母が残したエンディングノートで姉との関係が修復できた!

相続

エンディングノートの持つ力

エンディングノートと遺言書は、法的な効力を持つかもたないかが大きな違いです。
エンディングノートに法的効力はありませんが、遺言書には書けない本人の気持ちをつづることができます。

本人の気持ちや家族に伝えたいことを書くことで、残された家族にとって心の拠り所となったり、誤解を解いたりすることに繋がります。
そして、そのエンディングノートは残された人の宝物となるでしょう。

たとえば、母親が残したエンディングノートを読んだおかげで、不仲な子どもたちが仲直りすることもあります。
お金や資産、葬儀のこと以外にも、残った家族に伝えたいことを書くことができるエンディングノートのメリットは非常に大きいのです。

今回は「長い間不仲だった姉妹が、母親の残したエンディングノートを見て仲直りした」というエピソードを見ていきましょう。

ある仲の悪い姉妹の話

ある姉妹は、6歳の年の差があり、姉は、妹が小さいころはかわいがっていたのです。
しかし、妹が4歳のときに小児喘息と診断され、常に病院にかかるようになってから、姉は、1人で留守番したり親戚に預けられたりして寂しい思いをしました。

妹はスイミングやバレエ教室などに通い、成長とともに喘息の症状は良くなっていきました。
ところが、妹の喘息は良くなったものの、わがままな性格となってしまいました。
今まで、手をかけすぎ、甘やかしてしまったからでしょう。

姉の大学受験のとき、当時妹に手がかかったことと、経済的な理由から、両親は国立大学への進学を望んでいました。
姉は成績優秀でしたが、受験に失敗してしまい、隣県の看護学校に行くことになったのです。

そのとき、姉と両親との話し合いの中で、妹がちょっとした悪ふざけなのか「滑ったの?お姉ちゃんだめじゃん」と口走ったのがいけなかったのでしょう。

姉は妹を思いっきりぶったのです。
「あんたなんか大嫌い」と叫んでぶったため、妹は倒れ、肘を打撲してしまいました。
そして、泣くじゃくる妹を尻目に、姉は部屋へ駈け込んでいきました。

それ以来、姉妹はあまり会話もせず、小学校の卒業式の日、姉は家を出ていったのです。

その後は、たまにお正月に顔を合わせても、今度は妹が部活や塾で忙しく、口を利くこともありませんでした。
姉は、看護学校を卒業後、地元に帰ってきて総合病院に就職し、妹は東京の大学へと進学、留学もして総合商社に就職したのです。

今では、ほとんど顔を合わせることもなくなっている姉妹でした。
そんな中、姉妹のお母さんが危篤という連絡をうけたのです。

母の書いたエンディングノート

母が危篤ということで、駆けつけた姉妹に、母の妹である叔母から一冊のノートを手渡されました。
それがエンディングノートでした。

そして、危篤だった母は亡くなりました。

母のエンディングノートは、きれいにこまごまと書かれていました。
・延命治療をしたくないこと
・葬儀社は、決めてあること
・親族の連絡先、友人への連絡方法、銀行の通帳や印鑑の置き場所、そして暗証番号
・町内会の担当の人の連絡先や、連絡方法など

以上が細かく書いてあり、すべてエンディングノートに書かれてあった連絡先に連絡を取ったことで、スムーズに連絡がついて困ることは何もありませんでした。

また、母はエンディングノートを書きながら、同時進行で自宅も片づけていました。
大きなものは、姉とその家族に相談して捨てたそうです。
「こんなに捨てなくてもいいんじゃない?」と姉が聞くと「どうせいらないのよ、後であんた達に迷惑かけなくてすむようにね」と言っていました。

洋服も食器棚の食器もとても少なくなっており、きれいに片づけられていたのです。

そして、エンディングノートには、姉妹たちへの思いも書き綴られていました。
                                                

母の残したエンディングノート

以下が母親が妹に残したエンディングノートの内容です。

母が妹に伝えたかったこと

あなたが生まれたときは、お父さんもお母さんもとても嬉しくて大喜びでした。
お姉ちゃんの後、男の子が生まれたんだけど、ほんの少しで亡くなってしまったの、お仏壇があるからわかっていたでしょう。

その後も流産したりして、もう子どもは産めないんじゃないかって思っていたの、だけどあなたを授かったから、とても大事に育てようと思ったの。
お姉ちゃんも喜んでいて、妹が出来たのがとても嬉しかったみたい、学校から帰ってくるとすぐにあなたのことを見に行くの。
そして、よくおむつを替えてくれたりしてたわ。
お父さんも残業せずに帰ってきて、本当にみんなであなたのことを可愛がっていましたよ。

あなたが4歳くらいのときに喘息が出て、入院したり、夜中に具合が悪くなると救急病院に行って吸入したりしていたことを思い出します。
お姉ちゃん一人で留守番させたりしてね。
何とか喘息を早く治そうと、スイミングスクールに入れたら、すぐに具合が悪くなって入院したのでやめたのよね。
でもバレエ教室は、休みながらも続いて、中学生までやって高校受験のためにやめたけど、バレエのおかげもあって喘息もよくなったわね。

バレエの発表会やコンクール、お金はかかったけどね、お姉ちゃんに国立しか受けさせてあげられなくて、悪いことをしたと思います。

そして、ずっと気になっていたあの日のこと。
お姉ちゃんがあなたをぶった日、口の中も切れるほど強く叩いたわね、頬もしばらく腫れていたのを思い出しました。
お姉ちゃんがあんなに怒るなんて本当にびっくりしました、よほど我慢し続けていたことが爆発したのかもしれないって、今なら思います。

あのときのことだけど、あなたは忘れてしまったんでしょうね。
お姉ちゃんの大学入試の2次試験の3日前くらいだったかな、あなたが階段で落ちそうになって、お姉ちゃんが抱き留めたことがあったでしょう。
あのときお姉ちゃんは突き指をしてしまって、湿布で腫れは引いたけど、2次試験の当日痛みがあって試験がうまくいかなかったらしいの。
やっぱり、大学を落ちてしまって、よほど悔しかったんでしょうね、浪人するかという話も出たんだけど、あなたのバレエのコンクールもあって、東京にもいかなくちゃならなったし、出来たら国立大学に行ってほしかったの。

だから、お姉ちゃんは看護学校に行ったのよ、あなたが小児喘息だったこともあって、医療関係の道に進みたい気持ちもあったのかもしれないわね。
それなのに、あなたは「滑ったんだ~ダメじゃん」って笑って言ってね、瞬間的にお姉ちゃんはあなたをぶってたわね。
よほど辛かったんだと思うのよ、あまりにひどくて叩いたものだから、あなたが倒れて、大声で泣いてしまってどうしようもなかったのでしょう。

次の日に謝ってたけど、あなた、知らん顔してたわね、お姉ちゃんは、悪いと思っていたのよ、だからこれからどんなに腹が立っても手を挙げないって言ってたんですよ。

あなたの小学校の卒業式に家を出て行ったのは、運送屋さんの都合だったのよ。
それにね、お姉ちゃんはずっとあなたのこと気にかけていたのよ、留学するときも、留学費用をほとんど出してくれたのよ。

母親の願い

母からの最期のお願いとして聞いてほしいです。
姉妹仲良くしてください、お姉ちゃんのこと、許してあげるんですよ。
あなたは忘れてしまったかもしれないけれど、あなたもお姉ちゃんに、辛い思いをさせてきたんです。

二人だけの姉妹なんですから、仲良くしてほしい、それだけが気がかりなことです。
そして、この家はお姉ちゃんたちに住んでもらいたいと思っています、それがあなたにとってもいいことになると思います。

これからは目先のことだけじゃなく、少し先を見据えて行動していってほしいと思います。
そして、人に優しく、幸せに暮らしてね、いつも祈っています。母より

母から姉へ                                                             

当然、姉への言葉もありました。
姉に対しては、とにかく子どものころから寂しい思いをさせてばかりで悪かったというお詫びがありました。

そして、いろいろと長女として考えてくれていたこと、家族のために手を尽くしてくれたことへの感謝がつづられ、妹をわがままに育ててしまったけれど、許してほしいということが書かれていたのです。

そして、姉には、
「あなたには本当に幸せになって欲しいと心から思います。この家を譲ることは、もしかしたらまた負担をかけてしまうことになってしまうかもしれない。
でも、どうか、夫と子どもと一緒にこの家に住んでほしいのです。妹が帰ってこられる場所になってあげて欲しいのです。だからどうか体に気を付けてね。
長生きしてね。その後は、あなたの夫にお任せするわね。あなたの苦しみも全部持っていけたらいいのにと思います。母より」

と母が残した家を継ぐ姉には、このように残されていました。

エンディングノートで姉妹が仲直りへと

姉妹は、母の残したエンディングノートによって、仲直りできたのです。

母のエンディングノートを読み、二人で、泣きながら語り合ったのです。
母の最期の望みを叶え、家は姉が住むことになり、預貯金は、リフォームと妹たちのためのお布団を買う費用になりました。

姉妹は、母の死という重く悲しい出来事でありながら、清々しい気持ちで、新しい日を迎えることができたのです。

母親のエンディングノートがなかったら、姉妹はお互い誤解をしていたことに気づかず、仲が悪いままだったでしょう。

エンディングノートのメリット

このようにエンディングノートによるメリットは、非常に大きなものだということがわかります。

治療に対しての希望を書いておくことで、家族の意志も統一しやすくなり、親族や友人、町内への連絡もスムーズに行えるでしょう。
それだけでなく、仲の悪かった姉妹の関係を修復したように、家族の絆を取り戻すことも可能なのです。

もちろん、遺産相続などは、遺言書に明記しておいた方がトラブルになりません。
エンディングノートは、残された家族に対する自分の思いや伝えておきたいことを、素直に書き記しておけるツールとして活用することが望ましいでしょう。

人の気持ちや思いは、本人以外わかりません。
エンディングノートは、自由に書き込め、手軽に自分を表現できるので、残された家族にとっては一番気持ちが伝わる表現方法ではないでしょうか。

言葉でうまく伝えておいたとしても記憶が風化してしまい、いざとなったときや亡くなって時間が経つと、思い出すのも困難な状況になると考えられます。

亡くなった後も家族を繋ぐ絆のツールとして、自分だけのエンディングノートを残しておくのは、財産を残すより残された家族にしてみれば宝物となるでしょう。

まとめ

エンディングノートは、名前のとおり、亡くなった後に活用されることが大きいです。
しかし、エンディングノートの作成方法は自由なため、亡くなる前にも充分活用できます。

亡くなる前に介護施設に入所する事例が増えてきている一方で、認知症で意思が伝えられなくなったときにも役に立つのです。
介護は家族に負担やストレスが大いにかかりますが、そのときにエンディングノートを作成しておけば介護する家族の支えになるでしょう。

何かあったときの連絡先や、かかりつけの病院などを記入しておけば、残され人の負担が軽くてすみます。

残された家族のために思いを伝えるツール以外にも、言葉にできない思いを伝えるツールとしても活用できるのがエンディングノートなのです。

大切な人に、大切なことを伝えるために、エンディングノートを作成しておきましょう。

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