えておくことが大切です。つまり、子どもへの申し送りをしないと、生前整理をした意味が半減してしまいます。自分の亡き後のことを伝えるのに、もっともお勧めする方法は「エンディングノート」を書くことです。
「終活」の概念が一般的になるにつれ、様々なタイプのエンディングノートが発売されはじめました。エンディングノートは遺言書と違い、決まった形式がありませんので、自分の好きなように書くことができ、また何度でも書き直しができます。
「終活ライフ」でも、無料のエンディングノート作成サービスを提供しています。基本情報以下、カテゴリー別に記載することができますので、ぜひご利用ください。
終活ライフエンディングノート https://shukatu-life.com/ending-note
まとめ
子どもに迷惑をかけたくないから生前整理をする、という気持ちはとても大切です。自分が亡くなるころ、子どもは仕事や家庭に忙殺されているかもしれません。今は超高齢社会ですから、自分の葬儀のころには、子ども自身も中高年になり、気力・体力が衰えているかもしれません。子どもに負担をかけないように、と考えて行動することは確かに重要です。
ただ、子どもは親の葬儀を挙げたり遺品整理をしたりすることを、それほど迷惑だと思うでしょうか。あまりにも「子どもに迷惑をかけたくない」という気持ちが勝ってしまうと、親子でいる意味がなくなってしまいます。「多少は迷惑をかけるかもしれないけれど、元気なうちに自分でできるところまではやろう」と意識することが、生前整理の意味するところかもしれません。
生前整理は自分が亡くなった後のためだけではなく、今現在とこれからの老後の生活を快適で質のよいものにするためのものです。整理された安全で気持ちのよい住まいは、健康寿命を延ばすことにもつながります。
「自立した生活を少しでも長く送ること」が、もっとも子どもに迷惑をかけないことにつながるのではないでしょうか。