エンディングノートと遺言書の違いについて

この記事は約9分で読めます。

「エンディングノート」と「遺言書」

自分の死後や生前に意思疎通が出来なくなった場合、希望や想いを家族に残すものとして「エンディングノート」と「遺言書」ふたつの文書があります。

終活を行うなかでどちらかだけを作成すればいいと思われがちですが、このふたつの文書は役割も目的も大きく違います。

自分の意思を残された家族へ確実に伝えるためには、エンディングノートと遺言書を上手に使い分けることがポイントです。

そこで、エンディングノートと遺言書について、違いを含めて解説していきます。

エンディングノートとは

まずはエンディングノートについて詳しくみていきましょう。

エンディングノートは書き方や内容に決まりはなく、伝えたいことを好きなように書き残すものです。
そんなエンディングノートには以下のような目的や意味があります。

家族があなたに関する判断をするため

エンディングノートは、あなたが亡くなったときだけのものではなく、急に倒れて意識がなくなったり、認知症などで判断力が低下し意思疎通ができなくなったりしたときにも役立つものでもあります。

あなたが家族とコミュニケーションが取りにくくなったときでも、家族はあなたに関することで判断を迫られることがあります。
例えば、延命治療や臓器提供などが挙げられますが、もしものときには、家族はこのような判断もしなくてはならないのです。

そのときのために「あなた自身がどうしてほしいか」についてエンディングノートに書いておくのが大切となります。
書いておくことで、家族は迷わず判断でき、あなた自身も悔いが残らないでしょう。

エンディングノートは、亡くなった後だけではなく、生前にも役に立つということが特徴です。
そのため、あなたが治療を受けるときのための情報も書いておきましょう。
かかりつけの医療機関や持病、服用している薬やアレルギーの有無など、治療を受けるときに大切な情報を書くことが大切です。

また、意識がないときや危篤状態に陥ったときのために、どこまでの治療をしてもらいたいか、臓器提供をする意思があるかどうかも記載します。

治療だけではなく介護の必要が出てきたときのために、どこの介護施設に行きたいか、自宅で介護をされるとしたら誰に介護してもらいたいか、などについての項目もあります。

このようなことを細かく記載しておくと、残された家族は判断しやすく、負担も少なくて済むでしょう。

あなたに代わって手続きするときのため

また、あなたに何かあったとき、家族があなたに代わっていろいろな手続きをすることになります。

行政手続きから銀行口座に関する手続き、クレジットカードや携帯電話の解約、オンラインの月額サービスの解約や退会など、さまざまな手続きをすることになるでしょう。

解約や変更などが必要なものをすべてエンディングノートに書いておくと、家族はスムーズに手続きを済ませることができます。

納得する見送られ方をするため

葬儀の形式や供養に関する希望がある場合も、エンディングノートに書きましょう。

特に直葬や家族葬など、一般的な仏教式の葬儀以外の葬儀を望んでいる場合は、口頭ではなくエンディングノートに書くことをおすすめします。

直葬や家族葬は、近年になってようやく聞かれるようになったものの、まだ認知度が低く反対する人も多いでしょう。
そのため、意思はしっかりと示しておくことが大切です。

自分の気持ちや周りを整理するため

エンディングノートを書くにあたって、自分の周りを見直すことにもなります。
財産などについて書くときに、不要なものを処分したり、何となく契約し続けているクレジットカートや銀行口座などを解約したりするきっかけになるからです。

また、自分が生きてきた過程を振り返ることで、気持ちを整理でき、新たな一歩を踏み出すことができるでしょう。

家族のためのもの

あなたに関する判断を家族だけがした場合、後で家族が「これでよかったのだろうか」「もっといい方法があったのではないか」と悔いることがあります。

家族がいつまでも悔いて自分を責めることがないようにも、エンディングノートは重要な存在となるのです。
エンディングノートに書かれているあなたの意思に従って、さまざまな事柄を進めれば「あなたの希望を叶えた」と家族は悔いが残らず気持ちも楽になるでしょう。

また、エンディングノートに家族への思いを記すことができます。
最期に自分の気持ちをすべて伝えられるわけではありませんので、エンディングノートのあなたのメッセージは、残された家族にとって宝物となるでしょう。

遺言書とは

遺言書とは、自分の死後に財産をどのように遺族に分けるかを明記した書面のことです。
遺言書は法的な効力を持つため、遺産分配のトラブルを回避することができます。

遺言書があれば基本的に遺言書どおりに遺産が分配されますので、遺言書に書かれていたら法定相続人以外にも遺産を渡すことができます。

遺言書がない場合は、民法の規定に従って法定相続が行われます。
法定相続人とは、故人の配偶者、子ども、両親、兄弟姉妹です。
また、親族のうち誰がどのくらい相続するかという法定相続分も定められているのです。

ただ、これらはあくまでも基本的な指針で、実際は相続人同士で遺産分割協議をしての変更が可能です。
遺産相続で残された人が揉めるのは、この遺産分割協議のときです。

故人との関係性や、どれくらい貢献したのかなどは、それぞれの思いに違いがあります。
そのため、分配に関して納得いかない親族が出てくる可能性は大いにあるでしょう。

たとえば、法定相続人でなくても、家が近くて故人を介護していた親族は「私はこれだけ介護していたのに」と思うのは当然のことでしょう。

また「遺言書」というと、資産家だけが書くイメージがあるため「うちは財産は少ないから、書かなくていい」と思いがちです。
しかし、少額であっても、揉める原因となることは充分に考えられます。

遺産が少ないとしても、争いごとを起こしたくないのであれば、遺言書を作成しておくことがおすすめです。

遺言書の種類

遺言書には大きく分けて三種類あります。

自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、自分で書く遺言書で、自筆で書き、保管する遺言書です。
好きなときに書くことができますが、好きなように自由に書けるものではありません。

まず、遺言書内の本文は本人の自筆でなければなりません。
ただし、財産に関する目録部分はパソコンで一覧表を作成しても問題ありませんし、通帳のコピーや登記情報などを添付して署名捺印しても問題ありません。

もし本文に書き間違いがあったときは、余白部分に訂正する場所と変更したことを追記し署名して、実際に変更した箇所には訂正印を押す必要があります。

費用がかからず、遺言書に内容をいつでも修正できるのはメリットですが、日付や署名、捺印など、間違えている箇所があるとその遺言が無効になるデメリットもあります。

公正証書遺言

公正証書遺言は、公証人というプロが作成する遺言書ですので、書き間違えなどが生じることはなく、記載不備などによって遺言書が無効になる心配はありません。
また、公正証書遺言は公証役場という公的な機関に保管されるので、紛失する心配もありません。

公正証書遺言は、公証役場に行って作成します。
口頭でどんな遺言をしたいかを公証人に伝え、公証人がそれを文章にして作成するのです。

文章にするときには、証人2人の立ち会いが必要となります。
自筆証書遺言と違って、自分で好きなときに書けるわけではありません。

また、公証人と証人に対する報酬や手数料がかかります。
この手数料は分配する財産の価額によって金額が異なりますので、事前に確認しておきましょう。

そして、作成時の立会人を、司法書士などの専門家に依頼した場合は証人に対する日当を支払う必要があります。

秘密証書遺言

秘密証書遺言は、自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類の遺言を足したような遺言ですが、あまり利用されていないのが現状です。

自分で作成した遺言書に署名捺印をして、捺印したときの印鑑と同じ印鑑で封をします。
その遺言書を、公証人と2人の証人の前で自分の遺言書であることと、本人の住所と氏名を述べます。
そして、公証人が表紙を作り、本人・公証人・2人の証人、の計4人がそれぞれに署名捺印をすることになります。

遺言書を見るとき

公証人役場に保管した遺言書を開封するときは、家庭裁判所で「検認」という手続きをしなければなりません。
検認とは、その遺言書が有効か無効かを判断するものではなく、遺言書の状態を確認してから開封することで偽造や隠ぺいなどを防ぐための手続きです。

封がされている遺言書は、裁判所で相続人の立ち会いのもとで開封します。
この手続きをせずに遺言書を開封すると、5万円以下の罰金に処される可能性がありますので注意が必要です。

遺言書の内容に納得できないときは

遺言書がある場合は、基本的に遺言書に従って遺産を分配することになります。
ただし、法定相続人のなかには「遺留分侵害額請求」ができる人がいます。

遺留分とは、故人の兄弟姉妹以外の法定相続人に対して、最低限保障されている遺産取得分のことです。
たとえば、遺言書に「故人の長男に遺産をすべて譲る」と書かれているとしたら、配偶者やほかの子どもは納得できないでしょう。
そのとき、配偶者やほかの子どもは遺留分権を主張することができます。
これを「遺留分侵害額請求」と言うのです。

遺言で遺産の分配が決まるとはいえ、あまりにも不公平で揉める原因となりそうな遺言書の作成はおすすめできません。

エンディングノートと遺言書の違いと使い分け

エンディングノートと遺言書は、目的と使い方が異なります。
エンディングノートは形式や書式も自由ですが、法的な効力はありません。

遺言書は内容や書式などに厳密な決まりがあり、また、法的な効力もあります。
遺言書は故人の遺産の分配に関してのみ記載しますが、エンディングノートは伝えたいことをすべて書くことができます。

エンディングノートは、死後の財産に関することだけではなく、葬儀の希望、さらにその前の治療や介護に関することも書くことができます。
また、故人の手続きに関して必要となる情報や、家族への思いなども書き残せます。

遺言書は種類によって、保管の方法や開封の仕方が厳密ですが、エンディングノートの保管は本人がするのが現状でしょう。
ただ、エンディングノートに友人の住所や電話番号を書いたり、自分のログインパスワードを書いたりした場合は保管に充分注意しなくてはなりません。

エンディングノートと遺言書には違う部分が数多くありますが、エンディングノートを遺言書の補助として使うことができます。
正式な遺言書を作る前に、エンディングノートを書いてみると、自分の財産を今一度確認できます。
また、エンディングノートが遺言書の下書きとしても役立つでしょう。

遺言書を作成する場合、分配方法で揉めると考えられるときには、エンディングノートに「なぜこのような分配にしたか」という過程を書いておくと良いでしょう。

エンディングノートと遺言書の違いについて

エンディングノートはあなたの意思や情報を、残された家族に伝えるためのものです。
内容や形式は自由で、市販のエンディングノートを使っても普通のノートでもかまいません。

パソコンのアプリからダウンロードが可能で、終活ライフでもエンディングノートを無料で作成できます。https://shukatu-life.com/ending-note

あなたが急に倒れて意識を失ったときや、認知症などで判断力が低下したときなどは、家族があなたに関する判断を下さなくてはなりません。
家族だけであなたに関して結論を出すときに、困ることがないように必要なことをすべて書くのがエンディングノートです。
また、家族へのメッセージも残すことができます。

遺言書は、あなたの遺産に関して家族に伝えるためにあり、内容や形式には厳密なルールがあります。
法的な効力を持つものは遺言書です。

大きな違いあげると、以下の2点のなります。
・遺言書は法的効力があるが、エンディングノートにはない
・遺言書は死後の財産のことだけだが、エンディングノートは生前のことと死後のことが含まれる

エンディングノートと遺言書は性質が大きく違いますが、エンディングノートに「なぜ、このような遺産分配にしたのか」という過程を書くことなどの、遺言書の補助として使うことができます。

ふたつを上手に使い分けながら、自分の意思をしっかりと家族に残すようにしましょう。