お墓を作らないという選択

お墓

現代では葬儀を行わず火葬のみ行う直葬という形態が都市部を中心にして増大しています。高齢の単身者も増え、身寄りのない人も増え遺族がいない場合もあります。また、家族の縁も薄くなってきて、親族がいても関係が薄いため葬儀を行いたくない場合もあります。このような状況では当然、お墓を作っても祀(まつ)る人がいないことが考えられます。
また、遺族がいても将来的にお墓を承継する人がいない場合が多くあります。もしあなたが将来も考えてお墓を作らない場合、家族はどのように供養すればいいのか?について考えてみましょう。

お墓の意味とお墓を作らない選択とは?

現在の日本では人が亡くなればほとんどの場合火葬をし、遺骨をお墓に納めます。しかし、実はお墓を作らないといけないという法律はなく、お墓を作らないという選択をすること自体には何ら問題はありません。

(1) なぜお墓を作らないのか?

お墓を作らない理由と原因について見ていきましょう。

  • ①お墓を継ぐ人がいないこと。

    現在の日本では少子高齢化が進み、お墓の承継者がいなくなってきています。子供のいない家庭も増え、いても女の子だけの場合は次の世代でお墓を継ぐ人はいなくなるケースが多くあります。孫で男の子がいなければ2代先でお墓を継ぐ人はいなくなります。極めて現実的な問題になっています。

    自分と配偶者の代で家系が途絶える場合、一族のお墓を管理する人がいなくなります。お墓を持つ意味自体が問われているのです。

  • ②お墓の費用がかかること。

    お墓を建立するにはかなり高額なお金が必要となります。一般の地上のお墓では平均で200万円程度かかると言われています。費用面だけ言えばより安い納骨堂などが増えています。納骨堂ですと数十万円程度が標準になります。

  • ③家族が遠方に住んでいるためお墓の維持が困難なこと。

    子供はいても遠距離の都市に住んでいて実家の場所に戻る可能性がないことから、お墓を守ることが困難な場合が多くあります。そのため墓じまいも現代的なテーマになっています。墓じまいをして改葬するのが通常ですが、将来も考えて親の考えとしてお墓のない形態を選ぶ場合もあります。子供に負担をかけたくという考えです。

  • ④自然志向から遺骨を自然回帰させたいという考え

    世界の偉人の多くが今まで墓を持たずに自然散骨をしてきました。俳優の石原裕次郎も好きだった海への散骨を望みましたが当時の法律的な制限から遺族は断念しました。その後自然散骨は一定の制限の下で違法ではないという見解が示され、遺族により一部の遺骨を自然散骨したと言われています。

    歴史的にも古代から自然散骨は行われてきており、インドでは遺骨や遺灰をガンジス川へ撒く文化があります。チベットでは、遺体を野天に放置して、鳥による「鳥葬」の歴史があります。また、宗教的な理由でも土葬は海外では現在も広く行われています。

(2) そもそもお墓とは何か

  • ①お墓は遺骨の埋葬場所であること。

    お墓は遺体や遺骨を納めるという役割があります。自然散骨とは逆の考え方になりますが永遠性を求め石材など朽ち果てることのない素材で作られることが多くあります。

  • ②お墓は先祖や故人とのつながりを感じる場所であること。

    お墓は亡くなった故人や先祖の冥福を祈り、故人と向き合う場所となっています。

    仏教では、お彼岸に墓参りし供養します。

お墓を作らない場合の遺骨の扱いについて

現在の日本ではほぼ100%火葬が行われています。墓地、埋葬等に関する法律では特に土葬は禁止されていませんが、衛生的な理由で通常は火葬が行われています。そのため火葬後は必ず遺骨が残ることになります。

しかし、法的な制限として遺骨は墓地以外に埋めてはいけないことがあります。そのため、お墓を作らないで遺骨をどう扱うかが問題になります。遺骨の扱いにどのような方法があり、遺族はどのように供養するかを紹介します。

(1) 自然散骨する。
自然散骨については、葬送のための祭祀として節度をもって行われる場合は問題ないとされています。法的にはグレーゾーンの扱いですが事実上認められている現状です。
自然散骨では海洋散骨が一般的です。海洋散骨は、海洋葬と呼ぶ場合もあり、近年では多く行われるようになっています。ただし、観光地や漁場の近くなどでは制限があり沖合で行う必要があります。

また、散骨する際には、遺骨を2mm以下の粒状に砕く、粉骨という作業を行なう必要があります。散骨は、地方自治体により条例で制限が設けられている場合もあります。

その他の散骨では、山の好きな人が山に、海の好きな人が海にそれぞれ飛行機で空中散骨する方法や、将来的に宇宙葬などが話題になりますが現状では費用もかかり一般的ではありません。また、河川での散骨は人の住む地域に近いため一般的には行われていません。

(2) 樹木葬をする。
死後は土へと還り大自然の一部となることは、命の回帰の自然な形です。ただし、個人が勝手に山の中の樹木の下に遺骨を埋めることは許されていませんので、あくまでも墓地の土地の中の樹木葬などが選択されます。一般霊園と寺院墓地で樹木葬は都市部で拡大しています。
樹木葬では、紙袋や布袋に入れて遺骨を個別に土に埋める方法や他の人の遺骨と一緒に合祀(ごうし)される形態などがあります。

(3) 永代供養の合祀墓に祀る。
高野山や築地本願寺などでもお墓の承継者のいない時代に力を入れているのが合祀墓です。他の人の遺骨を一緒に合祀されるものから、遺骨を個別に埋葬する永代供養墓もあります。地下の収納スペースなどに埋葬します。個別のお墓ではありませんが、合同墓ですので完全にお墓がないという形態ではありません。

(4) 手元供養
法的に遺骨は必ずしもどこかに埋葬しなければいけないわけではありません。手元に置いて供養をすることも可能です。手元供養は、自宅で遺骨を保管・供養する供養のあり方で自宅供養とも言います。
手元供養では、白い風呂敷で包んだ箱をそのまま自宅に安置しておく方法と、改めて保管用の骨壺に遺骨を移して安置する方法があります。保管用の骨壺は、凝った意匠がされていることが多く、そのまま部屋に置いても違和感がありません。

また、ペンダントなどアクセサリーの中に遺骨を入れて身に着ける方法もあります。

(5) 0葬(ゼロ葬)

0葬(ゼロ葬)とは、故人に対する通夜や葬儀を行わず火葬だけ行い、遺骨は火葬場に処理してもらう方法です。ただし、どの火葬場でも行っているのではなく場所は限られている現状です。

お墓を作らない場合の今後は?

(1) お墓を継ぐ人がいない状況はさらに拡大し合祀墓が拡大する。
少子高齢化の流れは国家的な強い取り組みがない限り今後も続くでしょう。
現状で顕著な方向は合祀墓の伸長です。完全にお墓を持たないというよりは個人のお墓の承継者によるのではなく、永代供養で寺院により合同墓の形態で祀ってもらう形態です。

(2) 自然散骨は法的にはグレーゾーン
自然散骨は法的にはグレーゾーンです。そのため、自然散骨の考え方はあってもまだ抵抗感がある現状です。自然散骨を行って特定の地域に集中すれば自治体の規制が強まる恐れもあります。静岡県熱海市などでの条例の例があります。

(3) お墓を作らない考えは生前からまた遺書でも明確にしておくこと。
自分がお墓を作らない考えがあり遺骨の扱いに考えや希望がある場合は、生前から家族に話して理解してもらう必要があります。家族は世間体や法的な現状から自然散骨は勇気をもって踏み切れない場合があります。遺書でも明確にしておくべき内容でしょう。

(4) 仏壇もいらないのか?
無宗教の場合はお墓だけでなく仏壇も必要としない考えもあります。仏教は葬式仏教になってしまって本来の宗教性を失っているという批判があります。葬式仏教が形骸化、形式化している点では、戒名の必要性、回忌法要の必要性などが問われます。
無宗教であれば、仏壇も本尊も位牌も本来は必要ではありません。仏教でも浄土真宗では仏壇はあっても、戒名も位牌も教義から必要としていません。なお、戒名とは意味が異なりますが法名というのはあります。

仏壇を置かない場合の遺族の供養の方法では、供養棚や遺影を飾ることで、日々の供養を行なうことができます。
最も大切なのは、亡くなった方を心から供養する気持ちです。

お墓を作らないための準備

(1) 自分自身の考えをまとめる。
自分と配偶者のお墓をどうするかの考えをまとめます。子供がいない人や子供が女の子だけの場合は即現実の問題になっています。

(2) 家族と良く話し合う。
配偶者と子供などの家族と状況を考えてよく話し合う必要があります。自分だけの考えだけでは決められない点があります。

(3) お墓を持たない場合の具体的な方法について検討する。
海洋散骨であれば代行業者が多くありますので、資料を取り寄せ、具体的な方法や費用などを調べ、イメージを固めます。海ではどこに撒くのを希望するかなども考えておきます。

お墓を作らないという選択-まとめ

(1) お墓を作らない理由は、お墓を継ぐ人がいないこと、費用がかかること、家族が遠方に住んでいるためお墓の維持が困難なこと、自然志向から遺骨を自然回帰させたいという考えがあること、などです。

(2) 法的な制限として遺骨は墓地以外に埋めてはいけないこと。

自然散骨には基本的に法的な制限があります。遺骨は墓地以外に埋めてはいけないため遺骨そのままではなく遺灰として粉状にする必要があります。

(3) お墓を作らない方法としては、自然散骨する、樹木葬をする、永代供養の合祀墓に祀る、手元供養、0葬(ゼロ葬)などがあること。

お墓を作らない方法にも各種あります。法的制限から自然葬では樹木葬となりその他は散骨となります。

(4) 自然散骨では海洋散骨が多いこと。

海洋の沖合であれば近隣に迷惑をかける度合いが少なく海洋散骨は幅広く行われています。

(5) 完全にお墓を持たない形態ではありませんが、永代供養の合祀墓が増えていること。

有名寺院を含めた永代供養の合祀墓が増えています。完全にお墓をなくすと不安なのか、寺院に遺族によらずに永代祀ってもらうと安心という人が多くいます。

お墓を作らないための3つのポイント

(1) お墓を作ってもお墓を守る人がいないという覚悟を持つこと。
お墓を守る人がいなければ、個人のお墓を持つ意味はどの程度あるのでしょうか。その意味から考える必要があります。

(2) 完全にお墓を作らない選択には勇気がいること。
お墓を守る人がいなくなるにしてもお墓を持たない選択には勇気がいります。自分や配偶者、子供とよく話し合い確信をもって進めることが必要です。残された家族が勇気をもって進めるためには遺書なども必要です。

(3) お墓を作らない場合の遺骨の扱いの方法を明確化すること。
海洋散骨するのか、空中散骨するのか、するとすればその場所などを明確化し、海外のハワイ沖で散骨して欲しいなどの場合は費用の準備もしておく必要があります。

無宗教であれば葬儀やお墓はもっと自由であって良いはずです。配偶者であれば手元供養でお墓を持たない形態もあります。故人と向き合う意味ではより直接的に祀ることができます。しかし、その後の世代のことを考えると実際にはたとえお墓を継ぐ人がいないとしてもお墓がないと不安なものです。不安を超えるある程度明確な考え方を確立する必要があります。

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