子供がいない私たち。妻に全財産を渡したいが、遺言書は必要なの?

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人が亡くなると、遺産相続の手続きが必要です。
貯金・持ち家・土地・家財・債券など、故人が所有していた財産を親族が譲り受けます。

子供のいないご夫婦は
「妻(夫)に全財産を残したいが、その場合遺言書は必要なのか?」
「遺言書以外にも、何か必要なことはあるのか?」
という疑問を持つかもしれません。

そこで、この記事では子供のいない夫婦の遺産相続について説明します。

遺言書って必要?

子供のいない夫婦の遺産相続は配偶者が受け取るもの、と単純に考えがちです。

確かに、夫婦二人で生きてきて子供もいないのですから、相続人は、配偶者だけと思うのも不思議はありません。
また、夫が妻に(または妻が夫に)全財産を相続させたいと思うことが多いのは、普通のことのように思えます。

ところが、子供のいない夫婦の場合でも、法定相続人は配偶者だけではないのです。

子供のいない夫婦の法定相続人

  1. 夫の直系尊属(父母や祖父母)が生きている場合、配偶者と、直系尊属が法定相続人となり、配偶者が3分の2、直系尊属は3分の1の遺産配分となります。
  2. 夫の直系尊属(父母や祖父母)はいないが、兄弟姉妹が生きている場合

    配偶者と兄弟姉妹が法定相続人となり、配偶者が4分の3、兄弟姉妹は4分の1の遺産配分となります。

  3. 夫の直系尊属(父母や祖父母)兄弟姉妹とも他界しているが、その子供(甥、姪)がいる場合、配偶者が4分の3、甥、姪は4分の1の遺産配分となります。

    つまり、子供のいない夫婦の場合でも、法定相続人は配偶者だけではありません。

そこで、配偶者(夫または妻)に全財産を相続させたい場合には、遺言書を書いておく必要があります。
遺言書を書くことで、配偶者に全財産を相続させることができます。

子供のいない夫婦の場合、遺言書を書いていないと、どういうことが起きるのでしょうか。
具体的な例で説明してみました。

子供のいない夫婦で、故人の両親が生きている場合

Aさん夫婦は子供がなく、近所に住む親兄弟と仲良く暮らしていました。
Aさんの両親も長寿で、二人とも80歳を過ぎて健在です。
どこの家庭も問題なく暮らしていて、お金のトラブルもありません。

そろそろ年金生活に入ろうかという頃、Aさんにがんが見つかりました。
しかし、Aさんは、家や預貯金は妻が全額受け取るものと思っていたので、そのまま何もせずにいました。
およそ1年間の闘病後、Aさんは亡くなりました。
その時になって、ご両親も法定相続人として、Aさんの遺産を相続できることが分かったのです。

Aさんが亡くなった時点で、Aさんのお父さんは認知症で施設に入っていました。
そのこともあってAさんのお母さんは、「出来たら相続したい」と希望したのです。

Aさんのご両親の相続分は3分の1です。
奥さんは、Aさんが亡くなった悲しみの中、まさかこんなことが起きるとは思いもよらず、困ってしまいました。
ですが、Aさんの兄弟と話し合って、Aさんのお母さんに相続の権利はあるものの、Aさん両親が高齢なこともあり、入所施設の費用をAさんの奥さんが支払うということで、決着がつきました。

Aさんの奥さんは、「夫の家族がいい人で良かったけれど、ひやひやしました。
夫の兄弟も、話し合って折り合いを付けてくれてよかったです。
相続は死亡保険金や夫の遺族年金で何とかなり、預貯金の取り崩しもしなくて済んでよかったです。」ということでした。

【子供のいない夫婦で、故人の両親は他界したが、故人の兄弟姉妹は生きている場合】

お子さんのいないBさんご夫婦はまだ50代で、小さいながら都心にビルを数軒所有し、不動産経営で裕福に暮らしていました。

Bさんの実家は関西で商売を営んでおり、両親の他界後は、Bさんの兄やその家族が後を継いでいます。
Bさんの仕事である賃貸管理は、奥さんの姪が手伝っていました。

そんなBさんが55歳の時、脳梗塞で倒れたのです。
Bさんには半身マヒが残り、介護が必要となりました。
そこで、ビルを一軒売って、介護用のリフォーム費用や医療費、介護費用に充てることにしました。
幸いビルは、少し安かったものの、1億円くらいで買い手が付いたため、スムーズに事が運びました。

Bさんの病状はしばらく落ち着いていたのですが、今度は心筋梗塞を起こし、ほとんど動けなくなってしまいました。
それからしばらくしてBさんは亡くなりました。
危篤状態になった時に、関西にいるBさんの兄弟にも連絡したところ、遠方から駆けつけてきたということです。

葬儀の後で、関西の兄弟からBさんの遺産相続の話が出ました。
遺言書はあるのかと聞かれましたが、元気なうちはそんなものを用意していませんでしたし、脳梗塞で倒れてからは、遺言書のことなど考えたこともありませんでした。

Bさんのお兄さんたちは、Bさんに遺言書がないのなら、自分たちにも相続の権利があると言い始めました。
実は、Bさんが事業を始めて2軒目のビルを買う時に、実家の方で資金を用立てたことがあったそうなのです。

その資金は、Bさんのお父さんが亡くなった時に相続放棄をすることで、いったんは決着がついたのだそうです。
しかしこの時、実家の商売の資金繰りにどうしても必要ということで、権利があるのなら、遺産を相続したいということになったのです。

故人の両親が他界しているため、法定相続人は兄弟姉妹になります。
兄弟姉妹の場合、相続分は4分の1です。

都心のビルの資産価値や預貯金を合わせて、Bさんの遺産は5億円近くになりました。
兄弟姉妹には、約1億2千万円の相続が発生したのです。
そのためにBさんの奥さんは、もう1軒ビルを売ったそうです。

Bさんが倒れた時に、会社の名義は奥さんに書き換えていました。
しかしBさんの死亡保険金は会社名義になっていたために、手が出せなかったこともあります。

Bさんの奥さんは「まさかと思いましたが、兄弟姉妹にも相続の権利があるんですね。
ほとんど付き合いのない親族だったので、相続の事を言われた時には、本当に驚きました。
住んでいた自社ビルを売ることになってしまって、大変でした。
今後は私一人ですけど、姪のためにも遺言書をちゃんと残すことにしました。」と話していました。

子供のいない夫婦で、故人の両親と兄弟姉妹は他界しているが、その甥・姪がいる場合

Cさんも子供のいない夫婦です。
親兄弟も他界し、夫婦水いらずの老後生活を楽しんでいました。

ところが、寄る年波でCさんもガンになり、2年ほどで亡くなったのです。
そして、そのCさんの葬儀の時に、遠方からCさんの甥と姪が来て、遺言書を見せてほしいと言ってきたのです。

Cさんの奥さんはびっくりしました。
親兄弟も他界しており、財産と呼べるようなものはありません。
自宅マンションと、わずかな預貯金、そして年金だけです。
遺言書もありません。

甥と姪は「私たちも法定相続人ですので、遺産の配分をお願いします」というのです。
そう、故人の兄弟が死亡していても、その子供たちが代襲と言って代わりに法定相続人になるのです。

この時、Cさんの奥さんは、体調を崩して入院していました。
Cさんの甥と姪には、わずかな金額を渡して帰ってもらったということでしたが、困ったのはCさんの奥さんです。

Cさんはマンションを所有していたため、相続分の4分の1と言っても、結構大変だったのです。
わずかな預貯金の中から、6分の1の現金を渡してようやく納得してもらったということでした。

奥さんはその後、心労のためか認知症になり、数年後に亡くなりました。
そしてそのマンションは、奥さんの親族の行方がわからないということで、誰も手を付けることができずに、今もそのままになっているそうです。

このように、遺言書がない場合には様々なことが起こりえます。
親族がみんな相続放棄をしてくれるとは限りませんし、相続人の数が多ければ、手続きはさらに難しくなります。

遺言書の優先順位

遺言書を書いたとして、相続はその遺言書通りになるのでしょうか?

遺言書には、どの程度の効力があるのか知らない方もいますが、
遺言書は、法律で決められた法定相続人よりも優先されます。
つまり、法定相続人の権利よりも、遺言書の方が効力があります。

回りくどい書き方をしますが、法律の場合、こういう言い方をされてわかりにくくなることが多いのです。
相続は、遺言書通りに行われます。
ですから、子供がいない夫婦の場合、遺言書があれば配偶者に全財産を相続させることができます。

遺留分

ただし、遺言書があっても、一定範囲の相続人に「遺留分」という最低限保証された財産の取り分があります。
遺留分に関しては、法律の改正で、「遺留分減殺請求」権は金銭債権とされ、遺留分の金額を相続人に要求することができます。

しかし遺留分は、基本的に兄弟姉妹には権利がありません。
ですから、今回の場合、故人の両親が生きている場合で、遺留分を請求された場合のみに適用されると考えてください。

つまり、亡くなった夫の両親に、6分の1の遺留分が認められるということになります。
また、兄弟姉妹に遺留分はなく、その子供たち(甥、姪)にも遺留分はありません。
以上のことから、子供のいないご夫婦の場合、死後の相続で混乱を避けるためにも遺言書を書いておく方がいいと言えます。

まとめ

子供のいない夫婦の場合、全財産を配偶者(夫または妻)に相続させられると思いがちです。
しかし実際は、遺言書を書かないままでいると、配偶者以外の法定相続人が現れて、全財産を配偶者に渡すことができなくなることがあります。

そういう心配をなくすためにも、子供のいない夫婦には、遺言書を書いておくことを勧めます。

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