はじめに
わが国では年々婚姻率が低下しているとはいわれていますが、それでも毎年多くのカップルが永遠の愛を誓い、結婚しています。教会では「健やかなるときも、病めるときも、死がふたりを分かつまで、愛することを誓います」と宣言します。
しかし、実際には離婚に至る夫婦も毎年一定数存在します。
多くの離婚経験者が異口同音に語るのは、「離婚は結婚の何倍ものエネルギーを使う」ということです。特に婚姻生活中に二人で築いた財産や、子どもの親権については、離婚の際にスムーズな決定がなされることはほぼない、といえるでしょう。
かつて離婚は人生の失敗や汚点とされ、本人はもとより親兄弟まで肩身の狭い思いをした時代もありました。近年になって離婚に対するネガティブなイメージは薄れ、新たな人生への再出発のチャンスととらえる人が増えています。
しかし、離婚には多大な労力と時間、精神的負担が伴うことに変わりはありません。
この記事では、離婚時の財産分与について、特に共有名義となっている不動産を中心に解説します。
婚姻率と離婚率
ここで、日本ではどれくらいの人たちが結婚し、離婚しているかを、具体的な数値をもとにみてみましょう。人口1000人あたりの婚姻件数の割合を「婚姻率」といいます。
●婚姻率=年間の婚姻件数÷10月1日現在日本人口×1000
過去にさかのぼると、日本の婚姻率が高かった時期は1970(昭和45)年~1974(昭和49)年で年間婚姻件数は100万組を超え、婚姻率は10.0以上でした。その後日本の婚姻率は年々低下し、1978(昭和53)年~2010(平成22)年の間は年間70万組ほどに減少します。
婚姻件数は2011(平成23)年以降も減少を続け、2016(平成28)年の婚姻件数は、約62万組(婚姻率5.0)の過去最低になり、現在に至ります。
「生涯未婚率」は、「50歳時点で一度も結婚したことがない人」の割合を、厚生労働省管轄の国立社会保障・人口問題研究所が計測した数値です。2018年度に、生涯未婚率は男性が23.4%、女性が14.1%と過去最高を記録しています。
さて「離婚率」のほうは、人口1000人当たりの離婚件数の割合です。年齢層別では、若年層ほど離婚率が高いという統計結果があります。
●離婚率=年間の離婚件数÷10月1日現在日本人口×1000
離婚率は1980年代から上昇しはじめ、2001年に2.30のピークを迎えますが、その後次第に下降傾向にあります。男女共に結婚しない人が増加していること、結婚しない人が多くなれば離婚する確率も下がるため、数値上では離婚率も低下しています。
財産分与とは
通常、離婚の際には婚姻生活中に二人で築いた財産、つまり共有資産を分けることになります。それを「財産分与」といい、その中でもっとも大きな位置を占めるのが「家」です。
財産分与の対象となるものには婚姻中に夫婦が一緒に貯めた預貯金、購入した家や車、家具や家電、有価証券などがあります。また、飼っていた犬や猫などのペットは、法律上は「物」の扱いとなるため、ペットも財産分与の対象となります。もちろんふたつには分けられませんので、ペットの取り合いで大いにもめるケースもあります。
財産分与は「折半」が基本ですが、実際にはきっちり2分の1に分けられるものは少なく、お互いの合意があれば、どのような分け方でも法的に問題はありません。したがって、財産分与の割合や、どちらが何を引き取るかは両者の話し合いで決めてよいことになります。
また、財産分与は慰謝料とは性質が異なり、不貞行為などの離婚の原因を作った側である有責配偶者にも受け取る権利があります。よって、夫の浮気が原因で離婚に至ったという場合でも、きちんと財産分与を行い、その上で慰謝料を請求することになります。
共有名義になっている家がある場合
結婚を機に家を購入するカップルは多く、近い将来子どもをもつことも考慮して、賃貸物件から、分譲マンションや一戸建ての購入に踏み切る夫婦もいます。
共働き家庭の場合、名義を夫婦二人の共有名義にすることも珍しくありません。近年女性の社会進出が進み、安定した職業や年収、預貯金を確保している女性も増えているからです。
経済力のある女性の場合、夫となる人と資金を出し合い家の購入をした上で、共有名義にすることが多くなりました。また住宅ローンにも、夫婦の収入を合算して組める「連帯債務型」「連帯保証型」「ペアローン」があります。夫婦ともに安定した収入があると融資額も大きくなる可能性が高く、住宅を選ぶ範囲も広くなる利点があります。
さて、離婚後に自分たちの家をどうするかは、非常に大きな問題です。これからふたりは別々に住むわけですが、その際の選択肢は、夫婦のどちらも婚姻中の家には住まないか、夫婦のどちらかがそのまま家に住むか、のいずれかになります。
住宅ローンをペアローンや連帯債務型にしている場合は、家も共有名義のため、所有権や財産分与をめぐりトラブルに発展することも予想されます。
不動産を売却して現金化し、半分に分ける
まず住んでいた家から両者とも退去し、家や土地、またはマンションを売却・現金化してふたりで分ける方法があります。公平で今後のローンも残らないため、気持ちの上でもすっきりする方法といえます。
家が共有名義であれば、売却の際には両者の合意が必要になります。離婚後まで連絡を取り合わなくても済むため、離婚の際に家を売却し、現金化して分けるのがもっともトラブルが少ない方法です。その現金を、新生活の資金に充当できる利点があります。
夫婦のどちらかが家に住み続ける場合
さまざまな事情により、家は売却せずに残して、どちらかが住み続ける場合があります。子どもがすでに学童期になっていて、転校などで大きく環境を変えたくないと考えた場合や、自宅を職場にしているなど、仕事の都合上、現在の住まいがベストなケースなどです。
このような場合、住み続ける方が、住まない相手に対して家の評価額の半分を現金で支払うことで、財産分与することができます。
ただし、家を残すということは住宅ローンも残ることがほとんどで、誰がそのローンを支払っていくかを決めなくてはいけません。
共有名義の家にローンが残っている場合
家は高額な買い物ですので、現金で購入する人はほとんどいません。20~35年などの長い住宅ローンを組むのが一般的です。
結婚してから数年で離婚する場合、ほとんどの家庭でローンが残った状態です。当然ながら、離婚しても住宅ローンの返済義務がなくなることはありません。
名義には、家の名義と住宅ローンの名義とがありますが、すでにローンを完済済みの家の名義を変更することは簡単です。一方、ローンが残っている場合の名義は、簡単に変更することはできません。したがって、離婚後に家を売却しない場合は、二人でローンを支払い続けなくてはいけません。
ローンの残債より家の価値が大きいアンダーローン
家の売却により利益が生じます。その利益を夫婦で分けるのが、もっともシンプルです。売却をせず、どちらかが家に住む場合は、家をもらわない方の配偶者は、財産分与として評価額の半分を現金で受け取ることになります。
家の価値よりローンの残債が大きいオーバーローン
家を売却したとしても、ローンが残ってしまうため、ローンの支払いを続けなくてはなりません。夫婦のどちらかが住み続けてローンも支払う方法が考えられますが、今まで二人で支払ってきたローンを一人で支払うのは現実には厳しく、手放すケースも多くみられます。
住宅ローンの名義変更は簡単ではなく、金融機関としても、離婚したからといって融資していることには変わりありませんので、かなり難航すると考えておくべきです。
家の売却方法
住んでいた家が共有名義となっていた場合、売却するのがもっともシンプルで禍根も残さない方法です。ところが売却には、オーバーローンとアンダーローンがあり、オーバーローンの場合は、売却しても残債が出るため取り扱いが難しくなります。
家の売却方法としては、「仲介」「買取」「任意売却」の3種類があり、ローンの返済が終わっているかどうかにより選択の余地が異なります。ローンを完済している場合は「仲介」か「買取」、ローンが残っている場合は「任意売却」を選ぶことになります。
結婚数年以内の若いカップルの場合、離婚時にローンを完済しているケースはまれですので、任意売却を選択することがほとんどです。任意売却とは、住宅ローンの返済が滞っている、または売却金額よりも住宅ローンの残高が大きい場合、債権者である借入先の金融機関と話し合いの上、同意を得て売却する方法です。
離婚時の財産分与で注意すべき点
夫婦でいる間に購入した家や車、家具や家電などはすべて共有財産となりますので、二人で築いた財産はないというカップルはいません。何らかの形で財産分与は行うことになりますので、以下の点に注意してとりかかるようにしましょう。
財産分与の請求期間は離婚後2年以内
財産分与は離婚と同時に決めるのが一般的ですが、さまざまな理由で後回しになってしまうことがあります。離婚による精神的ダメージや、離婚に至るまでの蓄積された疲労などで、それどころではない人もいるでしょう。
また、必要なことであれ、話し合いの場をもつのも苦痛なほど、両者間がこじれている場合もあります。少し落ち着きを取り戻してから財産分与にとりかかりたい気持ちもあるかもしれませんが、財産分与を請求できる期間は、離婚から2年以内と民法で定められています。
可能な限り、すみやかに財産分与に着手しましょう。
公正証書の作成が勧められる場合
離婚の際に、住んでいた家に妻が残り、夫が住宅ローンを支払う約束をするケースが非常に多くみられます。妻が子どもを引き取ることが多いこと、子どもの生活パターンを変えたくないことなどの理由で、家に住み続けることを望む妻が多いのです。
しかし、夫からすれば、自分が住まない家の住宅ローンを支払うことになり、離婚当初は納得していても、完済まで支払いをしない場合も相当数あるといわれています。
ローンが支払われないと、家を維持できず、妻と子どもはその家から退去せざるを得なくなります。そのため、離婚後に夫が家のローンを支払うという約束については、口約束ではなく公正証書にし、履行されない場合に法的効力を持つようにしておくことを勧めます。
不動産の査定は複数の不動産会社を比較
財産分与として家を分ける場合に、必ず知っておかなくてはいけないのが家の評価額です。インターネットの一括査定サイトで、相場を知ることを第一歩とするとよいでしょう。それにより、自分の家がオーバーローンかアンダーローンのどちらの状態なのかがわかりますし、売却の可能性についてもめどがたつことになります。
次に、より正確な査定のために「不動産鑑定士」に依頼することも勧めます。不動産鑑定士は不動産の鑑定評価に加え、コンサルティング業務も行う国家資格で、不動産会社の鑑定部門や不動産鑑定士事務所に所属しています。
両者の折り合いがつかない場合は裁判という方法も
財産分与はスムーズにいかないケースも多く、両者の間がこじれて折り合いがつきそうもないときには、裁判で決着をつける方法もあります。ただし、裁判のためには、弁護士を依頼するなどの少なくない費用と、数回は裁判所に通うなど、時間もかかることも念頭におかなくてはいけません。
まとめ
この記事では、離婚時の財産分与で共有名義の不動産があった場合、その家をどのように分与するかについての流れを説明しました。共有名義で住宅ローンが残っている家の売却や名義変更は、決して簡単ではありません。
一生に一度のつもりで購入した住宅であっても、離婚する場合には、双方とも住み続けないほうがよい場合もありますし、片方が家に残るという選択もあります。各家庭がさまざまな事情をかかえていますので、どの方法がベストかは、離婚する当事者同士で決めていかなくてはなりません。
いずれにしても、冷静な判断ができるよう、ローンの借入先の金融機関や不動産会社、場合によっては弁護士や司法書士などの法律の専門家に間に入ってもらうことも考えておきましょう。