お彼岸と聞いてまっさきにイメージするのは、やはり「お墓参り」でしょう。近年は宗教離れ、お墓離れが進んでいるとはいわれていますが、幼い頃から意味はよくわからなくとも、お彼岸はなにか特別な日だという印象を持っている人が多いのではないでしょうか。
日本では、冠婚葬祭は宗教に従って執り行いますが、普段は信仰心がない、信仰している宗教はない、という人が約6割といわれています。お彼岸のお参りも宗教行事というよりは、代々続いてきたその家のしきたりという意味合いのほうが大きいのかもしれませんが、お彼岸は日本独自の仏教行事です。
現在は新型コロナウィルスの影響で故郷に帰れず、お墓参りができていない方も多いと思います。いつか世の中が以前のように戻った時には、これまで出来ていなかった分、お彼岸にぜひお墓参りをしてください。この記事では、お彼岸の由来、お彼岸の過ごし方、故人や先祖の供養のしかたを解説してみます。
お彼岸とは
お彼岸の意味はわからなくても、「暑さ寒さも彼岸まで」ということばは多くの人が知っています。これは、残暑も秋のお彼岸の頃にはやわらぎ、余寒も春のお彼岸の頃には薄らいでくるという意味です。四季の気候の変化が大きい日本では、お彼岸を過ぎる頃にはしのぎやすく活動しやすくなるため、春は種まき、秋は収穫に適しています。このことから、お彼岸は仏教行事であるとともに、自然に感謝し豊作を祈る期間ともされています。
お彼岸の期間
お彼岸は春と秋との2回あり、春分の日と秋分の日を中日(彼岸の真ん中の日)とし、前後3日間を加えた7日間を指します。お彼岸の初日を「彼岸の入り」、最後の日を「彼岸の明け」といいます。
令和3年の場合、春のお彼岸の中日は春分の日であった3月20日で、期間は3月17日~3月23日でした。秋のお彼岸は秋分の日である9月23日を中日とし、9月20日~9月24日までとなります。春分の日、秋分の日ともに国民の祝日にあたります。
春分の日と秋分の日の月日は明記されていない
通常、国民の祝日は月日が固定されています。しかし、春分の日と秋分の日については、国立天文台が2月1日に翌年の春分の日と秋分の日を公表することになっています。日本の祝日を定めている「国民の祝日に関する法律」によれば、春分の日は「春分日」、秋分の日は「秋分日」を採用するとなっています。
この「春分日」「秋分日」は天文学上の呼称で、地球の運行状態により若干変わるため翌年の春分の日、秋分の日のみ正式に発表されるというわけです。お彼岸の中日である春分の日、秋分の日は「昼と夜の長さが同じで、太陽が真東から昇り、真西に沈む日」です。
ちなみに、過去20年間の春分日・秋分日はそれぞれ、3月20日か21日、9月22日か23日でした。令和3年(2021年)の春分の日、秋分の日は3月20日、9月23日と、令和2年2月1日に発表されています。
お彼岸の意味
仏教において、ご先祖様がいる極楽浄土の世界を「彼岸」といい、いま私たちが生きているこの世界を「此岸(しがん)」といいます。私たちのいる此岸からみて、彼岸は西の方角にあるとされています。
仏教では極楽浄土に行くことが最終目標とされ、そのためには此岸にいる間に六波羅蜜(ろくはらみつ)の修行を行う必要があるといわれています。その内容は以下の通りです。
・六波羅蜜
布施(ふせ)・・・見返りを求めない、応分の施しをする
持戒(じかい)・・・人として正しい生活をし、自分を戒め高める
忍辱(にんにく)・・・他者に対して寛容で、如何なる困難にも耐え忍ぶ
精進(しょうじん)・・・正しい目的に対して最善をつくし、不断の努力をする
禅定(ぜんじょう)・・・心を平成に保ち、冷静に自分自身を見つめる
智慧(ちえ)・・・上記の五つの波羅蜜を実践し智慧を得る
現実的には上記の六波羅蜜の修行を日々行うことは難しいため、1年のうち春と秋に実践するようになりました。彼岸期間中に行う仏事を彼岸会(ひがんえ)といいます。
春分の日と秋分の日は、太陽が真東から昇り真西に沈む日で、西方にあるとされる彼岸と此岸、つまりあの世とこの世がもっとも近くなる日と考えられ、ご先祖様を供養する日となっています。また、日本は古来より農耕文化の国で、この時期に自然の恵みに感謝をささげる風習が生まれました。
国民の祝日に関する法律(昭和23年)第2条には現在1年間に16日ある国民の祝日の意味が記載されていて、春分の日は「自然をたたえ、生物をいつくしむ」、秋分の日は「祖先をうやまい、なくなった人々をしのぶ」とあります。
参考:国民の祝日に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=323AC1000000178
お彼岸の行事
お彼岸の期間に多くの人々が行う行事が、お墓参りです。寺院では彼岸法要が営まれます。さらに檀那寺の僧侶を自宅に呼んで、法要を行う場合もあります。
お墓参り
お墓参りがお彼岸の中心行事となります。お墓参りは法要のあとやお盆、お彼岸、死亡した日と同月同日の祥月命日や毎月の命日の月忌、という節目に出かけるのが普通です。そのほか、よいことやつらいことがあったときに、先祖に報告する意味でお墓参りをする人もいます。
お彼岸はいつお墓参りに行くのか
お彼岸の期間は前述したとおり、春分の日、秋分の日を中日とし前後3日間を加えた7日間です。この期間はすべてお彼岸ですので、どの日にお参りに行ってもよく、特に良い日や避けなくてはいけない日はありません。
命日は人により日が違いますが、お彼岸やお盆は全国共通のため、墓地や周辺の道路もたいへん混みあいます。いわゆる「お墓参り渋滞」が発生するのが常ですので、目的の墓地に駐車場が限られている場合は、公共交通機関を利用するのがよい場合もあります。
春分の日、秋分の日は国民の祝日で、さらにお彼岸期間に含まれる土日は非常に混雑します。事情が許せば祝休日を外して出かけると、混雑は多少緩和されるでしょう。
お墓参りは何時頃に行くのか
一般的には、お墓参りは午前中に行くのがよい、とされています。それは一日の行事のなかでお墓参りを最初に行うことで、先祖を大切に思う気持ちを表すためです。しかし、必ず午前中に行くという決まりはありません。ただし、お墓の掃除や周辺の草取りなどメンテナンスを含めて訪問する場合には、時間に余裕をもって午前中から出かけるのが無難です。
お彼岸期間中は混雑することから、期間限定で開園時間を早めて早朝から入場できる墓地も多くなりました。管理者がいる墓地で開園、閉園時間があるところは出かける前に問い合わせをしておきましょう。閉園間際の時間に行くのは迷惑になりますので、避けるようにします。
お墓参りのマナー
お墓参りは通夜、葬儀や法事と違い、多くの人が集まるわけではなく、家族単位で行われるのが普通です。したがって、マナーに関してはそれほど神経質にならなくてもよいでしょう。
ただ、墓地は共有スペースですので、他の参拝者に配慮して常識的な範囲でお参りをする必要があります。大声で話したり長居をしたりしてはいけません。
お墓参りの基本的な持ち物
お墓参りには、線香、ろうそく、ライターまたはマッチ、花、供え物(ぼたもち、おはぎ、故人の好物)などを持っていきます。花の種類に決まりはありませんが、トゲのある花、ツルがある花、毒のある花、香りが強い花は避けるのが一般的です。故人が好きだった花や、故人のイメージに合う色合いの花を選びましょう。
お供え物としてぼたもちやおはぎ、故人の好物などの食べ物を持っていくこと自体は問題ないのですが、帰るときには持ち帰るのがマナーです。鳥や動物に荒らされるのを防ぐため、今は食べ物をお墓においたままにしないのが常識です。ちなみに、ぼたもちとおはぎは実は同じものです。春のお彼岸にお供えするのが「ぼたもち」で、秋のお彼岸のものが「おはぎ」です。両者とも季節の花にちなんで名づけられ、春は牡丹の花にちなみ「ぼたもち」、秋は萩の花にちなんで「おはぎ」と呼ぶようになりました。
故人の好物であっても、仏教で食べることを禁じられていた五辛(ごしん)と呼ばれる、にら、にんにく、ねぎ、らっきょう、はじかみ(しょうが、さんしょう)はタブーとされ、肉と魚は殺生のイメージがあることから、ふさわしくないとされています。持ち帰ったお供え物は家族の皆で食べることが供養になりますので、傷まないうちに食べましょう。持ち帰ったお供え物を、仏壇に供えなおすのはタブーとなります。
彼岸法要
お彼岸の期間には、寺院で法要が営まれる場合もあります。本堂に檀家の人々が集まり、僧侶の読経を聞いて本尊や先祖の供養をします。地域によっては、自宅に檀那寺の僧侶をまねいて法要を営むところもみられます。
彼岸法要には、お布施をつつみます。金額は寺院での法要では1万円、自宅に僧侶をまねく場合は3~5万円が相場とはいわれますが、地域によりかなり差が生じているようです。お布施にはその性質上、決まった金額がありませんので、わからないときは寺院に問い合わせても失礼ではありません。「皆さんはいかほどおつつみになるのでしょうか」、「私の父母の代ではどれくらいおつつみしていましたか」などと聞いてみましょう。
お布施の袋は、白無地の封筒の上部に「お布施」「御布施」「御経料」「御礼」などと書き、下部には施主のフルネームもしくは〇〇家と苗字だけを書きます。「お布施」と印刷されている市販の袋を使ってもよいでしょう。なお、通夜や葬儀のお香典の表書きには薄墨を使いますが、お布施には黒い墨を使います。仏事だからといってお布施に薄墨を使うことはむしろ失礼にあたりますので、気をつけましょう。
初彼岸
故人が亡くなってから、四十九日以降に初めて迎えるお彼岸を「初彼岸」といいます。亡くなって初めてのお盆である「初盆」には家族、親族や故人と親しかった人をまねき、僧侶を呼んで手厚く供養するしきたりがあります。しかし、初彼岸には特別な供養を行わず、通常通りのお彼岸の過ごし方をします。特に決まった行事はありませんが、仏壇やお墓をきれいにしてお線香をあげ、寺院での彼岸法要があれば参加するのもよいでしょう。
まとめ
お彼岸は日本固有の仏教行事であり、先祖や故人を供養するとともに、自然の恵みに感謝する期間でもあります。先祖のだれが欠けても現在の自分は存在しなかったと考えると、自分が生まれる以前に亡くなった遠いご先祖様にも、自然と手を合わせる気持ちになるでしょう。
お彼岸の供養としてお墓参りや寺院での彼岸法要に出向く際には、必要な持ち物を忘れないように用意します。また、寺院やその周辺は非常に混雑する期間でもありますので、周囲に配慮しマナーを守ってお参りをしましょう。
令和3年現在、未だに新型コロナウィルス感染症の感染拡大に歯止めがかからない状況にあります。今年もお盆やお彼岸の帰省を自粛している人もたくさんいると推察されます。お墓参りを自粛した人は家で仏壇に手を合わせる、仏壇がない人でも故人の写真に花やお供えをしてお線香をあげるだけでも、じゅうぶんな供養になります。帰省をあきらめた人も、何らかの形で故人や先祖の供養ができることを祈っています。