仏教の基本13宗派56派について

特集記事

日本の伝統仏教は13の宗派に分かれており、またそれぞれの分派も含めると56派にもなるとされています。宗派によって歴史、教義、作法も違い、葬儀での形式も異なる場合もあり、その相違については知っておいた方が良いでしょう。宗派ごとの開祖や経典も含めて各宗派について紹介します。

仏教の基本13宗派56派と日本仏教の歴史

日本の伝統仏教の13宗派56派とは、宗教団体法が施行される1940年(昭和15年)以前に日本の仏教の成立から見て、教義・歴史・伝統がその根本にある宗派のことです。13宗派とは、それぞれの宗旨となる教義のある宗派で、56派とは、それぞれの分派のことです。
ただし、以下で紹介する法相宗、華厳宗、律宗、融通念仏宗、曹洞宗、時宗、黄檗宗、日蓮宗は、分派はありません。

また、法相宗、華厳宗、律宗は南都六宗と言われ、南都六宗とは、奈良時代における仏教の代表的な六つの宗派のことです。渡来僧や遣唐使などによって伝えられた仏教が奈良付近の寺を中心に研学され、後世の宗派とは性格を異にしており「宗」は学僧の集団を意味します。
南都六宗は、法相(ほっそう)宗・華厳(けごん)宗・倶舎(くしゃ)宗・三論宗・成実(じょうじつ)宗・律宗を言い、現存しているのは法相宗、華厳宗、律宗です。倶舎宗・三論宗・成実宗は衰退してしまいました。

その後生まれた天台宗と真言宗は唐より最澄と空海が伝えて開創し、鎌倉時代に定着した仏教文化を背景に、求道の歩みの中から、法然の浄土宗、親鸞の浄土真宗、日蓮の日蓮宗など日本人自身による独自の仏教が創唱されました。また、この時代には入宋(にっそう)した栄西と道元により、臨済宗と曹洞宗が伝えられました。

仏教の基本13宗派56派について

仏教の基本13宗派56派について、宗派、宗祖(開祖)、教義、本尊、経典、唱名、焼香の方法について説明します。

①真言宗

真言宗は16派に分かれています。

a. 宗派一覧
・東寺真言宗(総本山:東寺。真言宗全体の総本山でもある。教王護国寺とも呼ばれます)
・高野山真言宗(総本山:金剛峯寺)
・真言宗善通寺派(総本山:善通寺。大本山:随心院)
・真言宗醍醐派(総本山:醍醐寺)
・真言宗御室派(総本山:仁和寺)
・真言宗大覚寺派(大本山:大覚寺)
・真言宗泉涌寺派(総本山:泉涌寺)
・真言宗山階派(大本山:勧修寺。「かじゅうじ」が正式な呼称です)
・信貴山真言宗(総本山:朝護孫子寺)
・真言宗中山寺派(大本山:中山寺)
・真言三宝宗(大本山:清荒神清澄寺)
・真言宗須磨寺派(大本山:須磨寺)
・新義真言宗(総本山:根来寺)
・真言宗智山派(総本山:智積院)
・真言宗豊山派(総本山:長谷寺)
・真言律宗(総本山:西大寺。大本山:宝山寺)

b. 宗祖―空海(弘法大師)774年~835年

c. 教義
真言宗は9世紀の始めに空海によって開宗された宗派です。曼荼羅的な思想が中心で、十住心思想といって、人の心のあり方、価値観、宗教などを10段階に分け、最終段階は大日如来と同レベルに達することを説きます。大日如来がすべての根本であって、万物は大日如来と深いかかわり合いを持っていると考えます。また即身成仏(そくしんじょうぶつ)といわれる肉身のままで究極の悟りを開き仏になることも説いています。
また、真言宗と天台宗とでは密教の取り扱い方が異なります。真言宗の密教は東密(とうみつ)と呼ばれ天台宗の密教は台密(たいみつ)と呼ばれます。

d. 本尊―大日如来

e. 主な教典―大日経、金剛頂経、理趣経、般若心経

f. 唱名―南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)

g. 焼香の作法―焼香は抹香を額の高さまで掲げ、3回行います。

②天台宗

天台宗は3派に分かれています。

a. 宗派一覧
・天台宗(総本山:比叡山延暦寺)
・天台寺門宗(総本山:園城寺―三井寺と呼ばれています)
・天台真盛宗(総本山:西教寺)

b. 宗祖―最澄 (伝教大師)766年~822年

c. 教義
9世紀初めごろに最澄によって日本に伝えられた宗派であり、開宗は806年です。円、密、禅、戒の全てを大切にしており、四宗融合と呼ばれます。修行も四種三昧といって四通りの方法があります。回峯行も特徴です。
大乗仏教の坐禅・念仏・読経を行い、修行により悟りを開く顕教と、修行をすることで誰でも仏になれるという加持祈祷を重んじた密教です。天台宗では顕密一致といって密教と顕教を同格に扱います。

d. 本尊―特定の本尊はないが、阿弥陀如来を祀る事が多い。

e. 主な教典―妙法蓮華経(法華経)、大日経、阿弥陀経

f. 唱名―南無阿弥陀仏が一般的

g. 焼香の作法―抹香をつまみ、額の位置まで掲げ、香炉に落とす動作を3回行います。

③浄土宗

浄土宗は5派に分かれています。

a. 宗派一覧
・浄土宗(総本山:知恩院。正式名称は華頂山知恩教院大谷寺。大本山:増上寺)
・浄土宗捨世派(本山:一心院)
・西山浄土宗(総本山:光明寺)
・浄土宗西山禅林寺派(総本山:永観堂禅林寺)
・浄土宗西山深草派(総本山:誓願寺)

b. 宗祖―法然(円光大師)1133年~1212年

c. 教義
1175年、法然が43歳の時に浄土宗を開宗しました。修行による成仏を否定し、念仏によって極楽往来するとされています。阿弥陀仏の誓いを信じ「南無阿弥陀仏」と念仏を唱えれば、死後は平等に往生できるという専修念仏の教えが特徴です。往来と成仏は別の意味として考えられており、成仏する為には極楽浄土に行った後に修業する事が必要になります。

d. 本尊―阿弥陀如来

e. 主な教典―浄土三部経(観無量寿経、無量寿経、阿弥陀経)

f. 唱名―南無阿弥陀仏

g. 焼香の作法―焼香は抹香を額の高さまで掲げ、3回行います。

④浄土真宗

浄土真宗は10派に分かれています。

a. 宗派一覧
・浄土真宗本願寺派(本山:龍谷山本願寺。西本願寺とも呼ばれます。また直轄寺院に築地本願寺があります)
・真宗大谷派(本山:真宗本廟。東本願寺とも呼ばれます)
・真宗高田派(本山:専修寺)
・真宗佛光寺派(本山:佛光寺)
・真宗興正派(本山:興正寺)
・真宗木辺派(本山:錦織寺)
・真宗出雲路派(本山:毫摂寺)
・真宗誠照寺派(総本山:誠照寺)
・真宗三門徒派(本山:専照寺)
・真宗山元派(本山:證誠寺)

b. 宗祖―親鸞1173年~1262年

c. 教義
浄土真宗でも修行による成仏は認めていません。人が求めていなくても仏は救ってくださるという他力回向の理論があり、改めて修行する必要がないとしています。その為浄土宗では念仏を唱えることで浄土往来すると考えられていますが、浄土真宗では仏様が救ってくださると信じていれば往来できるとしています。
僧侶に肉食妻帯が許され、戒律がない点が特徴です。多くの宗教儀式や習俗にとらわれず、報恩謝徳の念仏と聞法を大事にすることや、加持祈祷を行わないのも大きな特徴です。

d. 本尊―阿弥陀如来

e. 主な教典―浄土三部経(観無量寿経、無量寿経、阿弥陀経)

f. 唱名―南無阿弥陀仏

g. 焼香の作法―焼香は抹香を額の高さまで掲げる事はせず、1回だけ行います。

⑤日蓮宗

日蓮宗は単一宗派であり、分派はありません。

a. 本山
・総本山:身延山久遠寺
・大本山(霊跡寺院):妙顕寺、本圀寺、池上本門寺、誕生寺、清澄寺
・本山(由緒寺院):本法寺、妙覚寺、立本寺、本満寺、頂妙寺、妙傳寺

b. 宗祖―日蓮(立正大師)1222年~1282年

c. 教義
江戸時代までは法華宗または日蓮法華宗とも呼ばれていました。法華経中心を徹底し、法華経と人の生き方と一体化させようとする考え方をしています。
南無妙法蓮華経の7文字に法華経の功徳がすべて込められており、お題目を唱えることは、法華経を読む、奉持する、他人に説く、書写する、などと同等の価値があると考えます。

d. 本尊―大曼荼羅

e. 主な教典―妙法蓮華経(法華経)

f. 唱名―南無妙法蓮華経

g. 焼香の作法―焼香は抹香を額の高さまで掲げ、3回行います。

⑥臨済宗

臨済宗は十五派に分かれています。

a. 宗派一覧
・臨済宗建仁寺派(大本山:建仁寺。「けんにんじ」が正式な呼称)
・臨済宗建長寺派(大本山:建長寺)
・臨済宗東福寺派(大本山:東福寺)
・臨済宗妙心寺派(大本山:妙心寺)
・臨済宗円覚寺派(大本山:円覚寺。正式名称は瑞鹿山 円覚興聖禅寺)
・臨済宗南禅寺派(大本山:南禅寺)
・臨済宗大徳寺派(大本山:大徳寺)
・臨済宗国泰寺派(大本山:国泰寺)
・臨済宗向嶽寺派(大本山:向嶽寺)
・臨済宗天龍寺派(大本山:天龍寺)
・臨済宗永源寺派(本山:永源寺)
・臨済宗方広寺派(大本山:方広寺)
・臨済宗相国寺派(大本山:相国寺。正式名称は萬年山相國承天禅寺)
・臨済宗佛通寺派(大本山:佛通寺)
・臨済宗興聖寺派(本山:興聖寺)

b. 宗祖―栄西(千光法師)1141年~1215年

c. 教義
栄西が日本における開宗ですが、栄西以降中国から何人もの僧によって持ち込まれた事で様々な流派が作られました。曹洞宗や黄檗宗と同じく禅宗です。
教典や教えに依存せず相手の心に直接働きかけ、その本質を悟らせる特徴があります。師から弟子への悟りの伝達を重んじます。鎌倉時代中期から室町時代において、武家政権に支持され政治・文化に重んじられました。坐禅の座り方は対面形式で行います。

d. 本尊―特に定められていません。

e. 主な経典―特定の経典はないが、一例として、般若心教、観音経、大悲咒、開経偈などが読まれます。

f. 唱名―南無釈迦牟尼仏(なむしゃかむにぶつ)

g. 焼香の作法―焼香は抹香を額の高さまで掲げ、1回行います。

⑦曹洞宗

曹洞宗は単一宗派であり、分派はありません。
a. 大本山:永平寺、總持寺

b. 宗祖―道元(承陽大師)1200年~1253年

c. 教義
宗祖は道元であり、臨済宗と同じく座禅を中心にした禅宗の1つです。曹洞宗では悟りを求めない修行でこそ悟りが開かれるとされており、悟りを求める修行は打算的な悟りを開くとしています。
臨済宗では公案禅が行われますが、曹洞宗では何も考えずただひたすらに座禅するという黙照禅が行われます。坐禅の座り方は中国以来の面壁です。鎌倉時代中期から室町時代において、地方武家、豪族、下級武士、一般民衆に広まりました。

d. 本尊―釈迦如来

e. 主な教典―特定の経典はありませんが、般若心経、観音経、修証義、妙法蓮華経などが読まれる事が多いです。

f. 唱名―南無釈迦牟尼仏

g. 焼香の作法―焼香は2回行いますが、まず抹香を額の高さまで掲げるものを1回行い、その後、掲げないものを1回行います。

⑧法相宗

法相宗は単一宗派であり、分派はありません。
a. 大本山
興福寺、薬師寺

b. 宗祖―基(窺基と通称)632年~682年

c. 教義
日本仏教としては遣唐使での入唐求法僧侶により広められ、南都六宗の1つとして8世紀から9世紀にかけて隆盛を極めました。
インドの瑜伽行唯識学派の理想を継承した大乗仏教宗派のひとつで、瑜伽行はヨーガ行を指し、唯識学は認識論的傾向を持つ思想体系学のことです。法相とは存在のあり方を指している言葉です。個々の具体的存在現象のあり方だけでなく、一切の事物の存在現象の区分やその有様も指しており、最終的には一切の存在現象はただ識に過ぎないとする考えが特徴です。深層意識を心のよりどころとする阿頼耶識、末那識といわれる個々それぞれに別々の世界があることを説いています。

d. 本尊―唯識曼荼羅

e. 主な教典―瑜伽師地論、成唯識論

f. 唱名―特に定められていませんが般若心教などが読まれます。

g. 焼香の作法―奈良仏教である法相宗では、一般的に葬儀は行われません。

⑨律宗

律宗は単一宗派であり、分派はありません。
a. 総本山:唐招提寺 大本山:壬生寺

b. 宗祖―鑑真 688年~763年

c. 教義
唐代では道宣が成立させましたが、日本へは鑑真によって伝えられ開宗された宗派です。経・律・論の中の律を中心としており、定められた戒律を厳格に守る事が必要になります。
経典や論を重んじる宗派が多い中、律宗は戒律を守る事が最も重要であり、それによって悪事が防げる(摂律義戒)と考えられているのです。他にも善行を積極的に行うべき(摂善法戒)、全ての人々に利益を施すべき(摂衆生戒)という教えがあります。

明治初期に唐招提寺を例外として、律宗寺院は全て真言宗に所轄されました。その後1900年(明治33年)に律宗として独立しました。

d. 本尊―盧舎那仏

e. 主な教典―四分律、梵網経、妙法蓮華経

f. 唱名―特に定められていませんが一例として、般若心教などが読まれます。

g. 焼香の作法―奈良仏教である律宗では、一般的に葬儀は行われません。

⑩華厳宗

華厳宗は単一宗派であり、分派はありません。
a. 大本山:東大寺

b. 宗祖―杜順 557年~640年

c. 教義
中国で杜順によって開宗された宗派で、日本へは736年に審祥(しんしょう)によって伝えられています。「一がそのまま多であり、多がそのまま一である」という、相反するものを一つに統括するという考え方を持っており、大方広仏華厳経を経典の中心としその思想を拠り所にしています。哲学的な雰囲気が濃厚で宇宙的でもあります。
南都六宗の1つであり、大方広仏華厳経の思想を学び・研究した多くの僧を輩出しました。

d. 本尊―毘盧舎那仏

e. 主な教典―大方広仏華厳経

f. 唱名―特に定められていませんが般若心教などが読まれます。

g. 焼香の作法―奈良仏教である華厳宗では、一般的に葬儀は行われません。

⑪融通念仏宗

融通念仏宗は単一宗派であり、分派はありません。

a. 総本山:大念佛寺(日本で最初の念仏道場)

b. 宗祖―良忍 1073年~1132年

c. 教義
「一人の祈りがすべての人の為になり、すべての人の祈りは自分のためにもなっている」とし、「一と多」は互いに融通する関係となるとしています。毎日百遍の念仏を唱えること(日課念仏)が修行の根幹です。来世ではなく現世で往来するという教えが基本です。心を合わせて1つの念仏を唱えることによって、合わさった力は大きな力となって現世での往生が成し遂げられるとされています。毎朝西方に向かい、良忍の説いた十界一念・自他融通の浄土往生を期する融通念仏を十唱することが特徴です。

d. 本尊―十一尊天得如来

e. 主な教典―華厳経、法華経

f. 唱名―南無阿弥陀仏

g. 焼香の作法―焼香は抹香を額の高さまで掲げ、3回行います。

⑫時宗

時宗は単一宗派であり、分派はありません。

a. 総本山:清浄光寺(一般的に遊行寺と呼ばれています)

b. 宗祖― 一遍(証誠大師)1239年~1289年

c. 教義
鎌倉時代末期に一遍によって開宗されて宗派であり、阿弥陀仏への信心に関わらず誰でも念仏を唱えれば往生できると考えられています。これは念仏を唱えて成仏するのではなく、念仏を唱える事がすなわち往生であるという教えに基づくものです。
時宗では踊念仏という踊りながら念仏を唱えるものがありますが、現在は実施されている地域が少なく重要無形民俗文化財に指定されています。
また時宗の歴代上人は念仏の教えを広める為に全国を巡って(遊行して)おり、総本山の清浄光寺を「遊行寺」と呼ぶようになりました。

d. 本尊―阿弥陀如来

e. 主な教典―無量寿経、観無量寿経、阿弥陀経

f. 唱名―南無阿弥陀仏

g. 焼香の作法―焼香は抹香を額の高さまで掲げ、1回〜3回行います。

⑬黄檗宗

黄檗宗は単一宗派であり、分派はありません。

a. 総本山:萬福寺

b. 開祖―隠元隆琦(いんげんりゅうき)(大光普照国師・仏慈広鑑国師) 1592年~1673年

c. 教義
江戸時代に始まった禅の宗派のひとつです。明治9年に臨済宗黄檗派から黄檗宗と呼ばれるようになりました。黄檗宗は、唐の僧(黄檗希運)の名に由来します。
他の禅宗(臨済宗、曹洞宗)と違い、中国禅を色濃く残していることが特徴です。自分自身の心の中に極楽浄土を見出し、阿弥陀様に気付くことを仏道の真理としています。また、
禅の方法としては臨済宗と同様、公案禅です。
黄檗宗は精進料理も中国式で、普茶(ふちゃ)料理と呼ばれています。普茶は「普く(あまねく)大衆に茶を供する」からきており、茶で接待するという意味があります。

d. 本尊―お釈迦様

e. 主な経典―特定の経典はありませんが、般若心教、観音経、大悲咒、開経偈などが読まれます。

f. 唱名―日本語ではなく、唐音(とういん)といって中国的な読み方をする特徴があります。

g. 焼香の作法―焼香は抹香を額の高さまで掲げ、1回行います。

開祖と宗祖との言葉がありますが、開祖とは、創始者にあたる人のことで、特に宗教や学問、芸能などで流派を最初に開いた人をさします。開祖は、開山、開基と同様に、新しく寺院を創建する際に、文字通り山や谷を切り開いて創建したことから来た言葉だといいます。
宗祖とは、一宗・一派を開いた人という意味で、開祖と宗祖はほぼ同一です。宗派により言い方、用語の違いはあります。

タイトルとURLをコピーしました