代償分割とは
遺産相続でトラブルとなりやすいのは、遺産の中の不動産の分割であり、特に自宅不動産以外に目立った資産がない場合です。
金融資産がさほどない、自宅もさほど広くない場合は分割しようがなく、相続人の誰か1人が自宅を相続すれば他の相続人に不満が生まれます。
そのような場合、分割方法を考えなければなりません。
そこで、遺産分割の1つの方法である代償分割が挙げられます。
代償分割とは、相続人の中の1人が土地などの不動産を相続する代わりに、他の相続人に対して代償金を支払う方法です。
その資金準備や相続税対策になる方法に生命保険の活用があります。
この記事では、自宅を分割しないで財産を分ける代償分割と生命保険の活用について紹介します。
代償分割のメリットとデメリット
代償分割とは、相続人の中の1人が不動産を相続する代わりに、他の相続人に対して現金を支払う方法です。
「代償分割」を活用した遺産分割を行う場合、贈与税は課税されません。
また、遺産分割協議書など証拠となる書類を作成しておく必要があります。
代償分割のメリット
代償分割には、以下のようなメリットがあります。
・公平に遺産分割できる
代償分割を利用することによって、各相続人間で公平な遺産分割をすることができます。
たとえば2000万円の価値のある不動産があり、2人の兄弟が相続する場合、兄が不動産を取得して弟に1000万円の代償金を支払う代償分割をすれば、兄弟が公平に遺産を相続できます。
・不動産を残せる
代償分割の場合、相続人のうちの誰かが土地や建物を取得するので、資産としての不動産を守ることができます。
代償分割のデメリット
代償分割には、以下のようなデメリットもあります。
・代償金を支払えないと利用できない
代償分割を行うときには、不動産を取得する相続人が他の相続人に代償金を支払う必要があります。
その相続人に代償金を支払うだけの充分な資力がないと利用できません。
特に、価値の大きい不動産の相続が行われたときには、相続税の支払いが相続の10ヶ月後になるため納税資金も必要です。
・不動産の評価方法でもめるケースが多い
代償分割をするときには、不動産を「評価」する必要があります。
しかし、不動産の評価方法は非常に多様なため、相続人間で意見が合わずにもめてしまうことが多くあります。
代償分割における資金準備対策と生命保険の活用
代償分割を行うときには、不動産を取得する相続人が他の相続人に代償金を支払う必要があり、代償金を支払うだけの充分な資力がないと活用できません。
そこで、資金準備対策の1つに、生命保険の活用があります。
代償分割する相続人が生命保険金の受取人になり、その保険金が資金になります。
被相続人が加入者となり、遺族の相続人が保険金の受取人になる生命保険、いわゆる死亡保険が対象です。
生命保険の相続における扱い
生命保険には、以下のように通常の金融資産とは異なる特性があります。
・生命保険は「民法上の相続」には当たらないこと
・被相続人が亡くなった時点で所有していた財産ではない
・生命保険は「みなし相続財産」として課税対象になる(ただし、生命保険による死亡保険金の給付については一定の範囲内で非課税)
生命保険の種類
生命保険は、広義には死亡や病気、ケガ、介護など、人の生命・身体に関するリスクに備える保険全般を指します。
中でも代表的なものが、被保険者が死亡したときに保険金が支払われる死亡保障の保険(死亡保険)です。
死亡保障の保険には、「定期保険」「養老保険」「終身保険」の3種類があります。
ポイントは、保障期間と貯蓄性の有無などです。
相続税以外にもある生命保険と税金の関係
生命保険は契約の方法によってかかる税金が異なり、生命保険では、下記の点が重要です。
・誰が契約者なのか
・誰が被保険者なのか
・誰が保険金の受取人なのか
保険料を負担している人によって、所得税や贈与税が課税される場合があります。
生命保険の活用のメリット
生命保険の活用は、被相続人と代償分割を予定する相続人が被相続人の生前から打ち合わせておけば、よりスムーズに運用できます。
例えば、相続財産が自宅不動産以外にわずかしかなく、相続人対象者が配偶者と子ども1人いた場合、被相続人が配偶者に自宅を相続させたいと遺産の分割方法を検討したとき、配偶者が自宅の不動産を単独で相続する方法として代償分割があります。
ただし、他の相続人である子どもに相当の現金を渡さなければなりません。
そのため、ある程度まとまった金額を受け取ることができるのが生命保険の死亡保険金です。
被相続人がそのことを理解し、配偶者を受取人にした保険契約を結んでおけば可能です。
その他、生命保険の活用では下記のメリットがあります。
加入と同時に対策が完了する
保険に加入後に、保険事故(被保険者の死亡など、保険金の支払い対象となる事故)が発生すれば、保険金を受け取ることが出来ます。
銀行預金や資産活用では、相続対策に必要なお金の積み立てに時間が掛かるのに対して、保険は即効性があるでしょう。
ただし、保険にも免責期間という、保険会社が保険金の支払い義務を免れることできる期間があるため注意が必要です。
多くの会社で1~3年を自殺の免責期間として設けており、免責期間中に自殺しても保険金は支払われません。
現金で確実に受け取ることができる
保険は被保険者が死亡すれば、受取人に保険金が払い込まれるので、相続税納税や代償分割までに確実に現金を用意することができます。
生命保険の相続税対策上のメリット
相続税課税における生命保険の非課税限度額があります。
生命保険の非課税限度額=法定相続人の人数×500万円となっています。
生命保険は誰に渡すかを指定できる
死亡保険金は、あらかじめ指定した「死亡保険金受取人」に必ず支払われるので、残したい人に確実に残せます。
保険金は、みなし相続財産として相続税の対象ですが、相続財産とは違って保険金の受取人の固有の財産とされています。
相続財産は、遺産分割協議がまとまらないと相続人は受け取ることができません。
また、遺産分割協議によっては、被相続人が渡したい人に渡したいだけの金額を渡すことができない可能性もあります。
生命保険であれば、保険金の受取人に保険金を確実に渡すことができます。
生命保険金は相続人の合意を得ることなく、受取人だけで手続きができる
生命保険は受取人だけで手続きをすることができるので、他の相続人の了承を得ることなく保険金を受け取りが可能です。
保険金は、保険金受取人の固有の財産なので、相続放棄をした場合でも受け取ることができます。
遺留分の対象にならない
遺留分とは遺言により財産を取得できない相続人であっても最低限保証されている取得分のことです。
もらえる財産が遺留分より少ない場合、他の相続人に請求することが可能です。
しかし、生命保険金は、保険金受取人の固有の財産のため、原則として遺留分減殺請求と特別受益の対象外ということです。
このため、保険金受取人は、受け取った保険金を除いた金額で、法定相続割合を主張することができます。
代償分割の準備ついて
代償分割を準備しておくために、やるべきことを見ていきましょう。
親などと生前に相続について話し、遺産分割についても話し合う
どのような財産があり、相続人は誰で、誰にどのような財産を残すかについて、将来的に被相続人となる親などに考えてもらいます。
主だった財産が自宅不動産しかない場合
預貯金などの金融資産が少なく、主だった財産が自宅不動産しかない場合は不動産をどうするかを考えます。
例えば、被相続人に配偶者がいれば、配偶者にそのまま自宅に住み続けるようにしたいのかなどを考えておくと良いでしょう。
遺産分割の方法について検討し、代償分割について絞り込み対策を考える
遺産分割の方法を検討することが大切です。
その中で代償分割について絞り込んで検討します。
代償分割の資金準備対策として生命保険の活用の検討
代償分割の資金準備対策として、生命保険を活用するかどうかを検討します。
また、生命保険に加入する人の立場や年齢も考慮します。
新たに保険に入る場合の検討
代償分割の資金準備対策として、新たに生命保険に入る場合、どのような生命保険が適当かを検討します。
まとめ
遺産分割の方法では、現物分割、換価分割、共有、代償分割の4つがあります。
代償分割を行うときには、不動産を取得する相続人が他の相続人に代償金を支払う必要があり、代償金を支払うだけの充分な資力がないと活用できません。
代償分割の資金準備対策として、生命保険の活用があり、被相続人が加入者となり、遺族の相続人が保険金の受取人になるいわゆる死亡保険が対象です。
生命保険の特性から生命保険金自体は被相続人の生前の財産ではないため民法上は相続財産ではないことです。
ただし、相続税法上は、生命保険金は受け取った人の「みなし相続財産」として課税対象になりますが非課税枠がある点を知っておくことが大切です。