はじめに
人生には、突然事故に遭ったり、病気になったりして、大きな障害をもつことがあります。また、精神障害を抱えることもあります。障害をもったことで働けなくなり、収入の道が閉ざされる危険性もあります。
そのような状況を保障するための公的年金制度として、障害年金があります。障害年金の受給者では、20代~40代の人が40%以上を占めています。大きなケガは、若いときにする可能性があります。
障害年金とはどのようなものか、受け取るための要件などを紹介します。
障害年金とは
障害年金という語に、あまりなじみのない方もいるかもしれません。ここではまず、障害年金とは何か、障害基礎年金、障害厚生年金・障害手当金などについて説明します。
障害年金とは
障害年金は、病気やケガによって障害を受けた人、その他の障害がある人などが対象の、現役世代の方も含めて受け取ることができる年金で、国民年金、厚生年金保険加入の方を対象に支給される年金のひとつです。
障害年金には「障害基礎年金」「障害厚生年金」があり、病気やケガで初めて医師の診療を受けたときに国民年金に加入していた場合は「障害基礎年金」、厚生年金に加入していた場合は「障害厚生年金」が請求できます。障害厚生年金に該当する状態よりも軽い障害が残ったときは、障害手当金(一時金)を受け取ることができる制度があります。
障害年金を受け取るには、年金の納付状況などの条件が設けられています。
障害基礎年金
障害基礎年金は、国民年金に加入している間、または20歳前(年金制度に加入していない期間)、もしくは60歳以上65歳未満(年金制度に加入していない期間で日本に住んでいる間)に、初診日(障害の原因となった病気やケガについて、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日)のある病気やケガで、法令により定められた障害等級表(1級・2級)に該当する障害の状態にあるときに支給されるものです。
障害厚生年金・障害手当金
障害厚生年金は、厚生年金に加入している間に初診日のある病気やケガで障害基礎年金の1級または2級に該当する障害の状態になったとき、障害基礎年金に上乗せして支給されるものです。また、障害の状態が2級に該当しない軽い程度の障害のときは、3級の障害厚生年金が支給されます。
なお、初診日から5年以内に病気やケガが治り、障害厚生年金を受けるよりも軽い障害が残ったときには障害手当金(一時金)が支給されます。
障害年金の支給要件―障害年金はどういった場合にもらえるのか?
要件は、基本的に障害基礎年金、障害厚生年金と同様です。
初診日要件―初診日の特定、学生でも国民年金に加入していることが必要
国民年金に加入している間に、障害の原因となった病気やケガについて「初めて医師または歯科医師の診療を受けた日」(これを「初診日」といいます。)があることです。
初診日とは、医療機関でその病気やケガで初めて受診した日のことで、確定診断を受けた日ではありません。この日が特定できないと障害年金の受給が難しくなります。
20歳前や、60歳以上65歳未満(年金制度に加入していない期間)で、日本国内に住んでいる間に初診日があるときも含みます。20歳になれば国民年金加入義務が生じますが、無収入のため年金が払えない学生の場合は「学生納付特例制度」というものがあり、申請により在学中の保険料の納付が猶予されます。
この場合、年金自体には加入している扱いとなるために、学生納付特例制度の承認を受けている期間は、保険料を納めた期間と同様に障害基礎年金の支給要件の対象期間になるので、万が一のときに備えて加入手続きをしておくことが重要です。
保険料納付要件
初診日における保険料の納付状況が、以下の要件を満たしていなければなりません。
- ①保険料納付要件の原則は、「加入期間の3分の2以上」納めていること
障害年金を請求しようとする傷病にかかる初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの被保険者期間についての、保険料納付期間と免除期間を合算した期間が加入期間の3分の2以上あること。
- ②上記①を満たさない場合は、「直近1年間」に滞納期間がないこと
初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの1年間に、保険料納付済期間と保険料免除期間以外に滞納した期間がないこと。ただし、初診日において65歳以上でないことなどです。
・初診日が分かったら、その時点で国民年金、厚生年金、共済年金の保険料納付状況を確認する必要があります。保険料を支払っていたかどうかは、年金事務所あるいは市役所で確認できます。
・免除期間も保険料を支払っていた期間としてカウントされます。学生納付特例制度による猶予期間も対象となります。
・初診日を過ぎてから保険料を支払った場合や、初診日を過ぎてから免除手続をしている場合はカウントされません。
【20歳前障害の例外】
20歳前に初診日がある人については、保険料納付要件は問われません。
国民年金の保険料は20歳になって加入してから支払いますので、20歳前に初診日がある人は、そもそも該当者ではありません。
障害認定時の要件
- ①障害対象
障害認定基準で、障害年金の対象となる病気やケガは、手足の障害などの外部障害のほか、精神障害やがん、糖尿病などの内部障害も対象になります。病気やケガの主なものは次の通りです。
{1} 外部障害
眼、聴覚、肢体(手足など)の障害など
{2} 精神障害
統合失調症、うつ病、認知障害、てんかん、知的障害、発達障害など
{3} 内部障害
呼吸器疾患、心疾患、腎疾患、肝疾患、血液・造血器疾患、糖尿病、がんなど
- ②障害認定日
初診日から1年6カ月を経過した日(その間に治った場合は治った日)または20歳に達した日に障害の状態にあるか、または65歳に達する日の前日までの間に障害の状態となった場合。
※たとえば、初めて医師の診療を受けた日から1年6カ月以内に、次の{1} ~{8} に該当する日があるときは、その日が「障害認定日」となります。
{1} 人工透析療法を行っている場合は、透析を初めて受けた日から起算して3カ月を経過した日
{2} 人工骨頭又は人工関節をそう入置換した場合は、そう入置換した日
{3} 心臓ペースメーカー、植え込み型除細動器(ICD)又は人工弁を装着した場合は、装着した日
{4} 人工肛門の造設、尿路変更術を施術した場合は、造設又は手術を施した日から起算して6カ月を経過した日
{5} 新膀胱を造設した場合は、造設した日
{6} 切断又は離断による肢体の障害は、原則として切断又は離断した日(障害手当金又は旧法の場合は、創面が治癒した日)
{7} 喉頭全摘出の場合は、全摘出した日
{8} 在宅酸素療法を行っている場合は、在宅酸素療法を開始した日
障害年金の年金額
次に、障害基礎年金、障害厚生年金の支給額について説明します。障害基礎年金については、配偶者や子がいる場合の加算があります。障害厚生年金については、標準的な報酬月額に比例した計算式があり、生計を維持されている65歳未満の配偶者がいる場合には加算があります。
障害基礎年金の年金額
- ①年間年金額
年間の年金額は次の通りです(令和2<2020>年4月分より)。
【1級】781,700円×1.25(=977,125)+子の加算
【2級】781,700円+子の加算
- ②子の加算
第1子・第2子:各224,900円
第3子以降:各75,000円
・子とは次の者に限ります。
18歳到達年度の末日(3月31日、高校卒業時)までの子
20歳未満で障害等級1級または2級の障害者
子どもが障害等級2級以上であれば、子の加算は18歳年度末から20歳まで延長して支給されます。
障害厚生年金の年金額
- ①年間年金額
年間の年金額は次の通りです(令和2<2020>年4月分より)。
【1級】(報酬比例の年金額)× 1.25 + 配偶者の加給年金額(224,900円)〕※
【2級】(報酬比例の年金額)+ 配偶者の加給年金額(224,900円)〕※
【3級】(報酬比例の年金額) 最低保障額 586,300円
※その方に生計を維持されている、65歳未満の配偶者がいるときに加算されます。
●「報酬比例」の年金額の計算式
報酬比例部分の年金額は、下記の式によって算出した額になります。大変複雑でわかりにくいものですが、ご紹介します。
なお、この額が従前額保障を下回る場合は、別途の計算式を用います(計算式は割愛)。従前額保障とは、平成6(1994)年の水準で標準報酬を再評価し、年金額を計算したものです。
「平均標準報酬月額×7.125÷1,000×平成15(2003)年3月までの被保険者期間の月数+平均報酬額×5.481÷1,000×平成15(2003)年4月以降の被保険者期間の月数」
・「平均標準報酬月額」とは、平成15(2003)年3月までの被保険者期間の計算の基礎となる各月の標準報酬月額の総額を、平成15(2003)年3月までの被保険者期間の月数で除して得た額です。
・「平均標準報酬額」とは、平成15(2003)年4月以後の被保険者期間の計算の基礎となる各月の標準報酬月額と標準賞与額の総額を、平成15(2003)年4月以後の被保険者期間の月数で除して得た額(賞与を含めた平均月収)です。
- ②障害厚生年金の障害手当金
初診日において厚生年金被保険者であった者(当該初診日の前日において保険料納付要件を満たす者に限る)が、当該初診日から起算して5年を経過する日までの間におけるその傷病の治った日(症状が固定し治療の効果が期待できない状態に至った日を含む)において、その傷病により政令で定める程度の障害の状態(要は3級よりも軽い程度)にある場合に、一時金として支給されます。
支給額は、以下のa.b.いずれかの高い方です。ただし、国民年金・厚生年金による保険給付の受給権者、労働基準法による障害補償・労災保険法による障害(補償)給付等を受ける権利を有する場合には、障害手当金は支給されません。
a. 報酬比例の年金額の2倍
b. 老齢基礎年金の満額の3/4の2倍
障害年金の請求
障害年金を受け取るためには、請求手続きが必要です。ここでは、障害が認定された日に基づく「障害認定日による請求」と、事後に症状が悪化した場合の「事後重症による請求」について説明します。
障害認定日による請求
障害認定日に、国民年金法施行令別表に定める障害等級1級または2級の状態にあるときに、障害認定日の翌月から年金が受けられます(ただし、一定の資格期間が必要です)。このことを「障害認定日による請求」といいます。
請求書に添付する診断書は、障害認定日時点の症状がわかるものが必要です。なお、請求する日が、障害認定日より1年以上過ぎているときは、請求手続き以前3カ月以内の症状がわかる診断書も併せて必要となります。請求書は障害認定日以降に提出することができます。
・時効による消滅のため、遡及して受けられる年金は5年分が限度です。
事後重症による請求
障害認定日に、国民年金法施行令別表に定める障害等級1級または2級の状態に該当しなかった場合でも、その後症状が悪化し、1級または2級の障害の状態になったときには、請求により障害基礎年金が受けられます(ただし、一定の資格期間が必要です)。このことを「事後重症による請求」といいます。
請求書に添付する診断書は、請求手続き以前3カ月以内の症状がわかるものが必要です。
事後重症による請求の場合、請求日の翌月から年金が受けられます。そのため、請求が遅くなると、年金の受け取りが遅くなります。請求書は、65歳の誕生日の前々日までに提出する必要があります。
障害等級の例
障害の程度は、障害等級という基準に基づいて認定されます。たとえば障害等級1級、障害等級2級とは、以下のような障害を指します。
- ①1級
・両上肢の機能に著しい障害を有するもの
・両下肢の機能に著しい障害を有するもの
・両眼の視力の和が0.04以下のもの(原則として矯正視力)
・両耳の聴力レベルが100デシベル以上のもの
・その他
- ②2級
・1上肢の機能に著しい障害を有するもの
・1下肢の機能に著しい障害を有するもの
・両眼の視力の和が0.05以上0.08以下のもの(原則として矯正視力)
・両耳の聴力レベルが90デシベル以上のもの
・その他
障害年金が途中で受け取れなくなることも…
障害年金では、障害の状態によっては途中で受け取れなくなることもあります。
障害年金の認定には、更新なしの「永久認定」と、更新が必要な「有期認定」があります。永久認定は、基本的に継続的に支給を受けられます。
障害年金の「有期認定」
有期認定では、1~5年ごとの更新制となっており、その更新時期に障害の程度が軽くなっていれば、障害年金の等級が下がったり、支給停止されたりする可能性があります。
更新時期には、医師の診断書欄のついた「障害状態確認届」が送付され、これを返送することで障害の程度を判断されます。これを提出しない場合には支給が停止されます。
また、毎年必要な「現況届」を提出しないときにも支給が停止されます。支給停止になったとしても、その後、障害の程度が重くなれば、再び支給されるようになります。
労災保険との関係
同じ病気やケガで、障害年金と労働者災害補償保険(労災保険)の障害補償給付(労災年金)の両方を受け取れることがあります。その場合には、労災年金の額は障害年金の種類によって73~88%に減額されて支給されますが、障害年金は全額支給されます。
ただし、20歳前障害による障害基礎年金の場合には、障害年金が全額支給停止され、労災年金が全額支給されます。
障害年金の失権
支給停止の場合は再び支給が再開される場合もありますが、失権した場合はありません。障害基礎年金・障害厚生年金の受給権が失権する事由には、次の3つがあります。
- ①受給者が死亡したとき
- ②障害等級に該当しなくなったまま65歳に達したとき、もしくは障害状態に該当しなくなり3年を経過したとき、のいずれか遅いとき
- ③障害年金受給者に、新たに障害が発生し、併合認定されたとき(従来の障害年金は失権)
たとえば、2級+2級で1級と認定されたり、2級+3級で1級として認定されたりする場合があります。
障害年金―まとめ
ここまでの、障害年金についての説明の要点をまとめます。
(1) 障害年金とは
障害年金は、病気やケガによって障害を受けた人、その他の障害がある人などが対象の、現役世代も含めて受け取ることができる年金で、国民年金、厚生年金保険加入の方を対象に支給される年金のひとつです。
(2) 「障害基礎年金」と「障害厚生年金」
障害年金には「障害基礎年金」「障害厚生年金」があり、病気やケガで初めて医師の診療を受けたときに国民年金に加入していた場合は「障害基礎年金」、厚生年金に加入していた場合は「障害厚生年金」が請求できます。
(3) 障害基礎年金とは
国民年金に加入している間、または20歳前(年金制度に加入していない期間)、もしくは60歳以上65歳未満(年金制度に加入していない期間で日本に住んでいる間)に、初診日(障害の原因となった病気やケガについて、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日)のある病気やケガで、法令により定められた障害等級表(1級・2級)に該当する障害の状態にあるときは、障害基礎年金が支給されます。
(4) 障害厚生年金とは
厚生年金に加入している間に、初診日のある病気やケガで障害基礎年金の1級または2級に該当する障害の状態になったときは、障害基礎年金に上乗せして障害厚生年金が支給されます。また、障害の状態が2級に該当しない軽い程度の障害のときは、3級の障害厚生年金が支給されます。
(5) 障害年金支給要件
- ①初診日要件
国民年金に加入している間に、障害の原因となった病気やケガについて「初めて医師または歯科医師の診療を受けた日」(これを「初診日」といいます。)があることです。
初診日とは、医療機関でその病気やケガで初めて受診した日のことで、確定診断を受けた日ではありません。この日が特定できないと。障害年金の受給が難しくなります。
- ②保険料納付要件
初診日における保険料の納付状況が、以下の要件を満たしていなければなりません。
a. 保険料納付要件の原則は、加入期間の3分の2以上納めていること。
b. 上記a.を満たさない場合は、直近1年間に滞納期間がないこと。
(6) 障害基礎年金の年金額
- ①年間年金額
年間の年金額は次の通りです(令和2<2020>年4月分より)。
【1級】781,700円×1.25(=977,125)+子の加算
【2級】781,700円+子の加算
- ②子の加算
第1子・第2子 各224,900円
第3子以降 各75,000円
(7) 障害厚生年金の年金額
- ①年間年金額
年間の年金額は次の通りです(令和2<2020>年4月分より)。
【1級】(報酬比例の年金額)× 1.25 + 配偶者の加給年金額(224,900円)〕
【2級】(報酬比例の年金額)+ 配偶者の加給年金額(224,900円)〕
【3級】(報酬比例の年金額) 最低保障額 586,300円
- ②障害厚生年金には障害手当金の制度があります。