自然葬と散骨の違いについて

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自然葬と散骨

自然葬とは、遺骨を墓地などに納めるのではなく、海や山などの自然に還す葬送の形です。死後は自然の循環に回帰するという考えがもとになっています。

自然葬には散骨を中心にいくつかの種類がありますが、お墓のあり方を踏まえて考えていく必要があります。また、法律的な制限も考慮する必要があります。

自然葬と散骨の概要とその違いについて紹介します。

自然葬とは

自然葬とは、遺骨(遺灰)を海や山などの自然に還す葬送のひとつです。

遺骨を細かく砕いて遺灰とし、海や山へ散骨したり、土に帰る特殊な袋などを用いて木や植物のもとに埋葬(樹木葬)したりする方法があります。

また、キリスト教圏などで一般的に行われる土葬や、東南アジア圏で行われてきた水葬なども自然葬の一種です。

土葬

土葬は遺体をそのまま土に埋める方法です。宗教的な教義(死後の復活など)から、火葬を実施しない地域で一般的な埋葬です。現在もイスラム教やキリスト教圏などで行われる葬送であり、日本のごく一部にも現存しています。

風葬

風葬は樹木の上や洞窟などに遺体を安置し、外気にさらして乾燥・風化させる方法です。南アメリカの一部で現存しているといわれます。

水葬

水葬は遺体を海や河川に流す葬送です。棺を舟形にしたものに遺体を乗せて流したり、丸木舟に乗せて沖で沈めたりする方法が取られます。ミクロネシアやフィリピン、インドネシアで歴史的に行われてきた文化です。

鳥葬

鳥葬は遺体を鳥にゆだねる方法で、チベットで行われてきた文化です。岩や塔の上に遺体を安置して鳥に食べさせることで、肉体と霊魂は天に運ばれるという信仰から生まれたとされます。

散骨とは

散骨とは、墓地以外の制限の受けていない場所で、パウダー状まで紛骨した遺骨を撒く葬送です。

散骨に埋火葬許可証は必要ありませんが、紛骨(2ミリ以下)の作業が必要です。樹木葬とは異なり、墓地運営者に使用料や管理料を支払う必要はありません。

方法としては、海に撒く「海洋散骨」や山に撒く「山岳散骨」、飛行機などで空から撒く「空中散骨」などがあります。

自然葬と散骨の違い

自然葬は、遺体・遺骨を自然に回帰させる葬送です。対して散骨は、散骨は遺骨を遺灰にして自然のなかに撒く方法です。つまり、散骨は自然葬の一種といえます。

山間散骨

著名な山や故郷の山など、山への散骨を行うのが山間散骨です。ただし、山の所有者の許可を得る必要があります。

遺族が自ら散骨する場合、粉骨のための費用が必要となります。通常、粉骨は1万円~3万円ほどで依頼できます。

海洋散骨

海洋散骨は、船をチャーターして、海水浴場や養殖場などから離れた沖合で散骨する方法です。紛骨した遺骨は水溶性の袋に入れ、供花などと共に海へ沈めます。なお、散骨した海域の緯度・経度を記した証明書が発行されます。

費用は、個別プランの場合で20万円以上が相場です。家族や友人のだけで故人を送ることができ、故人の好きだった音楽を流しながら船上でのセレモニーも行えます。

共同プランの場合は10万円以上が相場となり、他の方と一緒に散骨を行います。スケジュールは業者の調整に沿って行われます。

委託プランは散骨を代行業者に委託することで行われ、費用は5万円程度で実施される場合が多いようです。

空中散骨

空中散骨では、ヘリコプターや小型飛行機で空から撒く方法と、大きなバルーンに遺灰を入れて飛ばす方法があります。

ヘリコプターや小型飛行機をチャーターする場合、費用は30~50万円程度が相場となっています。また、距離や人数によっても加算されます。

バルーンで撒く場合、大きくて丈夫な風船に遺灰を入れ、成層圏まで飛ばします。バルーンは高度30km以上の成層圏で破裂し、遺灰が空に舞います。費用は20~30万円程度が相場となっています。

樹木葬

樹木葬は自然葬のひとつであり、樹木の根元に遺骨を埋葬したり、遺骨を埋葬した場所に樹木を植えたりする葬送です。遺骨は土に還る袋などに入れて埋葬されます。花壇葬や庭園葬といったバリエーションもあります。

遺骨を個別に袋などにいれて埋葬する個別型と他の人の遺骨と一緒に埋葬する合祀型のものがあります。埋葬の方法やバリエーションによって費用は異なり、20万円~50万円程度が相場となります。

なお、樹木葬は墓地埋葬法に沿った埋葬であり、必ずしも紛骨は求められません。また、現在埋葬されている墓地から樹木葬に改葬する場合は、「改葬許可証」が必要となります。

自然葬や散骨に関する法律

日本には埋葬に関する法律はありますが、散骨を禁止する法律はありません。ここでは自然葬や散骨にまつわる注意点を解説します。

埋葬に関してのみ法律がある

1948年(昭和23年)に制定された「墓地・埋葬に関する法律」では、「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域にこれを行ってはならない」としています。遺骨を墓地以外の区域に遺棄したとみなされると、刑法の「遺骨遺棄罪」に抵触します。

また、遺骨をそのままの状態で散骨できないのは、刑法の「死体損壊等罪」の条文で「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の懲役に処する」と規定されているためです。

そのため細かなパウダー状にまで粉骨し、骨とはわからない大きさにすれば散骨できると解釈されています。

行政の見解

1991年10月に「葬送の自由をすすめる会」が神奈川県相模灘沖で自然葬を実施しました。

これに対し法務省は「葬送のひとつとして節度をもって行われる限り、遺骨遺棄罪に当たらない」との見解を発表しています。

また、厚生労働省も「墓地・埋葬に関する法律はもともと土葬を問題にしており、遺灰を海や山にまくといった葬送は想定しておらず、対象外である。この法律は自然葬を禁ずる法律ではない」との見解を発表しています。

以上のように、現状で散骨は条件付きではありますが、認められている状態といえるでしょう。

自治体による規制

行政では条件付きで認められている散骨ですが、自治体によっては条例で制限している場合があります。

例えば、静岡県熱海市では「熱海市海洋散骨事業ガイドライン」が定められており、以下のように制限を設けています。

・熱海市内の土地(初島含む)から10キロメートル以上離れた海域で行うこと。

・海水浴やマリンレジャーのお客様の多い夏期における海洋散骨は控えること。

・焼骨をパウダー状にし、飛散させないため水溶性の袋へ入れて海面へ投下すること。

・環境保全のため自然に還らないもの(金属、ビニール、プラスチック、ガラスその他の人工物)を撒かないこと。

・事業を宣伝・広報する際に「熱海沖」、「初島沖」など「熱海」を連想する文言を使用しないこと。

自然葬・散骨をするための準備

自然葬と散骨はまだ一般的な認知を得ているとは言い難いのが現状です。実施にあたってはしっかりと準備を行いましょう。

配偶者や子どもの理解を得る

お墓を持たない選択は、遺族の供養の方法にも関わります。子どもや親族の意見も聞いたうえで選択しましょう。

配偶者がいれば自身の希望だけでなく、配偶者が亡くなった場合のお墓や遺骨の埋葬方法についても考えておく必要があります。

具体的な自然葬や散骨の方法の検討

自然葬や散骨についての情報を収集し、方法や費用について具体的に固めていきましょう。散骨の場合は、場所の検討も行います。

分骨の検討

すべての遺骨を散骨するのではなく、分骨して一部を従来型のお墓に埋葬し、一部を散骨する方法があります。残された遺族が散骨を希望しない場合などの配慮となります。

まとめ

自然葬でもっとも一般的なのが樹木葬で、散骨では海洋散骨が中心となっています。とくに樹木葬は、お墓を買うよりも安価であり、人気を集めています。

散骨の課題としては、法律的な制限が挙げれます。とくに海洋散骨は観光や漁業への影響から、地元ではあまり歓迎されず、地方自治体の条例で規制が強まる可能性があります。

散骨はいずれの場合も、親族(遺族)からの反発がある可能性があるため、独断では決めずに周囲との相談のうえで実施することをおすすめします。