共同名義の不動産で起きるトラブルとその解決策について

お金の問題

共同名義のトラブル

夫婦の共同名義でマンションを購入すると、夫婦それぞれが住宅ローン控除を利用できるなど大きなメリットがあります。
しかし、共有者の承諾なしに売却出来ないなどの制約もあり、特に離婚時は共同財産が大きな問題となります。

今回は共同名義の不動産にスポットを当て、メリットやデメリット、発生しやすいトラブルとその解決策について解説します。

離婚することになったら共同名義の財産はどうなる?

離婚した場合の共同財産はどうなるのか、1つの例から問題点などを解説していきます。

・ペアローンで共同名義のマンション(4,000万円)を購入
・夫婦それぞれの借入額は2,000万円(残債あり)
・夫の浮気が原因となり、結婚後5年目で離婚することになった
共同名義の不動産で起きるトラブルとその解決策について
このようなケースでは「残りの住宅ローンをどう払っていくか」「マンションにはどちらかが住み続けるのか、または売却か」といった問題が発生し、住宅ローンの契約内容ともリンクするため慎重な協議が必要となります。

離婚後のマンション ~ どちらかが住み続ける場合

夫の浮気が原因で離婚する場合、マンション出るのは夫、住み続けるのは妻といったケースが多いようです。
その際、妻がマンションに住み続ける場合の名義やローンの返済方法について考えてみましょう。

共同名義を継続する場合

離婚後も共同名義を続けることは可能ですが、問題が多いため現実的な選択とはいえません。
まずマンションを出ていく夫ですが、賃貸マンションなど新たな居住地の費用が必要となり、金銭負担が増えるため、ローンの支払いが出来なくなる可能性もあります。

夫のローン返済が滞る、または返済不能となった場合、連帯保証人(連帯債務者)である妻が返済義務を負うため二重のローン負担となってしまいます。
長期にわたる住宅ローンの返済ですが、別れた夫が最後まで返済してくれる保証はありませんし、最悪の場合マンション差し押さえの可能性もあるでしょう。

住宅ローンの支払いに問題がなくてもいつかは死別するため、マンションの所有権は相続人に引き継がれ、次第に共有者が増える結果となります。
住宅ローンを完済していても共有者が増えると売却も困難になるので、共同名義はなるべく早めに解消しておくべきでしょう。

妻に所有権を譲渡する場合

マンションに住み続ける妻へ、夫の所有権を譲渡する方法もありますが、かなりハードルの高い選択肢です。
夫の住宅ローンを妻名義に変更し、マンションの所有権を100%妻のものにすればすっきりしますが、問題は銀行とのやりとりです。

まず現在の住宅ローンは夫婦それぞれが個別に契約し、合算して4,000万円の貸し付けを受けることが出来たものです。
つまり世帯年収に対して4,000万円の融資が可能となった訳ですが、今後のローンを妻単独で返済する場合、返済能力に問題ありとして銀行が契約を渋る可能性があります。

仮にローンの残りを3,000万円とすると、内訳は夫婦それぞれ1,500万円ずつの残債となります。
妻単独で3,000万円を返済するには新たに1,500万円のローンを契約しなければなりませんが、別の連帯保証人や物的担保の用意も必要となり、銀行の審査を通過するにはかなり高いハードルとなるでしょう。

このようなケースでは、夫が返済を繰り上げるなど残債のない状態にしておけば問題ありませんが、高額な資金が必要であり現実的には難しい方法です。

また住宅ローンは「そこに住んでいること」を条件としているので、マンションを出ることになった夫はローンを継続利用することが原則出来ません。
何らかの方法で資金調達し、住宅ローンを完済しておく必要があるでしょう。

離婚後マンションを売却する場合

夫婦が同意することでマンション売却は可能となりますが、気を付けなければならないのは住宅ローンの残債(残額)です。

住宅ローンの残債をマンションの売却額が上回る場合「アンダーローン」といい、逆のパターンを「オーバーローン」といいます。
・アンダーローン … 住宅ローンの残債 < マンション売却額
・オーバーローン … 住宅ローンの残債 > マンション売却額

マンションを売却する場合、アンダーローンとオーバーローンではどのような違いが出るのか解説します。

アンダーローンでマンションを売却

アンダーローンの場合、マンションの売却益からローンを完済し、残ったお金を分け合うことになります。
マンションを手放す代わりにローンを完済するため、離婚後、金銭や権利関係で尾を引くことがなく、お互い連帯保証人からも解放されます。
共同財産の処分としておすすめ出来る方法ですが、売却に係る諸経費や手間なども考慮しておくべきでしょう。

売却完了までには様々な手続きがあり、まず不動産仲介業者へマンションの価格査定を依頼することになります。
近隣物件の売買状況など、様々な要素から査定額を算出してくれますが、ローンの残額を上回っていることが条件となります。

不動産の売却には予想以上の経費と手間がかかることも想定しておきましょう。
マンションの売却完了までには数か月かかることが一般的であり、その間、内覧を希望する方もいるのできれいな状態を維持しておくべきです。
目立つ汚れや破損がある場合、専門業者によるクリーニングや修繕も必要となるでしょう。

売却に必要な諸経費ですが、もっとも高額になるのは不動産仲介業者への「仲介手数料」となります。
仲介手数料は宅建業法で上限が決められており「取引価格(売値)×3%+6万円」に消費税を加えたものです。

売値が2,000万円の場合、70万円前後の仲介手数料を確保する必要があるでしょう。
また抵当権の抹消費用や司法書士への報酬、不動産売買契約に係る印紙税も必要です。

アンダーローンの場合、正確には「住宅ローンの残債+諸経費 < マンション売却額」であることが売却条件となります。

仲介業者を利用せず、不動産会社にマンションを買い取ってもらう方法(買い取り)もありますが、売値はかなり下がってしまいます。
仲介の60%~70%程度が相場となっているので、よほどの急ぎでない限り利用はおすすめ出来ません。

オーバーローンでマンションを売却

オーバーローンの場合、マンションの売却益で繰り上げ返済してもローンは残ってしまいます。
残債がある、つまり抵当権が設定された物件は売却が困難であり、ローンを一括返済できる資金が必要となりますが、金額的に困難な場合がほとんどです。

ローンの残債があっても、銀行の合意があれば「任意売却」を利用することもできます。
残債の支払いはそのまま残りますが確実に売却することができ、抵当権の抹消も可能となります。

しかし銀行側のブラックリストに入る可能性が高く、今後他の借り入れが必要となった場合に不利となるでしょう。

離婚後の財産分与は慎重な検討を

どのような原因であれ離婚には心的ストレスや金銭的な「痛み」が生じます。
特に共同財産は継続使用・売却のどちらを選択しても何らかの負担を伴うため、数字を根拠とした冷静な話し合いが必要となります。

夫婦間で結論が出せない場合、ファイナンシャルプランナーなど専門的な知識のある方へ相談するとよいでしょう。

夫婦以外の不動産共有 ~ 兄弟・姉妹で土地建物を共有する場合

不動産の共有にはメリットもありますが、離婚の際にはデメリットが大きくなってしまいます。

では兄弟(姉妹)で不動産を共有する場合はどうでしょうか。
一つの例を元に「ありがちな問題」などを解説します。

兄弟で不動産を共有する例

不動産を共有する理由は様々ですが、以下は被相続人名義の不動産(自宅と土地)を兄弟2人が相続し、共有した例です。
・被相続人の財産は土地と建物(自宅とその敷地)
・配偶者は既に他界
・土地と建物は兄弟(子)が相続し、それぞれ1/2ずつの持ち分で共有

共同名義の不動産で起きるトラブルとその解決策について

このような例では親(被相続人)と同居していた兄がそのまま実家を相続し、弟は現預金などを相続するのが一般的です。
しかし、被相続人には現預金がほとんどなかったため、実家(土地と建物)をそれぞれ1/2ずつの持ち分で相続するよう遺言書を残していました。

相続は遺言書どおりに行われましたが、不動産について兄弟の考え方は大きく異なっています。
・兄 …将来は家を建て替え、子どもに残してやりたい
・弟 …まとまった現金が必要なため土地・建物ともに売却したい

共同財産である家の建て替えには弟の同意が必要となりますが、売りたがっている弟の同意を得ることは難しく、弟も土地・建物の売却には兄の同意が必要ですが、住み続けることを希望している兄から同意を得ることは困難でしょう。

このままでは兄弟どちらの希望も叶いませんが、何か解決策はあるでしょうか。

代償分割による解決

共有不動産の問題は「代償分割」で解決することもできます。
代償分割とは、遺産を引き継いだ相続人の1人が、他の相続人に相応の代償金を支払う方法です。

今回のケースでは実質的に実家を相続した兄が、弟に持ち分相応の現金を支払って解決させることになります。
しかし兄の資金力次第なので現実には難しく、代償金については親の生前から考えておかなければなりません。
また代償金の適正価格算出も重要となってきます。

「財産と呼べるものは土地と家だけ」という家庭では、被相続人の生命保険で代償金を用意することも検討するべきでしょう。

共同状態の早期解消

不動産の共同状態はなるべく早めに解消しておかないと、後々大変なことになってしまいます。
兄弟間で金銭的な折り合いをつけたとしても、共同状態を続けていればやがて次の相続が発生し、共有者はネズミ算式に増えていきます。

複数人が共有する不動産のほとんどは何もすることが出来ず、固定資産税や都市計画税など維持コストばかり発生する「負の財産」となるので注意が必要です。

分けられない不動産はどうしたらよいか

親の残した家と土地ですが、引き継ぐ理由がなければ「換価分割」の方法もあります。
共同名義の不動産で起きるトラブルとその解決策について
換価分割とは遺産(土地や建物)を売却して現金に換え、相続人同士で分け合う方法です。

不動産の売却には登記費用や仲介手数料が発生し、売却益は譲渡所得税や住民税の課税対象となりますが、現金化するため相続人同士できっちりと分け合うことが出来ます。
土地・建物に未練がない場合は検討してみるべきでしょう。

共同名義の不動産のメリット・デメリット

いくつかの事例を解説しましたが、ここで不動産共同のメリット・デメリットを整理してみます。

夫婦間の共同不動産のメリット

ペアローンなどでマンション購入し、夫婦で共有する場合のメリットは主に2つです。
・税制上の優遇措置…夫婦それぞれの収入に対して住宅ローン控除が適用され、年末残高の1%が10年間減税される
・ 居住用財産の買い換え特例…マンションを売却した場合、譲渡益に対して3,000万円分を控除できる

夫婦間の共同不動産のデメリット

夫婦共同財産のデメリットは主に5つです。

・ 離婚時の財産分与が問題となる… 分割することができないため財産分与の際に揉めてしまう
・ 自由に売却できない…不動産を売却する場合、共有者全員の同意(署名・捺印)が必要
・人数分の諸経費が発生する… 住宅ローン契約時の手数料や保険料など、共有者の人数分だけ諸経費が発生する
・ 持ち分の設定を間違えると贈与税の対象になる… 夫名義でローン契約し、毎月の支払いも夫の収入から出す場合、夫婦の共有持ち分を1/2ずつに設定すると夫から妻への贈与とみなされ、贈与税の対象となる可能性あり
・共有者が死亡すると権利関係が複雑になる…夫婦どちらかが死亡すると権利は法定相続人に引き継がれ、共有者が増えていく

兄弟間の共同財産のメリット

相続によって兄弟が不動産を共有した場合、今のところメリットは「換価分割」しかなく、不動産を売却することが前提となります。

仮に兄が単独で不動産を相続し、その後売却したとします。
売却益を弟と分け合うと贈与になってしまいますが、共有名義で相続した後に売却すると、それぞれの売却益に贈与税はかかりません。

また兄が単独で相続し、その後売却した場合は「居住用財産の買い換え特例」を使えます。
共同名義の場合、売却によって換価分割出来ますが、居住用財産の買い換え特例を使えるのは実際に住んでいる兄だけとなります。

兄弟間の共同財産のデメリット

兄弟で不動産を共有する場合、デメリットは挙げればきりがありません。
まず、自分だけの意思では自由に出来ない点であり、使用方法を巡ってトラブルになることもあります。

さらに土地の維持管理費用や固定資産税も発生しますが、兄弟の仲が悪くなると実際に住んでいる者へ支払い負担を押し付けられるケースもあります。
夫婦間の共有と同じく、共有状態が長引けば次世代へと移行し、共有者はさらに増えていくでしょう。

まとめ

夫婦の共同不動産は離婚の際に足かせとなってしまいます。
しかし、住宅ローンの契約時に「将来離婚するかも」と考えることもありません。

離婚を想定して対策を打つことなど不可能でしょう。
夫婦ともに今後の人生もあるため、離婚については冷静な対応が重要となります。

一方、相続は必ず発生するライフイベントです。
親の財産全ての把握は難しくても大まかな資産状況は予想できるため、事前に相続人同士で話し合うことも出来るでしょう。
不動産について各相続人の考えを聞いておけばあらかじめ対策を打つことも可能です。

また離婚や相続、住宅ローンについてはそれぞれ専門家がいるので、夫婦や兄弟間で解決しない問題は気軽に相談することが大切です。

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