法要・法事の時に僧侶にお渡しするお金にも種類があります。基本となるのは法要・法事に関するお布施ですが、それ以外に「御膳料」や「御車代」があります。ここでは、御膳料とはどのようなもので、どのような時に必要か、また、その相場やお渡しする時のマナー、注意点などについて紹介します。
御膳料とは
御膳料(お膳料)とは、通夜、葬儀などの法要で読経してくれた僧侶が、式後の会食を辞退したときや、会食を執り行わなかったときに、僧侶に渡すお金のことをいいます。
会食は、通夜式の後に行われるものを「通夜振る舞い」と呼び、初七日法要を葬儀と同じ日に繰り上げて執り行う葬儀の後の初七日法要後の会食を「精進落とし」と呼びます。また、四十九日や一周忌、三回忌などにおける法要の後には、お斎(おとき)と呼ばれる会食があります。いずれの会食にも、僧侶をお誘いするのが習わしとなっていますが、お斎は僧侶や参列をしてくれた方々に対して、遺族から感謝の気持ちを込めたおもてなしの食事という意味があります。
しかし、僧侶がお斎をどうしても辞退せざるを得ないことがあります。その際には、お斎で出す予定だった料理やお菓子を箱詰めにして僧侶にお渡しするのが慣例でした。一方で、僧侶も多忙な時期には、すぐ次の法事へ向かうことも多くあり、お斎への参加だけでなく、箱詰めの品を持ち歩くことも難しくなってきたため御膳料をお渡しする慣習ができました。逆に言うと、僧侶がお斎に列席される場合や、僧侶に引き出物として弁当をお渡しした場合には、御膳料をお包みしなくても構いません。
御膳料が必要なケース
御膳料の用意は、僧侶の都合によってお斎を受けていただけるかどうかで決まります。したがって、法事の前に確認することが必要になります。最近では、法事においてお斎を省略することも増えてきていることから、省略する際も遺族は形式的に、必ず事前にお斎を省略する旨を伝え、御膳料を渡すようにします。
・御膳料を渡す相手
御膳料は、法要時に読経をしてくださった僧侶へお渡しします。個人的なお礼の意味があるため、僧侶も個人として受け取ることになります。
・御膳料を渡すタイミング
御膳料を渡すのは、基本的には法事が終わり、僧侶が帰られる際です。「本日は手厚い供養をありがとうございました。どうぞお納めください」と一言添えながら渡します。
・御膳料のマナーと注意点
御膳料は、会食の代わりとなるものなので、斎場などの仕出し弁当などで対応する場合には、5千円から1万円が一般的な相場と言われています。
御膳料の包み方
御膳料を包む際には、不祝儀袋または白無地の封筒を用いるのが一般的です。
・白封筒を使う場合
白封筒でも全く問題はないのですが、郵便番号などが付いていない無地のもの、二重封筒ではないものの2点に注意します。特に二重封筒については、二重に重なることは「不幸が重なる」とされ、弔事の場において縁起が悪いものとされています。
・不祝儀袋を使う場合
不祝儀袋を使う場合には、黒白もしくは双銀の色で、結びきりの水引のものを使います。
御膳料の封筒の書き方
筆がベストですが、筆ペンでも構いません。なお、筆で書く場合は、通常の濃墨で構いません。通夜や葬儀で渡す香典は薄墨で書くのがマナーですが、御膳料はこれには当たりません。無理して行書体で書かなくても、楷書体で問題ありません。
・表書き
上半分に「御膳料」と書き、下半分に「○○家」と家の名前を書くか、施主のフルネームを書きます。
・裏書き
左半分に住所と金額を書きます。住所が右で金額が左です。
金額は「金伍阡円也」(五千円)や「金壱萬圓也」(一万円)というように書くとよいでしょう。
お金の入れ方、入れるお金について
お札の表側(肖像画が描かれた方)と袋の表が同じ向きになるように入れます。また、お札を複数枚入れる場合には、お札の向きを揃えるようにします。御膳料においては、僧侶の方に個人的に渡すものになるので、できるだけ新札の方が好ましいとされています。
御膳料の渡し方
渡す際に封筒そのままでは失礼にあたりますので、切手盆を用意し、字の向きを僧侶側に向けて差し出すのが一般的です。切手盆とは、ちょうど封筒が乗る大きさで、黒塗り・長方形のお盆です。また、袱紗(ふくさ)を合わせて使うか、もし切手盆がない場合は、袱紗だけ使用して渡しても問題はありません。
・袱紗の包み方
袱紗には主に金封タイプと風呂敷タイプがあります。使うのはどちらのタイプでも大丈夫ですが、包み方や渡し方には作法があります。
金封タイプの場合は入れやすい袋状になっており、中にただ入れるだけになります。渡すときは表書きが相手に読めるように封筒を回転させてから渡します。
風呂敷タイプの場合は、袱紗をひし形の状態に広げ、やや右に表書きが見えるように置きます。そして、右・下・上・左の順番に折っていき、左封じにし、開けるとき左から開くような状態にします。
切手盆の使い方
切手盆には7~9号までのサイズがあります。一般的に使われているのは8号サイズです。また色は基本的に黒色です。切手盆を使う場合は御膳料を切手盆に載せます。このとき文字は自分が読める向きでも構いません。そして、僧侶に渡す際に表書きが相手に向くように回転させて切手盆を差し出します。お礼と「お納めください」との一言を添えると丁寧です。僧侶が御膳料を受け取り、切手盆が返却されれば終わりです。
御布施と合わせた場合の御膳料の渡し方
御膳料は、ほとんどの場合、お布施やお車代と一緒にお渡しします。それぞれで意味合いがありますので、全て別の封筒に分けてお渡しします。切手盆の上に法要の御布施と御膳料の封筒を載せ、僧侶の方に向けて渡します。この時、御膳料よりも御布施が上に来るようにします。なお、御車代がある場合は、御車代と御膳料はどちらが上でも構いません。
法事・法要の今後
複雑化した葬式や仏教のしきたりは、多忙な現代人には適さなくなってきています。そのため近年では、葬儀当日の火葬後に初七日法要を執り行うことが多くなってきています。親族が短期間に何度も法要のために集まるのが難しくなってきているからです。
また、年忌法要では長い場合は50回忌などもありますが、現実性がありません。33回忌で弔い上げとする習慣があったとしても、現在の女性の平均年齢の87歳で言えば、例えば母親が85歳で亡くなり、自分が母親の30歳の時に生まれたとすれば65歳です。65歳から33回忌までの32年間経てば97歳です。これではなかなか弔い上げも難しいでしょう。そのため年忌法要ももっと短くしても良いとし、3回忌や7回忌まででも良いとする考え方があります。
葬儀、法要の簡素化の傾向
2014年の葬儀についての統計では、関東地方で行われる葬儀の22%が、通夜や告別式などの宗教儀式を伴わない「直葬」と言われています。また、関東圏の52%は一般弔問者の参加しない「家族葬・密葬」です。さらに、25%は通夜と告別式に一般弔問者を招く一般葬ですが、初七日の法要は省略、ないしは告別式と同時に行う繰り上げです。正式に四十九日間の法要を行う人は少なくなってきていると言われています。
檀家制度の縮小
また、檀家制度も先細りになっていくと言われています。家のお墓を成り立たせている寺院の檀家制度ですが、少子化の影響によりお墓を継ぐ人が少なくなっているからです。
このような動向を受け法事自体も簡素化され、法事において会食をするケースも近年は減ってきています。さらに新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、葬儀や法事など故人をしのぶ儀式のあり方にも変化が表れており、密閉・密集・密接のいわゆる「3密」が起こりやすい法事などは行わなかったり、家族やごく親しい人のみの最小限でのものにしたりしています。御膳料も、会食する習慣自体が減ってくればしきたりにも変化が訪れるかもしれません。
まとめ
御膳料(お膳料)とは、通夜、葬儀、法要で読経してくれた僧侶が、式後の会食を辞退したときや、会食を執り行わなかったときに、僧侶に渡すお金のことをいいます。僧侶がお斎に列席される場合や、僧侶に引き出物として弁当をお渡しした場合には、御膳料をお包みしなくても構いません。
御膳料をお渡しする場合は、法事が終わり、僧侶が帰られる際に切手盆の上に封筒を乗せ、字の向きを僧侶側に向けて差し出してください。封筒の表書きには、上半分に「御膳料」と書き、下半分に「○○家」と家の名前を書くか、施主のフルネームを書きましょう。裏書きには、左半分に住所と金額を書いてください。御膳料の相場は5千円から1万円です。