はじめに
充実したセカンドライフには経済的余裕が必要で、年金への依存度が高い場合は「このままで大丈夫なのか?」という不安も残ってしまいます。
今回は、自宅を活用する方法として「リースバック」を紹介します。
愛着のある自宅に住み続け、老後資金も確保できるため、近年注目されている手法です。
老後の生活資金が不足!どうやって工面する?
現在、60歳以上(定年退職後)に必要な生活資金は、毎月約30万円、70歳以上では約25万円といわれています。このような試算は、政府や金融機関などで行われていますが、いずれも毎月5万円程度の不足が生じるとしており、なかには6万円以上が不足するといった試算もあります。
また、老後の問題として「自宅の処分」も挙げられます。
子どものいない家庭や、子どもがいても、すでにマンションなどを購入しているため自宅の継ぎ手がいないなど、空き家の増加も社会問題になっています。
リースバックとはどんなもの?
「老後の生活資金を充実させたい」というニーズとともに「継ぎ手のいない自宅に未練はない」といった事情も増えている現在、リースバックが注目されています。
リースバックを一言でいうと、自宅を売却して老後資金を確保し、その家に家賃を払いながら住み続けるという仕組みです。
リースバックでは不動産業者やリース業者に自宅を売却し、一括で支払いを受けます。その後業者と賃貸借契約を結び、家賃を払いながら自宅に住むことになります。
自宅は他人のものになってしまいますが、手元にはまとまった資金が残り、用途についても特に制限はありません。生活資金の不足分を補てんすることもできますし、旅行やレジャーを楽しむなど、セカンドライフを充実させることも可能です。
リバースモーゲージが「融資」であるのに対し、リースバックは「売却」によって資金をつくり出す仕組みとなっています。
リースバックが利用される背景
リースバックが利用される背景は様々であり、年金額が思っていたものより少ない、十分な蓄財ができていない、リタイア後も続く住宅ローン返済が不安、といった理由が多いようです。
また、平均寿命が延びているために定年退職後の人生も長くなり、当初は十分と思っていた生活資金が不足してしまう場合もあります。
相続財産が自宅しかない場合、複数の相続人がいれば相続でもめる可能性もあるため、トラブル回避策として現金化するケースもあるようです。
リースバックのメリット
リースバックには多くのメリットがありますが、代表的なものは以下のとおりです。
- ①売却後も自宅に住み続けることができる
- ②自宅を売却したことを知られない(知られにくい)
- ③年齢制限がない
- ④保証人や相続人の同意は不要
- ⑤まとまったお金を用意でき、使い道も自由
- ⑥法人でも利用可能
- ⑦自宅の維持費が不要になる
- ⑧買戻しも可能
リースバックでは、自宅を売ってもそのまま住み続けることができるため、売却の事実を他人に知られることがありません。融資と異なり、利用に当たっての年齢制限がなく、保証人や相続人(推定相続人)の同意も不要です。
また、資金用途に制限がないため、老後の生活資金以外にも使うことができ、法人でも利用可能です。売却後は賃貸住まいになるため、固定資産税や修繕費といった維持費も不要になり、将来的に買い戻せる可能性もあります。
将来住んでくれる人がいない場合でも、事業者や投資家によって有効活用されるため、放置されたままの空き家になることもありません。
住居と資金を確保し、自宅の処分もできることが、リースバックの大きなメリットです。
リースバックのデメリット
リースバックを利用する場合、人によってはデメリットが生じる場合もあります。
- ①相場よりも安い売却額になる
- ②相場よりも高い家賃になることが多い
- ③家賃は値上げの可能性あり
- ④オーバーローンでは売却不可の場合あり
- ⑤自宅が他人名義になる
- ⑥長寿リスク
リースバックでは市場価格の70%~80%での売却となり、家賃も相場より高めに設定されています。家賃は固定額ではないため、将来的な見直しで値上がりする可能性もあるでしょう。
リースバックは、住宅ローンの残債があっても利用できますが、オーバーローン(売却額よりも残債が多い)の状態であれば、利用を断られるケースもあります。
また、所有権が移転するので、自宅の名義が変わることに心理的な抵抗を感じる方もいます。
売却後は他人の物件であり、あくまでも借家住まいという形になるため、家を使う上での自由度は下がってしまうかもしれません。
リバースモーゲージと同様、長生きすることで家賃の総支払額が増えてしまい、売却額以上の支出になってしまう可能性もあります。
リースバックがおすすめな方
リバースモーゲージと同様、メリットを活かせる方にはリースバックはおすすめです。
どのような方に向いているか、活用事例とともに紹介します。
- ①生活資金や事業用資金を確保したい
- ②まとまった現金が必要
- ③債務を返済したい
- ④短期間で現金化したい
- ⑤相続財産を現金で残したい
リースバックは不動産の売却となるため、まとまった現金を一括で受け取ることができます。生活資金はもちろん、事業の運転資金を確保することもでき、特に工場などのリースバックでは、毎月のリース料(賃料)を経費として計上し、固定資産税もかからなくなるため、節税効果も高くなります。
リースバックの利用により、経営不振に陥っていた工場が再生した例もあり、法人の利用価値も高い仕組みといえるでしょう。
住宅ローンや他の債務など、支払い負担が大きい場合もリースバックは有効であり、自宅の売却で得たお金を返済に充てることもできます。通常の売却では自宅に住み続けることはできませんが、リースバックであれば住居の心配もありません。
突然のリストラや出向で収入が減り、月々の返済が苦しくなってしまった方でも、リースバックの利用により、家計を維持できた例があります。
また、リースバックは現金化までの期間が短いため、早めにお金を用意したい方にもおすすめです。通常の売却では買い手が見つかるまで数か月かかることが一般的ですが、リースバックの場合、最短では即時買取りしてくれる業者もあります。
主な財産が自宅(土地・建物)のみで、相続人が複数いる場合もリースバックを活用することができます。分割の難しい不動産は、相続の際にもめごとの種になりがちですが、売却することで相続財産ではなくなり、手元には現金を残すことができます。分けやすい現金であれば、相続人同士がもめることもほとんどありません。
他にも、まとまった現金は必要だが、子どもの学区の関係などから直ぐには引っ越せない、といった方にもリースバックが役立ちます。
主に老後の生活資金確保として知られているリースバックですが、用途や年齢に制限がないため、様々な資金ニーズを満たせる仕組みになっています。
リースバックの利用で気をつけたいこと
リースバックの利用には、いくつか注意すべき点があります。リースバックを検討する場合、退去の時期や売却額、業者の選定、契約内容などの点に気をつけてください。
リースバックは一定期間経過後の退去が一般的
リースバックは多くの業者が取り扱っており、プランの内容も様々ですが、10年後の退去が一般的です。買取額相当分を家賃として10年間で支払い、その後は賃貸借契約も終了するためですが、本来、賃貸借契約の期間は貸主と借主の間で自由に決めることができます。
しかし多くの業者はリースバックの内容をパッケージ化しているため、細かな期間設定がしにくくなっています。
一定期間経過後に退去する契約を「定期賃貸借契約」といい、短いものでは2年~3年に設定されています。一方、更新しながら何年も住み続けられる契約を「普通賃貸借契約」といいますが、リースバックでは契約更新のできない「定期賃貸借契約」が多いようです。
高く売れたらよい訳ではない
リースバックでは、月々の家賃は自宅の売却額に応じたものになります。高く売れればそれだけ家賃も高く設定されますし、将来買い戻しをする際の価格も高くなってしまいます。月々の支出などをきちんと把握し、無理のないプランを練っておくことが重要です。
複数の業者を比較検討してみる
リースバックは、業者によって細かな内容が異なります。買い取り額や家賃も業者によってまちまちなので、複数の業者を回り、ご自身のライフプランに合ったものを選ぶようにしてください。
契約内容をよく確認しておく
リースバックを利用する際は、契約内容をよく確認するようにしてください。
特に気をつけておきたいのが契約期間や更新時の条件で、賃貸借契約終了と同時に退去を要求されたり、契約更新や再契約時に予告なく家賃を上げる業者もいるようです。
また、買い戻しはできるのか、買い戻し可能な期間に定めはあるかといった内容も確認しておいてください。
不明な点はすべて質問し、回答は極力書面でもらうようにすることも重要です。口頭だけのやりとりで、行き違いが生じないようにしておきましょう。
リースバックでは、売却後の自宅に住み続けることもできますが、あくまでも「他人の家を借りて住んでいる」ということになるため、賃貸借に関する契約内容が重要です。一般的な賃貸マンションやアパートと同様、貸主に有利な仕組みになっていると認識しておいてください。
業者任せにして契約内容をよく確認しなかった結果、住む場所を失うことのないよう注意しましょう。
リースバックによる老後の資金調達~まとめ
老後の生活資金としてまとまったお金が必要で、自宅そのものに未練がない場合、リースバックはおすすめの資金調達手段です。デメリットもありますが、使い方次第では多額のローン返済や事業継続も可能になります。
まずは家族を交えて、今後必要となる支出を洗い出してみてください。ときにはファイナンシャルプランナーなど専門家の意見を聞くのもよいでしょう。