陰膳の意味とマナーについて

葬儀・仏事

陰膳(かげぜん)と言う言葉を知っていますか?あまり聞き慣れない言葉かと思いますが、実は日本に昔からある慣習のうちの一つです。ここでは陰膳の意味や一般的な作法について紹介します。

陰膳の意味

陰膳とは、長期の旅行や離れて暮らしている家族のために、その人の分まで食事を用意することです。家族と離れている間に旅先で事故に遭ったり飢えたりすることのないようにと無事を祈ってお供えする、安全祈願としての意味をもっています。

現在は陰膳を用意する家庭は少なくなりましたが、戦時中はどこの家庭でも戦地へ行った家族のために陰膳を準備していました。また、亡くなられた家族のためにお通夜などの席で、故人を偲び故人の極楽浄土を願って用意する食膳のことも陰膳と言います。法事の席でも故人を偲び食膳を用意することがあります。

陰膳で使う仏具と料理

陰膳をするにも、ルールがあります。使う食器や、載せる料理も決まっています。

陰膳で使用する食器は「仏膳椀(ぶつぜんわん)」

陰膳で使用する食器のことを仏膳椀といいます。仏膳と呼ばれる小さな脚付き台の上に5つの食器と箸が収まって構成されています。陰膳では、毎日のお勤めに使用する仏飯器や茶湯器とは別に、法要のお供えとして仏膳椀を使用します。

陰膳の食器類にはそれぞれ名称があり、仏膳に配置する場所が決まっています。まず、膳の中央に置かれるのが香の物(漬け物)を乗せるための「高坏(たかつき)」です。「坏(つき)」とはお椀よりも浅く皿よりも深い食器のことで、高坏には高めの高台(こうだい)が付いています。

座席から見て手前の左側が飯を盛るための「親碗(おやわん)」で、右側が味噌汁や吸い物を入れる「汁椀(しるわん)」です。箸の位置は一番手前になります。座席から見て奥の右側には小ぶりで深めの「壷椀(つぼわん)」を置き、あえ物や煮豆を盛ります。奥の左側は煮物やあえ物のための一番大きい器「平椀(ひらわん)」です。

仏膳椀の色や素材はさまざまです。最近は軽量で手入れがしやすく、比較的安価なプラスチック製のものが主流です。このほか、温かい質感が人気の木製のものや高級感のある漆塗りのものなどもあります。ただし漆器は木で作られているものが多く高温と乾燥に弱いため、熱い料理をすぐに盛り付けると傷めてしまいます。手入れの際にも強くこすらず優しく洗うなど、丁寧な取り扱いが必要とされます。

陰膳にするのは精進料理

陰膳に盛り付けるのは、仏教の教えに沿って作られる「一汁三菜」の精進料理です。特に決まった献立があるわけではなく、野菜のおひたしや煮物、胡麻豆腐など、日本人が毎日のお惣菜として食べているものとほとんど変わりません。

精進料理は禅宗の僧が中国で仏教を学んだ際に習得した料理がベースになったとされています。仏教では生き物を殺すことを「殺生(せっしょう)」と呼んで避けることから、料理にも牛肉・豚肉・鶏肉をはじめ、魚や卵など動物性の食材を使いません。また、「五葷(ごくん)」と呼ばれる臭いの強い植物(ニンニク・ネギ・ニラ・らっきょう・浅葱)には強壮作用があることから、煩悩を刺激して修行の妨げになるとの理由で使うことが禁じられています。

陰膳として用意した食事は、会食が済んだら「お下がり」として家族で残さずいただきます。「お下がり」をいただくことそのものが供養となるからです。会場が自宅以外の場合でも、大切な供養のひとつとして持ち帰るようにしましょう。

陰膳をしない宗派もある

陰膳は仏教の慣習ですが、浄土真宗では陰膳をしません。浄土真宗で陰膳をしない理由は、人は亡くなった時点ですでに仏さまになっていると考えがあるからです。この世を離れた人は阿弥陀仏の導きによって確実に往生を遂げ、仏となって残された人たちを導くために再び戻ってくるという「即得往生(そくとくおうじょう)」の教えです。そのため、「あの世へ旅立った故人が無事に極楽へたどり着けるように」と願う陰膳は必要がありません。

陰膳のマナーと注意点

通夜や法事での陰膳のマナーについてご紹介します。通夜や法事では、招待した方々が故人を偲んで、参列して下さいます。お見え下さった方々に対して失礼なことが無いよう、故人にお供えする陰膳についてもマナーを守ることは大切です。

陰膳を置く場所

陰膳は、中央の上座にある故人の写真や位牌の前に配膳します。お箸は、故人の写真や位牌の前に置きます。手順は中央の上座に檀を設け、檀に故人の写真、位牌を飾ります。その後、故人の写真、位牌の前に陰膳、お箸を置いてください。

陰膳の並べ方

陰膳は仏さまに召し上がっていただくために用意する料理なので、箸や親碗に近い方を仏壇や祭壇に向けて置くのが基本です。仏さまと向かい合って食事をする格好になります。配置は下記の通りです。

  • ①お箸:一番手前
  • ②飯膳:手前左側
  • ③汁膳:手前右側
  • ④坪(お新香):中央
  • ⑤平椀(煮物):奥左側
  • ⑥高坏(和え物):奥右側

器の意味は以下のようになります。なお、膳は必ず「膳引き」と呼ばれる台に乗せるようにしましょう。

飯椀:ご飯を盛る器
汁椀:お味噌汁やお吸い物用の器
壺椀:煮豆、胡麻和えや、なますなどの和え物を盛る器
平椀:煮物を盛る器
高坏:香の物を盛る器

配膳する順番は陰膳からです。上座は故人となります。

陰膳はいつまでするか

仏教における陰膳は、仏様になるまでの間、故人が無事に旅を続け、極楽浄土にたどり着けるよう願って準備するものです。そのため、陰膳のお供えは四十九日までとなります。

四十九日を過ぎて以降は、仏さまに対してお供えをします。なお、長い間家から離れて暮らしている方に向けての陰膳の場合は、特に期間はありません。

陰膳のお下がり

陰膳は、お下がりと言って家族で頂きます。もし、ご自宅以外で陰膳を準備された場合は、持ち帰って家族で頂きます。お下がりは、家族で食べることによって供養になります。一口でも口にすることが大切です。

現在では、長期の旅行や離れて暮らしている家族のために、その人の分まで食事を用意する陰膳はほとんど行われず、お通夜の席で、故人を偲び故人の極楽浄土を願って用意する場合や、法事で故人を偲ぶ場合がほとんどです。

お膳の内容

お膳の内容では精進料理です。基本的にはお惣菜の感覚で問題ありませんが、陰膳のためだけに特別に作るのは難しい場合もあるでしょう。そんな時は参列者の方々にも精進料理をお出しし、同じ料理を陰膳として供えましょう。また、御霊供膳と言ってお供え用の小型のお膳を用意する場合もあります。

まとめ

陰膳とは、長期の旅行や離れて暮らしている家族のために、その人の分まで食事を用意することです。現在の陰膳は、亡くなられた家族のためにお通夜の席で故人を偲び、故人の極楽浄土を願って用意する食膳のことを言います。法事では故人を偲ぶものとなります。

陰膳では「仏膳椀」を使用し、精進料理を盛り付けてください。牛肉・豚肉・鶏肉をはじめ、魚や卵など動物性の食材や臭いの強い植物は避け、一汁三菜の献立です。配膳の仕方や食器の並べ方も決まっています。そしてお通夜や法事で陰膳に触れる機会があったら、食べることが供養になるので、一口でも食べるようにしてください。

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