結婚式などお祝いの食事の場では「乾杯」が行われますが、葬儀や法要後に用意される食事の席では「献杯(けんぱい)」が行われます。乾杯と献杯は持っている意味がまったく異なり、マナーや注意点にも違いがあります。正しい献杯のマナーや注意点を知っておき、急に頼まれてもあわてることなく、また、失礼のない立ち居振舞いを行えるようにしておきましょう。
法事・法要での献杯について
献杯とは、葬儀や法事・法要の席において、故人に敬意を表し、死を悼み、供養する気持ちを持って杯を交わすことを言います。法要が終わり、お斎(おとき=食事の席のこと)の開始の前に献杯を行います。発声は、施主、遺族代表、依頼を受けた人が行い、乾杯のように大きく明るい声で発声するのとは違い、献杯は控えめな声で発声をします。
なお、キリスト教では献杯を行わないことが通常ですし、仏教でも浄土真宗のように献杯は行わないとしている宗派もあります。
乾杯とは
乾杯は、主に慶事の席で開席(宴の開始)の合図として、会食を始める前に杯を交わすことを言います。お酒の入ったグラスを持ち、「乾杯」と言う発生と共にグラス同士を合わせて喜びを分かち合います。
日本における乾杯の起源は諸説ありますが、江戸の幕末である日英和親条約というものを締結した1854年にさかのぼると言われています。この条約の締結に際してイギリスから派遣されたスコットランド貴族の伯爵が、晩餐会の席でイギリスでは杯を交わす習慣があると伝え、日本側がそれに付き合ったのが始まりと言われています。
献杯と乾杯の違い
献杯は葬儀や法要法事の席で行い、乾杯はめでたい席で行います。献杯は合図と共にグラスを鳴らすことはなくグラスを軽く持ち上げ、お酒などに口をつけた後に拍手はしません。乾杯は合図と共に互いのグラスを打ち付けたりし、お酒などに口をつけた後に拍手します。
献杯の挨拶
献杯の挨拶は、誰がしなければならないという具体的な決まりはありません。葬儀後の精進落としや忌中払いの法要後の食事は、遺族親族が中心で行われるため、必然的に遺族親族の誰かが献杯の挨拶を行う可能性が高くなります。遺族親族以外で故人の友人や、地域の方々などをお招きした場合には、これらの方に献杯の挨拶をお願いすることもあります。一般的な傾向としては、親族の中で年長者が遺族親族を代表して献杯の挨拶を行うケースが多くあります。
献杯のマナーと注意点
献杯は、故人を悼み捧げるものですので、乾杯の時のマナーとは大きく異なります。マナーを心得ていることで、ご家族・ご親族の方や他の参列者(列席者)の方々に礼を失することなく行えます。具体的には、下記のことに気をつけましょう。
・献杯が終わるまでお斎(食事)に手をつけないようにします。
・献杯の発声の後、唱和と合掌もしくは黙祷を行い、発声直後に飲まないように気をつけます。
・「献杯」の杯を持ち上げる際は、顔あたりまでの高さを目安に軽く持ち上げるようにします。
・献杯の飲み物は、故人への思いを込めて、少しでも口をつけるようにします。
・「献杯」の杯は飲み干さなくてもマナー違反にはなりません。
挨拶をお願いされたとき
献杯の挨拶をお願いされたときは、特別な事情がない限り、快く引き受けすることをお勧めします。事前にお願いされることがほとんどですが、当日、急にお願いしされることもあります。急にお願いされた場合でも、慌てず、引き受けできるように挨拶のポイントを押さえておくと良いでしょう。
法要・法事での献杯の流れ
一般的な献杯の流れは、以下の通りとなります。自ら法事を進行する施主などの場合は、事前に進行について関係者に確認します。
- ①故人の位牌にお酒を捧げる。
故人の位牌にお酒を捧げた後、参列者(列席者)全員の杯にお酒を注ぎます。
- ②遺族代表が挨拶および献杯の言葉をお願いした人の紹介
遺族の代表が、参列のお礼とお斎(食事)の始まりとして、一言挨拶をし、併せて献杯をお願いした人の紹介を一言でします。献杯の言葉は事前にお願いしておきます。お願いする方は、一般的に、遺族代表や生前に故人と親しかった友人にお願いします。
- ③献杯の発声
献杯の発声は、「献杯の言葉」の後に続いて、落ち着いた声で静かに「献杯」と言い、軽く杯をあげます。
- ④唱和
代表者による「献杯」の発声の後に続いて、参列者も同じく落ち着いた声で静かに「献杯」と言い、軽く杯をあげます。
>唱和は基本的には故人に対して敬意を表す意味で位牌に向かって行うものです。
- ⑤合掌
献杯の発声に続き、合掌を行います。
- ⑥お斎(食事)の開始
施主からお斎(食事)の始まりの言葉を発します。始まりの言葉が発せられたら、食事を始めます。食事では故人との思いで話しなどを語り、静かに頂くようにしましょう。
- ⑦お斎のお開き
お開きの時間が来たら、施主が会のお開きを告げます。
献杯での挨拶
献杯での挨拶は、以下のポイントを意識して行います。
・故人との関係と自己紹介
・施主もしくは親族の場合、集まってくださった方々へのお礼の言葉
・施主もしくは親族の場合、無事に法事・法要を終えることができたことへの感謝の言葉
・故人を偲ぶ言葉もしくは故人との思い出やエピソードの言葉
・忌み言葉(いみことば)を使わないようにする。
・「献杯」の発声は、乾杯と違い大きな声を出さないよう、落ち着いた、控えめの声で発声します。
・杯を上げる際、真上ではなく、顔の位置を目安に軽くであげます。
・献杯では、周囲の方と杯同士を合わせて音を出すことはしないようにします。
・献杯の発声後、拍手はしないようにします。
・杯を飲み干した直後、周囲の方との談笑は控えます。
・挨拶は長くなりすぎないようにします。
献杯の挨拶例文
法事・法要後の会食における、献杯の挨拶例文を紹介します。
- ①施主の献杯例文
施主の□□△△でございます。本日は父の□□法要にご参集いただき、誠にありがとうございました。不思議なもので、今でもふと側に父がいるように感じることがあります。…ささやかではございますが御食事をご用意いたしまので、父を偲びながらお召し上がりいただければと思います。それでは皆様、献杯の御唱和をお願いいたします。「献杯」…ありがとうございました。
- ②施主の献杯例文
本日はお集まりいただきまして、誠にありがとうございました。おかげ様で無事に□□周忌を済ませることができました。懐かしい皆様に囲まれ、母も喜んでいるでしょう。
今日は皆様と共に故人を偲びたいと思います。それでは、故人の冥福を祈りまして、「献杯」。
- ③故人の親族の献杯例文
私は、故人の弟であります□□〇〇と申します。姉はとにかく優しい人柄であったのを思い出します。…姉もあちらの世界で、私たちを温かく見守っていてくれているのではないでしょうか。それでは姉をお偲びいただき、皆様方には献杯の御唱和をお願いいたします。「献杯」。ありがとうございました。
献杯は必ずする?
会食の前のしきたりではありますが参加者や僧侶の意見を聞いて決めても良いでしょう。故人を偲ぶ気持ちが大切です。なお、献杯の杯は全て飲み干す必要はありませんが、故人に敬意を表するものが献杯となりますので、少しでも口にするようにします。また、車でお見えの方、アルコールが苦手な方、お子様のことを考慮し、ジュースやお茶などノンアルコールの飲み物もあると良いでしょう。
まとめ
献杯とは、葬儀や法事・法要の席において、故人に敬意を表し、死を悼み供養する気持ちを持って杯を交わすことを言います。法要が終わり、お斎(おとき=食事の席のこと)の開始の前に行うものです。献杯の発声は施主、遺族代表、依頼を受けた人が行い、乾杯のように大きく明るい声で発声するのとは違い、献杯は控えめな声で発声をします。
ある程度の年齢になると、葬儀や法要への出席する機会が増えてきます。そのような時に困らないように献杯に関する知識は持っておいた方が良いでしょう。献杯の仕方やマナーのそのひとつです。
献杯には、終わるまでお斎(食事)に手をつけないこと、献杯の発声の直後に飲まないこと、献杯の杯を持ち上げる際は顔あたりまでの高さを目安に軽く持ち上げること、献杯の飲み物は故人への思いを込めて少しでも口をつける、といったマナーがありますので覚えておきましょう。