定年後の年金格差の現実

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はじめに

年金には、強制加入で20歳以上のすべての人が加入している国民年金と、会社員や公務員が加入する厚生年金があります。自営業者やフリーランスは国民年金に加入しています。

現状では、加入する年金の種類によって65歳以上の年金受給額に大きな差が生まれています。自営業者に定年はありませんが、国民年金の基礎年金の額が低いため、大きな課題があります。年金制度は複雑でわかりにくく、厚生年金の中でも収入により差が付き、さらに企業年金という制度もあるため、年金に格差は重要な問題です。

公的年金制度の仕組み

まず、日本の公的な年金制度の仕組みについて説明します。国民年金、厚生年金のほか、企業年金などの私的年金に加入することもできます。

公的年金制度の仕組み

日本の公的年金は、基本的に日本に住んでいる20歳以上60歳未満のすべての人が加入する「国民年金(基礎年金)」の1階部分と、会社、公務員など組織に勤務している人が加入する「厚生年金」の2階部分の2階建てになっています。

被保険者の種別は次のように定められ、加入する保険も決まってきます。
第1号被保険者:自営業者・学生・無職など:国民年金のみ
第2号被保険者:会社員・公務員など:国民年金と厚生年金
第3号被保険者:第2号被保険者の被扶養配偶者、専業主婦など:国民年金のみ

国民年金とは

国民年金(基礎年金)は、日本に住んでいる20歳から60歳未満のすべての人が加入します。

  • ①国民年金保険料

    国民年金のみに加入する人(第1号被保険者)が月々納付する年金保険料は定額(令和2年度時点で16,540円)です。平成16年度から保険料が段階的に引き上げられてきましたが、平成29年度に上限(平成16年度価格で16,900円)に達し、引き上げが完了しました。

  • ②国民年金の支給開始年齢と受給額

    国民年金(基礎年金)の支給開始年齢は65歳で、納付した期間に応じて給付額が決定します。20歳から60歳の40年間すべて保険料を納付していれば、月額約6.5万円、年額77万9,300円(令和2年度)の満額を受給することができます。

  • ③国民年金の納付猶予と免除制度

    学生のときや、失業、低所得などの理由で保険料を納めることが難しい人に対しては、保険料の納付を一時的に猶予する場合や、納付を免除する制度があります。

    猶予された期間と免除された期間は、いずれも年金を受け取るために必要な期間(受給資格期間)に算入されますが、受け取れる年金額は、保険料を全額納付した場合に比べて少なくなります。

    猶予や免除された期間は、申請をして、猶予・免除期間分の保険料を後から納めることができます(後で納付した分は、年金額の計算をする際、保険料を全額納付した場合と同様に扱われます)。

    なお、猶予と免除では年金額に違いがあります。猶予された期間は年金額へ反映されませんが、免除された期間は年金額へ一部反映されます。

厚生年金とは

厚生年金は、会社などに勤務している人が加入する年金です。保険料は月ごとの給料に対して定率となっており(令和元年度末現在で18.3%)、実際に納付する額は、個人の収入により異なります。

  • ①保険料の負担は会社などと個人の折半負担

    厚生年金は事業主(勤務先)が保険料の半額を負担しています(労使折半)。従って実際の納付額は、給与明細などに記載されている保険料の倍額です。

  • ②厚生年金の支給開始年齢

    従来の支給開始年齢は60歳でしたが、段階的に引き上げられ、2025年度(女性は2030年度)には65歳になります。

  • ③厚生年金の年金額

    厚生年金は、働いていたときの給料と加入期間に応じて給付額が決められます。また、現役時代に納付する保険料には国民年金保険料も含まれているため、国民年金分と厚生年金分の両方を受け取ることができます。

企業年金など

先述の通り、日本の公的年金は、国民年金と厚生年金による「2階建て」です。さらに、大手企業や業界団体などが加入する企業年金などの私的年金に加入すると「3階建て」となります。

企業年金は、従業員の福利厚生の一環として、会社が任意に厚生年金に上乗せ給付を行う制度です。企業年金などは、厚生年金、国民年金(基礎年金)に上乗せされて受給することができます。

私的年金は公的年金を補完する目的で用意されているもので、任意加入が基本です。私的年金には、企業が福利厚生の一環として行っている年金と、個人が任意で加入する年金の2つのタイプがあります。

  • ①厚生年金基金

    母体会社とは別の法人として基金を設立し、基金が年金資産の管理・運用、給付を行います。

    厚生年金の給付の一部を代行する代行部分と、会社が独自で上乗せ給付を行う加算部分からなります。

  • ②確定給付企業年金

    a. 規約型企業年金

    労使合意を得た年金規約に基づいて、会社と外部機関(信託会社や生命保険会社など)が契約を結び、母体会社の外で年金資産の管理・運用、給付を行います。

    b. 基金型企業年金

    母体会社とは別の法人として基金を設立し、基金が年金資産の管理・運用、給付を行います。

    厚生年金の代行は行いません。

年金制度による受給額の現状

現実には、年金でどれだけ受給できるのでしょうか。ここでは、平均年金受給金額、厚生年金による男女差、国民年金の計算方法、「老齢厚生年金」の計算方法などを説明します。

平均年金受給金額は?

厚生労働省が2017年12月に公表した「2016年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、支給されている年金額の平均は、国民年金(老齢基礎年金)が平均月額5万5,464円、厚生年金(老齢厚生年金)では14万7,927円です。

国民年金だけで老後の生活を送るのは、苦しいといえるでしょう。

厚生年金による男女差

厚生年金は、報酬額や加入期間によって支給額に差が生じるようになっており、男女間の平均受給額に大きな差があるのが実情です。

「2016年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、男性は16万6,863円、女性では10万2,708円と、両者の間に6万円以上の開きがあります。

国民年金の計算方法

国民年金の受給対象者は、平成29年度8月1日より、保険料納付済期間(国民年金の保険料納付済期間や厚生年金保険、共済組合等の加入期間を含む)と国民年金の保険料免除期間などを合算した資格期間が、原則として10年以上である国民に対して受給資格が与えられます。

国民年金の計算方法は簡単で、以下の計算式で求められます。
78万100円×保険料納付月数÷480=国民年金受給額(年額)
※480は、40年(加入可能年数)×12カ月より算出

満額もらえる場合は年78万100円、月約6万5,000円です。
保険料の免除期間がある場合や、年金の繰り上げ受給、繰り下げ受給をする場合は計算が異なります。

「老齢厚生年金」の計算方法は?

老齢厚生年金の受給対象者は、以下の要件を満たしている人です。

  • ①老齢基礎年金の受給資格を満たしている。
  • ②厚生年金の被保険者期間が1年以上ある。
  • ③65歳に達している。

ただし、現在は60歳以上で①②を満たしている方には特別支給の高齢厚生年金が支給されます。また、特別支給の老齢厚生年金の額は、報酬比例部分と定額部分を合わせた額となります。
厚生年金の月額受給額の平均は、概ね14~15万円です。

老齢厚生年金の額は、平均の給料と加入月数で決まります。

本体部分の計算は、度重なる制度改正によってとても複雑になっています。本体部分の年金額は、厚生年金加入1年につき、年額約1万円から5万円の間になります。10年加入した場合は年額10万円から50万円の間、40年加入なら年額40万円から200万円の間になります。

このように金額に幅ができるのは、本体部分の計算には加入した月数のほか、平均の給与額という考え方が入っているからです。このため、本体部分を「報酬比例部分」と呼びます。

■老齢厚生年金の原則的な計算式
A=平均標準報酬月額 × 7.125/1000 × 平成15年3月までの加入月数
B=平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 平成15年4月以降の加入月数
A+B=老齢厚生年金(報酬比例部分)の年金額

上の計算式で「平均標準報酬月額」や「平均標準報酬額」というのは、おおまかに加入期間中の給与の平均です。平均標準報酬額の方にはボーナスも含まれます。実際にはこの計算のほか、過去の給与額を現在の物価に引き直したりするので、複雑な計算をしなければならないことがあります。

国民年金と厚生年金の格差の構造

それでは、基本的に日本に住んでいる20歳以上60歳未満のすべての人が加入する「国民年金(基礎年金)」と、会社、公務員など組織に勤務している人が加入する「厚生年金」とで大きな差が生まれる原因にはどのようなものがあるのでしょうか。

厚生年金保険料の半分は事業主負担

厚生年金保険料の半分は事業主が負担しています。これも長い間に、国民年金と厚生年金の年金額に大きな差が生まれる原因になっています。

国民年金の不利―厚生年金の「第3号被保険者」制度

被保険者の種類は、以下の3つに分類されます。

第1号被保険者:自営業者や農業者とその家族、学生、無職の方などが対象
第2号被保険者:民間会社員や公務員など厚生年金の加入者が対象
第3号被保険者:国民年金の加入者のうち、厚生年金、共済組合に加入している第2号被保険者に扶養されている、20歳以上60歳未満の主婦や主夫が対象

自営業の加入する国民年金制度では、夫婦の間に扶養関係があろうとなかろうと、それぞれが独立して国民年金に加入します。そして、収入がいくらだろうと、みな同じ保険料です。

しかし、厚生年金には「第3号被保険者」という制度があり、配偶者の年収が一定金額以内などの要件を満たせば、「第3号被保険者」と認定されて、保険料を1円も払わずに、保険料を払ったのと同じ扱いを受けることができるのです。

「扶養の範囲内で仕事をしたい」など、社会保険の扶養の年収上限「130万円」についてはよく耳にされるでしょう。年収(通勤手当も含め)が130万円以内であれば、保険料を負担せずに、国民年金に加入して保険料を負担している人たちと同額の年金を受給することができるのです。

厚生年金の保険料は、保険に加入する本人の「月収×保険料率」だけで計算され、被扶養配偶者や子供の数は何人いようと、保険料には反映されません。この制度により、女性は働くよりも「専業主婦」や「年収制限範囲内のパート」でいた方が得ということになり、日本の女性の労働参加が低い原因の一つになっています

第3号被保険者制度は1985年に創設されました。夫が働き、妻が家庭を守るという考え方が一般的であった時代に、所得のない専業主婦の年金権の確保が制度創設の目的でした。

しかし、共働き家庭も増え、第3号被保険者制度については、制度の廃止や見直しが議論されてきました。専業主婦と、共働き世帯や単身世帯の女性との間で、保険料負担と年金給付の違いに対する不公平感が背景にあります。

自営業の妻は、専業主婦であっても、毎月規定の保険料を40年間納めなければ、国民年金を満額もらえません。

遺族年金制度

年金には、加入者の配偶者や子が受け取れる遺族年金制度があります。
ここでは、遺族年金の種類、それぞれの遺族年金の受給資格要件について説明します。

遺族年金の種類

遺族年金には、「18歳到達年度の末日までにある子(障害者は20歳未満)のいる配偶者」または「子」が受け取れる「遺族基礎年金」と、会社員が加入する厚生年金から受け取れる「遺族厚生年金」があります。

遺族年金の種類と受給資格要件

遺族年金の受給には、それぞれに資格要件が必要です。ここでは、遺族基礎年金と遺族厚生年金、加給年金制度について説明します。

a. 遺族基礎年金
国民年金加入者の遺族が受け取れる遺族年金は、「遺族基礎年金」のみです。
受給資格は、「18歳到達年度の末日までにある子(障害者は20歳未満)のいる配偶者」または「子」に該当する人です。遺族基礎年金は、「残された幼い子のいる配偶者のための制度」といえるでしょう。

b. 遺族厚生年金
厚生年金加入者の場合、遺族基礎年金の受給資格がある人は、遺族基礎年金にプラスして「遺族厚生年金」も受け取ることができます。
受給資格では、厚生年金に加入している妻が死亡した場合、遺族基礎年金は夫と子が同居していれば支給されませんが、遺族厚生年金は子どもに対して18歳到達年度末(障害者は20歳未満)まで支給されます。

c. 加給年金制度
厚生年金の場合、年金の家族手当ともいえる加給年金という制度があります。厚生年金に20年以上加入し、年金受給時点で65歳未満の配偶者や18歳未満の子どもがいる場合に一定額の年金額が上乗せされます。

定年後の年金格差に対する準備

現状では格差が生まれる年金格差。どのように定年後に備えておくべきか、確認すべき点を整理します。

国民年金の場合、高齢期以降の年金額不足対策を考えておく必要があること。

65歳など高齢期以降、年金だけでは厚生年金でも食べていけない現状があります。国民年金だけではまったく無理です。そのため、自営業の人は定年がないという利点を生かしながらも不足額をカバーする方法を考えておく必要があります。

年金制度には、国民年金基金などの年金額上乗せの制度もあります。

年金との関係で主婦(主夫)の働き方をどうするか

いわゆる第3号被保険者問題があります。厚生年金加入者の配偶者が、パート収入で年間130万円の社会保険の扶養の年収上限で納める働き方をするかどうかです。

年収(通勤手当も含め)が130万円以内であれば、保険料を負担せずに、国民年金に加入して保険料を負担している人たちと同額の年金を受給することができます。また、その額では生活できない人は、厚生年金に入れる会社での働き方を検討します。

まとめ

ここまでの年金制度に関する説明を、公的年金制度の仕組み、企業年金などによる私的年金制度、 国民年金、厚生年金、国民年金と厚生年金の格差の構造の5つに分けてまとめます。

(1) 公的年金制度の仕組み
日本の公的年金の仕組みは2階建てになっています。

基本的に日本に住んでいる20歳以上60歳未満のすべての人が加入する「国民年金(基礎年金)」の1階部分と、会社などに勤務している人が加入する「厚生年金」の2階部分から構成されています。

(2) 企業年金などによる私的年金制度
企業年金には、厚生年金基金や確定給付企業年金などがあり、年金の「3階建て」部分を作ることができます。

(3) 国民年金とは
国民年金(基礎年金)は、日本に住んでいる20歳から60歳未満のすべての人が加入します。
国民年金(基礎年金)の支給開始年齢は65歳で、納付した期間に応じて給付額が決定します。

20歳から60歳の40年間、すべて保険料を納付していれば、満額の受給額は、月額約6.5万円、年額77万9,300円(令和2年度)になります。

(4) 厚生年金とは
厚生年金は、会社などに勤務している人が加入する年金です。保険料の負担は事業主と個人の折半になっています。

厚生年金の支給開始年齢は、従来は60歳でしたが、段階的に65歳まで引き上げられています。

厚生年金の給付額は、働いていたときの給料と加入期間に応じて.決められます。また、現役時代に納付する保険料には国民年金保険料も含まれているため、国民年金分と厚生年金分の両方を受け取ることができます。

(5) 国民年金と厚生年金の格差の構造
厚生年金保険料の半分は会社負担であること、厚生年金の「第3号被保険者」制度など格差を生む構造があります。

定年後の年金格差の現実~3つのポイント

定年後の生活を保障する年金ですが、加入している年金の種類や加入の仕方によって格差が生じることを確認しました。
現実には、以下の3つのポイントがあります。

(1) 非正規雇用の従業者比率が全従業者の4割以上を占める時代になり、非正規雇用の従業者の厚生年金加入が重要な社会問題になっていること。

(2) 女性の就業率が増え、共働き家庭が一般的になり、年金第3号被保険者制度が時代に合わなくなってきていること。

(3) 年金財政の悪化で年金だけでは食べていけない時代であること。特に、国民年金だけではまったく食べていけない現実があること。

年金制度は、制度設計当時には予想していなかった高齢化が進み、財政的な困難に直面しています。また、運用でも大きな問題を残し、消えた年金問題など不正や不透明な事故があり、社会問題になってきた歴史があります。

公的年金制度には現在も多くの問題があり、国民年金と厚生年金の格差もその1つです。