相続に大きく影響する隠し子の存在
最愛の夫を亡くし、悲観に暮れながらやっと終えた葬儀でしたが、そんなところへ隠し子が登場したらどうなるでしょうか。
冷静でいることすら困難ですが、実際に隠し子が判明するケースは少なくありません。
隠し子がいると相続手続きはより複雑となり、遺産の配分にも大きく影響するため、万が一を想定しておく必要もあるでしょう。
この記事では、隠し子が現れた場合の相続について、対応方法や権利関係などを解説します。
隠し子の存在が争族の可能性
遺産相続の詳細は遺言書または遺産分割協議によって決まりますが、相続人は「このくらいの現金は相続できる」「あの土地は自分のものになる」など大まかな予想を立てていることが多いです。
しかし、隠し子が相続人として現れると予想は大きく外れてしまい、円満相続から「争続」へ一変するケースもあります。
まずは隠し子を他人事と思わず、法的に保証される立場や権利について理解を深めておきましょう。
「嫡出子」と「非嫡出子」
隠し子の登場は相続人にとって想定外であり、慌てて対応方法を調べるといったケースも多々あります。
遺産分割協議についてもより慎重な話し合いが必要となるため、関係者同士で行き違いが発生しないよう「嫡出子」「非嫡出子」といった用語についても理解しておくべきでしょう。
嫡出子(ちゃくしゅつし)
法律上「婚姻している夫婦」から生まれた子を「嫡出子」といい、相続の際は第1順位の法定相続人となります。
非嫡出子(ひちゃくしゅつし)
法律上「婚姻関係のない男女」から生まれた子を「非嫡出子(または婚外子)」といい、認知されていれば父親の相続の際に第1順位の法定相続人となります。
非嫡出子の場合、母親が出生届を出すことによって母方の戸籍に入ります。
従って母親の死亡時に法定相続人となりますが、父親の法定相続人となれるか否かは、認知の有無によって変わります。
父親に認知されていない非嫡出子は戸籍上も父の欄が空欄であり、法律上の父子関係がないため、父親の死亡時に相続人となることは出来ません。
隠し子の認知の確認方法
突如現れた隠し子から「私は認知された子だ」と言われた場合、認知の有無はどのように確認したらよいでしょうか。
認知には「任意認知」「強制認知」などの方法があり、認知の事実は戸籍によって確認することができます。
また遺言書によって認知する「遺言認知」の方法もあります。
相続手続きでは「相続人の確定」が必要であり、亡くなった方(被相続人)の出生から死亡までの連続した戸籍を取り寄せることになります。
しかし認知の事実は、認知した当時の戸籍謄本にしか記載されません。
戸籍謄本の取り寄せ方
戸籍謄本を取り寄せるには、まず死亡した方の死亡時の本籍地の役所で戸籍を受け取り、そこから出生時まで遡って戸籍を収集していきます。
本籍地で戸籍を受け取ったら、次にどこの戸籍を取ればよいのかを聞き、この手順を繰り返し、出生までの戸籍を取り寄せます。
なお、戸籍は郵送してもらうことも出来るので、遠方まで出向くのが難しければ役所に問い合わせてみましょう。
出生から死亡までの連続した戸籍を取り寄せることが出来たら、法定相続人となる方を確定させます。
ここまでの作業で、隠し子も含めた法定相続人の調査が完了します。
遺言書の有無に関わらず、隠し子の存在は相続手続きに必要な書類を揃える段階で判明します。
認知された隠し子の戸籍は、身分事項の欄に父親の名前が記載されるので、確認の際は見落とさないことが大切です。
認知された隠し子の相続権と相続割合
隠し子であっても認知されていれば、父親に対する相続権が発生し、法定相続分も嫡出子と同じ割合になります。
非嫡出子の法定相続分について、以前は「嫡出子の1/2」と民法で規定されていましたが、2013年(H25)9月の判例により憲法違反とされ、同年9月5日以降は嫡出子・非嫡出子ともに平等な扱いとなっています。
過去に決着した相続の場合
民法改正により認知された隠し子の法定相続分は、嫡出子と同一になりましたが、過去(法改正以前)に決着した相続事案が覆る訳ではありません。
最高裁の基本的な考えも「既に関係者間において裁判、合意等により確定的なものとなった法律関係は、旧規定を前提とするものであっても無効とはならない」とされています。
隠し子の登場によって変わる遺産配分
もし、隠し子の存在が明らかになった場合、相続の内容はどのように変わるでしょうか。
一例を挙げて解説しますので参考にしてください。
※分かりやすくなるように、被相続人には親(直系尊属)や兄弟はいないものとします。
父親が亡くなり、妻(配偶者)と子A、Bの3人で遺産の分け方を話し合っていたとします。
仮に相続財産の総額を1億2千万円とし、法定相続分に従って分割した場合、妻は遺産総額の1/2(6千万円)、残りの遺産を2人の子で分け合うため、子A、子Bへの配分はそれぞれ1/4(3千万円ずつ)となります。
実際の相続では分割できない家屋などがあるため、法定相続分ピッタリとはなりませんが、相続財産の全てを現金換算した場合と考えてみてください。
ではここで、被相続人の戸籍を調査した結果「認知された隠し子」が判明したとします。
家系図で表すと以下のようになります。
隠し子の登場によって法定相続人が一人増えるため、それぞれの法制相続割合も変わってきます。
その際、内縁の妻に相続権はありません。
子の人数に関係なく配偶者の法定相続分は1/2ですが、子A、Bは隠し子の登場によって、割合が1/4から1/6へと下がります。
金額にすると1千万円の減少になるため、隠し子の登場は嫡出子にとって重大問題となる訳です。
もちろん故人の妻にとっても、腹違いの子を好意的に受け入れることは難しいでしょう。
実際に、隠し子や内縁の妻に、父親死亡の事実を告げず、配偶者と嫡出子だけで勝手に相続手続きを進めた例もありますが、これでは相続手続きは完了しません。
なぜなら相続書類の提出先も法定相続人を確認しているからです。
隠し子を除外して手続きを進めても、結局は同意書などの書類不十分として差し戻されます。
隠し子がいても冷静沈着な対応を
「子は親を選べない」の言葉どおり、非嫡出子も望んでその境遇にいる訳ではありません。
しかし、配偶者や嫡出子にとっては歓迎し難い存在であり、法律で保護されているから仕方ないと簡単には割り切れないでしょう。
「今さら相続人だと言われても」と、感情的になりそうですが、重要なのは冷静かつ沈着でいることです。
感情が先走ると相続が長期化する恐れもあり、最悪の場合、何の解決もしないまま次の世代へ持ち越すことになってしまいます。
相続手続きが完了するまでの間、遺産は相続人によって共同所有されることになり、各相続人を「共同相続人」と呼びます。
上図の共同相続人は4人ですが、遺産分割を巡った「争続」が長期化すると他界する人も出てきます。
亡くなった方に子がいた場合、代襲相続によって相続権は子へ移り、次第に共同相続人の人数も増えていきます。
実際に共有名義となったまま数10年放置されている不動産なども多く、登記簿を調べると何人もの共有者が設定されていることも珍しくありません。
解決しない相続は出費がかさむことも
遺産の全てが現金や有価証券など、分割しやすいものであれば遺産分割協議も解決しやすく、また長期化しても維持・保有コストの負担は微々たるものです。
しかし、話がこじれて家屋・土地などの不動産が共有状態となった場合は大変です。
共有状態でも固定資産税や都市計画税などの納税義務はあるため、市町村などの自治体から共有者の代表を知らせるよう通知が届きます。
代表者を通知すると納税通知書などは代表者あてに届きますが、実際に納税する場合、代表者が相続人全員の負担分を肩代わりしていることが多く、それぞれの負担分の回収もスムースにいかないようです。
遺言書できちんとした清算を
隠し子の存在はなかなか家族に打ち明けにくく、ご自身の相続まで引きずってしまうことがほとんどです。
しかし、家族のためにも原因をつくった父親がきちんとするべきであり、その手段の1つが遺言書です。
遺言認知する、しないの判断もありますが、各相続人へ承継する財産を詳しく記し、必要であれば遺言執行者も設定しましょう。
遺言書には強制力があるため、たとえ納得がいかなくても、決着させることができます。
相続発生時の当事者間で解決させ、次の世代へ負担を引き継がないようにしておきましょう。
まとめ
遺言書がない場合「誰が父親の死亡を隠し子に告げるのか」などの問題も発生します。
しかし、認知されていれば正当な相続人となるので、差別にならないよう注意が必要です。
どうしたらよいか困ったときは弁護士や税理士など、相続問題に強い専門家への相談がおすすめです。
終活と相続のまどぐち