はじめに
日本では人が亡くなると、仏教に基づく儀式を行う人がもっとも多いとされています。仏教には多くの宗派が存在しますが、伝統的な宗派は、華厳宗、法相宗、律宗、真言宗、天台宗、日蓮宗、浄土宗、浄土真宗、融通念仏宗、時宗、曹洞宗、臨済宗、黄檗宗の13宗です。日本史の授業で習った記憶がある、という人も多いでしょう。
今の若い世代のなかには「祖父母の葬儀で初めてわが家の宗派を知った」という人も珍しくはありません。今回は、あまり宗教には興味がない、仏教のことはよくわからない、という人にも読んでいただけるよう、仏教における六道や守護仏について解説します。
輪廻転生とは
輪廻転生(りんねてんしょう・りんねてんせい)ということばを聞いたことがある人は多いでしょう。輪廻転生の意味は、漠然と、「人は死んでも生まれ変わるということ」と理解している人がほとんどかと思われます。「輪廻」とは同じ場所を回り続けることを意味し、「転生」は生まれ変わることです。つまり、輪廻転生とは「車の輪のように何度も生死を繰り返しながら生まれ変わる」ということです。
英語ではReincarnation(リーインカーネーション)といい、楽曲や映画などのタイトルに採用されることがよくあります。というのも、霊魂が生まれ変わるということはポジティブな思想だからです。
六道について
輪廻転生は、人は何度も生まれ変わりを繰り返すという思想です。死によって肉体は終わりますが、仏教においては永遠の生命があり、生まれ変わるとされています。
では、どのような世界に生まれ変わるかというと、仏教においては六つの世界があり、「六道(ろくどう・りくどう)」とよばれる以下の世界を指します。仏教ではすべての衆生(しゅじょう:生命のあるすべてのもの。人間をはじめとするすべての生き物)が生死を繰り返す六つの世界が「六道」なのです。
「天道」「人間道」「修羅道」は「三善道」といわれる比較的楽な世界、「畜生道」「飢餓道」「地獄道」は「三悪道」とよばれる激しい苦しみの世界です。
天道(天上道、天界道)・・・人間より優れた天人の住む世界
人間道・・・我々人間が生きている世界
修羅道・・・絶えず争いに満ちた世界
畜生道・・・弱肉強食で殺傷しあう世界
飢餓道・・・飢えと渇きで苦しむ世界
地獄道・・・もっとも激しい苦しみの世界
仏教では、亡くなった日から四十九日までの間に、故人が次に生まれ変わる世界が決まるとされ、死後七日目から七日ごとに生前の行いに対して閻魔大王をはじめとする裁判官の裁きを受け、四十九日目に来世の行く先が決まるといわれています。
法要の意味
遺族が法要を行うのは、故人に対する裁きがよい方向にゆき、故人が極楽浄土に行けることを願うためです。亡くなってから四十九日目までを中陰(ちゅういん)といいます。
お身内を亡くされた人は、葬儀社から「忌日表」という一覧をもらったことがあるでしょう。忌日表を見れば「初七日(しょなのか)」から始まり「二七日(ふたなのか)」「三七日(みなのか)」「四七日(よなのか)」「五七日(いつなのか)=三十五日」「六七日(むなのか)」「七七日(なななのか)=四十九日」「百か日」が、何月何日なのかが一目でわかるようになっています。
私たちは身内が亡くなると葬儀を行い、その後も節目ごとに法要を営み、故人の冥福を祈ります。「冥福」とは「冥途の幸福」のことで、遺された人たちが供養をすることで故人があの世で幸せに暮らせるとされています。家族を中心に、故人が極楽浄土に行けるようにと故人に「善」を送り、これを「追善供養」とよばれます。
なお、「法要」と「法事」は同じように使われることが多いのですが、「法要」は僧侶に読経していただくこと指し、「法事」は法要のあとの会食などを含めた一連の行事のことをいいます。
法要を行う日
仏教では人が亡くなった命日から数えて七日ごとを忌日(きにち)といい、七日ごとに忌日法要を営みます。初七日から四十九日まで七回の法要を行うことになりますが、現在では葬儀・告別式のあとに初七日を行い、次は四十九日法要を行うのが一般的です。
四十九日には意味があり、故人は四十九日間この世とあの世をさまよったあと、四十九日目にやっとこの世に別れを告げるといわれています。この四十九日法要を「忌明け」といいます。
初七日・・・命日を含めた7日目
二七日・・・命日を含めた14日目
三七日・・・命日を含めた21日目
四七日・・・命日を含めた28日目
五七日・・・命日を含めた35日目
六七日・・・命日を含めた42日目
七七日(四十九日)・・・命日を含めた49日目
百カ日・・・命日を含めた100日目
一周忌・・・命日から満1年目
三回忌・・・命日から満2年目
七回忌・・・命日から満6年目
十三回忌・・・命日から満12年目
十七回忌・・・命日から満16年目
二十三回忌・・・命日から22年目
二十七回忌・・・命日から満26年目
三十三回忌・・・命日から満32年目
仏教には「輪廻転生」という思想があり、亡くなってから四十九日間で故人が次に生まれ変わる世界が決まることは先に述べました。次に生まれ変わる世界は六道のいずれかで、この六道の世界は煩悩の世界でもあり、決して楽な世界ではありません。それを超越したところに極楽浄土があり、遺族は故人が極楽浄土へ行けますようにと願います。
さらに、初七日から三十三回忌までの法要の守護仏を十三仏とよびます。故人は十三の仏様に守られて、極楽浄土に導かれて成仏します。この間、遺族は法要を営み十三体の仏様に「故人が浄土に行けますようお導きください」と願うわけです。
十三の仏様とは
十三仏(じゅうさんぶつ)は、冥界(=あの世、死後の世界)で、審理にかかわる仏様で初七日から三十三回忌までの、追善供養をつかさどる仏様です。
- 不動明王(ふどうみょうおう)・・・初七日
- 釈迦如来(しゃかにょらい)・・・二七日
- 文殊菩薩(もんじゅぼさつ)・・・三七日
- 普賢菩薩(ふげんぼさつ)・・・四七日
- 地蔵菩薩(じぞうぼさつ)・・・五七日
- 弥勒菩薩(みろくぼさつ)・・・六七日
- 薬師如来(やくしにょらい)・・・七七日
- 観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)・・・百か日
- 勢至菩薩(せいしぼさつ)・・・一周忌
- 阿弥陀如来(あみだにょらい)・・・三回忌
- 阿閦如来(あしゅくにょらい)・・・七回忌
- 大日如来(だいにちにょらい)・・・十三回忌~二十七回忌
- 虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)・・・三十三回忌
13の仏様の意味はわからなくても、名前は耳にしたことがある人がほとんどではないでしょうか。十三仏の掛け軸をご覧になったことがある人もいるでしょう。掛け軸は、お盆や法事に飾られるものです。十三仏は知らず知らずのうちに私たちの日常に溶け込み、意外と目にしていることに気づきます。
十三仏と十二支の関係
ところで、十三仏は故人が極楽浄土に行けるための助けをする仏様であると同時に、13の仏様のうち8つは、十二支の守り本尊でもあります。ご自分の干支に対応する仏様を知ると、十三仏がなお身近に感じられるかもしれません。
- 子(ね)・・・観世音菩薩
- 丑(うし)・寅(とら)・・・虚空蔵菩薩
- 卯(う)・・・文殊菩薩
- 辰(たつ)・巳(み)・・・普賢菩薩
- 午(うま)・・・勢至菩薩
- 申(さる)・未(ひつじ)・・・大日如来
- 酉(とり)・・・不動明王
- 亥(い)・戌(いぬ)・・・阿弥陀如来
法要はいつまで行うか
さて、故人の冥福を祈るために忌日法要や年忌法要を営む日が、死後何日目、何年目と決まっていることは先述したとおりです。故人が極楽浄土に行けることを願い、遺族は追善供養を行いますが、三十三回忌、つまり故人がなくなってから三十二回目の祥月命日に行う法要で弔い上げとするのが一般的です。
弔い上げとは、故人の年忌法要を今後は行わないとし、最後の法要とすることを意味します。三十三回忌は通常の年忌法要より盛大に行う場合もあります。ただし、超高齢社会となった日本では高齢で亡くなる人が多く、当然ながら子世代の遺族も故人の三十三回忌のころには高齢になっているか、あるいはすでに亡くなっているかもしれません。
現実問題として、三十三回忌まで法要、法事を執り行うのは難しい場合もあるでしょう。
法要はいつまで行わなくてはいけない、という決まりはありませんので、遺族で話し合い決めてよいものです。
三十三回忌の特別な意味
故人が亡くなってから年忌法要を続けてはきたが、少子高齢化、核家族化、子世代の都市部への流出などで続けるのが難しくなった、という家庭も多いでしょう。その場合は、遺族や親族で相談し、あるところで法要を切り上げてもかまいません。
ただし、三十三回忌を特別な法要とするのには意味があります。仏教では、忌日ごとに13の仏様が現れては故人を面接したり助言をしたりします。これら十三仏は亡くなった人の魂が長い年月を経て徳を積み、最終的に成仏するための助けになる仏様なのですが、三十三回忌の虚空蔵菩薩をもって、十三仏の役目は最後となります。
この三十三回忌を区切りとして故人が極楽浄土へ参るとされる、大切な節目の法要でもあります。三十三回忌は、故人にとってすべてのことが消え去り極楽浄土へ行けるおめでたいこと、と表現する人もいます。
まとめ
私たちが営んできた法要、法事にはそれぞれの意味があり、13の仏様が守ってくださっているという仏教の考えを紹介しました。
この10年ほどの間で、仏事にかかわる様々なことが大きく変化しています。わが国における伝統的な仏事を知る人たちは80歳代を過ぎ、その子世代の人たちもすでにシニア世代となり、自分の終活を意識する年代です。
かつて親戚づきあいも近所づきあいも今より濃厚だったころ、葬儀や法事といえば、たくさんの人が集まる大切な行事でした。血縁、地縁に支えられて多くの仏事が成り立っていたのです。近年は世代交代により、以前のような仏事は行われなくなりつつあります。
ただ、仏教行事に関することを調べて故人や先祖の冥福を祈ることは、今現在この世に生きている私たちの心の安定にもつながります。お墓や仏壇に手を合わせたら、心が落ち着いたという経験をもつ人はたくさんいます。
ときには仏教の教えを紐解いたり、自分の守護仏を意識して手を合わせたりすることが、忙しい日常を送る現代人たちの、癒しになることもあるでしょう。