日本オリジナルのお墓「五輪塔」とは?

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五輪塔とは

五輪塔は、主に供養塔・墓として使われる塔の一種です。一説に五輪塔の形はインドが発祥といわれ、本来舎利(遺骨)を入れる容器として使われていたといわれています。日本では平安時代末期から供養塔、供養墓として多く見られるようになり、現在では、経典の記述に基づき、五輪塔は日本で考案されたものとの考えが有力です。

五輪塔を広めたといわれているのは真言宗の中興の祖「覚鑁(かくばん)上人」といわれています。高野山を拠点として全国活動をした高野聖でしたが、当時は木製で建てた五輪塔が全国普及のきっかけを作りました。

五輪塔と似たものとして、同じ供養塔である「宝篋印塔(ほうきょういんとう)」があります。宝篋印塔は100年以上前に亡くなったご先祖様を奉るものですが、五輪塔は50年以上前に亡くなったご先祖様を奉る場合に使用するという違いがあります。

五輪塔の構造

五輪塔は名前の通り、5つの形をしたもので塔が形成されています。下から、四角形・円形・三角形・半円形・宝珠形(上が尖った団子のような形)の順に積み上げられています。上から言えば、宝珠形(上が尖った団子のような形)・半円形・三角形・円形・四角形となります。ただし形などは必ずしも一定ではありません。作られた時期や場所、材質によって多少異なるのも特徴で、形によって名称がついているものもあります。

石造は平安後期以来日本石塔の主流として流行しました。五輪塔の形式は、石造では、下から、地輪は方形(六面体)、水輪は球形、火輪は宝形(ほうぎょう)屋根型、風輪は半球形、空輪は宝珠型によって表されます。密教系の塔で各輪四方に四門の梵字を表したものが多くあります。

五輪塔の意味

5つの形にはそれぞれ意味があり、上から「空・風・火・水・土」を表しています。この5つはインドで五大と呼び、宇宙を構成する要素とされています。この思想が、インドから中国を経て日本の密教へと伝わり、五大を五輪として塔にしたのが五輪塔です。

五輪塔には、宗派によってさまざまな文字が刻まれますが、インドの思想が元になっているため、五大の要素をそれぞれの石にインドの「梵字」で記載しているものがあります。また、塔婆にもこの五輪塔の概念が見られ、塔婆の表側にも五大を表す梵字を記載します。五輪塔の五輪の意味は上から次のようなものです。

空輪

五輪塔の一番上にある宝珠形の石材が空輪です。空は空間を表しており、災難を取り除いて、水を浄めるという意味合いが込められています。

風輪

五輪塔の上から2番目にある半月形の石材が風輪です。風は呼吸を表しています。

火輪

五輪塔の上から3番目にあるのが三角形の石材である火輪です。
傘のような形が特徴で、火は体温を表しています。

水輪

五輪塔の上から4番目にあたるのが円形の水輪です。水は、血液や水など流れるものを表しています。

土輪

五輪塔の上から5番目が方形の土輪です。土は、大地を表しています。

五輪塔は何故建てられるようになったか

五輪塔が、供養墓や供養塔として数多く建てられるようになったことにはさまざまな要因が絡んでいます。平安時代より前の時代では一般庶民のお墓というものはなく、ただ死者を埋葬するというものでした。それが平安時代になると、浄土教という宗教的価値観が庶民の間に広がっていきます。この浄土教の教えには極楽や地獄といった概念が含まれており、庶民にも死後の世界や応報といった考えが普及します。

その後、五輪塔で供養をすることで極楽浄土に行くことができるという考えが広まり、先祖供養の思いとして建てられるようになりました。ただし、浄土真宗では、死後すぐに極楽浄土へ旅経つとされているので、五輪塔の概念と相違があるため基本的にはお墓としては用いません。

五輪塔とは和型墓石の一つ

五輪塔は和型墓石のうちの一つです。和型墓石とは主に私たちがなじみのある「石塔タイプ」や「宝篋印塔(ほうきょういんとう)」、そして「五輪塔」があります。五輪塔以外の2つのお墓の特徴についても紹介します。

石塔タイプ

石塔タイプの墓石は、縦長の直方体の石材に「先祖代々之墓」「○○家之墓」などと文字が彫刻されている、もっとも一般的なタイプです。日本人にとってなじみがあるもののため、「お墓」をイメージするとこのタイプを思い浮かべる人が多いでしょう。

宝篋印塔(ほうきょういんとう)タイプ

中国の呉越王が仏教の呪文を収めたことが由来といわれているもので、100年以上前の先祖を供養するためのお墓で、長い歴史があるものです。縦長の塔のような形で真ん中の部分がくびれた方形になっている形です。一番上に宝珠を乗せた細長い棒状の「相輪(そうりん)」と、傘のような「隅飾(すみかざり)」、くびれの部分の「塔身(とうしん)」、「基礎」から構成されています。

現代における五輪塔

五輪塔は日本において古くから普及しているお墓ですが、仏教の宗派ごとに考え方は若干異なります。これは江戸時代の檀家制度の影響です。当時は檀家制度により、他宗との横並びが禁止され、宗派によって異なる文字を彫刻するようになったといわれています。以下では、代表的な宗派による五輪塔の考え方について説明します。

真言宗

真言宗では五輪塔を建てることは一般的です。先述したように五輪塔を広めたといわれているのは真言宗の覚鑁上人になります。そのため、真言宗にとって五輪塔は供養するためのお墓としてはなじみがあるタイプのお墓といえるでしょう。彫刻される文字は梵字が一般的です。仏教における読み方は上から「キャ・カ・ラ・ヴァ・ア」です。梵字は「空(キャ ख )、風(カ ह)、火(ラर)、水(バ व )、地(ア अ)」となります。

曹洞宗、臨済宗

曹洞宗、臨済宗でも五輪塔を建てることがあります。刻む文字は「空・風・火・水・土」というのが一般的です。

日蓮宗

日蓮宗も同様に五輪塔を建てることがありますが、彫刻文字は「妙・法・蓮・華・経」です。

浄土宗

浄土宗では、供養のために五輪塔を建てるケースがあります。その場合は、サンスクリット語の梵字を彫刻せず、「南・無・阿弥・陀・仏」と彫刻するのが一般的です。

浄土真宗

浄土真宗では五輪塔は建立しません。なぜなら、浄土真宗には、人は亡くなれば阿弥陀様の導きにより即浄土へ往生できるという考えに基づき、追善供養は不要であるという考えがあるからです。

五輪塔の建立費用

五輪塔も一般的なお墓と同様、石材の量やお墓の大きさなどによって費用が異なります。相場としては、五輪塔を建てるための費用は20万~150万円です。コンパクトなサイズの五輪塔であれば費用は安くなります。

まとめ

五輪塔とは和型墓石の一つで、5つの石材部分から構成され、仏教における自然界の5大要素といわれる「空・風・火・水・土」という意味合いと名称が付けられています。下から四角形・円形・三角形・半円形・宝珠形の順に積み上げられており、それぞれに意味があります。考え方は宗派ごとに考え方は若干異なり、最も広く行っているのは真言宗です。また、浄土真宗では五輪塔は建立しません。